4.2特許

ポイント

  • 全世界における特許出願数は、1990年代半ばから年平均成長率4.7%で増加し、2020年には328万件となった。
  • 日本への出願数は2000年代半ばから減少傾向にある。2020年の出願数は28.8万件である。内訳を見ると、日本に居住する出願人からの出願割合は78.8%である。
  • 米国への出願数は、長期的に増加していたが、近年では頭打ち傾向にある。2020年は59.7万件となった。居住者からの出願数と非居住者からの出願数の割合は、2010年代半ばまでほぼ半数ずつであったが、近年は非居住者からの出願数の割合が増加傾向にある。
  • 中国への出願数は2020年で150万件であり、米国への出願数の2.5倍である。居住者からの出願数は89.8%となり、中国国内の出願人からの出願が特に増加している。
  • パテントファミリー数シェアを見ると、米国と日本の順位は1990年代後半に入れ替わり、2000年代は日本のシェアが第1位となっている。これは、日本から複数国への特許出願が増加したことを反映しているが、2000年代中頃からシェアは減少傾向にある。
  • パテントファミリーにおける国際共同の状況をみると、主要国の中では、日本が国際共同しているパテントファミリーの割合が最も低く、3.7%となっている。逆に、国際共同しているパテントファミリーの割合が最も高いのは英国で40.8%を占めている。
  • 2017年時点の日本の技術分野バランスを見ると、世界全体と比べて電気工学、一般機器、機械工学の比率が高くなっている。他方、バイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器、情報通信技術の割合は、世界全体と比べて低くなっている。
  • 2015-2017年のパテントファミリー数におけるシェアに注目すると、日本は電気工学、一般機器が30%を超えており、バイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器のシェアが相対的に低いというポートフォリオを有している。電気工学と情報通信技術の世界におけるシェアは、10年前と比べてそれぞれ、7.6ポイント、8.6ポイント減少している。これは、中国と韓国が急激に世界シェアを増加させているためである。
  • 日本からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では約9割が米国・ヨーロッパとなっていたが、1990年代に入って中国への出願が増加している。2016年時点では米国への出願が42.0%、中国への出願が23.6%、欧州特許庁への出願が14.6%となっている。

4.2.1世界における特許出願

(1)世界での特許出願状況

 4.2.1節では、WIPO(世界知的所有権機関),“WIPO statistics database”を用いて、世界における特許出願の状況を見る。図表4-2-1は、世界における特許出願数を、出願人が、自らが居住している国・地域へ行った特許出願(Resident Appli-cations; 居住者からの出願)、出願人が、自らが居住していない国・地域へ行った特許出願(Non-Resident Applications; 非居住者からの出願)に分けて示している。
 出願数として、各国・地域の特許官庁に、直接なされた特許出願、PCT(Patent Cooperation Trea-ty)出願によってなされた特許出願の両方をカウントしている。PCT出願については、各国・地域の特許官庁へ国内移行されたものをカウントしている。
 全世界における特許出願数は、1990年代半ばから年平均成長率4.7%で増加し、2020年には328万件となった。2019年、2020年の特許出願数は伸びが頭打ちとなっているようにも見える。1980年代半ばに約3割であった非居住者からの出願は、居住者からの出願よりも速いペースで増加し、2000年代半ばには全出願数の約4割を占めていた。しかし、2010年代に入ってから、その割合は低下傾向にあり、2020年時点における非居住者からの出願割合は29.7%と1980年代半ばと同程度の水準になっている。


【図表4-2-1】 世界の特許出願数の推移

注:
1) 居住者からの出願とは、第1番目の出願人が、自らが居住している国・地域に直接出願又はPCT出願すること。
2) 非居住者からの出願とは、出願人が、自らが居住していない国・地域に直接出願又はPCT出願すること。
3) PCT出願とはPCT(特許協力条約)国際特許出願を通じた出願のこと。
資料:
WIPO,“WIPO statistics database”(Last updated:November 2021)

