5.2主要国の産業貿易の構造と付加価値

ポイント

  • 主要国の貿易額(輸出額)における製品とサービスのバランスに注目すると、各国最新年において、韓国(14.7%)、日本(17.7%)、ドイツ(19.6%)はサービスの割合が小さく、英国(49.2%)、米国(31.4%)、フランス(30.7%)ではサービスの割合が大きい。
  • 主要国の産業貿易の構造を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業が最も多くを占める国が多い。各国最新年においてミディアムハイテクノロジー産業の割合が大きな国は日本(55.7%)、次いでドイツ(48.1%)である。中国ではミディアムハイテクノロジー産業の割合が30.2%、ハイテクノロジー産業が29.6%と同程度になっている。
  • ハイテクノロジー産業貿易収支比を見ると、日本は長期的に貿易収支を減少させている。2011年以降1を下回り、入超となった。最新年の日本の収支比は0.72である。各国最新年を見ると、韓国は主要国中、最も収支比が高く、1.54、これに、中国1.24、ドイツ1.13が続いている。最も低いのは米国であり、0.57である。
  • 最新年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.58であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。米国、ドイツ、フランス、英国の貿易収支比が大きく変化しない中、貿易収支比を増加させているのは韓国、中国である。ただし、韓国は2014年以降、微減に推移している。最新年の収支比は中国は1.76、韓国は1.56である。
  • 全産業の総付加価値に対する「情報」産業付加価値の割合を見ると、各国最新年では、韓国(13.1%)が最も大きく、米国(8.6%)、英国(6.9%)、日本(6.4%)と続く。
  • 「情報」産業の付加価値の内訳を見ると、日本は「コンピュータ、電子および光学製品」が減少し、「ITおよびその他の情報サービス」が増加している。これに対して、韓国では「コンピュータ、電子および光学製品」が最も多く、拡大し続けている。

5.2.1主要国の貿易

 貿易の主たるものは製品であるが、目に見える製品の輸出入以外にも、サービスの貿易が様々な形態によって行われており、各国の国内においてもサービス分野の比重は高まっていると考えられる。ここでは主要国の貿易について、製品とサービスに分類した輸出入額の推移を見る(図表5-2-1)。
 輸出入額全体の推移を見ると、ほとんどの国でも増加傾向にあり、2009年に一旦落ち込んだ後、増加に転じている。また、中国の輸出を除いて、2020年に貿易額が減少した後、増加に転じている。国によって程度の差はあるが、製品の方がサービスより貿易額が多い。
 各国別に状況を見ると、日本の輸出額については、長期的には増加傾向にある。サービスの輸出額の全体に占める割合は、長期的に増加傾向にあったが、2019年を境に減少に転じている。2021年では17.7%となった。輸入額におけるサービスの割合は輸出額におけるサービスの割合よりも大きい傾向にある。2021年では21.7%である。
 米国の輸出入額はともに増加しているが、製品については輸入、サービスについては輸出の方が伸びている。また、輸出額に占めるサービスの割合は、長期的に増加傾向にあったが、近年は減少しており、2021年では31.4%である。
 ドイツ、フランス、英国についても、輸出入額は長期的に増加しており、2020年の減少から回復した後の2022年では3か国ともに大きく伸びた。2022年のサービスの輸出額に注目すると、ドイツでは輸出額全体の19.6%、フランスでは30.7%、英国では49.2%をサービスの輸出額が占めている。ドイツ、フランス、英国ではサービスの輸出の割合は長期的に伸びている。
 韓国については、他の国と異なり、2012年以降は、輸出入額は増減しつつ、おおむね横ばいに推移している。サービスの輸出額は、輸出額全体の14.7%(2021年)であり、他の国と比較しても小さい割合である。


【図表5-2-1】 主要国における貿易額の推移

注:
1) 中国は「製品」と「サービス」に分類されたデータが記載されていなかった。
2) ドイツの2019年以降、フランスの2021年以降、韓国の2021年は暫定値である。
資料:
OECD,“National Accounts” Gross domestic product (GDP)

