第2章 研究開発人材

 科学技術活動を支える重要な基盤である人材を取り扱う。この章では研究開発人材、すなわち、研究者、研究支援者について、日本及び主要国の状況を示す。研究者数に関する現存のデータには、各国の研究者の定義や計測方法が一致していないなどの問題があり、厳密な国際比較が難しい面もあるが、各国の研究者の対象範囲やレベルなどの差異を把握した上で各国の状況を把握することはできる。

2.1各国の研究者数の国際比較

ポイント

  • 日本の研究者数は2021年において69.0万人、実数(HC: Head Count)値は95.2万人であり、中国、米国に次ぐ第3位の研究者数の規模である。
  • 日本の労働力人口当たりの研究者数は、2008年までは主要国の中で、最も高かったが、各国最新年では、韓国がトップであり、フランス、ドイツ、日本、米国、英国、中国と続いている。
  • 各国の研究者数を部門別に見ると、「企業」部門の研究者数の割合が大きい。韓国では8割、日本、米国が7割、ドイツ、フランス、中国が6割である。なお、英国は「大学」部門の割合(5割)が最も大きい。
  • 日本の女性研究者数(HC値)は増加しており、2021年では16.6万人、対前年比率は4.6%増である。
  • 日本において、2021年の新規採用研究者は3.1万人である。2009年をピークに一旦減少した後、2012年以降、増加していたが、最新年では減少している。
  • 2021年における女性の新規採用研究者の割合は全体では23.5%である。部門別で見ると「企業」部門では20.1%、「公的機関」部門では30.8%、「大学等」部門では34.6%、「非営利団体」では24.6%である。いずれの部門でも、研究者に占める女性の割合よりも、新規採用に占める女性の割合の方が大きいことから、女性研究者割合は今後も増加すると考えられる。
  • 企業の新規採用博士号保持者数において、2021年の製造業は多くの産業で、博士号保持者の採用が減少しており、新規採用研究者に占める博士号保持者の割合も減少している。非製造業においても2021年の博士号保持者の採用は減少したが、新規採用研究者に占める博士号取得者の割合は増加している。

2.1.1各国の研究者の測定方法

 「研究者」とはOECD「フラスカティ・マニュアル2015」によると「新しい知識の着想または創造に従事する専門家である。研究を実施し、概念、理論、モデル、技術、測定、ソフトウェア又は操作工程の改善もしくは開発を行う。」(1)とされている。
 一般に研究者数は、研究開発費と同様に、質問票調査により計測されているが、一部の国の部門によっては別の統計データを使用しているところもある。また、研究者数を数える場合、二つの方法がある。ひとつは研究業務を専従換算(FTE:Full-Time Equivalents)し、計測する方法(2)である。この場合のFTEとは研究開発活動とその他の活動を区別し、実際に研究開発活動に従事した時間や割合を研究者数の測定の基礎とするものである。研究者の活動内容を考慮し、研究者数を数える方法であり研究者数の計測方法として国際的に広く採用されている(3)。
 もうひとつは研究開発活動とその他の活動を兼務している業務内容であっても、すべてを研究開発活動とみなし、実数(HC: Head Count)として計測する方法である。
 図表2-1-1は各国の研究開発費の使用部門と同じ4部門について、研究者の定義、測定方法を表したものである(各国のデータはFTE値である。HC値の場合のみ、そのことを明記している)。各国ともに上述したOECD「フラスカティ・マニュアル」の研究者の定義を基に研究者数を質問票調査で測定しているが、部門によっては質問票調査を行っていなかったり、研究専従換算をした研究者数を計測していなかったりと、国や部門によって差異がある。特に大学部門の研究者数の計測には国による違いが見える。
 日本では総務省が行っている研究開発統計(科学技術研究調査)で研究者数を測定しているが、研究者を研究専従換算した値で計測し始めたのは2002年からである。日本の研究者については、対象期間に応じて、以下の3種類の測定方法による研究者数を示した(図表2-1-2)。
 図表2-1-2(A)は2001年以前の研究者の測定方法であり、FTEかHCについて明確な定義がされていない。本報告書では、①に○がついている項目の人数を研究者数として計上している。
 2002~2008年の測定方法については、図表2-1-2(B)に示す。FTE研究者数の測定方法は②に○がついている項目の人数を計上している。HC研究者については③に○がついている項目の人数を計上している。
 2009年以降の測定方法については、図表2-1-2(C)に示す。FTE研究者数の測定方法は②に○がついている項目の人数を計上している。HC研究者については③に○がついている項目の人数を計上している。FTE係数は定期的に更新される。


【図表2-1-1】 各国の部門別研究者の定義及び測定方法

注:
1) 研究者とだけ表記している部門についての研究者の定義及び測定方法の情報は得られなかった。
2) 各国とも研究開発統計調査ではFTE計測をしているが、していない部門では(HC)と示した。
3) 日本の大学の②博士課程在籍者は後期(3~5年)の者。
4) ドイツは公的機関部門と非営利団体部門が一緒である。
資料:
科学技術政策研究所、「主要国における研究開発関連統計の実態:測定方法についての基礎調査」(調査資料-143)(2007.10)
総務省、「科学技術研究調査報告」
NSF, “Higher Education Research and Development: Fiscal Year 2020”
OECD, “R&D Sources and Methods Database”
MESR, “Higher education & research in France, facts and figures”
科学技術情報通信部・KISTEP、「研究開発活動調査報告書」


【図表2-1-2】 本報告書における日本の研究者の測定方法
(A)2001年以前

(B)2002年~2008年まで

(C)2009年以降

注:
1) 日本の研究者は3種類のデータがある。①FTEかHCについて明確な定義がされていない値、②FTE研究者数、③HC研究者。それぞれで計上されている項目に○を付けている。
2) 図表2-1-2(B)の大学等にある数値はFTE係数。該当する人数にFTE係数をかけて計測している。大学等のFTE研究者数については、2002年に文部科学省で実施された「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査(FTE調査)」の結果を用いて、科学技術・学術政策研究所が計算した。ただし、「医局員・その他の研究員」については「教員」と同じFTE係数を使用した。
3) 図表2-1-2(C)の大学等のFTE研究者数(*)は、分野毎の人数に分野毎のFTE係数をかけて計測している。2009~2012年のFTE係数は2008年のFTE調査の結果、2013年~2017年のFTE係数は2013年のFTE調査の結果、2018年以降は2018年のFTE調査の結果を用いている。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」



(1)日本については、総務省「科学技術研究調査報告」における「研究者」の定義に従っている。総務省「科学技術研究調査報告」の研究者の定義は、フラスカティ・マニュアルの"Researcher"の定義にほぼ対応していると考えられる。
(2)たとえば大学等の高等教育機関の研究者は、研究とともに教育に従事している場合が多いが、このような研究者を、専ら研究を業務とするフルタイム研究者と同等に扱うのではなく、実際に研究者として活動したマンパワーを測定しようとする方法が研究専従換算である。具体的には、例えば、ある研究者が1年間の職務時間の60%を研究開発に当てている場合、その研究者を0.6人と計上する。
(3)OECDは、研究開発従事者のマンパワーは研究専従換算によって測定するべきとの指摘を1975年に行い、多くのOECD加盟国等が研究専従換算(FTE)を採用している。研究専従換算の必要性やその原理については、研究開発統計の調査方法についての国際的標準を提示しているOECDのフラスカティ・マニュアルに記述されている。なお、2015年版では、HCとFTEの両方を測定することを推奨している。