ポイント
- 大学部門の研究開発費を見ると、2022年の日本(OECD推計)は2.2兆円である。各国の状況を見ると、米国は主要国の中で1番の規模を維持しており、2022年では8.7兆円となっている。中国は2012年に日本(OECD推計)を上回り、2021年では5.2兆円となっている。ドイツは2000年代後半から増加している。2016年に日本(OECD推計)を上回り、2022年では3.0兆円となっている。
- 2000年を1とした場合の各国通貨による大学部門の研究開発費の指数(名目額、最新値)を見ると、日本(OECD推計)は1.0であり、伸びていないことがわかる。米国は3.1、ドイツは2.6、フランスは2.0である。また、中国は28.4、韓国は6.6と著しい伸びを示している。実質額での最新値を見ると、日本以外の国では名目額より実質額の方が低い数値となっている。日本(OECD推計)は1.1である。他国を見ると、米国は1.9、ドイツは1.8、フランスは1.5である。中国、韓国も名目額よりは低くなってはいるが、それぞれ14.2、4.3と他国と比較すると大きな伸びを示している。
- 日本の大学等の研究開発費を学問分野別で見ると、2000年代に入って、保健は大きく増加しているが、他の分野は横ばい又は微増で推移している。
- 日本の国立大学の研究開発費を負担源別の内訳で見ると、「自己資金」が最も多く、2022年度では1.1兆円、全体の69.9%を占める。次いで「政府」が3,302億円、「会社等」は865億円である。「自己資金」は長期的に漸減、「政府」については2013年度を境に減少していたが、2021年度では2つともに増加した。2022年度では前年と比べて「自己資金」は微減、「政府」は微増している。
(1)各国大学部門の研究開発費
大学をはじめとする高等教育機関は、研究開発機関としての機能も持ち、各国の研究開発システムのなかで重要な役割を果たしている。1.1.2項で示したように、主要国では国全体の研究開発費の1~2割程度を使用している。高等教育機関の範囲は国によって異なるが、各国とも大学が主たるものである。また、どのレベルの機関まで調査をしているかも国によって差が出る。
どの機関を対象としているかを簡単に示すと、日本は大学の学部(大学院も含む)に加えて、短期大学、高等専門学校、大学附置研究所及びその他の機関が含まれる(21)。米国に関してはUniversities & Colleges (年間15万ドル以上の研究開発をしている機関、FFRDCsは除く)、主に学位授与プログラムを実施している研究機関又は大学と学位プログラムを共有している機関が含まれる。ドイツはUniversities & Colleges、中等後教育機関、大学病院を含んでいる。フランスは国立科学研究センター(CNRS)、高等教育・研究・イノベーション省(MESRI)所管の大学及び高等教育研究機関、大学病院(CHU)等である。英国は、全大学とイングランドの高等教育カレッジ及び高等教育機関を通じて資金提供されている関連組織を含む。韓国は大学のすべての学科(分校及び地方キャンパスを含む)、附属研究機関、大学附属病院(医科大学と会計が統合している場合のみ)である。
大部分の国々では研究開発統計の調査範囲は全分野となっているが、米国についてはS&E(22)の分野であり、韓国は2006年まで自然科学分野のみを対象としていた(図表1-1-4参照)。
大学部門の研究開発費を算出するには、教育活動と研究開発活動を区別して、経費を集計する必要があるが、一般的にそれは困難である。
日本の大学の研究開発費は、総務省の研究開発統計「科学技術研究調査」による。この調査では研究開発費の内数として人件費についても集計しているが、この人件費は「研究以外の業務(教育など)」を含む総額データとなっている。これに加えて、ほぼすべての教員は研究者として計測されている。しかしながら、教員全員が研究のみに従事していることはあり得ない。このため全教員の人件費が研究開発費に計上されている状態は、研究開発費としては過剰計上となっていると考えるのが自然であろう。
こうした状況はOECDも認識しているため、OECD統計が公表する日本の研究開発費は1996年以降人件費に対して、1996~2001年は0.53を乗じた値、2002年以降は0.465を乗じた値となっている。なお、2002年以降の補正係数である0.465は2002年に文部科学省が実施した「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査(FTE調査)」から得られた研究専従換算係数(FTE係数)である。このFTE調査は2008年、2013年及び2018年に実施され、OECD統計による日本の大学部門の研究開発費はFTE係数で人件費分を補正した研究開発費となっている(2008~2012年の間のFTE係数:0.365、2013年~2017年の以降のFTE係数:0.351、2018年以降のFTE係数:0.329)(23)。
以下においては、日本の大学部門の研究開発費として、OECDが提供している値(「日本(OECD推計)」と明記)と総務省「科学技術研究調査報告」で提供している値(「日本」と明記)を掲載することとする。
図表1-3-13(A)は大学部門の研究開発費を名目額で示している。2022年(24)の日本(OECD推計)の大学の研究開発費は、2.2兆円である(日本の値は3.8兆円である)。日本(OECD推計)の値は2014年以降、減少傾向にあったが直近の2年では増加した。対前年比は2.3%増である。
米国は主要国の中で1番の規模を維持している。長期的に増加しており、2022年は8.7兆円、対前年比は2.5%増である。
中国の研究開発費は着実に増加している。2012年に日本(OECD推計)を上回り、2021年では5.2兆円となっている。なお、中国の研究開発費について、科学技術指標2023では、OECDが中国の2019年、2020年、2021年に関する研究開発指標のデータ公表を控えた事を受けて2018年までのデータを掲載していた。本報告書で参照しているOECDのMSTIに2019~2021年のデータが掲載されたので、科学技術指標2024では2021年までのデータを示している。
ドイツは2000年代後半から増加している。2016年に日本(OECD推計)を上回り、2022年では3.0兆円となっている。対前年比は3.6%増である。
英国の大学部門については、高等教育機関の支出額に関するより包括的な管理データの採用(25)のが反映されたことにより(1.1.1項参照)、かなり上方に改訂されている(2018年から2021年まで掲載)。このため英国の研究開発費については、科学技術指標2022以前の数値とは異なることに留意されたい(例えば2019年の値(ポンドベース)を比較すると約5割の増加が見られている)。英国の2021年は2.3兆円であり、対前年比は6.7%増である。
フランスは、長期的に見ると増加傾向にあり、2022年では1.7兆円である。対前年比は1.9%増である。
韓国は着実な増加を見せており、2022年では1.2兆円、対前年比は8.5%増である。
次に、2000年を1とした場合の各国通貨による大学部門の研究開発費の名目額と実質額の指数を示した(図表1-3-13(B))。
名目額での最新年を見ると、日本(OECD推計)は1.0であり、伸びていないことがわかる。米国は3.1、ドイツは2.6、フランスは2.0である。また、中国は28.4、韓国は6.6と著しい伸びを示している。
実質額での最新値を見ると、日本以外の国では名目額より実質額の方が低い数値となっている。日本(OECD推計)は1.1である。他国を見ると、米国は1.9、ドイツは1.8、フランスは1.5である。中国、韓国も名目額よりは低くなってはいるが、それぞれ14.2、4.3と他国と比較すると大きな伸びを示している。
(A)名目額(OECD購買力平価換算)



