4.1.3主要国の研究活動の分野特性

(1)全世界の分野バランス

 論文数や被引用数は、分野ごとの研究活動において論文生産がどの程度重視されているか、研究者数が多いか少ないか、一論文が引用する過去の論文数が平均的に多いか少ないかなどの影響を受ける。したがって、国の比較を行う場合、論文数や被引用数を総数のみで把握するのではなく、分野ごとの研究活動を把握することも重要である。
 まず、図表4-1-8では、全世界の論文における各分野の論文数割合の推移を示す。1981年と2020年を比べると、基礎生命科学は6.1ポイント、物理学は4.1ポイント、化学は2.5ポイント、臨床医学は2.1ポイント減少している。他方で、工学は5.6ポイント、材料科学は4.3ポイント、環境・地球科学は3.9ポイント、計算機・数学は1.6ポイント増加した。基礎生命科学及び臨床医学といった生命科学系の割合が約半分を占めている。その割合は1981年の53.3%から45.1%に低下している。2013年以降、生命科学系の割合は毎年減少していたが、2019年から2020年にかけては0.3ポイント上昇した。前年までと比べて臨床医学や基礎生命科学の論文が大きく増加したためである。これは、新型コロナウィルス感染症についての研究活動が活発に行われたことを反映していると考えられる。


【図表4-1-8】 全世界の分野別論文数割合の推移

注:
分析対象は、Article, Reviewである。分野は図表4-1-4(B)の注釈に準ずる。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。研究ポートフォリオ8分野に分類できない論文を除いた結果。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2021年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-8


(2)主要国内の分野バランス

 次に主要国の内部構造をみるために、図表4-1-9では、主要国内の分野バランスの変化を示す。なお、ここでは各国内の分野毎の割合を分数カウント法により求めた。
 日本は、1980年代前半は、基礎生命科学、化学、物理学の占める割合が大きかったが、1981年と2020年を比較すると、化学は10.7ポイント、基礎生命科学は5.0ポイント、物理学は3.8ポイント減っている。他方で、割合を15.0ポイント増加させた臨床医学に加え、材料科学(3.7ポイント増)と環境・地球科学(3.4ポイント増)で拡大傾向にある。
 米国は、基礎生命科学(5.4ポイント減)と物理学(3.8ポイント減)、臨床医学(4.9ポイント増)で変化が見られる。
 ドイツは、基礎生命科学(4.9ポイント減)、化学(2.6ポイント減)、物理学(2.6ポイント減)、環境・地球科学(5.4ポイント増)で変化が見られる。
 フランスは、臨床医学(6.3ポイント減)、物理学(3.9ポイント減)、化学(3.4ポイント減)、工学(4.8ポイント増)、環境・地球科学(4.7ポイント増)、計算機・数学(3.8ポイント増)で変化が見られる。
 英国では、基礎生命科学(9.0ポイント減)、化学(4.6ポイント減)、環境・地球科学(3.9ポイント増)、工学(2.8ポイント増)、臨床医学(2.8ポイント増)で変化が見られる。
 中国は、物理学(15.5ポイント減)、環境・地球科学(2.7ポイント減)、工学(11.4ポイント増)、材料科学(10.2ポイント増)、基礎生命科学(3.0ポイント増)で変化が見られる。
 韓国は、化学(19.9ポイント減)、物理学(12.9ポイント減)、臨床医学(15.6ポイント増)、工学(6.8ポイント増)、環境・地球科学(4.2ポイント増)で変化が見られる。
 中国と韓国に関しては、材料科学及び工学の占める割合が、他の主要国と比較して高い。


【図表4-1-9】 主要国の分野別論文数割合の推移
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国

注:
分析対象は、Article, Reviewである。分数カウント法による。分野は図表4-1-4(B)の注釈に準ずる。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。研究ポートフォリオ8分野に分類できない論文を除いた結果。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2021年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-9


(3)世界における主要国の分野バランス

 図表4-1-10では、世界における主要国の分野バランスを示す。具体的には、主要国の論文数シェアとTop10%補正論文数シェアの分野ポートフォリオ(2018-2020年(PY)、分数カウント法)を比較した。
 Top10%補正論文数シェアに注目してポートフォリオを見ると、日本は物理学、臨床医学、化学のシェアが他分野と比べて高く、工学、計算機・数学、環境・地球科学が低いというポートフォリオを有している。
 米国は臨床医学、基礎生命科学、物理学、英国は臨床医学、基礎生命科学、環境・地球科学のシェアが他分野と比べて高い。ドイツは物理学、基礎生命科学、臨床医学、フランスは物理学、臨床医学、基礎生命科学、環境・地球科学のシェアが自国内で相対的に高い。中国と韓国は、材料科学、化学のシェアが高い。これに加えて、中国は工学、計算機・数学のシェアも高い。
 論文数シェアとTop10%補正論文数シェアを比較すると、多くの分野でTop10%補正論文数シェアが論文数シェアより高い国(英国、米国、中国)と、多くの分野で論文数シェアよりTop10%補正論文数シェアが低い国(日本、韓国、フランス)に分けられる。Top10%補正論文数シェアをみると、論文数シェアでみる分野バランスより各国の分野バランスが強調される。


【図表4-1-10】 主要国の分野毎の論文数シェアとTop10%補正論文数シェアの比較
(%、2018-2020年(PY)、分数カウント法)