参照:表5-2-1


(1)主要国の産業貿易の構造

 ハイテクノロジー産業やミディアムハイテクノロジー産業といった「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」(2)の貿易については、技術貿易のように科学技術知識の直接的なやり取りについてのデータではないが、実際に製品開発に活用された科学技術知識の間接的な指標であると考えられている。ここではまず、OECDの定義による研究開発集約のレベル(研究開発費/粗付加価値)にもとづき、産業を分類し、産業貿易のバランスを見る。
 図表5-2-2では、主要国の産業貿易のうち、輸出額について、①ハイテクノロジー産業(HT産業)、②ミディアムハイテクノロジー産業(MHT産業)、③ミディアムテクノロジー産業(MT産業)、④ミディアムロウテクノロジー産業(MLT産業)、⑤その他の5つに分類し、その構造を見た。
 日本ではMHT産業が最も大きく、2021年では、55.7%を占めている。他国と比較しても最も大きい。次いでHT産業が16.0%、MT産業が14.6%、MLT産業は5.5%である。時系列を見ると、MHT産業は長期的には増加傾向にある。HT産業については、2000年以前は30%程度で横ばいに推移していたが、その後減少し、2010年頃から再び横ばいに推移している。MT産業は2000年代に割合が増加した後、2011年をピークに微減・横ばいで推移している。
 米国はMHT産業が最も大きく、2021年では、33.2%を占めている。次いでMLT産業が24.6%、HT産業が22.1%、MT産業が9.5%となっている。時系列を見ると、MHT産業は2000年代半ばから微減傾向にある。HT産業は、2000年代に入り減少した後、2010年代前半は増加していたが、近年では減少傾向にある。MLT産業は2000年代後半から長期的に増加している。MT産業は漸増していたが、2010年代に入るとほぼ横ばいに推移している。
 ドイツはMHT産業が半数を占めており、2021年では48.1%である。次いでHT産業が18.2%、MLT産業が17.0%、MT産業が11.3%となっている。時系列を見ると、ドイツは他国と比較すると変化が少なく、MHT産業、MLT産業、MT産業は横ばい又は微減、HT産業は2000年頃まで漸増した後は横ばい、2015年頃から微増している。
 フランスはMHT産業が最も多く、2021年では36.1%を占めている。次いでMLT産業が23.4%、HT産業20.3%、MT産業が11.1%である。時系列を見ると、MHT産業は2000年代後半から減少した後、2010年代に入ってからはほぼ横ばい、HT産業は長期的には増加していたが、2019年以降減少した。MLT産業、MT産業は2010年頃からほぼ横ばいに推移している。
 英国はMHT産業が最も大きく、2021年で31.3%である。次いでHT産業が20.5%、MT産業が19.6%、MLT産業が18.0%である。時系列を見ると、MHT産業は長期的に見れば、微減傾向にある。HT産業は2000年頃まで増加した後は減少に転じ、2013年以降増加、2016年から減少している。MT産業は2013年に大きく増加した後、減少に転じ、2020、2021年と増加した。
 中国は1993年時点ではMLT産業が多くを占めていた。その後、HT産業、MHT産業が増加する一方でMLT産業は減少した。2005年から、HT産業が最も多い割合を持っていたが、2021年ではMHT産業が30.2%、HT産業が29.6%となった。MLT産業の減少は緩やかに続き、23.1%となった。
 韓国は、1990年ではMLT産業が最も多くを占めていたが、その後は2010年頃まで継続的に減少が続き、これに代わってMHT産業の増加が見られた。HT産業については、2004年まで漸増した後は減少、2012年を境に増加に転じている。2020年では、MHT産業が最も大きく39.7%である。次いでHT産業33.5%、MT産業14.7%、MLT産業が11.4%である。

 

【図表5-2-2】 主要国の産業貿易輸出割合
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国
(H)産業貿易の内訳

