第4章 研究開発のアウトプット

 近年、研究開発への投資に対する説明責任が強く求められるようになっており、研究開発におけるアウトプットの把握は大きなテーマとなっている。本章では、研究開発活動のアウトプットとして計測可能な科学論文と特許に着目し、世界及び主要国の活動の特徴や変化について紹介する。科学と技術のつながり(サイエンスリンケージ)の分析についても紹介する。

4.1論文

ポイント

  • 世界の研究活動のアウトプットである論文量は一貫して増加傾向にある。2022年の世界の自然科学系の論文数は211万件である。
  • これまで継続して上昇していた全世界の国際共著率が2020年の28.6%をピークに低下している。主要国の2022年時点の国際共著率は英国74.4%、フランス65.7%、ドイツ63.2%に対し、米国46.7%、日本35.9%、韓国35.3%、中国20.8%である。中国の国際共著率は2018年を境に減少していたが、2021年から2022年にかけて3.4ポイント(前年比14.1%減)の大きな低下が見られる。
  • 分数カウント法(論文の生産への貢献度)によると、日本の論文数(2020-2022年(PY)の平均)は、中、米、 印、独に次ぐ第5位、Top10%補正論文数では、中、米、英、印、独、伊、豪、加、韓、仏、西、イランに次ぐ第13位、Top1%補正論文数では中、米、英、独、伊、印、豪、加、仏、韓、西に次ぐ第12位である。また、中国は、整数カウント法(論文の生産への関与度)及び分数カウント法ともに、論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数(2020-2022年(PY)の平均)のいずれにおいても世界第1位である。
  • 論文数シェア(分数カウント法)を見ると、日本は、1980年代から2000年頃まで論文数シェアを伸ばし、英国やドイツを抜かし、一時は世界第2位となっていたが、近年はシェアが低下傾向である。しかし、このシェアの低下傾向については、日本のみならず米国、英国、ドイツ、フランスも同様である。
  • Top10%補正論文数シェア及びTop1%補正論文数シェア(分数カウント法)の変化を見ると、日本は、1980年代から1990年代後半にかけて緩やかなシェアの増加が見られたが、その後シェアを低下させている。
  • 日本国内の分野バランスをみると、化学、基礎生命科学、物理学の占める割合が減少している一方で、臨床医学の占める割合が大きく増加しており、日本としての論文生産の分野構造が変化してきている。
  • 各分野でのTop10%補正論文数シェアによる分野ポートフォリオをみると、日本は物理学、臨床医学、化学の順でシェアが高く、工学、計算機・数学、環境・地球科学の順で低い。これに対して、中国は材料科学、工学、化学の順でシェアが高く、韓国は材料科学、化学、工学の順でシェアが高い。
  • 世界の自然科学系のオープンアクセス(OA)論文数は継続して増加しており、世界的にOA化が進展している。2022年時点の全世界のOA化率は56.2%であり、世界の論文数の6割近くはOA化されている。
  • 主要国のOA化率を見ると、各国ともOA化率は上昇基調であるが、英国は2017年以降、横ばいである。また、中国を除く他の主要国でも近年伸びが鈍化している。2022年時点のOA化率は、英国81.3%、フランス76.0%、ドイツ74.0%と欧州諸国のOA化率が非常に高い。日本のOA化率は59.1%である。

4.1.1世界の研究活動の量的及び質的変化

 ここでは、自然科学系の論文分析の結果を紹介する。分析には、クラリベイト社Web of ScienceのSCIE (Science Citation Index Expanded)を用いた。
 クラリベイト社のデータベースでは、論文の書誌情報の見直しが適時反映されるようになっていることから、1981年までさかのぼって再集計を行っている。従って、1981年から最新年の動向を見る際は、過去も含めて本報告書を参照することが望ましい。

