2.2.2企業部門の研究者

(1)各国企業部門の研究者

 企業部門の研究者については、各国ともに研究開発統計調査により研究者数を計測している。そのため、他部門と比較して国際比較可能性が高いデータと考えられる。しかし、経済活動の高度化に伴う産業構造変化に合わせ、各国とも調査方法や対象範囲を変化させており、また各国の標準産業分類の改定も影響するため経年変化にゆらぎが見られるデータでもある。
 図表2-2-4を見ると、日本の企業部門の研究者数(FTE値)は2000年代後半からほぼ横ばいに推移していたが、2017年以降は微増している。2023年は53.1万人、対前年比は0.3%増である。
 中国は2000年代に入り急速な伸びを示していたが、2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って研究者数を測定し始めたため、2009年値は、前年と比べて大幅に低い数値となっている。その後は継続 して増加し、2021年では139.2万人、対前年比は4.3%増である。
 米国は、2008年から企業に対して詳細な調査を実施し始めた。そのため2007年以前のデータは掲載していない。2021年の研究者は133.3万人、対前年比は9.0%増であり、継続して増加している。
 韓国は長期的に増加傾向にあり、2000年代後半にドイツを上回り、2022年では40.4万人である。
 ドイツについては、長期的に見ると増加傾向にある。2014~2015年にかけて大幅に増加した後も増加傾向にあり、2022年では29.8万人となった。
 フランスや英国については、公的機関が民営化され、企業部門へ移行している機関があり、その分増加している。
 フランスは継続して増加傾向にある。2022年では21.3万人である。英国については、先に述べたように(2.1.2項参照)、英国国家統計院の研究開発統計において、企業部門のサンプリング方法が変更された。これに伴い2015~2017年までの企業の研究者数の改訂が行われたが、OECDのMSTIの最新データでは2022年の値が報告された。2022年(26.2万人)と2017年(11.4万人)を比べると、研究者数が2倍以上となっているが、これは計測対象の拡大による変化と考えられる。なお、2018~2021年の数値がOECDのMSTIに掲載されていない期間については、図表中に点線で示した。


【図表2-2-4】 主要国における企業部門の研究者数の推移 

注:
1) FTE値である。
2) 日本の研究者は3種類のデータがある。日本*はFTEかHCについて明確な定義がされていない値、日本(FTE)はFTE研究者、日本(HC)はHC研究者。2001年以前は該当年の4月1日、2002年以降は該当年の3月31日時点の数を示している。
3) ドイツは1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。 1992、1996、1998、2000、2002、2008、2010、2012、2014、2016、2018年は見積り値。
4) フランスは1992、1997、2001、2006年において時系列の連続性は失われている。2022年は暫定値。
5) 英国は1986、1992、1993、2001、2022年において時系列の連続性は失われている。2018~2021年は出典となる資料にデータが掲載されていない。
6) 中国は2008年までの研究者の定義は、OECDの定義と異なる。2000、2009年において時系列の連続性は失われている。
7) 韓国は2006年までは自然科学のみの数値。
8) EU-27は見積り値である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU-27:OECD,"Main Science and Technology Indicators March 2024"

参照:表2-2-4


(2)主要国における産業分類別の研究者

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者について、各国最新年からの3年平均で見ると(図表2-2-5)、日本、ドイツ、中国、韓国は製造業の割合が約8割である。他方、米国は約5割、フランスに関しては、製造業の割合が半分以下であり、非製造業の重みが他国と比較すると大きい。2011年~2013年の3年平均と各国最新年の3年平均で比較すると、ほとんどの国で非製造業の割合が大きくなっている。最も変化があったのは米国であり、11.8ポイント増加している。


【図表2-2-5】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者数の割合 

注:
1) 各国企業部門の定義は図表1-1-4を参照のこと。
2) 米国の産業分類は、北米産業分類(NAICS)を使用。米国の企業部門では、NAICSにおける「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
3) 日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。日本は該当年の3月31日時点の研究者数を測定している。
4) ドイツ、フランス、中国は研究開発を行う企業の主な経済活動(Main economic activity)に応じて分類している。
5) フランスの後半については2年平均の値である。
6) 英国については企業の計測の範囲の見直しが行われた。これに伴いOECD, MSTIでは研究者数や研究開発費のデータが更新されているが、本図表の出典としているOECD, “R&D Statistics”では、過去のデータが掲載されている状態のため、今般の科学技術指標2023では掲載を見合わせた。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国:NSF, 2018年まで“Business Research and Development and Innovation”、2019年は“Business Enterprise Research and Develop-ment”
その他の国:OECD, “R&D Statistics”

