2.高等教育と科学技術人材から見る日本と主要国の状況

(1) 日本の大学院博士課程の入学者数は2003年度をピークに、長期的に減少傾向にある。

 日本の大学院修士課程の入学者数は2010年度をピークに減少に転じた。長期的に減少傾向にあるが、2021年度は対前年度比3.3%増の7.4万人となった。社会人修士課程入学者数は全体の約10%で推移し、2019年度から微減している。大学院博士課程の入学者数は、2003年度をピークに長期的に減少傾向にあり、2021年度は1.5万人となった。うち社会人博士課程入学者数は増加傾向にあったが、2018年度を境に減少している。2021年度では0.6万人である。全体に占める割合は2021年度では41.7%であり、2003年度の約2倍である。専攻別の構成について見ると、修士・博士課程ともに「その他」の入学者数が長期的に増えている。また、2000年度と比べると、修士課程は「人文科学」と「社会科学」で、博士課程は「保健」と「その他」以外の専攻で入学者数が減少している。


【概要図表9】 大学院(修士課程)入学者数
             (A)専攻別入学者数の推移(修士課程)              (B)社会人入学者数の推移(修士課程)

参照:科学技術指標2022図表3-2-3

 

【概要図表10】 大学院(博士課程)入学者数
            (A)専攻別入学者数の推移(博士課程)              (B)社会人入学者数の推移(博士課程)

注:
修士及び博士課程の専攻の「その他」は、「教育」、「芸術」、「商船」、「家政」、「その他」である。そのうちの「その他」とは「学校基本調査」の「学科系統分類表」のうちのその他であり、専攻名を構成する単語には「環境」、「人間」、「情報」、「国際」等が多くみられる。?

参照:科学技術指標2022図表3-2-4

 

(2)「理工」系学生の産業分類別就職状況を見ると、学部卒業生は「サービス業関連」が多くを占め、修士課程修了者は「製造業」が多くを占める。

 「理工」系学生の就職先を産業分類別に見ると、学部卒業者の「製造業」への就職割合は1980年代には50%台であったが、長期的に減少し2021年では23.5%となった。これに代わり増加しているのは「サービス業関連」であり1981年と2021年を比較すると約3倍の40.7%となった。
 「理工」系修士課程修了者の場合、「製造業」への就職割合は長期的には減少しており、2021年では53.7%となった。「サービス業関連」は長期的には増加しており、2021年では28.9%である。

【概要図表11】 「理工」系学生の産業分類別就職状況
(A)学部卒業者のうち就職者
(B)修士課程修了者のうち就職者

注:
1) 「サービス業関連」には、「情報通信業」、「学術研究,専門・技術サービス業」、「教育,学習支援業」等が含まれる。
2) 「その他」には「建設業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「運輸業,郵便業」、「卸売業,小売業」、「金融業,保険業」等が含まれる。

参照:科学技術指標2022表3-3-4表3-3-5


(3) 日本の博士号取得者数は減少傾向にある。

 各国最新年度において、博士号取得者数が最も多いのは米国(9.2万人)であり、中国(6.6万人)、ドイツ(2.6万人)が続いている。日本は1.5万人である。2000年度(中国は2005年度)と最新年度を比較すると2倍以上となっているのは韓国、中国、米国である。日本については2006年度をピークに減少傾向にある。ドイツと英国は2020年度に大きく減少した(1) 。

【概要図表12】 主要国の博士号取得者数の推移

参照:科学技術指標2022図表3-4-4(A)

 

(4) 博士号保持者を採用する傾向は産業により異なり、製造業のなかでも差異がある。

 2021年には製造業の多くで、博士号保持者の研究者としての新規採用数や新規採用研究者に占める博士号保持者の割合が減少した。非製造業においても、2021年の博士号保持者の採用は減少したが、新規採用研究者に占める博士号保持者の割合は増加している。また、2019年、2020年を境に博士号保持者の採用が減少している産業が多い。

【概要図表13】 企業の新規採用研究者における博士号保持者(産業分類別)

参照:科学技術指標2022図表2-1-19

 

(5) 日本の大学発ベンチャー企業の従業員に占める博士号保持者の割合は大きい。

 日本の大学発ベンチャー企業数は順調に増加しており、2021年度では3,306社である。ベンチャーの定義別の内訳では「研究成果ベンチャー」が全体の53.8%と半数を占めている。また、大学発ベンチャー企業全体での従業員に占める博士号保持者の割合は16%であり、一般企業の研究者のうちの博士号保持者の割合(4%)と比較しても、博士号保持者の割合は大きい。


【概要図表14】 大学発ベンチャー企業の状況
(A)企業数の推移

(B)ベンチャーの定義別従業員数に占める
博士号保持者の割合(2021年度調査)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注:
概要図表11(A)(B)の出典は経済産業省の「令和3年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」である。当該報告書には2017年度以降のベンチャー定義別の内訳が掲載されているのでそれを示した。概要図表11(B)は、「大学発ベンチャー設立状況調査(2022)」で把握された大学発ベンチャー企業のうち連絡先が把握できた企業の実態を調査した結果である(「大学発ベンチャー実態等調査(2022)」、回収数は374/3,048件、回収率12.3%)。「技術移転ベンチャー」の博士号保持者の割合が最も大きく46%となっているが、ベンチャー企業数が少ない点に留意が必要である。

参照:科学技術指標2022図表5-4-10(A)図表5-4-12(A)


(1)英国の出典である高等教育統計局(HESA)のウェブページでは、COVID-19のパンデミックの発生が各大学からの回答状況に影響を及ぼしている可能性があることが示唆されている。