注:
1) 大学部門の定義は国によって違いがあるため国際比較の際には注意が必要である。各国の大学部門の定義については図表1-1-4参照のこと。
2) 研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
3) 購買力平価は、参考統計Eと同じ。
4) 実質額の計算はGDPデフレータによる(参考統計Dを使用)。
5) 日本は年度の値を示している。
6) 日本(OECD推計)は1995年まで見積り値である。1996、2008、2013、2018年において時系列の連続性は失われている。
7) 米国は定義が異なる。1998、2003年において時系列の連続性は失われている。2022年は暫定値。
8) ドイツは1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。1982、1984、1986、1988、1990、1992年は見積り値である。1993年は定義が異なる。2016年において時系列の連続性は失われている。2022年は暫定値である。
9) フランスは1997、2000、2004、2014年において時系列の連続性は失われている。2022年は暫定値である。
10) EU-27は見積り値である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
その他の国:OECD,“Main Science and Technology Indicators March 2024”
参照:表1-3-13
(2)主要国における大学部門の政府と企業による負担研究開発費
政府による負担研究開発費の割合の推移を見ると(図表1-3-14(A))、2000年時点では、フランスやドイツは約90%であったが、近年は約80%となっている。韓国は漸増し、2014年にフランス、ドイツと同程度となった。その後は約8割で推移している。各国最新年のドイツは82.8%、韓国は79.7%、フランスは77.6%である。米国は、政府負担割合が2010年頃から漸減しており、57.4%である。中国は漸増傾向にあったが、2018年をピークに減少傾向にあり、57.3%である。日本と日本(OECD推計)は、ほぼ横ばいに推移しており、それぞれの最新年は47.6%と52.2%である。英国は40.3%であり、主要国中最も低い。
企業による負担研究開発費の割合を見ると(図表1-3-14(B))、最新年では中国(32.6%)が最も高い。2004年以降減少傾向が続いていたが、2020年に大きく増加した。次に韓国、ドイツが同程度で推移している。最新年は、それぞれ13.9%、13.1%である。英国の最新年は9.3%である。米国、日本(OECD推計)、日本、フランスについてもほぼ横ばいに推移している。3か国の最新年を見ると、米国は5.2%、日本(OECD推計)は3.5%、日本は3.2%、フランスは3.1%である。
なお、英国は「企業」と「大学」の研究開発費使用額が上方に改訂され(1.1.1項参照)、それに伴い、負担額についても変更されている。よって、英国の値は科学技術指標2022以前の数値とは異なることに留意されたい。具体的には政府の負担割合が減少する一方で、企業の負担割合が増加している。



