4.2.5主要国の特許出願の技術分野特性

(1)全世界の技術分野バランス

 ここでは、技術分野ごとにパテントファミリー数の状況を分析した結果について述べる。技術分野の分類には、WIPOによって公表されている技術分野と国際特許分類(IPC)の対応表を用いた。WIPOの技術分野は、図表4-2-9に示すように、35の小分類に分類されているが、ここでは、これらをまとめた9技術分野を用いる。


【図表4-2-9】 技術分野

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
WIPO, IPC - Technology Concordance Tableをもとに、科学技術・学術政策研究所で分類。

参照:表4-2-9


 まず、図表4-2-10には、全世界における各技術分野のパテントファミリー数割合の推移を示す。1981年と2020年を比べると、機械工学は12.4ポイント、化学は9.3ポイント減少している。情報通信技術は16.9ポイント、電気工学は6.1ポイント増加した。情報通信技術の占める割合は1990年代に入り急速に増加した。


【図表4-2-10】 全世界の技術分野別パテントファミリー数割合の推移

注:
1) パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
2) その他には「未分類」を含む。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2024年秋バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-10


(2)主要国内の技術分野バランス

 次に主要国の内部構造を見るために、図表4-2-11では、主要国内の技術分野バランスの変化を示す。
 2020年時点の日本の技術分野バランスを見ると、世界全体と比べて一般機器、機械工学、電気工学、輸送用機器の割合が高くなっている。他方、バイオ・医療機器、バイオテクノロジー・医薬品の割合は、世界全体と比べて低くなっている。時系列で見ると、日本において多くを占める電気工学の割合は2010年前後から減少傾向にある。同時期に機械工学、輸送用機器の割合が増加していたが、近年は減少している。1981年と2020年を比べると、情報通信技術の割合が9.4ポイント増加しているが、その割合は世界全体における情報通信技術の割合と比べて小さい。
 米国は、世界全体と比べて、バイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器、情報通信技術の割合が高い。1981年と2020年を比べると、情報通信技術が19.4ポイント増加し、機械工学は12.2ポイント、化学は11.6ポイント減少している。また、輸送用機器の割合は2005年頃から増加傾向にあったが、近年では減少した。電気工学と機械工学の割合は世界全体と比べて小さい。
 ドイツは、輸送用機器、機械工学、一般機器の割合が世界全体と比べて高い。1981年と2020年を比べると機械工学は9.3ポイント、化学は8.7ポイント減少している。情報通信技術は9.6ポイント増加しているが、その割合は世界全体における情報通信技術の割合の約6割(2020年時点)となっている。また、電気工学やバイオテクノロジー・医薬品の割合も、世界全体と比べて小さい。
 フランスは、輸送用機器、化学、バイオテクノロジー・医薬品、機械工学の割合が世界全体と比べて高い。1981年と2020年を比べると、機械工学の割合は11.0ポイント減少している。情報通信技術の割合は8.9ポイント増加しているが、その割合は世界全体における情報通信技術の割合と比べて小さい。また、電気工学の割合も、世界全体と比べて小さい。
 英国は、バイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器、化学の割合が世界全体と比べて高い。1981年と2020年を比べると、機械工学は14.5ポイント、化学は9.6ポイント割合が減少している。情報通信技術の割合は18.6ポイントと大幅に増加している。英国は欧州の中では、パテントファミリー数における情報通信技術の割合が高い国と言える。電気工学の割合は世界全体と比べて小さい。
 中国は電気工学と情報通信技術の割合が、韓国は電気工学の割合が、世界の平均と比べて高くなっている。


【図表4-2-11】 主要国の技術分野別パテントファミリー数割合の推移
(A)日本                         (B)米国
(C)ドイツ                         (D)フランス
(E)英国                         (F)中国
(G)韓国

注:
1) パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
2) その他には「未分類」を含む。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2024年秋バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-11


(3)世界における主要国の技術分野バランス

 図表4-2-12では、世界における主要国の技術分野バランスを示す。具体的には、主要国のパテントファミリー数の技術分野ごとの世界シェア(2008-2010年と2018-2020年、整数カウント法)を作成し、比較を行った。
 2018-2020年のパテントファミリー数におけるシェアに注目すると、日本は一般機器、電気工学が30%を超えており、バイオ・医療機器、バイオテクノロジー・医薬品のシェアが相対的に低いというポートフォリオを有している。電気工学、情報通信技術、一般機器の世界におけるシェアは、それぞれ、10.0ポイント、8.8ポイント、8.2ポイント減少している。これは、中国が急激に世界シェアを増加しているためである。
 米国はバイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器で世界シェアが30%を超えている。ドイツは輸送用機器、機械工学において世界シェアが20%を超えていたが、2018-2020年では、それぞれ17.5%、16.3%となった。フランスは輸送用機器、化学で、世界シェアが5%を超えている。英国ではバイオテクノロジー・医薬品で5%を超えている。これらの国については、2008-2010年と比較すると、多くの技術分野で世界シェアは減少又は横ばいにある。
 中国は急激に世界シェアを伸ばしており、特に情報通信技術、電気工学、一般機器で伸びが顕著である。2018-2020年時点での中国の情報通信技術は25.1%、電気工学は17.8%である。韓国については電気工学が16.0%、情報通信技術が10.8%と世界シェアの10%を超えている。


【図表4-2-12】 主要国の技術分野ごとのパテントファミリー数シェアの比較
(%、2008-2010年と2018-2020年、整数カウント法)

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2024年秋バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-12