2.3研究支援者

ポイント

  • 研究者一人当たり研究支援者数を部門別、業務別に見ると、日本は「テクニシャン」より「その他の支援スタッフ」の方が多いが、他国では「テクニシャン」の方が多い傾向にある。
  • 日本の研究支援者を部門別に見ると、企業の研究支援者は、男性が多く、女性の約3倍である。女性の研究支援者数が男性を大きく上回っているのは大学部門であり、近年では男性の約2倍である。
  • 企業の男性の研究支援者では、「研究補助者」、「技能者」の数が多く、全体の8割近くを占めているが、他の部門では男女共に「研究事務その他の関係者」の割合が最も多い。特に大学の女性研究支援者においては、「研究事務その他の関係者」の割合が約7割と最も多い。

2.3.1各国研究支援者の状況

 研究支援者は、研究開発の担い手として重要な存在であるにもかかわらず、研究開発の周辺的存在と考えられがちである。しかし、複雑化、大規模化した現代の研究開発において、研究者と研究支援者は研究開発の担い手としてともに重要な役割を果たしている。研究支援者も含めた研究従事者数の統計は各国にあるが、研究者同様、国によって差異がある。OECD「フラスカティ・マニュアル2015」によれば、“Technicians and equivalent staff”(テクニシャン及び同等のスタッフ)(13)及び“Other supporting staff”(その他の支援スタッフ)(14)がいわゆる、研究支援者に相当している。
 図表2-3-1に各国の「研究支援者」について簡単に示す。日本、フランス、韓国は、研究開発統計調査における質問票中の項目名、ドイツは研究開発資料中の項目名を示した。米国と中国についてはOECD, “R&D Statistics”に研究支援者のデータが掲載されていないので、定義も示していない。なお、研究支援者も研究者と同様に実数(HC)と研究業務をフルタイム換算した数(FTE)で計測されている。図表2-3-1において(HC)とあるのは実数値である。
 図表2-3-2には主要国の研究者1人当たりの研究支援者数を部門別、業務別(「テクニシャン」と「その他の支援スタッフ」)で示した。ここでいう「テクニシャン」とは、上述したOECDが定義した“Technicians and equivalent staff”であり、「その他の支援スタッフ」とは“Other supporting staff”である。
 日本は、全ての部門において「テクニシャン」よりも「その他の支援スタッフ」の方が多い。これは日本のみで見られる傾向である。これに対して、より研究者に近く専門的知識を有する「テクニシャン」については、どの部門においても他国と比較しても少ない。特に大学部門では0.05人と極めて少ない状況である。
 ドイツでは、企業における「テクニシャン」の数が多く、「その他の支援スタッフ」の倍以上である。公的機関及び非営利団体、大学では「その他の支援スタッフ」の方が「テクニシャン」より多い。
 フランスでは、全ての部門で「テクニシャン」の方が「その他の支援スタッフ」より多い。なお、企業において「その他の支援スタッフ」の数は特に少なく、「テクニシャン」との差が著しい。
 英国は企業、公的機関の部門で「テクニシャン」の方が「その他の支援スタッフ」より多い。なお、大学における「テクニシャン」の数値はOECDの見積り値である。また、「その他の支援スタッフ」の値は出典となった資料に掲載されていない。
 韓国では全ての部門で「テクニシャン」の方が「その他の支援スタッフ」より多い。大学部門の「テクニシャン」、「その他の支援スタッフ」が共に他の部門と比べて最も多く、他国とは違う傾向を見せている。この一因として、韓国では研究に参画している修士課程の学生が研究補助者に計上されていることが挙げられる。

【図表2-3-1】 各国部門別の研究支援者

注:
1) 各国の値はFTE値である。日本の大学は実数(HC)値である。
2) 米国と中国についてはOECD, “R&D Statistics”にデータが掲載されていないので、定義も示していない。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
ドイツの企業と大学、フランスの企業、英国、中国:OECD, “R&D Sources and Methods Database”
フランスの企業以外:高等教育・研究・イノベーション省(MESRI)、“Higher Education and Research, Facts and Figures”
韓国:科学技術情報通信部、KISTEP、「2018年度研究開発活動調査報告書」
ドイツの公的機関(非営利団体を含む):科学技術政策研究所、「主要国における研究開発関連統計の実態:測定方法についての基礎調査」(調査資料-143)2007年10月