(1)論文数の変化

 図表4-1-1に、全世界の論文量の変化を示す。2022年の世界の自然科学系の論文数は211万件である。1981年に比べ現在は、世界で発表される論文量は5.3倍になっており、世界で行われる研究活動は一貫して量的拡大傾向にある。特に2005年頃からの増加が大きい。2019年から2021年までは伸び率が更に大きくなっていたが、2022年にはその伸び率が鈍化した。なお、分析に用いたデータベースは、収録されるジャーナルが順次変更されていると共に、ジャーナルの数も増加してきている。1981年から2022年までの論文数の拡大には、この要因の寄与も含まれている。


【図表4-1-1】 全世界の論文量の変化

注:
分析対象は、Article, Reviewとし、整数カウント法により分析。
年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-1


(2)世界及び主要国の論文生産形態の変化

 世界で行われる研究活動が量的拡大を示す一方で、研究活動のスタイルが大幅に変化している。図表4-1-2に、全世界の論文における論文共著形態の変化を示した。ここでは、①国内論文(単一の機関による論文及び同一国の複数の機関による共著論文)、②国際共著論文(異なる国の機関による共著論文)の2種類に分類した。
 まず、国際共著論文は一貫して増加しており、国境を越えた形で知識生産活動が行われていると考えられる。世界の論文に占める国際共著論文の割合は1981年から継続して上昇していたが、2020年の28.6%をピークに低下し、2022年では26.7%となった。


【図表4-1-2】 全世界の論文共著形態割合の推移

注:
1) 分析対象は、Article, Reviewとし、整数カウント法により分析。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
2) 国内論文は、単一の機関による論文及び同一国の複数の機関による共著論文を指す。国際共著論文は異なる国の機関による共著論文を指す。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-2


 図表4-1-3は、主要国における論文共著形態別割合の推移である。いずれの国においても国際共著論文の割合は上昇基調であったが、近年、各国の傾向の違いが見られている。英国は一貫して上昇している。また、韓国も上昇傾向を示す。米国とドイツは2020年頃から横ばいである。日本とフランスは2020年をピークにやや低下している。中国の割合は2018年を境に低下していたが、2021年から2022年にかけて3.4ポイント(前年比14.1%減)の大きな低下が見られる。
 2022年時点の各国の割合は、中国20.8%、韓国35.3%、日本35.9%、米国46.7%であるのに対し、欧州では英国74.4%、フランス65.7%、ドイツ63.2%と非常に高く、国により異なっている。


【図表4-1-3】 主要国の論文共著形態割合の推移
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国

注:
1) 分析対象は、Article, Reviewとし、整数カウント法により分析。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
2) 国内論文は、単一の機関による論文及び同一国の複数の機関による共著論文を指す。国際共著論文は異なる国の機関による共著論文を指す。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-3


 国際共著論文は、国際的な研究の協力や共同活動によりつくられる成果であるため、その割合は分野ごとの背景に依存すると考えられる。例えば、大型研究施設を、各々の国で保有することが現実的に不可能な場合、国際的な大型研究施設設置国を中心とした共同研究が促進される。
 図表4-1-4は分野ごとの国際共著論文割合の推移である。いずれの分野においても、1980年代から、国際共著論文割合は上昇基調であったが、2020年をピークに、全ての分野で低下している。各分野の2022年時点の割合を見ると、環境・地球科学は33.1%、物理学では32.9%であり、他分野に比べ国際共著論文割合が高い。臨床医学は22.9%であり、国際共著論文割合が一番低い分野である。


【図表4-1-4】 分野ごとの国際共著論文
(A)割合の推移

(B)研究ポートフォリオ8分野

注:
1) 分析対象は、Article, Reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
2) (A)の分野は(B)を使用。
3) ESI22分野は、https://esi.help.clarivate.com/Content/journal-list.htm (esi-master-journal-list-10-2023)の雑誌単位の分類である。科学技術・学術政策研究所ではWeb of Science(SCIE)収録論文をEssential Science Indicators(ESI)のESI22分野分類を用いて再分類している。研究ポートフォリオ8分野には経済学・経営学、複合領域、社会科学・一般は含めない。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-4