3.4学位取得者の国際比較

ポイント

  • 人口100万人当たりの学士・修士・博士号取得者についての分野バランスを見ると、学士号取得者においては「人文・社会科学」系が多くを占めている国が多い。日本においては、修士、博士号取得者になるにつれ、「自然科学」系が多くなる傾向にあるが、他国では修士号取得者でも「人文・社会科学」系が最も多く、博士号取得者では「自然科学」系が最も多くなる傾向にある。
  • 人口100万人当たりの修士取得者数について、2008年度と比較すると、日本以外の国では増加している。博士号取得者数については、日本は減少、フランス、ドイツは横ばい、他の国は増加している。
  • 人口100万人当たりの博士号取得者の推移を見ると、2000年代はドイツが主要国の中で一番の規模であった。2010年度ごろから英国がドイツに追いつき、その後は両国とも同程度に推移している。ただし、2020年度では両国ともに減少している。米国、韓国は2000年度には日本と同程度であったが、その後順調な伸びを見せ、最新値では日本の倍以上の値となっている。
  • 日本の博士号取得者数は2006年度をピークに減少傾向にあったが、2015年度頃からはほぼ横ばいであり、2019年度では15,128人となった。主要専攻別に見ると、保健(医学、歯学、薬学及び保健学)が最も多く、次いで工学が多い。
  • 国公私立大学別の博士号取得者数では、国立大学が全体の66.9%(2019年度)を占める。2005年度と2019年度を比較すると、国公私立大学ともに博士号取得者数は減少している。

3.4.1学士・修士・博士号取得者数の国際比較

 主要国の学士・修士・博士号取得者数を人口100万人当たりで見る。ここでいう取得者は、毎年、当該国において、新たに学位を取得した人数を計測している。他国で学位を取得した者は、当該国のデータには含まれていない。国により学位の内容等に差異があるが、日本の学士・修士・博士号にあたる者を対象としている(詳細は各図表の注意書きを参照のこと)。

(1)人口100万人当たりの学士号取得者数

 人口100万人当たりの学士号取得者数を見ると(図表3-4-1)、日本は2020年度で4,550人である。
 他国の最新年の値を見ると、英国(6,564人)、韓国(6,329人)で多く、米国(6,205人)が続く。ドイツ、フランス、中国の最新年は日本よりも低い数値である。2008年度と各国最新年を比較すると全ての国で増加しているが、ドイツや中国の伸びは著しい。
 専攻別の構成比を「自然科学(理学、工学、農学、保健等)」、「人文・社会科学(人文・芸術、法経等)」と「その他」に分けて見ると、全ての国で「人文・社会科学」の割合が大きい。なお、2008年度と比較して「人文・社会科学」が減少しているのは日本のみである。また、多くの国で、「自然科学」の方が「人文・社会科学」より伸びている 。


【図表3-4-1】 人口100万人当たりの学士号取得者数の国際比較

注:
1) 日本は標記年3月の大学学部卒業者数を計上。「その他」は、教養、国際関係、商船等である。
2) 米国は当該年9月から始まる年度における学位取得者数を計上。「その他」には「軍事科学」、「学際研究」等の学科を含む。米国の最新資料に基づくデータなので、科学技術指標の過去版とは数値が異なる場合があるため注意。
3) ドイツは当該年の冬学期及び翌年の夏学期における専門大学ディプロームと学士の取得試験合格者数。
4) フランスは当該年(暦年)における学位取得者数。国立大学の学士号(通算3年)及び医・歯・薬学系の第一学位(Diplome de docteur、 通算5~8.5年)の授与件数である。
5) 英国は標記年(暦年)における大学など高等教育機関の第一学位取得者数。連合王国の値であり、留学生を含む。「その他」にはマスコミュニケーション及び複合課程を含む。なお、英国の値は、一の位を5の倍数(0又は5)になるように切り上げ、あるいは切り捨てを行っている。このため、内訳の数の合計が合計欄の数と一致しない場合がある。
6) 韓国は標記年2月における大学及び教育大学(産業大学、技術大学、放送・通信大学、サイバー大学を含まない)の学位取得者を計上。
7) 中国は本科(日本の学士課程に相当)についての数値である。学士は本科卒業者で学業成績が一定の基準に達している者に授与される。専攻分野別の数値は不明。
資料:
日本:文部科学省、「学校基本調査報告書」
米国:NCES, IPEDS,“Digest of Education Statistics”
ドイツ:Statistisches Bundesamt (Destatis), “Bildung und Kultur”
フランス:MESRI, “Reperes et references statistiques”
英国:HESA, “Detailed tables (Students)”
韓国:韓国教育省・韓国教育開発院、「教育統計年報」各年版
中国:中華人民共和国教育部、「中国教育??数据」
ドイツ、フランス、英国、中国の2008年度:文部科学省、「教育指標の国際比較」
各国の人口は参考統計Aに同じ。

