2.2部門別の研究者

ポイント

  • 公的機関部門の研究者数を見ると、日本の研究者数(FTE値)は2000年代後半から漸減傾向にあり、2022年では3.0万人である。他国を見ると、中国の研究者数が増加しており、39.0万人(2019年)と世界第1位の規模である。ドイツの研究者数は6.3万人(2021年)、米国の研究者数は5.7万人(2020年)と続いている。
  • 日本の公的機関部門の研究者数では「特殊法人・独立行政法人」が半数を占めており、そのうちの多くは「国立研究開発法人」である。
  • 企業部門の研究者数を見ると、日本の研究者数(FTE値)は2000年代後半からほぼ横ばいに推移していたが、2017年以降は微増している。2022年は52.9万人、対前年比は2.6%増である。他国をみると、中国及び米国の研究者数は2010年頃から拮抗しつつ、両国ともに急速な増加を見せている。また、韓国は長期的に増加しており、2000年代後半にドイツを上回り、欧州諸国より多くなっている。
  • 米国の産業において、研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材活用度)が5%未満の産業は少ないが、日本は多くの産業で5%未満となっており、米国と比べて高度研究人材の活用度が低い傾向にある。
  • 大学部門の研究者数を見ると、日本の2022年の研究者数(FTE値)は13.7万人である。他国を見ると、中国は35.3万人(2018年)と極めて大きい。米国は19.0万人(2021年)、英国は17.2万人(2019年)と続いている。

2.2.1公的機関部門の研究者

(1)各国公的機関部門の研究者

 ここでいう公的機関が主に何を指すかを簡単に示すと、日本の場合は「国営」(国立試験研究機関等)、「公営」(公設試験研究機関等)、「特殊法人・独立行政法人」(国立研究開発法人等)である。
 米国の場合は2002年までは連邦政府の研究機関である。
 ドイツでは連邦政府と地方政府、その他の公的研究施設、非営利団体(16万ユーロ以上の公的資金を得ている)及び高等教育機関ではない研究機関(法的に独立した大学附属の研究所)である。
 フランスは、科学技術的性格公施設法人(EPST)(ただし、CNRSを除く)や商工業的性格公施設法人(EPIC)等といった設立形態の研究機関である。
 英国は中央政府、分権化された政府の研究機関及びリサーチ・カウンシルである。
 中国は中央政府の研究機関、韓国は国・公立研究機関、政府出捐研究機関及び国・公立病院である。
 公的機関部門の研究者数は公的機関の民営化や、研究開発統計の計測対象の変更によって、大きな変動が起こることに注意が必要である。各国の違いを踏まえた上で各国の公的機関の研究者数を見る。
 図表2-2-1を見ると、2022年の日本の公的機関の研究者数(FTE値)は3.0万人、経年変化を見ると、大きな変動はあまり見られないが、ピーク時の2006年から約1割の減少を見せた。
 米国の公的機関の研究者数は2003年以降、OECDの“Main Science and Technology Indicators”には掲載されていなかった。今般、米国による研究開発人材統計の報告が再開され、2020年の数値が入手できるようになった(2.1.2参照)。なお、数値が掲載されていない期間については図表中に点線で示している。米国の2020年における公的研究機関の研究者数は5.7万人、中国、ドイツに次ぐ規模である。
 ドイツ、フランス、英国は、値が時々で大きな変動を示しているが、その主な原因は公的機関であった組織が企業部門に移行したこと等があげられる。
 ドイツの2021年の研究者数は6.3万人である。一時的な減少を除いて2000年代中頃から増加が続いている。
 フランスについては時期による増減はあるが、長期的に見れば、増加し続けている。2021年は3.2万人であり、日本を上回った。
 英国については、長期的に減少傾向にあり、主要国中最も少ない。2020年では0.7万人である。
 中国は2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って測定し始めたため、2009年値は2008年値より低い数値となった。また、2.1.2節に示したようにOECDが公表を控えたことから最新値が2019年となっており、科学技術指標2022とは最新値が異なることに留意されたい。2019年では39.0万人と世界第1位の規模である。
 韓国は2000年代に入って、増加傾向が続いている。2021年は2.8万人であり、2000年と比較すると2.4倍の増加となっている。ただし、2010年代半ばから、研究者数は頭打ち傾向である。


