研究者の流動性を高めることは、知識生産の担い手である研究者の能力の活性化を促すとともに、労働現場においても活力ある研究環境を形成すると考えられる。
(1)米国の博士号保持者の出身国・地域
研究者の流動性又は国際性を表すための指標として、外国人研究者の数といった指標が考えられる。しかしながら、日本においては、外国人研究者数は把握されていない。また、米国についてもScientists & Engineers といった職業分類で見た場合での外国人のデータはあるが、狭義の研究者についての数値はない。そこで、この項では、データが利用可能な米国の博士号保持者のうちの外国人の状況を見る。
図表2-1-14は、米国において、どの職業分野で、どの国・地域の出身の博士号保持者が雇用されているかを2時点で見たものである。2023年の雇用者全体のうち38.8%が外国出身である。そのうち、多いのはアジア地域出身者であり、全体のうち27.0%である。
職業分野別に見ると、2023年において、アジア地域出身者が多いのは「コンピュータ・情報科学」であり49.9%を占める。また、「工学」も45.8%とアジア地域出身者が多い。米国出身者が多いのは、「心理学」(86.1%)、「社会科学」(70.3%)、「科学工学関連職業」(71.5%)である。
2008年と比較すると、全ての職業分野で外国出身者が増えており、特にアジア地域出身者の割合が増えている。アジア地域出身者の割合が最も増加したのは「コンピュータ・情報科学」の職業分野であり(13.5ポイント増)、これに「数学」の10.4ポイント増、「工学」の8.3ポイント増が続く。
注:
出身国・地域別の合計値が全体の値と一致しない場合があり、各職業分野の割合の合計値は100%になっていない場合がある。
資料:
NSF,“Survey of Doctorate Recipients”
参照:表2-1-14
(2)日本の研究者の部門間の流動性
日本の研究者の新規採用(7)、転入(8)、転出(9)状況を見る(図表2-1-15)。2023年度に全国で採用された研究者は7.5万人である。内訳は新規採用者が3.4万人、転入者が4.2万人である。転出者は5.7万人である。新規採用者は2006~2008年度をピークに一旦減少したが、2011年度以降は増加に転じた。その後、2020年度に減少した後は増加に転じている。
部門別に見ると、「企業」では2000年代後半は、新規採用者が最も多かったが、2010年度からしばらくの間は転出者が最も多くなっていた。新規採用者は2008年度を境に2011年度まで大きく減少した後は増加に転じ、2018年度以降には転出者より多くなっている。
「非営利団体・公的機関」においては、転入・転出者が新規採用者よりも多い。転出者は2005年度以降、増減を繰り返しながら、漸減している。新規採用者はほぼ横ばいに推移している。
「大学等」についても、転入・転出者が新規採用者よりも多い。転入・転出者数は長期的に増加傾向である。新規採用者は漸減している。
注:
1) 2010年度までの「企業」は営利を伴う特殊法人・独立行政法人が含まれた「企業等」である。
2) 2012年度までの転入者数は、採用・転入研究者数の総数から新規採用者数を引いた数である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-15
部門間における転入研究者の流れを見る(図表2-1-16)。
多くの研究者の転入先となっているは「大学等」である。転入元から見ると「企業」、「大学等」はそのほとんどが同部門に流れており、他部門への転入は少ない。また、「公的機関」や「非営利団体」については、「大学等」へ転入している研究者が多い。転入者のうち博士号保持者の割合を見ると、「公的機関」が最も大きく27.3%であり、「非営利団体」は14.9%、「企業」は4.9%である。
各部門の研究者のうち博士号保持者の割合は「公的機関」では47.1%、「非営利団体」では34.7%、「企業」では4.6%である(図表2-1-8参照のこと)。「公的機関」、「非営利団体」において、転入研究者における博士号保持者の割合の方が小さい傾向にある。
注:
1) 「その他」とは、外国の組織から転入した者の他、自営業の者、無職の者(1年以上)を指す。
2) 2023年度(2024年3月31日時点の研究者数を測定している)の各部門における研究者数(HC)は、企業:599,860人、公的機関:34,335人、大学等:345,724人、非営利団体:9,304人である。
3) 四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある。
