4.2.6パテントファミリーの出願先

 つぎにパテントファミリーの出願先(自国への出願分は除く)をみることで、主要国からの特許出願の国際的な広がりの時系列変化を見る(図表4-2-13)。
 日本からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では約9割が米国・ヨーロッパとなっていたが、1990年代に入って中国への出願が増加している。2017年時点では米国への出願が41.1%、中国への出願が25.4%、欧州特許庁への出願が13.8%となっている。ヨーロッパ各国の特許庁への直接出願については、長期的にその割合が減少したが、近年は微増している。2017年時点では、4.8%となっている。
 米国からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では約6割がヨーロッパ、16.1%が米国以外の北米・中南米、17.6%が日本となっていた。1990年代に入って日本以外のアジアの国への出願が増加し、2017年時点ではアジアへの出願が全体の43.3%を占めている。また、アフリカへの出願も一定数存在している。
 2017年時点に注目すると、ドイツについては29.7%がアジア、28.8%が米国を含む北米・中南米、39.3%が欧州に出願されている。
 フランスについてはアジアが24.8%、米国を含む北米・中南米が29.2%であり、42.0%が欧州に出願されている。
 英国については25.1%がアジア、38.3%が米国を含む北米・中南米、32.6%が欧州に出願されている。これらの国についてアジアにおける出願先をみると、日本の比率が相対的に下がり、中国や韓国の比率が上がっている。米国とおなじく、アフリカへの出願も一定数存在している。
 中国からの出願は1980年代後半時点では、欧州への出願が約半数を占めており、それにアジア、米国がつづいていた。その後、米国への出願の割合が大幅に増加する一方で、欧州への出願の割合は減少している。2017年時点では49.4%が米国を含む北米・中南米、21.5%がアジア、22.4%が欧州特許庁となっている。
 韓国からの出願は1986年時点では、欧州が約4割、アジアが約3割、米国が約2割を占めていた。その後、米国への出願の割合が大幅に増加し、2017年時点では48.7%が米国を含む北米・中南米、34.6%がアジアとなっている。アジアにおける出願先をみると、日本の比率が相対的に下がり、中国の比率が上がっている。


【図表4-2-13】 主要国におけるパテントファミリーの出願先
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2022年秋バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-13




コラム:35技術分類を用いたパテントファミリー分析

1. はじめに

 本編では主要国の特許出願の技術分野特性を分析する際に、WIPOが公表している35技術分類を9分野にまとめた技術分野を用いている。この9技術分野は、大まかな技術分野特性を理解する際には良いが、半導体等の詳細な状況を知りたい場合は、より細かな分類による分析が必要となる。また、2か国以上に出願されているパテントファミリーは、発明者や出願人が居住国以外での権利化を目指していることから、単国出願よりも価値が高い発明と考えられるが、その中でも価値を考慮した分析の必要性も高まっている。
 そこで、本コラムでは、35技術分類を対象に日本、米国、中国の世界シェアの分析を行う。また、パテントファミリーの価値の代理指標として他のパテントファミリーからの被引用数に注目し([1])、被引用数が高いパテントファミリーにおける各国の分析を行う。

 

2. 被引用数が高いパテントファミリーの決定

 被引用数が高いパテントファミリーについては、(1)出願年・35技術分類ごとに、平均被引用数を求め、(2)その平均引用数で規格化した被引用数(規格化被引用数)が、(3)各出願年で上位10%以内のものを対象とする。一つのパテントファミリーに複数の技術分野が付与されている場合は、規格化被引用数の平均値を、そのパテントファミリーの規格化被引用数とする。被引用数については、パテントファミリー間の引用をカウントしている。

 

3. パテントファミリー数シェア

 図表4-2-14(A)(a)は、パテントファミリー数シェア(2006-2008年平均)である。19技術分類で日本、14技術分類で米国が世界1位となっている。ここでは示していないが、「工作機械」、「機械構成部品」ではドイツのシェアが一番高い。図表4-2-14(A)(b)は、パテントファミリー数シェア(2016-2018年平均)である。20技術分類で日本、14技術分類で米国が世界1位となっている。中国についても世界シェアを着実に増加させており、「デジタル通信」では世界1位となっている。

 

4. Top10%パテントファミリー数シェア

 図表4-2-14(B)(a)は、Top10%パテントファミリー数シェア(2006-2008年平均)である。35技術分類の6技術分類で日本、29技術分類で米国が世界1位となっている。日本が1位であるのは、「電気機械器具、エネルギー」、「AV機器」、「半導体」、「光学」、「織物および抄紙機」、「輸送」である。「光学」についてはシェアが50%を越えている。
 図表4-2-14(B)(b)は、パテントファミリー数シェア(2016-2018年平均)である。35技術分類の7技術分類で日本、27技術分類で米国が世界1位となっている。ここでは示していないが、「半導体」では韓国のシェアが一番高い。日本が1位であるのは、「電気機械器具、エネルギー」、「光学」、「材料、冶金」、「表面技術、コーティング」、「高分子化学、ポリマー」、「工作機械」、「織物および抄紙機」である。
 中国についても世界シェアを着実に増加させているが、世界1位となっている技術分類は無い。ただし、「デジタル通信」、「他の消費財」では世界2位であり、米国の4~5割の世界シェアを持つ。

 

【図表4-2-14】 35技術分類を用いたパテントファミリー分析
(A)パテントファミリー数世界シェア
(a) 2006-2008年平均
(b) 2016-2018年平均

 

(B)Top10%パテントファミリー数世界シェア
(a) 2006-2008年平均
(b) 2016-2018年平均

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。なお、Top10%パテントファミリー数の決定には、欧州特許庁のPATSTAT(2022年秋バージョン)に含まれるtls228_docdb_fam_citnテーブルを用いた。被引用数については、パテントファミリー間の引用をカウントしている。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2022年秋バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-14

 

5. まとめ

 本編の分析においては、日本のパテントファミリーは「電気工学」、「一般機器」で相対的に高いことを指摘した。35技術分類でみると、「電気工学」においては、特に「光学」のシェアが高いことなど技術分野ごとの細かい特性が把握された。また、被引用数が高いパテントファミリーにおいては、2016-2018年平均では米国が多数の技術分類でシェアが1位であり、それに日本が続いていることが明らかになった。被引用数が高いパテントファミリーにおいて中国の存在感は、それほど高くないが、シェアは着実に増加傾向である。被引用数を質の代理変数として用いることについては議論があるが、平均的には他の技術への影響度を示しているとされており、中国の影響度が着実に増加しているといえる。

(伊神 正貫)


([1])OECD Patent Statistics Manual, OECD (2009)