産学連携として、共同研究や受託研究、大学等の特許出願数、特許権実施等収入に注目する。
ここでは、産学連携による研究資金等受入額や実施件数は、知識交換への投資の指標、特許出願数は産業応用を意識した新しい技術知識が、大学等からどの程度生み出されているかの指標であると考えた。また、特許権実施等収入や大学発ベンチャー企業は、知識の価値、広がりを見る指標であると考えた
(1)日本の産学連携の実施状況
2022年度の日本の大学の民間企業等との共同研究等にかかる受入額(内訳)と実施件数を見ると(図表5-4-5)、受入額が最も大きいのは「共同研究」であり1,000億円、実施件数は3.1万件である。大企業からの受入が多く、同年度で779億円である。推移を見ると、「共同研究」の受入額・実施件数ともに継続的に増加していたが、2019年度以降実施件数はほぼ横ばいであるのに対して、受入額は増加し続けている。
「受託研究」の受入額は155億円、実施件数は0.8万件である。大企業からの受け入れが多く、同年度で106億円である。推移を見ると、2019年度を境に受入額は微減していたが、2022年度では増加した。実施件数はほぼ横ばいである。
「治験等」の受入額は217億円、実施件数2.3万件である。治験の件数は年度の差が著しい。大企業からの受入が多く、同年度で180億円である。
「寄附講座・寄附研究部門」については、2017年度から、国立大学だけでなく、公立、私立大学についても調査されることになった。2022年度の受入額は258億円であり、国立大学の受け入れ額が多い(187億円)。実施件数は1,605件であり、うち国立大学は775件である。1件当たりの規模は国立大学で2,415万円である。
なお、「共同研究」および「受託研究」について、「直接経費(9) に対する間接経費(10) の比率」は、順調に伸びている(図表5-4-5(B))。2006年度と2022年度を比較すると、共同研究では8.5%から24.5%(197億円)へ、受託研究では10.1%から19.6%(26億円)と大きく増加した
(A)受入額(内訳)と実施件数の推移


注:
1) 共同研究:機関と民間企業等とが共同で研究開発することであり、相手側が経費を負担しているもの。受入額及び件数は、2008年度まで中小企業、小規模企業、大企業に分類されていた。
2) 受託研究:大学等が民間企業等からの委託により、主として大学等が研究開発を行い、そのための経費が民間企業等から支弁されているもの。
3) 治験等:大学等が外部からの委託により、主として大学等のみが医薬品及び医療機器等の臨床研究を行い、これに要する経費が委託者から支弁されているもの、病理組織検査、それらに類似する試験・調査。
4) 寄附講座・寄附研究部門:2016年度まで国立大学のみの値。2017年度から公立、私立大学の値が計測されるようになった。寄附講座・寄附研究部門の「実施件数」は「講座・部門数」である。
5) 国内企業の内訳については大企業、中小企業に加えて、小規模企業は2006~2008年度まで、外資系企業は2019、2020年度について出典となる資料にデータが掲載されている。
資料:
文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況について」の個票データ(2024年2月28日入手)を使用し、科学技術・学術政策研究所が再計算した。
参照:表5-4-5
(2)日本の産学連携等特許出願数
大学等における特許出願を国内、外国に分類し、その傾向を見ると(図表5-4-6)、国内への特許出願数の方が外国への特許出願数より多い。国内に出願した特許数は、2010年度まで減少傾向にあったが、その後はほぼ横ばいに推移しており、2022年度では6,394件である。外国へ出願した特許数は、2011年度を境にほぼ横ばいに推移していた。2010年代半ばから後半にかけては増加傾向にあったが、近年は横ばいに推移し、2022年度は3,615件となった。
2011年度からは特許出願に関して、発明の元となる研究及び相手先組織等といった内訳がわかるようになった。そこで、「民間企業との共同研究や受託研究が発明の元」となった特許出願、「寄付金による研究が発明の元」となった特許出願、「その他の研究が発明の元」となった特許出願に分類し、その傾向を見た。
2022年度の民間企業との研究が元となった発明は、国内出願では2,684件であり、国内出願の約4割を占めている。外国出願での民間企業は、1,898件、外国出願の約5割を占めている。民間企業との研究が元となった発明が占める割合は、国内への出願より外国への出願のほうが高い傾向が見られる。また、2011年度から2022年度の推移を見ると、国内出願、外国出願のいずれでも、民間企業との研究が元となった発明の割合は長期的に増加傾向にある。