参照:表2-2-5


 図表2-2-6では、更に詳細な産業分類で研究者の状況を見る。なお、米国と他国では産業分類と扱う項目が異なるので留意されたい。また、中国については非製造業の内訳がないため、全体の数を示した。米国では製造業、非製造業ともに2010年から拡大していたが、製造業については、2015年からほぼ横ばいに推移している一方で、非製造業は継続して増加している。製造業では「コンピュータ、電子製品工業」が、非製造業では「情報通信業」が多くを占めている。「情報通信業」は2010年から2.3倍に増加した。
 日本では、製造業、非製造業ともに、全体では大きな変化は見えなかったが、近年の製造業は増加し、非製造業の最新年は減少している。製造業の内訳を見ると、「コンピュータ、電子・光学製品製造業」は減少傾向にあったが、近年はほぼ横ばいに推移している。「輸送用機器製造業」は長期的に見ると増加傾向にある。非製造業では、「情報通信業」が最も多く、これに「専門・科学・技術サービス業」が続く。いずれも長期的に見るとほぼ横ばいに推移していたが、2020年はそれぞれ前年から20%を超える減少を見せている。
 ドイツは、「輸送用機器製造業」が継続して最も大きく、増加し続けている。次いで多いのは「コンピュータ、電子・光学製品製造業」である。非製造業では「専門・科学・技術サービス業」が最も多い。
 フランスは、製造業よりも非製造業の研究者数が多い。「専門・科学・技術サービス業」が最も多く、これに「情報通信業」が続き、いずれも増加している。製造業では「輸送用機器製造業」が最も多く、増加もしている。
 韓国では、製造業、非製造業ともに増加している。製造業では「コンピュータ、電子・光学製品製造業」が最も多く、これに「輸送用機器製造業」が続く。両産業ともに長期的に増加傾向にある。非製造業では、「情報通信業」が最も多く、増加もしている。
 中国の製造業全体での研究者数は、主要国中最も多い。内訳を見ると「コンピュータ、電子・光学製品製造業」が最も多く、これに「輸送用機器製造業」が続く。また、「その他の製造業」の割合も他国と比べて大きい。非製造業については内訳のデータがないが、全体で見ると増加している。

 

【図表2-2-6】 主要国における企業部門の産業分類別研究者数の推移 

注:
1)米国の産業分類は北米産業分類(NAICS)を使用。その他の国は、国際標準産業分類第4次改定版(ISIC Rev.4)に準拠しているため、各国の産業分類とは異なる。
2)米国を除いた各国とも研究開発を行う企業の主な経済活動(Main economic activity)に応じて分類している。
3)米国では、「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
4)日本は定義が異なる。フランスの2017年は暫定値。
資料:
米国:NSF, 2018年まで “Business Research and Development and Innovation” 、2019年以降は“ Business Enterprise Research and Development”
その他の国:OECD, “R&D Statistics”

参照:表2-2-6


(3)日本の産業分類別研究者

 日本は、どの業種の企業に研究者が多いのかを従業員に占める割合で見た(図表2-2-7)。なお、ここでは研究開発を実施していない企業の従業員数も含めた割合を示している。
 まず、非製造業(0.7%)よりも製造業(4.5%)において割合が高い。
 2023年で最も割合が高いのは、製造業の「情報通信機械器具製造業(12) 」であり、13.0%となっている。これに「医薬品製造業」、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」、「業務用機械器具製造業」が続く。
 非製造業では「学術研究、専門・技術サービス業(13) 」で3.4%と割合が高いが、製造業と比較すると低い傾向にある。


【図表2-2-7】 日本の産業分類別従業員に占める研究者の割合(2023年)


研究開発を実施していない企業も含んでいる。該当年の3月31日時点の研究者数を測定している。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-7


 日本の企業に所属する研究者はどのような専門的知識を持っているのだろうか。ここでは、産業分類別に、その業種に所属する研究者の専門分野を見る(図表2-2-8)。
 企業に所属する研究者は、「機械・船舶・航空」分野を専門とする者が最も多く、全体の25.0%を占めている。次いで「電気・通信」が23.1%であり、この2分野で全体の約半数を占めている。他方、最も少ない分野は「人文・社会科学」(1.6%)である。また、「情報科学」分野を専門とする研究者の割合は12.2%と2016年(7.7%(科学技術指標2017参照))と比較すると増加している。
 所属する企業の産業分類から見ると、最も多くを占める「輸送用機械器具製造業」では、「機械・船舶・航空」分野を専門とする研究者が多く、これに「電気・通信」分野が続き、二つの分野の研究者で約8割を占めている。
 「情報通信機械器具製造業」では、「電気・通信」分野を専門とする研究者が最も多く、約6割を占めている。多様な専門分野を持つ研究者が所属しているのは「業務用機械器具製造業」である。
 非製造業に注目すると、「情報通信業」では、「情報科学」分野を専門とする研究者が多くを占めている。なお、「情報科学」分野を専門とする研究者の約6割は「情報通信業」に所属しており、次いで多いのは「情報通信機械器具製造業」、「業務用機械器具製造業」である。
 「学術研究、専門・技術サービス業」では、「電気・通信」、「機械・船舶・航空」分野を専門とする研究者が約2割ずつを占めている。
 なお、「人文・社会科学」分野を専門とする研究者の所属先で最も多いのは「学術研究、専門・技術サービス業」であり、次いで「輸送用機械器具製造業」である。


【図表2-2-8】 日本の企業における研究者の専門分野(2023年)

注:
1) HC(実数)である。専門分野別の合計値と総数は四捨五入の関係上、一致しない。
2) 研究者の専門分野は、研究者の現在の研究(業務)内容により分類されている。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-8