注:
1) 国際比較等の注意は図表1-2-3、図表1-2-4と同じ。
2) 日本は年度の値を示している。
3) 日本(OECD推計)は、2008、2013、2018年において時系列の連続性が失われている。政府負担は見積り値。
4) 米国は定義が異なる。2003年において時系列の連続性が失われている。2022年は暫定値。
5) ドイツは定義が異なる。2016年において時系列の連続性が失われている。
6) フランスの2000、2004年において時系列の連続性が失われている。
7) 韓国の2006年までは自然科学のみの数値である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
その他の国:OECD,"Gross domestic expenditure on R&D by sector of performance and source of funds"
参照:表1-3-14
(3)日本の大学部門の研究開発費
日本の大学における研究開発費は前述のとおり、人件費に研究以外の活動分も含まれているという点に注意しなければならないが、この項では、「科学技術研究調査報告」で公表されている大学等の研究開発費のデータを用いて国公私立大学別の研究開発費使用額を見る(図表1-3-15)。
2022年度の日本の大学全体の研究開発費(3.8兆円)を国公私立大学別で見ると、国立1.5兆円、公立0.2兆円、私立2.1兆円であり、私立大学の研究開発費が全体の半数以上を占めている。
推移を見ると国公私立大学ともに、1990年代中頃まで続いた研究開発費の伸びは鈍化しているが、私立大学については漸増傾向が続いている。また、公立大学は2010年代に入って増加している。
自然科学分野における研究開発費は2022年度において全体で2.6兆円、うち国立1.3兆円、公立0.2兆円、私立1.1兆円となり、国立大学が半数以上を占める。国公私立大学ともに、1990年代中頃まで研究開発費の伸びは続いた。その後、国立大学の伸びは鈍化し、約1.2兆円で推移していたが、近年増加している。私立大学については増加傾向が続いている。また、公立大学は2010年代に入って増加傾向にある。
人文・社会科学及びその他分野における研究開発費は、2022年度において全体で1.2兆円である。うち国立0.3兆円、公立0.1兆円、私立0.9兆円となり、私立大学が大多数を占める。推移を見ると、国立、公立大学ともに、1990年代中頃まで続いた研究開発費の伸びは鈍化し、その後はほぼ横ばいに推移している。私立大学は2000年代中頃以降、ほぼ横ばいに推移している。



資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表1-3-15
大学等の研究開発費に関して学問分野別の推移を見る。ここでの学問分野とは、学部・研究施設内で行われている研究の内容を指す。組織の中で研究分野が複数にわたる場合は最も中心であると判断された研究の学問分野を示している。
図表1-3-16を見ると、1990年代後半までは、ほとんどの分野で研究開発費は増加傾向にあった。大きく増加したのは、保健、人文・社会科学、工学である。2000年代に入っても、増加し続けているのは保健であり、2022年度では1.3兆円を示した。他の分野は、横ばい又は微増で推移している。

注:
学問分野の区分は、学部等の組織の種類による区分である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表1-3-16
大学のポテンシャルを活用しようとする取り組みは、世界の各国で進められている。大学は、イノベーションの源泉である知識の創造という点で、他に代替しえない組織である一方で、大学で産み出された知識を他に移転することは容易でない。このような認識を背景に、産学連携を強力に推進する機運が高まっている。
産学連携の状況を示す指標のひとつとして、大学が企業から受け入れた研究開発費をとりあげる(図表1-3-17)。大学等が企業から受け入れた研究開発費の推移を見ると、2009年度に一旦減少したが、長期的には増加傾向が続いていた。2019年度以降は横ばいに推移していたが、2022年度は大きく増加し1,180億円となった。対前年度比は10.2%である。
国・公・私立大学の区分別に見ると、企業部門から受け入れた研究開発費は国立大学の金額が最も多く、2022年度で834億円である。公立大学は65億円、私立大学は280億円である。国公私立大学ともに2009年度に一旦減少した後は増加傾向にある。特に国立大学は対前年度比13.1%と大きく増加した。