参照:表3-4-1


(2)人口100万人当たりの修士号取得者数

 主要国の修士号取得者数を人口100万人当たりで見ると(図表3-4-2)、日本は2019年度で592人であり、他国と比べて少ない数値である。他国の最新年の値を見ると、最も多い国は英国で4,652人と群を抜いている。次いで米国(2,567人)、ドイツ(2,484人)となっている。最も少ない国は中国で500人である。
2008年度と各国最新年を比較すると、日本は横ばい、その他の国は増加しており、特に、英国、フランス、ドイツの伸びは大きい。また、数は少ないが中国の伸びも著しい。
専攻別の構成比で見ると、日本は学士号取得者での専攻の構成比と異なり、「自然科学」分野を専攻する傾向にあることがわかる。他国はドイツを除いて「人文・社会科学」分野の割合が大きく、学士号取得者と同様に「人文・社会科学」を専攻する傾向にあることがわかる。また、2008年度と各国最新年を比較した場合、「人文・社会科学」の伸びが、「自然科学」より大きい傾向にあるのは、フランス、英国、韓国であり、米国、英国は「自然科学」の伸びの方が大きい傾向にある。日本は「自然科学」は微増している一方で、「人文・社会科学」は微減している 。


【図表3-4-2】 人口100万人当たりの修士号取得者数の国際比較

注:
1) 日本は当該年度の4月から翌年3月までの修士号取得者数を計上。「その他」は、教養、国際関係、商船等である。
2) 米国は当該年9月から始まる年度における修士号取得者数を計上。「その他」には「軍事科学」、「学際研究」等の学科を含む。米国の最新資料に基づくデータなので、科学技術指標の過去版とは数値が異なる場合があるため注意。
3) ドイツは標記年の冬学期及び翌年の夏学期における修士(標準学修期間1~2年)及びディプローム数である。教員試験(国家試験)等合格者(教育・教員養成学部以外の学生で教員試験に合格した者を含む)は、ディプロームの「教育・教員養成」に含まれる。
4) フランスは当該年(暦年)における修士号(通算5年)の取得者数。
5) 英国は標記年(暦年)における大学の上級学位取得者数。修士は、学卒者を対象とする資格を含む。例えば、教育の修士には、学卒者教員資格(PGCE)課程の修了者を含む。「その他」はマスコミュニケーション及び複合課程である。コンピュータ科学は「理学」に含まれる。留学生を含む。なお、英国の値(公表数値)は、一の位を5の倍数(0又は5)になるように切り上げ、あるいは切り捨てを行っている。このため、内訳の数の合計が、合計欄の数と一致しない場合がある。
6) 韓国は当該年度の3月から翌年2月までの修士号取得者数を計上。
7) 中国は高等教育機関以外で大学院課程をもつ研究機関等の学位取得者を含む。専攻分野別の数値は不明。
資料:
日本は文部科学省、「学位授与状況調査」、その他の国は図表3-4-1と同じ。

参照:表3-4-2


(3)人口100万人当たりの博士号取得者数

 主要国の博士号取得者数を人口100万人当たりで見ると(図表3-4-3)、日本は2019年度で120人であり、他国と比べて少ない数値である。他国の最新年の値を見ると、最も多い国はドイツ(315人)、次いで英国(313人)である。最も少ない国は中国(47人)である。
 2008年度と各国最新年を比較すると、日本は減少、フランス、ドイツは横ばい、他の国は増加している。大きく伸びているのは、韓国、米国、英国の順である。また、数は少ないが中国の伸びも著しい。
 専攻別に見ると、博士号取得者の場合、各国とも「自然科学」の割合が大きくなる。日本やドイツは「自然科学」の占める割合が多い傾向にある。これに対して「人文・社会科学」の割合は、他国と比較すると英国、フランス、韓国で多い。