4) 大学等の転入者における博士号保持者の数値はない。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-16
(3)日本の新規採用研究者の動向
新規採用研究者(新卒)における男女の状況を見ると(図表2-1-17(A))、いずれの部門においても女性と比較して男性の新規採用研究者が多い。2023年度における女性の新規採用研究者の割合は全体では24.5%である。部門別で見ると「企業」では21.6%、「公的機関」では29.2%、「大学等」では36.2%、「非営利団体」では25.6%である。2013年度と比較すると、いずれの部門においても女性の新規採用研究者の割合は増加している。特に「企業」では2013年度時点に全体の14.4%であった女性の新規採用研究者の割合が1.5倍となった。
いずれの部門でも、研究者に占める女性割合(図表2-1-11参照)よりも、新規採用に占める女性割合の方が大きいことから、女性研究者割合は今後も増加すると考えられる。
大学等について、新規採用研究者における女性割合を配属された部署での研究内容(10)分野別に示した(図表2-1-17(B))。2023年度の「自然科学系」の新規採用研究者における女性割合は34.6%である。分野別の詳細を見ると、「保健」における女性割合は大きく40.0%である。最も小さいのは「工学」の21.0%であるが、2016年度と比較すると6ポイントの増であり、他の分野と比較して最も増加している。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-17
新規採用研究者のうちの博士号保持者(以下、新規採用博士号保持者と呼ぶ)について、産業分類別に見る(図表2-1-18)。
2023年度の新規採用博士号保持者数は、製造業では726人(新規採用研究者に占める割合は3.5%)、非製造業では440人(同8.0%)である。非製造業については、前年度と比較すると約2倍に伸びた。
産業分類別に見ると、製造業における新規採用博士号保持者数は「医薬品製造業」で最も多く、2023年度では213人(同14.5%)である。次いで「化学工業」が多く、同年度で154人(同7.6%)である。両部門共に、採用数の年度による変動が大きい。「情報通信機械器具製造業」は2022年度に新規採用博士号保持者数が著しく減少した。割合では同程度の規模を保っていたが、2023年度では数、割合共に減少した。研究開発費、研究者数共に規模の大きい「輸送用機械器具製造業」は、他の産業と比較すると新規採用博士号保持者の数、割合共に少ない。また、「石油製品・石炭製品製造業」については絶対数は少ないが、新規採用者に占める博士号保持者の割合は大きい。2018年度をピークに減少していたが、2023年度では再び増加した。
非製造業に注目すると、2023年度の新規採用博士号保持者数は「学術研究,専門・技術サービス業」が最も多く341人(新規採用研究者に占める割合は16.8%)、対前年度比は152.6%と大きく伸びた。なお、「学術研究,専門・技術サービス業」は「学術・開発研究機関」、「専門サービス業(他に分類されないもの)」、「技術サービス業(他に分類されないもの)」の3つに分類することができ、うち最も多くかつ数が増加したのは「技術サービス業(他に分類されないもの)」である(2023年度:254人)。
「情報サービス業」の新規採用博士号保持者の数及び割合は、2021年度をピークに減少しており、2023年度での割合は0.9%である。
企業の新規採用研究者において、博士号保持者を採用する傾向は産業により異なり、製造業の中でも差異があることが分かる。また、博士号保持者の採用は全産業で見ると、2020年度に一旦落ち込んだ後、2023年度には過去最大となっているが、個々の産業を見ると、回復・増加している産業もあれば、引き続き低下している産業もある。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-18
(7)いわゆる新卒者。最終学歴修了後、アルバイトやパートタイムの勤務、大学や研究機関の臨時職員としての雇用などの経験のみの者が採用された場合も含む。なお、任期付研究員については9か月以上の任期があれば新規採用者となる。
(8)外部から加わった者(新規研究者を除く)。
(9)転出者には退職者も含まれる。
(10)新規採用者が配属された部署の研究内容である(研究内容による分類が困難な場合には新規採用者の最終学歴を参考に判断している)。