注:
分析対象は、Article, Reviewである。分数カウント法による。分野は図表4-1-4(B)の注釈に準ずる。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。被引用数は、2021年末の値を用いている。
資料:
クラリベイト社 Web of Science XML (SCIE, 2021年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-10


コラム:責任著者に着目した研究活動の国際比較

 本編では研究活動の国・地域別比較を行う際に整数カウントと分数カウントという2つの異なる論文数のカウント法を用いた。本コラムでは、責任著者カウントという第三のカウント法により国・地域別の論文数とTop10%補正論文数の比較を行う。
 整数カウントでは、ある論文の著者所属に日本のA大学、日本のB大学、米国のC大学の記載がある場合、日本1件、米国1件と数えることで、国際的な研究活動に対する各国・地域の「関与度」を測定している。分数カウントでは、ある論文の著者所属に日本のA大学、日本のB大学、米国のC大学の記載がある場合、各機関は1/3と重み付けして日本2/3件、米国1/3件と数えることで、国際的な研究活動に対する(外国の寄与分を除いた)各国・地域の「貢献度」を測定している。
 これに対して責任著者カウントでは、図表4-1-11に示すように、ある論文の著者所属に日本のA大学、日本のB大学、米国のC大学の記載がある場合、責任著者(Corresponding author)の所属がA大学であれば、日本1件(B大学、C大学は0件)と数える。一般に、論文の責任著者は論文を生み出した研究活動全般に責任を持つ者であるので、責任著者カウントによる集計結果は、各国・地域が研究をリードした論文の数として捉えることができる。すなわち、責任著者カウントは、国際的な研究活動に対する各国・地域の「リード度」を測定しているといえる。


【図表4-1-11】 責任著者カウント法

注:
分析に用いたWeb of Science XMLにおいては、2015年頃までは1件の論文に対して1名の責任著者情報が付与されていたが、2016年頃より1件の論文に対して複数の責任著者情報が付与されるようになった。本コラムでは複数の責任著者がいる場合は、それぞれの国・地域を1件としてカウントしている。なお、整数カウントと分数カウントの説明については本編図表4-1-5(B)を参照されたい。

参照:表4-1-11


 分数カウントは整数カウントと比べて国際的な研究活動に対する各国・地域の貢献の度合いを見ることができるが、ある論文に対する著者所属機関の貢献を単純に等分したうえで各国・地域の貢献度を計算しているため、各国・地域の貢献の度合いを過度に公平化しているとも考えられる。他方で責任著者カウントでは、国際的な研究活動を各国がどの程度リードしているのかを把握することができる。
 図表4-1-12は、責任著者カウントによる国・地域ごとの論文数、Top10%補正論文数及び世界ランクである。図表中の「シェア」は、各時点における責任著者情報が付与されている総論文数(総Top10%補正論文数)を分母として、国・地域別の責任著者カウントによる論文数(Top10%補正論文数)が占める割合を計算したものである。
 日本の責任著者カウントによる論文数(図表4-1-12上段)は、1998-2000年(PY)時点では第2位であったが、2008-2010年(PY)時点では第3位、2018-2020年(PY)時点では第6位と徐々に順位を落としている。日本の責任著者カウントによるTop10%補正論文数(図表4-1-12下段)は、1998-2000年(PY)時点では第4位であったが、2008-2010年(PY)時点では第6位、2018-2020年(PY)時点では第12位と大きく順位を落としている。
 本編図表4-1-6で示した整数カウントおよび分数カウントによる論文数と責任著者カウントによる論文数を比べると、1998-2000年(PY)時点での日本の関与度・貢献度・リード度は同順位(第2位)であるが、2008-2010年(PY)時点では貢献度・リード度(ともに第3位)が関与度(第5位)を上回っており、2018-2020年(PY)時点ではリード度(第6位)が関与度・貢献度(ともに第5位)を下回っている。
 同様に、本編図表4-1-6で示した整数カウントおよび分数カウントによるTop10%補正論文数と責任著者カウントによるTop10%補正論文数を比べると、1998-2000年(PY)時点での日本の関与度・貢献度・リード度は同順位(第4位)であるが、2008-2010年(PY)時点では貢献度・リード度(ともに第6位)が関与度(第7位)を上回っており、2018-2020年(PY)時点では再び関与度・貢献度・リード度が同順位(第12位)となっている。
 日本以外の主要国を見ると、2018-2020年(PY)時点では、責任著者カウントでも中国が論文数・Top10%補正論文数ともに第1位であり、米国が続く。上位15位までの国・地域について、分数カウントと責任著者カウントを比較すると、順位はほぼ同じである。ただし、2018-2020年(PY)時点の論文数では英国のリード度が日本を、Top10%補正論文数については韓国のリード度がスペインを上回っている。貢献度では両国の順位が入れ替わる。
 日本は関与度や貢献度とともにリード度においても相対的に順位を落としている。研究活動の国際化が進展する中、今後は、日本がどの程度、研究をリードできているかという視点による分析も必要になると考えられる
(西川 開)

 

【図表4-1-12】 責任著者カウント法による国・地域別論文数、Top10%補正論文数:上位25か国・地域

注:
分析対象は、責任著者情報が付与されたArticle, Reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。被引用数は、2021年末の値を用いている。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SCIE, 2021年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-12