資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-2


(2)ハイテクノロジー産業貿易

 ハイテクノロジー産業とはOECDの定義(High R&D intensive industries)に基づいている。具体的には「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」の3つの産業を指す。
 図表5-2-3は主要国のハイテクノロジー産業貿易額の推移である。ほとんどの国・地域で2009年及び2020年における減少、その後の増加が見られた。また輸出入額ともに「電子機器」の割合が大きい傾向にあったが、アジア諸国以外ではそのバランスに変化が生じている。
 日本の輸出額は長期的に見ると、増減しながら減少傾向、輸入額は2012年まで増加傾向が続いた以降は漸増に推移している。内訳を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が多くを占めているが、割合は長期的に見ると微減している。また、「医薬品」の輸入額が漸増している。
 米国は輸出、輸入額ともに長期的に拡大傾向にあるが、伸びは輸入額の方が大きく2000年代から入超である。米国の輸出は「航空・宇宙」が他国と比較しても大きいことが特徴である。ただし、その割合は2019年から2020年にかけて10ポイント低下した。「電子機器」の割合は1995年では約8割であったが、2021年では約6割に減少し、「医薬品」は同時期に1割未満から2割に増加した。
 ドイツの輸出入額は、長期的に見ると増加傾向にある。ドイツの輸出は、「電子機器」の額が大きいが、その割合は1995年から2021年にかけて7割から5割に減少した。それに対し「医薬品」は約2割から4割に増加した。なお、「医薬品」の輸出額は、ここに示した国の中で最も大きい。
 フランスの輸出入の額は長期的に増加していたが、2010年代になって伸びは鈍化した。2020年に大きく減少し、2021年に輸入については2019年の水準に戻したが、輸出は回復の度合いが小さい。フランスの輸出は1995年時点では「航空・宇宙」、「電子機器」、「医薬品」の割合がそれぞれ、約3割、約5割、約1割であった。
 2021年では、「航空・宇宙」が約4割、「電子機器」、「医薬品」が約3割となっている。
 英国の輸出入額については、長期的には増加傾向にあったが、2018年をピークに減少傾向にある。1995年時点の輸出額のバランスは「航空・宇宙」が約2割、「電子機器」が約7割、「医薬品」が約1割であったが、2021年では航空・宇宙」は約4割、「電子機器」、「医薬品」は約3割に変化している。
 中国は輸出、輸入額ともに著しく拡大し、2000年代後半に入ると輸出額は米国を上回り、大きく伸びた。産業の構成を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が大部分を占めている。
 韓国についても、輸出、輸入額ともに「電子機器」がほとんどを占めている。特に輸出額の増加が著しい。
 BRICsのデータを見ると、ロシア、ブラジル、インドともに輸入額が大きい。ブラジルは「航空・宇宙」で出超であったが、2020年では輸出額が大きく減少する一方で、輸入額が大きく伸び、入超となった。インドは「医薬品」で出超であり、輸出額も増加傾向にある。

 

【図表5-2-3】 主要国におけるハイテクノロジー産業貿易額の推移

資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-3


 図表5-2-4に、ハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。日本は長期的に貿易収支を減少させている。2011年以降、1を下回り、入超となっている。2021年の日本の収支比は0.72である。
 米国、ドイツ、フランス、英国の収支比は、1990年代は、1前後に推移していた。米国、英国については、2000年前後から1を下回り、入超で推移し続けている。2021年では米国は0.57、英国は0.85となっている。
 ドイツは2000年頃から1を上回り出超となり、2012年以降はほぼ横ばいに推移している。2021年では1.13である。
 フランスは1990年代前半には1を上回り、出超で、ほぼ横ばいに推移している。2021年では輸出額と輸入額が均衡しており収支比は1.00である。
 中国は収支比を上昇させていたが、2008年以降、微減傾向にある。2021年では1.24である。
 韓国は主要国中、最も収支比が高い。2020年で1.54となっている。

 

