コラム2:感染症に関する特許出願動向

 本コラムでは技術の面に注目し、感染症に関する特許(パテントファミリー)の出願動向について紹介する。

(1)感染症に関する特許の定義

 本コラムでは、国際特許分類(IPC)の医学または獣医学;衛生学に関するクラス(A61)のうち、ワクチン、ウイルス、菌の単語が含まれるサブクラスまたはグループの特許を感染症に関する特許と定義する(図表2-1)。


【図表2-1】 感染症に関する特許とみなすIPC分類区分

資料:
国際特許分類をもとに、科学技術・学術政策研究所が作成。

参照:表2-1


(2)感染症に関する特許(パテントファミリー)の出願数推移

 感染症に関する特許(パテントファミリー)の出願数は、1980年代は1,000件程度であったが、1990年代から2000年前半にかけて増加し、ピーク時には6,000件近くにまで達していた。2000年代後半以降は縮小傾向に転じたが、再び増加し2015年時点で約5,200件となっている(図表2-2(A))。
 全てのパテントファミリーに占める感染症に関するパテントファミリーの割合についてみると、パテントファミリーの出願数と同様の傾向が見られ、1980年代は1.0~1.5%を推移し、1990年代から2000年前半にかけて3.1%までに増加、2000年代後半から減少傾向に転じ、2015年時点で2.2%となっている(図表2-2(B))。


【図表2-2】 感染症に関する特許出願状況
(A)パテントファミリー数
(B)全パテントファミリーに占める割合

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2019年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表2-2


(3)感染症に関する特許(パテントファミリー)を出願する主要国の状況

 直近10年間(2006~2015年)の感染症に関する特許(パテントファミリー)の国・地域別出願数シェア(整数カウント)をみると(図表2-3(A))、米国が最多で49.5%を占める。続いて、ドイツが12.2%、英国が9.7%、日本が9.3%、フランスが8.5%、中国が7.0%となっている。感染症に関するパテントファミリーのうち、シェアトップの米国からの出願数のみで2分の1を占めている。
 感染症に関するパテントファミリー出願数の多い上位6つの国・地域について、1981年からのパテントファミリー出願数シェアの推移を見ると(図表2-3(B))、国・地域によって、それぞれの特徴が見られる。米国は、1980年代から1990年代後半にかけて、30%から60%程度までシェアを上昇させた後、減少傾向に転じ、2000年代半ばから50%のシェアを維持している。
 日本は、1980年時点では20%近くのシェアを占めていたが、2000年頃まで減少傾向が続き、6~7%の水準にまで減少した。2000年代以降は、若干シェアを増加させ、10%程度のシェアで横ばい傾向が続いている。ドイツ、フランスは長期的には横ばい、英国は微減で推移している。中国は2000年以降、シェアを伸ばし、2015年時点で7.8%まで達している。

【図表2-3】 感染症に関する特許を出願する主要な国・地域の状況
(A)上位6か国・地域の割合(直近10年間)
(整数カウント)
(B)上位6か国・地域のパテントファミリー出願数
シェアの推移(整数カウント)

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2019年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表2-3


(4)感染症に関する特許(パテントファミリー)を出願する主要国の国際共同状況

 感染症に関する特許(パテントファミリー)を出願する主要国の中で、直近10年間の国際共同割合が高いのは中国であり、69.2%である(図表2-4)。これに続いて、英国、ドイツ、フランスは6割程度が国際共同している。米国では、約4割のパテントファミリーが国際共同によるものである。日本の国際共同の割合は18.3%であり、主要国の中で最も低い割合となっている。
 直近10年間の感染症に関するパテントファミリーにおいて、日本の国際共同相手国・地域別の割合をみると(図表2-5)、最も割合の高い国・地域は米国であり、37.1%となっている。続いて、中国が9.3%、ドイツが8.5%、英国が7.5%、フランスが4.8%となる。図表2-3(A)で示した主要な国・地域のパテントファミリーのシェアと比較すると、日本は中国と国際共同する傾向が強く見られる。


【図表2-4】 感染症に関する特許を出願する主要な国・地域(上位6)の国際共同状況(直近10年間)

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2019年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表2-4


【図表2-5】 感染症に関する特許出願における日本の国際共同相手国・地域の状況(直近10年間)

注:
1)パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
2)各国・地域のシェアは、パテントファミリーごとの国際共同国・地域の組合せの総数に占める割合となる。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2019年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表2-5


(5)感染症に関する特許(パテントファミリー)を構成するIPCグループ別の出願状況

 直近10年間の感染症に関する特許(パテントファミリー)のIPC分類(メイングループ)別の出願状況をみると、A61K45, A61P31, A61K39の3つのメイングループの出願数が多いことが分かる。


【図表2-6】 感染症に関する特許のIPC分類別の出願状況(直近10年間)

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2019年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表2-6


 さらに、主要国によって感染症に関する特許の出願内容に違いがあるかを捉えるため、試行的に抗感染剤(A61P31)及び抗寄生虫剤(A61P33)の2つのメイングループについて、サブグループ別の出願状況を主要国別にみてみる(図表2-7)。
日本の特許出願は、局所消毒剤(A61P31/02)、抗菌剤(A61P31/04)、抗寄生虫剤(A61P33)に関するサブグループなどで相対的に多く、欧米や中国と傾向が異なる。
また、日本は自国の特許出願に占めるインフルエンザに関するサブグループ(A61P31/16)の割合が他の主要国と比較して高くなっている。これは、日本が世界最大の抗インフルエンザ薬使用国であること、日本初のインフルエンザ治療薬も開発されていることなどが背景にあると考えられ、当該サブグループは日本が相対的に強みを持つ分類の1つであることが伺える。

(松本 久仁子)



【図表2-7】 主要国別の感染症に関する特許出願状況(直近10年間):A61Pサブグループ内訳

注:
1)パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
2)サブグループごとに主要国間で比較し、割合が高いほど、濃赤で配色している。
3)当図表では、各国のサブグループのバランスを比較するため、1つのパテントファミリーに対して複数のサブグループが付与される場合は重複カウントし、サブグループ別パテントファミリー総数に対する各サブグループの割合を表記している。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2019年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表2-7