注:
発明の元となった研究(共同研究、受託研究、補助金、寄附金、左記以外(運営費交付金等))の相手先等である。
資料:
文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況について」
参照:表5-4-6
(3)知識の価値の広がり:日米英比較
大学等で生み出された知識の価値の広がりを測る一つの指標として、大学における特許権を含めた知的財産件収入を見る。また、その収入額はどの程度であるかを測るために、米国や英国との比較を試みる。
図表5-4-7を見ると、日本の大学における知的財産権収入は長期的に見ると増加傾向にあり、2022年度では65億円である。2005年度と比較すると約7倍となっている。
英国の知的財産権収入は、長期的に増加傾向であり、最新年では373億円となった。
米国は、日本、英国と比較すると、桁違いに大きく、2022年度では3,649億円である。2008年度での一時的な増加を除けば長期的には3,000億円程度で推移していたが、最新年度で大きく伸びた。


注:
1) 日本の知的財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、その他知的財産(育成者権、回路配置利用権等)、ノウハウ等、有体物(マテリアル等)を含む。
2) 米国の知的財産権とは、ランニングロイヤリティ、ライセンス収入、ライセンス発行手数料、オプションに基づく支払い、ソフトウェア及び生物学的物質のエンドユーザーライセンス(100万ドル以上)等である。
3) 英国の知的財産権とは、特許権、著作権、意匠、商標等を含む。
4) 購買力平価換算は参考統計Eを使用した。
資料:
日本:文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況等について」
米国:AUTM, “AUTM STATT database”
英国:HESA, “Higher education-business and community interaction survey (HE-BCI)”
参照:表5-4-7
(4)日本の大学発ベンチャー企業
大学発ベンチャー企業は、大学に潜在する研究成果を活用し、新市場の創出を目指す「イノベーションの担い手」として期待されている。この項では大学発ベンチャー企業の外観とそこで活躍する高度研究人材について注目し、その状況を見る。なお、ここでの大学発ベンチャーとは図表5-4-8(B)のいずれかに当てはまる企業と定義している(11) 。
図表5-4-8(A)を見ると、日本の大学発ベンチャー企業数は順調に増加しており、2023年度では4,288社、2014年度と比較すると2.5倍の伸びである。
(A)企業数の推移


注:
2009年度から2013年度調査は実施されていない。2023年度から「教職員等ベンチャー」項目が追加されたが、同年から複数回答となったため、全体の数値を示した。
資料:
経済産業省、「大学発ベンチャー設立状況調査(2024年5月)」、「令和元年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」、「平成29年度産業技術調査(大学発ベンチャー・研究シーズ実態等調査)」
参照:表5-4-8
大学発ベンチャー企業の業種別の状況を見ると(図表5-4-9)、2023年度では、「その他サービス」が最も多く、「IT(アプリケーション、ソフトウェア)」、「バイオ・ヘルスケア・医療機器」と続いている。なお、2022年度から最も伸びているのは「その他サービス」である。

注:
複数回答である。
資料:
経済産業省、「大学発ベンチャー設立状況調査(2024年5月)」
参照:表5-4-9
経済産業省では「大学発ベンチャー設立状況調査」によって把握された大学発ベンチャー企業のうち連絡先が把握できた企業に対して「大学発ベンチャーの実態に関する調査」を実施し、基本情報や資金・人材に関する回答を得ている(12) 。ここでは大学発ベンチャー企業における博士人材に着目する。
大学発ベンチャー企業の従業員に占める博士号保持者の割合を定義別に見ると(図表5-4-10(A))、「教職員等ベンチャー」の割合が最も大きく26%である。次いで「研究成果ベンチャー」が24%である。なお、一般企業の研究者のうちの博士号保持者の割合は4%(13) である。単純に比較することはできないが、大学発ベンチャー企業全体での従業員に占める博士号保持者の割合は19%であり、大学発ベンチャー企業に高度研究人材が多く所属していることがわかる。
次に、主力製品・サービス関連技術分野別での博士号保持者の割合を見ると(図表5-4-10(B))、「航空宇宙」(33%)での割合が最も大きく、「素材」(32%)、「バイオ・ヘルスケア」(24%)が続く。
(A)ベンチャーの定義別


注:
()内の数値は従業員数、「一般企業の研究者」については研究者数である。技術移転ベンチャーは従業員数が少ないので掲載していない。
資料:
ベンチャー企業:経済産業省、「大学発ベンチャーの実態に関する調査(2024年5月)」
一般企業:総務省、「科学技術研究調査」
参照:表5-4-10
(9) 当該共同研究に直接的に必要となる経費
(10) 産学連携の推進を図るための経費や直接経費以外に必要となる経費及び管理的経費等といった名目の経費
(11) NPO法人、一般社団・財団法人や個人事業主等を含み、海外に設立されたものも対象とする。「大学」には、高等専門学校も含む。
回収数は682/4,288件、回収率15.9%である。
(12) 回収数は682/4,288件、回収率15.9%である。
(13) 総務省、「科学技術研究調査報告(2023年)」の企業における研究者(HC)のうち博士号保持者の割合である