概 要

 「科学技術指標」は、我が国の科学技術活動の状況を、客観的・定量的データに基づき体系的に把握するための基礎資料である。科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育と科学技術人材」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の5つのカテゴリーに分類し、約160の指標により日本及び主要国の状況を明らかにしている(概要図表1参照)。
 指標の作成にあたっては、日本をはじめとする各国やOECD(経済協力開発機構)などの国際機関の最新データを参照することで、日本及び主要国の最新動向を把握できるようにしている。また、国際比較や時系列比較に際して注意すべき点については、注意喚起のマークを付して明示している。
 指標は適時見直しを行っており、科学技術・イノベーション政策の動向を踏まえた指標の掲載に努めている。あわせて、コラムでは、社会情勢を踏まえたタイムリーな分析や、報告書本体に定常的に掲載する前段階の試行的な指標を取り上げている。「科学技術指標2025」では、物価高騰を踏まえた研究消耗品における価格上昇の分析や、日米中の関係に着目したハイテクノロジー産業貿易の分析を掲載している。
 本概要では、「科学技術指標2025」における注目すべき指標を紹介する。ただし、ここで取り上げている指標はあくまで一部にすぎない。科学技術・イノベーションは、多様なアクターが関与する複雑な活動である。特定の指標だけでなく、指標全体を俯瞰的・総合的に捉えることによって、我が国の科学技術・イノベーションの現状を把握することが重要である。

 

【概要図表 1】 科学技術指標2025の外観

注()内の数値は各項にある指標数である。

1.主要な指標における日本の動向

 主要な指標における日本の動向を以下に示す。「科学技術指標2025」では2つの指標を追加した。新たな知を創造し、社会にイノベーションをもたらす上で博士人材は重要な役割を果たす。そこで、高度人材の育成状況を、国際比較可能な形で把握するために、「人口100万人当たり博士号取得者数」を追加した。また、人工知能、量子コンピュータ、ゲノム編集といった大きな技術トレンドの変化が生じる中、科学知識を技術に展開する力が重要となる。このような背景を踏まえ、科学(論文)と技術(特許)のつながりの指標として「技術(特許)における科学知識(論文)の活用度」を新たに追加した。
日本の動向を見るといずれの指標でも「科学技術指標2024」と同じ順位である。新たに加えた「人口100万人当たり博士号取得者数」では主要国と比較すると6位であり、「技術(特許)における科学知識(論文)の活用度」では7位である。

【概要図表 2】 主要な指標における日本の動向

注:
※:研究開発費とは、ある機関で研究開発業務を行う際に使用した経費であり、科学技術予算とは異なる。予算については本編参照。
1) 日本の順位の変化は、昨年との比較である。数値は最新年の値である。
2) 論文数、Top1%・Top10%補正論文数、特許数以外は、日本、米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国の主要国における順位である。
3) 「技術(特許)における科学知識(論文)の活用度」とは、各国のパテントファミリー(2013-2020年(合計値))のうち、論文を引用しているパテントファミリーの割合である。

 

2.研究開発費から見る日本と主要国の状況

(1) 日本の企業部門や大学部門の研究開発費の伸びは他の主要国と比べて小さい。

 企業及び大学部門の研究開発費は、米国が主要国中1番の規模である。両部門ともに2010年代半ば以降、伸びが大きくなっている。中国については企業部門では2000年代から、大学部門では2010年代半ばから急速に増加している。日本の企業部門の伸びは緩やかであるが、2021年から2023年にかけて1.9兆円増加した。この間において、政府負担の増加額は1,564億円であり、企業部門の研究開発費の増加における政府負担の寄与は8%である。研究開発費の増加には政府部門も一定の寄与をしている。大学部門では、日本は2000年代に入ってから、ほぼ横ばいに推移していたが、2021年から微増している。


【概要図表 3】 企業部門と大学部門の研究開発費名目額(OECD購買力平価換算)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 日本と比較して、米国の企業は研究開発に注力している。特に非製造業において差が大きい。

 売上高に占める研究開発費の割合を日本と米国で比較すると、過去15年程度の間、日本は製造業、非製造業ともに横ばいである。それに対して、米国では製造業、非製造業ともに、その値を増加させており、特に非製造業において増加が大きい。


【概要図表 4】 企業の売上高に占める研究開発費の割合
(A)日本

 

(B)米国

 

 

注:
1) 研究開発を実施している企業を対象としている。
2) 米国の産業分類は、北米産業分類システム(NAICS:North American Industry Classification System)による。2008年は2002NAICS、2009~2013年は2007NAICS、2014~2019年は2012NAICS、2020年からは2017NAICSを使用している。2016年まで国内従業員数が5人未満の企業は含まれない。2017年~最新年まで国内従業員数が10人未満の企業は含まれない。

参照:科学技術指標2025コラム図表1-2


(3) 研究用消耗品の単価は2010年基準で見ても大きく増加している。

 2010年を基準とした、研究用消耗品の単価(1Kg当たりの価格)を見ると、4つの研究用消耗品の中で、ヘリウムと診断用・研究用試薬類については、2010年代後半に入ってからの単価の上昇が大きい。2010年と2024年の単価を比較すると、ヘリウムは7.2倍、診断用・研究用試薬類は4.6倍となっている。 診断用・研究用試薬類の国・地域別の輸入額を見ると、全世界の輸入額総計において米国が44%と最も多くを占める。中国の占める割合は8%であるが、単価が8千円/Kgと他国・地域と比べて小さいため、輸入量はほぼ同じである。


【概要図表 5】 研究用消耗品の単価の時系列変化
(2010年基準、1Kg当たり)

注:2010年の価格を基準(100)とした変化。

参照:科学技術指標2025コラム図表2-2

【概要図表 6】 研究用消耗品(診断用・研究用試薬類)の
上位5の輸入国・地域別の輸入額・輸入量・単価(2024年の値)

参照:科学技術指標2025コラム図表2-3