(1)国単位での科学研究力の定量化手法
「国の科学研究力」を定量化し比較する際、ここまでに示したように近年の論文の共著形態の複雑化についても考慮するべきであろう。
そこで、図表4-1-5に示すように、国単位での科学研究力を把握する場合は、「論文の生産への関与度(論文を生み出すプロセスにどれだけ関与したか)」と「論文の生産への貢献度(論文1件に対しどれだけ貢献をしたか)」を把握することとする。前者は整数カウント法、後者は分数カウント法により計測する。論文の生産への関与度と貢献度の差分が、「国際共著論文を通じた外国の寄与分」と言える。各国・地域により国際的活動の状況が異なるため、カウント方法によりランクが入れ替わることがある。
また、「国の科学研究力」を見るときに、量的観点と質的観点が求められる。そこで、量的観点として論文数を、質的観点として他の論文から引用される回数の多い論文数(Top10%補正論文数、Top1%補正論文数)を用いる。論文の被引用数(2023年末の値)が各年各分野(22分野)の上位10%(1%)に入る論文数がTop10%(Top1%)論文数である。分野毎に算出するのは、分野毎に引用のされ方が異なるためである。Top10%(Top1%)補正論文数とは、Top10%(Top1%)論文数の抽出後、実数で論文数の1/10(1/100)となるように補正を加えた論文数を指す。分野は図表4-1-4(B)のESI22分野に準ずる。なお、ここでは質的観点として、論文の注目度を見ている点、論文指標は「国の科学研究力」を一側面から見ている点には留意が必要である。
(A)国単位での科学研究力の把握の概念図


注:
論文の被引用数(2023年末の値)が各年各分野(22分野)の上位10%(1%)に入る論文数がTop10%(Top1%)論文数である。Top10%(Top1%)補正論文数とは、Top10%(Top1%)論文数の抽出後、実数で論文数の1/10(1/100)となるように補正を加えた論文数を指す。詳細は、科学技術・学術政策研究所の「科学研究のベンチマーキング2023」(調査資料-329)の2-2-7 Top10%補正論文数の計算方法を参照のこと。分野は、図表4-1-4(B)の研究ポートフォリオ8分野に集約したESI22分野に準ずる。
(2)国・地域別論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数の時系列比較
Top1%補正論文数の時系列比較
図表4-1-6に、整数カウント法と分数カウント法による国・地域ごとの論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数及び世界ランクを示した。
日本の論文数(2020-2022年(PY)の平均)は整数カウント法によると第6位、Top10%補正論文数では第13位、Top1%補正論文数では第13位である。
分数カウント法によると日本の論文数(2020-2022年(PY)の平均)は第5位であり、Top10%補正論文数では第13位、Top1%補正論文数では第12位である。
(A)整数カウント法による


注:
分析対象は、Article, Reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。被引用数は、2023年末の値を用いている。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-1-6
(3)主要国の論文数シェア、Top10%補正論文数シェア、Top1%補正論文数シェアの時系列推移
図表4-1-7では、主要国の研究活動の量的状況を把握するため、論文数の各国シェアを整数カウント法と分数カウント法で比較した。
まず、整数カウント法における論文数シェアを見ると(図表4-1-7(A))、1980年代には米国が他国を大きく引き離していたが、2000年頃までは日本、2000年代に入ると中国、韓国がシェアを伸ばしている。特に中国の伸び幅は大きく、2018年時点より米国を抜いて世界第1位となっている。
日本は、1980年代から2000年頃まで論文数シェアを伸ばし、英国やドイツを抜かして一時は世界第2位となっていた。しかし、2000年代以降は中国が急速に論文数シェアを増加させており、日本のみならず米国、英国、ドイツ、フランスの論文数シェアは低下傾向である。2021年時点において、上位5か国は中米英独印であり、日本は第6位である。
次に、整数カウント法におけるTop10%補正論文数シェア及びTop1%補正論文数シェアの変化を示す。1980年代より米国が他国を大きく引き離してきたが、1990年代から下降基調が続いている。
中国は、1990年代後半からのTop10%補正論文数シェア及びTop1%補正論文数シェアの増加が著しく、Top10%補正論文数シェアについては2019年時点、Top1%補正論文数シェアについては2020年時点に米国を抜いてそれぞれ世界第1位となった。日本は、1980年代から2000年代初めにかけて緩やかなシェアの増加が見られたが、その後シェアを低下させている。
英国、ドイツ、フランスは、特にTop1%補正論文数において、1980年代より着実にシェアを増加させてきたが、2016年を境にシェアが低下している。他方で韓国のシェアは1990年代後半より上昇基調が続いている。
このような各国の時系列変化の中、日本は2021年時点において、Top10%補正論文数及びTop1%補正論文数ともに第13位である(いずれも主要国以外を含んだ順位)。
(全分野、整数カウント法、3年移動平均)
(A)整数カウント法による

注:
分析対象は、Article, Reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。全分野での論文数シェアの3年移動平均(2021年であればPY2020、PY2021、PY2022年の平均値)。整数カウント法である。被引用数は、2023年末の値を用いている。Top10%(及びTop1%)補正論文数は22分野ごとに抽出しているため、分野分類できない論文は除外して算出している。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-1-7
分数カウント法における論文数シェアを見ると(図表4-1-7(B))、1980年代には米国が他国を大きく引き離していたが、2000年頃までは日本が、2000年代に入ると中国、韓国がシェアを伸ばしており、1990年代以降の米国のシェアは下降基調が続いている。特に中国の伸び幅は大きく、2017年時点より米国を抜いて世界第1位となっている。
日本は、1980年代から2000年頃まで論文数シェアを伸ばし、英国やドイツを抜かし、一時は世界第2位となっていた。しかし、1990年代後半より、中国が急速に論文数シェアを増加させており、日本のみならず米国、英国、ドイツ、フランスの論文数シェアは低下傾向である。2021年時点において、上位5か国は中米印独日となっている。2020年時点より、インドがドイツを抜き世界第3位となっている。
次に、分数カウント法におけるTop10%補正論文数シェア及びTop1%補正論文数シェアの変化を示す。米国はTop10%補正論文数シェア及びTop1%補正論文数シェアともに他国を大きく引き離してきたが、1990年代から下降基調が続いている。
日本は、1980年代から1990年代後半にかけて緩やかなシェアの増加が見られたが、その後シェアを低下させており、Top10%補正論文数については2019年、Top1%補正論文数については2020年に韓国に抜かれて主要国中最下位となっている。
このような各国の時系列変化の中、日本は2021年時点において、Top10%補正論文数では第13位であり、Top1%補正論文数では第12位である(いずれも主要国以外を含んだ順位)。
なお、中国は整数、分数の両方のカウント方法で論文数シェア、Top10%補正論文数シェア、Top1%補正論文数シェアのいずれにおいても、2021年時点で世界第1位を保っている。
(全分野、分数カウント法、3年移動平均)
(B)分数カウント法による

注:
分析対象は、Article, Reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。全分野での論文数シェアの3年移動平均(2021年であればPY2020、PY2021、PY2022年の平均値)。分数カウント法である。被引用数は、2023年末の値を用いている。Top10%(及びTop1%)補正論文数は22分野ごとに抽出しているため、分野分類できない論文は除外して算出している。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2023年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-1-7