(4)産業分類別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係:日米比較

 産業分類別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係を示す。横軸が研究人材集約度(HC研究者/従業員)、縦軸が高度研究人材活用度(博士号保持者/HC研究者)であり、円の面積が博士号保持者の数に対応している。
 日本の状況を見ると(図表2-2-9(A))、ここに示した産業分類のうち、高度研究人材活用度が高いのは「医薬品製造業」であり、17.0%となっている。次いで「化学工業」が8.0%となっている。
 究人材集約度が最も高いのは「電子部品・デバイス・電子回路製造業」であり、21.3%となっている。「情報通信業」については、研究人材集約度が8.6%、高度研究人材活用度が1.4%と、どちらも低い。
 米国の状況を見ると(図表2-2-9(B))、高度研究人材活用度が高い産業は、「医薬品工業」、「化学工業(医薬品工業を除く)」であり、それぞれ27.2%、25.0%を示している。なお、「医薬品工業」は研究人材集約度も高く、16.1%である。研究人材集約度が高い産業は、「コンピュータ、電子製品工業(19.6%)」、「情報通信業(15.0%)」、「専門、科学技術サービス業(13.5%)」である。このうち、「専門、科学技術サービス業」は高度研究人材活用度も11.1%と、比較的高い傾向にある。
 このように、日米ともに産業分類によって研究人材集約度と高度研究人材活用度の状況が異なる。米国の産業において、研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材活用度)が5%未満の産業は無いが、日本は多くの産業で5%未満となっており、米国と比べて高度研究人材の活用度が低い傾向にある。

 

【図表2-2-9】 産業分類別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係  
(A)日本(2023年)
(B)米国(2021年)


注:
1) 研究開発を実施している企業を対象としている。研究人材集約度とは、従業員に占めるHC研究者数の割合である。高度研究人材活用度とは、HC研究者に占める博士号保持者の割合である。オレンジは製造業、黄色は非製造業を示す。
2) 日本は該当年の3月31日時点の研究者数を測定している。
3) 日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。米国の産業分類は、北米産業分類(NAICS)を使用。分類が異なるため、国際比較する際には注意が必要である。米国の「金融業、保険業」は個別企業の情報を秘匿する目的で推定値の範囲が示されていたため掲載していない。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国:NSF, "Business Enterprise Research and Development: 2021"

参照:表2-2-9


(5)企業における女性研究者:日独比較

 ここでは企業における女性研究者の日独比較を行う。先に見たように、企業における研究者全体の産業分類別でのバランスを見た場合(図表2-2-6)、日本とドイツは、製造業では「コンピュータ、電子・光学製品製造業」や「輸送用機器製造業」が多く、非製造業では、「情報通信業」や「専門・科学・技術サービス業」が多いという傾向にある。また、最新年の製造業と非製造業のバランスは、日本、ドイツともに8対2である。企業における女性研究者の割合は、日本では12.2%、ドイツでは15.6%である。このように比較的共通点の多い日本とドイツであるが、図表2-2-6で示した産業分類別の研究者数は、ほぼ男性の状況を表していると考えられる。女性研究者を産業分類別で見た場合、傾向に違いはあるのだろうか。
 日本の企業における女性研究者数を見ると(図表2-2-10(A))、2023年の製造業では5.4万人、非製造業では2.2万人であり、7対3のバランスである。ともに継続して増加しているが、製造業は2010年代後半から大きく伸びており、非製造業は2022、2023年と続けて大きく伸びた。2023年の内訳を見ると、製造業では「化学工業」が最も多く、次いで「食品製造業」が多い。また、非製造業では「情報通信業」が最も多く2023年と2022年を比較すると2倍に伸びた。
 ドイツを見ると(図表2-2-10(B))、2021年の製造業では3.3万人、非製造業は1.6万人であり、7対3のバランスである。2021年の内訳を見ると、製造業では「自動車および自動車部品製造業」が最も多く、次いで「医薬品、医薬部外品の製造業」が多い。非製造業では「専門的、科学的、技術的サービス業」が多く、非製造業全体の約7割を占めている。
 女性研究者の割合が高い産業分類は、日本は「食品製造業」、「医薬品製造業」、「化学工業」、「情報通信業」であり、ドイツは「食品、飲料、タバコの製造業」、「医薬品、医薬部外品の製造業」、「化学品および化学製品の製造業」、「専門的、科学的、技術的サービス業」である。

 

【図表2-2-10】 企業における産業分類別女性研究者の日独比較
(A)日本
(B)ドイツ


注:
1) HC(実数)研究者である。日本は該当年の3月31日時点の研究者数を測定している。
2) 日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。ドイツの産業分類はKlassifikation der Wirtschaftszweige, Ausgabe 2008 (WZ 2008)を使用。分類が異なるため、国際比較する際には注意が必要である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
ドイツ:BMBF, "Stifterverband Wissenschaftsstatistik, Destatis"

参照:表2-2-10



(12)通信機械器具、映像音響機械器具、電子計算機の製造業等が含まれる。
(13)学術・開発機関等が含まれる。