参照:表4-2-1


(2)主要国の特許出願状況

 主要国への特許出願状況と主要国からの特許出願状況についてみる。ここでは、日本、米国、欧州、中国、韓国、ドイツ、フランス、英国への特許出願状況を対象とした。この8特許官庁への出願は、2020年時点で全世界の特許出願の88.1%を占める。
 図表4-2-2(A)に、主要国への出願数の内訳を、居住者からの出願、非居住者からの出願の2つに分けて示した。これを見ると日本への出願数は中国、米国に次ぐ規模であるが、2000年代半ばから減少しており、両国との差は広がっている。特に、2009年の出願数は2008年と比べて10.8%減少した。その後も減少傾向が続いており、2020年は28.8万件である。内訳を見ると日本に居住する出願人からの日本特許庁への出願が78.8%を占めている。
 米国への出願数は、長期的に増加していたが、近年では頭打ち傾向にある。2020年は59.7万件となった。居住者からの出願数と非居住者からの出願数の割合は、2010年代半ばまでほぼ半数ずつであったが、近年は非居住者からの出願数の割合が増加傾向にある。これは米国の市場が海外にとって常に魅力的であることを示している。
  欧州特許庁への出願数は長期的に増加している。2020年は18.0万件である。ドイツは長期的に漸増傾向にあるも、2020年は6.2万件、対前年比は-7.9%と減少している。フランス、英国への出願数は他国と比較すると、大きな変化は見えない。長期的にみるとフランスはほぼ横ばい、英国は漸減している。欧州特許条約の締結国における特許化は、欧州特許庁への出願及び審査により、一括して行うことができるので、各国への出願数は、ほぼ横ばいであると考えられる。
 中国への出願数は2000年~2018年にかけて、年平均成長率20.7%で上昇していたが、2019年、2020年は頭打ちとなった。2020年の出願数は150万件であり、米国への出願数の2.5倍である。居住者からの出願数は2000年代前半では約5割であったのが2020年では89.8%となり、中国国内の出願人からの出願が特に増加していることが分かる。
 図表4-2-2(B)にPCT出願数を示した。PCT出願は各国・地域の特許官庁への特許出願の束と考えることができ、一つの出願で指定した国・地域への一括出願が可能な点が特徴である。PCT出願数は、長期的に増加しており、2021年は27.7万件となった。


【図表4-2-2】 主要国への特許出願状況と主要国からの特許出願状況
  (A)主要国への特許出願数
(B)PCT特許出願数の推移

注:
出願数の内訳は、日本からの出願を例に取ると、以下に対応している。
「居住者からの出願」:日本に居住する出願人が日本特許庁に出願したもの。
「非居住者からの出願」:日本以外に居住(例えば米国)する出願人が日本特許庁に出願したもの。
資料:
WIPO,“WIPO statistics database”(Last updated: November 2021)(PCT出願数:Last updated: April 2022)

参照:表4-2-2


 次に主要国からの特許出願状況(図表4-2-2(C))を見る。ここでは出願数の内訳を、居住国への出願、非居住国への出願の2つに分けて示している。出願数として、各国・地域の特許官庁への直接出願、国内移行したPCT特許出願の両方をカウントしている。なお、欧州特許庁への出願は、すべての国で非居住国への出願としてカウントした。
 この分析では、複数の出願人がいる場合、第1番目の出願人(applicants又はassignee)が属している国を用いて、各国の出願数を計算している。たとえば、日本(第1番目)と米国(第2番目)の出願人による共同出願の場合、日本のみがカウントされる。
 日本、米国、中国、韓国からの出願は居住国への出願数が、非居住国への出願数より多い。日本からの全出願数のうち、53.7%(2020年)が居住国(日本特許庁)への出願である。
 居住国への出願数の推移に注目すると、日本は長期的に減少しており、2020年で22.7万件と、ピーク時(2000年)の58.7%の出願数となっている。他方、中国は増加が著しく2020年で134万件となっている。米国、韓国は2009年以降増加傾向にあったが、米国は2016年を境に減少傾向にある。韓国については、2015年をピークに一旦減少した後、近年は増加している。フランスにおける居住国への出願数は、長期的には漸増傾向にあるが、近年は減少傾向にある。ドイツは横ばい、英国については漸減傾向にある。
 非居住国への出願数に注目すると、日本からの出願数は、1990年代半ばは、米国と同程度であったが、2012年以降はほぼ横ばいである。なお、2020年では19.6万件、対前年比は6.0%の減少となった。米国から非居住国への出願数は2016年からほぼ横ばいであり、2020年では22.7万件となった。中国については、国内への特許出願と比べると、海外への出願数は、2020年で9.6万件と、まだ少ない。ただし、その数は着実に増加しており、ドイツと同程度の水準に達してきている。


【図表4-2-2】 主要国への特許出願状況と主要国からの特許出願状況(続き)
(C)主要国からの特許出願数の推移

注:
1) 出願数の内訳は、日本からの出願を例に取ると、以下に対応している。
「居住国への出願」:日本に居住する出願人が日本特許庁に出願したもの。
「非居住国への出願」:日本に居住する出願人が日本以外(例えば米国特許商標庁)に出願したもの。
2) 各国ともEPOへの出願数を含んでいる。
3) 国内移行したPCT出願件数を含む。
資料:
WIPO,“WIPO statistics database”(Last updated: November 2021)

参照:表4-2-2