【図表3-4-3】 人口100万人当たりの博士号取得者数の国際比較

注:
1) 日本は当該年度の4月から翌年3月までの博士号取得者数を計上。「その他」は、教養、国際関係、商船等である。
2) 米国は当該年9月から始まる年度における博士号取得者数を計上。「その他」には「軍事科学」、「学際研究」等の学科を含む。なお、ここでいう博士号取得者は、“Digest of Education Statistics”に掲載されている“Doctor's degrees”の数値から、“Professional fields”(以前の第一職業専門学位:First-professional degree)の数値を全て除いた値である。 米国の最新資料に基づくデータなので、科学技術指標の過去版とは数値が異なる場合があるため注意。
3) ドイツは当該年の冬学期及び翌年の夏学期における博士試験合格者数を計上。
4) フランスは当該年(暦年)における博士号(通算8年)の取得者数。
5) 英国は当該年(暦年)における大学など高等教育機関の上級学位取得者数。連合王国の値であり、留学生を含む。「その他」はマスコミュニケーション及び複合課程を含む。
6) 韓国は当該年度の3月から翌年2月までの博士号取得者数を計上。
7) 中国は高等教育機関以外で大学院課程をもつ研究機関等の学位取得者を含む。専攻分野別の数値は不明。
資料:
日本は文部科学省、「学位授与状況調査」、その他の国は図表3-4-1と同じ。

参照:表3-4-3


(4)博士号取得者数の推移

 博士号取得者について、その数と人口100万人当たりの推移を見る。
 図表3-4-4(A)を見ると、各国最新年度において、最も多いのは米国(9.2万人)であり、中国(6.6万人)、ドイツ(2.6万人)と続いている。日本は1.5万人である。2000年度(中国は2005年度)と最新年度を比較すると2倍以上となっているのは韓国、中国、米国である。英国は増加傾向にあったが、2019、2020年度と減少しており、特に2020年度の減少が大きい(2)。ドイツとフランスはほぼ横ばいに推移しているが、ドイツについては、2020年度は減少している。日本については2006年度をピークに減少傾向にある。
 次に人口100万人当たりの博士号取得者の推移を見ると(図表3-4-4(B))、ドイツは2000年代初めの時点でも、人口100万人当たり300人程度の博士号取得者を出していた。英国は同時期、200人程度であったが、急速に博士号取得者の規模を増やしていった。2010年度頃から、英国、ドイツが同じ水準になり増加していったが、2020年度では両国ともに減少している。日本、米国、フランス、韓国については、2002年度頃は同程度であったが、その後、米国、韓国が急速に博士号取得者の規模を増やし、フランスは博士号取得者の規模を漸増させたのに対し、日本は漸減傾向であった。日本については2014年度以降、ほぼ横ばいに推移している。


【図表3-4-4】 主要国の博士号取得者数の推移
(A)博士号取得者

(B)人口100万人当たり博士号取得者

注:
図表3-4-3と同じ。科学技術指標の過去版とは数値が異なる場合があるため注意。
資料:
日本:図表3-4-2と同じ。
米国、ドイツ、フランス、英国、韓国:図表3-4-1と同じ。
フランスの2018年度以前、英国の2013年度以前、中国の2014年度以前:文部科学省、「教育指標の国際比較」、「諸外国の教育統計」

参照:表3-4-4


3.4.2日本の博士号取得者

(1)日本の分野別博士号取得者

 この節では、日本の博士号取得者の推移を主要専攻別に見る。
 図表3-4-5は博士号取得者数の推移である。長期的に見ると、博士号取得者数は継続して増加していたが、2000年代に入ると、その伸びは鈍化し、2006年度をピークに減少に転じた。2010年度に一旦増加した後は減少していたが、2015年度頃からほぼ横ばいに推移している。2019年度では15,128人である。
 2019年度の取得者数について、その主要専攻別の内訳を見ると、「保健(医学、歯学、薬学及び保健学)」が最も多く、6,372人と全体の42.1%を占めている。次いで「工学」が3,161人(20.9%)、「理学」は1,295人(8.6%)となっている。
 「理学」と「工学」の博士号取得者数の構成比の推移を見ると、「理学」は1980年代に漸減しつつ1990年代に入るとほぼ横ばいに推移している。「工学」は1990年代に入ると増加し始めたが、2000年代に入り、漸減傾向が続いている。