【図表5-2-4】 主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-3と同じ。

参照:表5-2-4



(3)ミディアムハイテクノロジー産業貿易

 図5-2-2で見たように、ミディアムハイテクノロジー産業は主要国の多くで、輸出額において1番の重みを持っており、その状況を把握する事は、ハイテクノロジー産業貿易の状況を把握する事と同様に重要である。
 ここでいうミディアムハイテクノロジー産業とはOECDの定義(Medium-high R&D intensive activities)に基づいており、国際標準産業分類第4次改訂版(ISIC Rev.4)を用いたデータを使用した。具体的には、「化学品と化学製品」、「電気機器」、「機械器具」、「自動車」、「その他輸送」、「その他」といった産業から構成される。
 図5-2-5のミディアムハイテクノロジー産業貿易の輸出額を見ると、2020年には常時、トップであったドイツを中国が追い抜いた。これに米国、日本が続いている。輸入額を見ると、米国が最も大きい。過去はドイツが続いていたが、2010年以降、中国が上回っている。
 ほとんどの国・地域で輸出入額ともに2009年に減少が起きた。また、2020年の減少は、輸出額では中国以外の国・地域で、輸入額では韓国以外の国・地域で起きた。ただし、その後は再び増加に転じている。
 各国の輸出、輸入の内訳を見ると、日本の輸出額の内訳は「自動車」が最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。全体の約7割を占めるこれらの産業は、2000年代に入ってから急激な伸びを示した後、2009年に大きく減少した。その後、回復を見せ、おおむね横ばいに推移していたが、2020年に減少し、2021年には増加した。輸入額では「化学品と化学製品」が最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。いずれの産業も2020年に減少し、2021年には増加している。
 米国の輸出額(最新年)では、「化学品と化学製品」が最も大きく、約3割を占めている。これに「機械器具」、「自動車」が続く。輸入額では「自動車」が最も大きい。1995年時点では半数近くを占めていたが、2021年では約3割となっている。
 ドイツの輸出額は「自動車」が最も大きく、3割から4割で推移している。次いで「機械器具」が大きい。輸入額でも「自動車」が最も大きく3割から4割で推移している。これに「化学品と化学製品」が続く。
 フランスでは輸出、輸入ともに、産業の種類別の規模のバランスが他国と比べて似通っている。輸出は1995年時点では「化学品と化学製品」より「自動車」の方が大きかったが、その後は逆転し、「化学品と化学製品」、「自動車」の順で大きくなった。最新年の輸入は「自動車」、「化学品と化学製品」の順で大きい。
 英国も輸出、輸入ともに産業の種類別の規模のバランスが似ている。最新年では輸出、輸入共に「自動車」が最も大きく、「化学品と化学製品」が続く。
 中国においては輸出額では「電気機器」、「機械器具」が大きく、輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。なお、中国ではこれらの大きな産業の2019~2020年の変化において、他国のような大きな減少は見られなかった。
 韓国においては、輸出額では「化学品と化学製品」と「自動車」が大きい。両者とも2010年頃までは大きく伸びていたが、2010年代に入って伸びは鈍化した。輸入額では「機械器具」、「化学品と化学製品」が大きい。
 ロシア、ブラジル、インドについては、その他の国と比較すると規模が小さい。また全ての国で輸入額の方が大きい。輸入額の内訳を見ると、ロシアでは「機械器具」、ブラジル、インドでは「化学品と化学製品」が最も大きい。

 

【図表5-2-5】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業貿易額の推移

注:
その他は「磁気、光学メディア」、「医療及び歯科用機器・備品」、「軍用戦闘車両」等である。
資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-5


 図表5-2-6に、ミディアムハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。
 2021年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.58であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。
 韓国の収支比は長期的に増加傾向にあったが、2014年以降、微減している。2020年では1.56を示している。
 ドイツの2021年の収支比は1.57であり、継続的に出超である。2000年代半ば以降は、微減している。
 中国の収支比は、長期的に増加傾向にある。2021年では1.76となっている。
 フランスの収支比は、長期的に減少しており、2021年では0.85である。
 英国の収支比は、1991年以外は入超で推移している。2021年では0.72である。
 米国の収支比は未だ1を超えたことはなく、2021年では0.62である。

 

【図表5-2-6】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

図表5-2-5と同じ。
参照:表5-2-6

参照:表5-2-6

 

コラム:貿易額と輸入相手先国・地域

1. はじめに

 「35技術分類を用いたパテントファミリー分析」のコラムでは、本編よりも細かい技術分類を用いてパテントファミリーの分析を示した。その際、パテントファミリーの価値の代理指標として他のパテントファミリーからの被引用数に注目し、被引用数が高いパテントファミリーにおける日本、米国、中国の分析を行った。
 本コラムでは、35技術分類に関連があると考えられる概況品(財務省貿易統計において、いくつかの統計品目をまとめて、一般的な名称を付したもの)について貿易収支比を示す。また、入超の概況品については、どこの国・地域からの輸入が大きいかを示す。