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表1-3-17
(4)日本の大学部門の費目別研究開発費
大学等の研究開発費に関して費目別の内訳を見ると「人件費」が多い。2022年度の「人件費」は2.5兆円で、全体の63.9%を占めている(図表1-3-18)。「その他の経費」は2番目に大きな費目となっている。この「その他の経費」は研究のために使用された図書費、光熱水道費、消耗品費等が含まれている。2022年度で0.8兆円、対前年度比は10.6%増であり、大きく増加した。
国立・私立大学別でみると、2022年度の国立大学の「人件費」は0.9兆円である。2000年代に入ってからはほぼ横ばいに推移していたが、2014年度から微増傾向にある。割合は全体の55.6%である。「その他の経費」は2番目に大きな費目であり最新年では0.4兆円である。対前年度比8.2%増である。次に多くを占めている「有形固定資産購入費」は、年によって増減のバラつきが激しい。
私立大学でも「人件費」が多く、2022年度では、1.4兆円であり、増加傾向にある。割合は全体の68.5%である。2番目に大きな費目は「その他の経費」の0.4兆円であり、2022年度の対前年度比は12.9%と大きく増加した。なお、私立大学では、国立大学ほど「有形固定資産購入費」の増減のバラつきが見えない。



注:
1) 2001年度より、新たに「リース料」が調査項目に加わった。
2) 2013年度より、新たに調査項目に加わった「無形固定資産購入費」は「その他の経費」に含めている。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表1-3-18
(5)日本の大学部門の負担源別研究開発費
大学等の研究開発費に関して負担源別の内訳を見ると(図表1-3-19(A))、「自己資金」が最も多く、2022年度においては3.1兆円、全体の81.5%を占める。その他の負担源による研究開発費は少なく、「政府」が5,267億円、「会社等」が1,215億円となっている。対前年度比は「自己資金」が1.0%増、「政府」が2.5%増、「会社等」は10.6%増である。
次に国立大学を見ると(図表1-3-19(B))、「自己資金」が最も多く、2022年度では1.1兆円、全体の69.9%を占める。国立大学の場合、国立大学法人等の運営費交付金等が、ここに含まれている。次いで「政府」が3,302億円、「会社等」は865億円である。「自己資金」は長期的に漸減、「政府」については2013年度を境に減少していたが、2021年度では二つともに増加した。2022年度では前年と比べて「自己資金」は微減、「政府」は微増している。
私立大学は(図表1-3-19(C))、「自己資金」が89.5%を占めている。「自己資金」は長期的に増加傾向にあり、2022年度では1.8兆円である。「政府」からの研究開発費は1,747億円、「会社等」では284億円と「自己資金」と比較すると極めて少ない。なお、私立大学の「自己資金」には学生生徒等納付金収入等(授業料や入学金等)が含まれている。



注:
「自己資金」とは、研究開発費総額から外部から受け入れた研究開発費を除いた額である。なお、国立大学が国から受け入れた運営費交付金及び施設整備費補助金は「自己資金」として扱っている。また、私立学校振興助成法に基づく経常費補助金は、その使途が限定されていないが、補助金のうち研究関係業務に使用されたとみなされた額を「外部受入研究開発費」としている。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表1-3-19
(21)日本の大学部門の統計資料として本章で用いる総務省統計局「科学技術研究調査報告」においては、大学は学部(大学院の場合は研究科)ごとに調査されている。なお、「その他の機関」とは、大学共同利用機関法人、独立行政法人国立高等専門学校機構など学校以外の組織、国立大学の学内共同教育
(22)S&EとはScience and Engineering: Computer sciences,Environmental sciences, Life sciences, Mathematical sciences, Physical sciences, Psychology, Social sciences, Engineeringであり、EducationやHumanities等は含まれていない。
(23) FTE調査結果については第2章の図表2-1-2参照されたい。
(24)この項の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している項では「年度」を用いている。
(25)「大学」部門の推計は、Office for Studentsが提供するTransparent Approach to Costing(TRAC)システムを使用。