【図表2-3-2】 主要国の部門別研究者一人当たりの業務別研究支援者数 

注:
1) 研究支援者は国によって定義及び測定方法に違いがある。また、各部門によっても違いがあるため国際比較するときは注意が必要である。各国研究支援者の違いについては図表2-3-1を参照のこと。
2) 研究者の注は図表2-1-1と同じ。
3) FTE値である。ただし、日本の大学はHC(実数)である。
4) 日本のテクニシャンは「研究補助者」である。その他の支援スタッフは「技能者」及び「研究事務その他の関係者」である。
5) フランスは暫定値である。
6) 英国の大学の研究支援者は見積り値である。
7) 韓国のテクニシャンは「研究支援・技能人材」である。その他の支援スタッフは「研究行政・その他の支援人材」である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
その他の国:OECD,“R&D Statistics”

参照:表2-3-2


2.3.2日本の研究支援者: 男女別研究支援者数の内訳

 2.3.1では研究者一人当たりの状況を見たが、この節では日本の研究支援者の3つ業務区分(研究補助者、技能者、研究事務その他の関係者)について、部門別、男女別に分類し、その状況を見る(図表2-3-3)。
 企業の研究支援者は、男性が多く、女性の約3倍である。男性は「研究補助者」、「技能者」が多く、女性は「研究事務その他の関係者」、「研究補助者」が多い。また、男女共に2007年をピークに減少した後、2010年代半ばより回復傾向を示していたが、男性については2021年は微減している。
 公的機関では、男性の研究支援者が多いが、女性との差は少ない。男女共に「研究事務その他の関係者」が多い。男性で次に多いのは「技能者」であるのと比較して、女性では「研究補助者」が多い。男性の数がほとんど横ばいに推移ししているのに対して、女性は増加している。
 大学については、男性、女性共に「研究事務その他の関係者」の数が多い。次いで多いのは、男性では「技能者」、女性では「研究補助者」である。女性については全ての業務において数が大きく増加しており、女性の研究支援者数が男性を上回っている部門である。
 非営利団体では、男性、女性共に「研究事務その他の関係者」の数が多い。2002年時点では男性、女性の研究支援者の数は同程度であったが、男性は減少した。女性はほぼ横ばいに推移していたが、近年微減している。
 3つの業務区分のバランスの部門別による違いを見ると、企業では「研究補助者」が最も多く、「研究事務その他の関係者」が少ない。企業以外の部門では「研究事務その他の関係者」が最も多い。その傾向が最も顕著なのは大学である。


【図表2-3-3】 日本の部門別男女別の研究支援者数の推移
(A)企業

(B)公的機関

(C)大学

(D)非営利団体

注:
1) HC(実数)である。企業の2010年以前は営利を伴う特殊法人・独立行政法人を含む。
2) 「研究補助者」とは「研究者」を補佐し、その指導に従って研究に従事する者。
3) 「技能者」とは「研究者」、「研究補助者」以外の者であって「研究者」、「研究補助者」の指導及び監督の下に研究に付随する技術的サービスを行う者。
4) 「研究事務その他の関係者」とは「研究補助者」、「技能者」以外の者で、研究関係業務のうち庶務、会計、雑務等に従事する者。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-3-3



(13)テクニシャン及びこれと同等のスタッフとは、その主たる任務が、工学、物理・生命科学、社会科学、人文科学のうち一つあるいは複数の分野における技術的な知識及び経験を必要とする人々である。彼ら/彼女らは、通常、研究者の指導の下に、概念の応用や実際的方法及び研究機器の利用に関わる科学技術的な任務を遂行することによって研究開発に参加する。
(14)その他の支援スタッフには、R&Dプロジェクトに参加、あるいはそうしたプロジェクトと直接に関係している熟練及び未熟練の職人、管理、秘書・事務スタッフが含まれる。