2. 分析対象とした概況品

 日本のTop10%パテントファミリー数世界シェアが特徴的な振舞いを見せていた技術分類に注目する。具体的には、過去(2006~08年平均)は世界1位のシェアであったが最新値(2016~18年平均)ではシェアが低下傾向にある「AV機器」、「半導体」、「輸送」、過去も最新値も世界1位のシェアである「光学」、「織物および抄紙機」、過去も最新値もシェアが低い「電気通信」、「デジタル通信」、「医薬品」に注目する。
 これらの技術分類に関連があると思われる概況品について、財務省貿易統計から貿易収支比のデータを取得した。分析対象とした技術分類と概況品の対応表を図表5-2-7に示す。


【図表5-2-7】 技術分類と概況品

資料:
WIPO, IPC - Technology Concordance Table、財務省貿易統計(2023年5月15日取得)を基に、科学技術・学術政策研究所が作成。

 

3. 貿易収支比

 図表5-2-8は、2000年~2022年にかけての各概況品の貿易収支比を示した結果である。
 「音響・映像機器(含部品)」は2000年から2009年まで出超であったが、2010年以降は輸出が減少し、入超へと移行した。「半導体等電子部品」は全期間を通して出超であるが、2010年代に入ってからは貿易収支比が低下傾向にある。「半導体等製造装置」のデータは2007年からしかないが、その全期間を通して出超である。「通信機」は2000年から2005年まで出過であったが、2007年以降は入超となり、入超の度合いが増している。2022年における貿易収支比は0.1である。「科学光学機器」は全期間を通して出超であるが、長期的に貿易収支比が低下している。「医薬品」は全期間を通じて入超である。「繊維機械」は全期間を通じて出超であるが、長期的に貿易収支比が低下している。「自動車」は全期間を通じて大きく出超であり、その状況は一貫している。


【図表5-2-8】 概況品毎の貿易収支比

資料:
財務省貿易統計(2023年5月15日取得)を基に、科学技術・学術政策研究所が作成。

参照:表5-2-8

 

4. 輸入相手先国・地域

 図表5-2-9は、2022年時点で入超であった「音響・映像機器(含部品)」、「通信機」、「医薬品」について、上位5の輸入相手先国・地域を示した結果(2020~2022年の3年間の平均)である。
 「音響・映像機器(含部品)」では、中国が最大の輸入先であり約6割を占める。これにマレーシア、タイ、米国、ベトナムが続く。「通信機」でも、中国が最大の輸入先であり約7割を占める。これにベトナム、タイ、マレーシア、台湾が続く。「医薬品」については、米国が最大の輸入先であり、これにドイツ、ベルギー、アイルランド、スイスが続いている。


【図表5-2-9】 輸入相手先国・地域

注:
輸入額は2020~2022年の3年間の平均。
資料:
財務省貿易統計(2023年5月15日取得)を基に、科学技術・学術政策研究所が作成。

参照:表5-2-9

 

5. まとめ

 本コラムでは「35技術分類を用いたパテントファミリー分析」のコラムで示した技術分類と関連があると考えられる概況品について貿易収支比を見た。
 「自動車」、「半導体等製造装置」、「繊維機械」などは、依然として強い輸出を維持している。特に「自動車」は全期間を通じて大きな出超を維持し続けており、他と比較してもその輸出の強さが顕著である。他方、「音響・映像機器(含部品)」や「通信機」などは輸出が減少し、入超に転じている。また、「医薬品」については、全期間を通じて入超の状態が続いている。
 パテントファミリーとの関係を見ると、Top10%パテントファミリー数シェアと貿易収支比の間には関連性が見られる。特にTop10%パテントファミリー数シェアが他の技術分野と比べて小さい「電気通信」、「デジタル通信」や「医薬品」に関連すると考えられる概況品である「通信機」、「医薬品」では貿易収支比が小さい傾向がある。
 2022年時点で入超である概況品に注目すると「音響・映像機器(含部品)」、「通信機」については、中国への依存度が大きな状況にある。輸入については、グローバル企業の生産体制とも関係している。ただし、中国は「AV機器」、「電気通信」、「デジタル通信」においてTop10%パテントファミリー数シェアを増していることから、中国の技術力の向上も影響していると考えられる。

(伊神 正貫)

 


(2)2019年5月に入手したOECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”では、それまでの「研究開発集約産業(R&D intensive industries)」から「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」に変更されていた。各レベルについて、対象となる産業は今までと同様である。