【図表2-2-1】 主要国における公的機関部門の研究者数の推移  

注:
1) 公的機関部門の研究者の定義及び測定方法については国によって違いがあるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の定義については図表2-1-1を参照のこと。
2) 各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3) 人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
4) 日本は国・公営研究機関、特殊法人・独立行政法人を対象。日本の研究者は3種類のデータがある。日本*はFTEかHCについて明確な定義がされていない値、日本(FTE)はFTE研究者数、日本(HC)はHC研究者。2001年以前の値は該当年の4月1日時点の研究者数、2002年以降の値は3月31日時点の研究者数を測定している。
5) 米国は連邦政府、連邦出資研究開発センター(FFRDCs)、退役軍人病院、米国疾病対策センターが含まれる。定義が異なる。1985年において時系列の連続性は失われている。
6) ドイツは連邦政府、非営利団体(16万ユーロ以上の公的資金を得ている機関)、法的に独立した大学の附属の研究所、地方自治体研究所(地方政府に相当する)を対象。1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。1989年以前と2015年以降の値は定義が異なる。1993、2014年において時系列の連続性は失われている。2021年は暫定値。
7) フランスは科学技術的性格公施設法人(EPST)(CNRSは除く)、商工業的性格公施設法人(EPIC)、省庁およびその他の公的研究機関を対象。1992、1997、2000、2010年において時系列の連続性は失われている。1997~2009年は定義が異なる。2020年は見積り値、暫定値。
8) 英国は政府部局および政府外公共機関(NDPB)、地方政府および中央政府、国防省、民生部局およびリサーチカウンシルが含まれる。英国研究・イノベーション機構(UKRI)、Higher Education Funding Councils(Research Englandを含む)も含む。1986、1991~1993、2001年において時系列の連続性は失われている。
9) 中国は政府研究機関を対象。2008年までの研究者の定義は、OECDの定義とは異なり、2009年から計測方法を変更した。
10) 韓国は中央政府と地方政府。国・公立研究機関、政府出捐研究機関(法人の運営に必要な経費の一部または全部を政府で出資した機関、韓国科学技術研究院、韓国原子力研究院等)、国・公立病院を対象。
11) EU-27:見積り値である。
資料: 
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU-27:OECD,“Main Science and Technology Indicators March 2023”

参照:表2-2-1


(2)日本の公的機関部門の研究者

 日本の公的機関については2001年に、「国営」の研究機関の一部が独立行政法人となった(2003年には、「特殊法人」の研究機関の一部も独立行政法人となった)。そのため、2002年以降のデータはそれ以前との連続性が失われている。これを踏まえて、日本の公的機関の研究者数(FTE)を見ると(図表2-2-2(B))、2022年で総数3.0万人である。「特殊法人・独立行政法人」の値が半数以上を占めており、2022年で1.9万人である。「公営」は0.9万人、「国営」は0.2万人である。「特殊法人・独立行政法人」については、その約8割を「研究開発法人」が占めている。また、そのほとんどが「国立研究開発法人」である。
 機関種類別に時系列推移を見ると、「国営」は2011年以降はおおむね横ばいである。「公営」は漸減している。「特殊法人・独立行政法人」は2010年頃に急激な伸びを見せた後は、ほぼ横ばいに推移している。


【図表2-2-2】 日本の公的機関の研究者数の推移 
(A)研究者数*
(B)研究者数(FTE)
(C)研究者数(HC)

注:
1) 2001年12月に、国営の研究機関の一部が独立行政法人となったため時系列変化を見る際には注意が必要である。
2) 2001年までは4月1日現在の研究本務者数、2002年以降は3月31日現在の研究者数を測定ている。
3) 研究者数*は統計調査において研究専従換算をしていない「研究を主にする者」である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-2


 公的機関の研究者数を専門別に見る。ここでいう専門とは、研究者個人の専門的知識を指す。
 図表2-2-3(A)を見ると、一貫して「農学」の専門知識を持つ研究者が最も多く、次いで「工学」、「理学」、「保健」と続いている。ただし、2002年と比べると「農学」は16.0%、「理学」は10.0%、「工学」は8.9%減少している。これに対して「保健」の研究者は67.3%の増加であり、分野バランスが変わりつつある。
 専門別研究者の所属先を見ると(図表2-2-3(B))、専門分野のうち研究者数が最も多い「農学」の研究者の所属先は「公営」研究機関が一番多い。他方、「工学」、「理学」、「保健」の研究者の所属先は「特殊法人・独立行政法人」の研究機関に所属している者が多い。


【図表2-2-3】 日本の公的機関における専門別研究者
(A)研究者数の推移

(B)専門別研究者の所属先(2022年)

注:
図表2-2-2と同じ。2002年からHC(実数)。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-3