【図表3-4-5】 日本の博士号取得者数の推移(主要専攻別)

注:
1) 「保健」とは、医学、歯学、薬学及び保健学である。
2) 「その他」には、教育、芸術、家政を含む。
資料:
1986年度までは広島大学教育研究センター、「高等教育統計データ(1989)」、1987年度以降は文部科学省調べ。

参照:表3-4-5


(2)日本の課程及び論文博士号取得者

 図表3-4-6は、課程及び論文博士号取得者数の状況を見たものである。論文博士には、例えば、企業の研究者や技術者等がその研究経験と成果を基に学位を取得した場合、教育研究上の理由等により標準修業年限内に学位取得に至らなかった者がその後論文審査に合格して学位を取得した場合、といった性格の異なるものが混在している。
 2019年度における論文博士数は1,795人である。1990年前半までは論文博士数が課程博士数を上回って推移していたが、それ以降は課程博士数を下回り、減少し続けている。課程博士数は継続して増加していたが、2006年度をピークに減少に転じた(2010年度には一旦増加)。2015年度以降は増加傾向にある。2019年度では13,333人となった。
 「日本独特の論文博士については、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していくことが適当であり、相当の研究経験を有している社会人等に対し、その求めに応じて大学院が研究指導を行う仕組みの充実などを併せて検討することが適当である」との指摘もある(3)。以上のような背景から、論文博士を取得しようとしている者は課程博士を取得する者に移行した可能性がある。また、3.2.3節で見えた大学院博士課程入学者数のうち社会人学生の増加といった現象にも関係している可能性がある。


【図表3-4-6】 日本の博士号取得者数の推移(課程博士/論文博士別)

注及び資料:
図表3-4-5と同じ。

参照:表3-4-6


(3)日本の専攻別国公私立大学別博士号取得者

 この節では、博士号取得者の推移を「理工農学」、「保健」、「人文・社会科学」の専攻別に国公私立大学の内訳を見た(図表3-4-7)。
 図表3-4-7(A)は全専攻での博士号取得者数の推移を見たものである。2019年度の博士号取得者数は国立大学で10,120人(全専攻の66.9%)、公立大学で1,006人(同6.6%)、私立大学で4,002人(同26.5%)となっている。2005年度と最新年度を比較すると、国公私立大学ともに博士号取得者数は減少している。
 各専攻を見ると、「理工農学」では国公私立大学のいずれも減少している。2019年度の博士号取得者数は国立大学で4,401人(「理工農学」全体の81.9%)、公立大学で226人(同4.2%)、私立大学で746人(同13.9%)である。2005年度~2019年度の変化をみると、国立大学24.6%減、公立大学21.0%減、私立大学27.1%減であり、いずれの大学も20%以上の減少である。
 「保健」では、国公私立大学ともに、2005年度から2009年度にかけて減少したが、2010年度以降はほぼ横ばいに推移している。2019年度の博士号取得者数は国立大学で3,557人(「保健」全体の55.8%)、公立大学で613人(同9.6%)、私立大学で2,202人(同34.6%)である。
 「人文・社会科学」では、国公私立大学ともに2005年度から2008年度まで増加した後は減少に転じ、近年では横ばいに推移している。2019年度の博士号取得者数は国立大学で779人(「人文・社会科学」全体の49.9%)、公立大学で74人(同4.7%)、私立大学で709人(同45.4%)である。「人文・社会科学」では、私立大学での博士号取得者が多い傾向にある 。

【図表3-4-7】 専攻別博士号取得者の内訳(国公私立大学別)
(A)全専攻
(B)理工農学
(C)保健
(D)人文・社会科学

資料:
文部科学省、「文部科学統計要覧」、「学位授与状況調査」

参照:表3-4-7



(2)英国の出典であるHESAのwebページでは、COVID-19のパンデミックの発生が各大学からの回答状況に影響を及ぼしている可能性があることが示唆されている。https://www.hesa.ac.uk/news/25-01-2022/sb262-higher-education-student-statistics/notes
(3)新時代の大学院教育 答申 - 文部科学省(平成15年)