5.4.2知識の流れとしての産学連携

 産学連携に着目し、その実施状況を見る。具体的には、共同研究や受託研究、大学等の特許出願数、特許権実施等収入に注目する。
ここでは、産学連携による研究資金等受入額や実施件数は、知識交換への投資の指標、特許出願数は産業応用を意識した新しい技術知識が、大学等からどの程度生み出されているかの指標であると考えた。また、特許権実施等収入は、知識の価値、広がりを見る指標であると考えた。


(1)日本の産学連携の実施状況

 2019年度の日本の大学の民間企業等との共同研究等にかかる受入額(内訳)と実施件数の推移を見ると(図表5-4-7)、受入額が最も大きいのは「共同研究」であり817億円、実施件数は3.0万件である。大企業からの受入が多く、同年度で620億円である。「受託研究」の受入額は152億円、実施件数は0.8万件である。大企業からの受け入れが多く、同年度で107億円である。「治験等」の受入額は196億円、実施件数3.2万件である。治験の件数は年度の差が著しい。大企業からの受入が多く、同年度で153億円である。また、2019年度から調査された外資系企業からの受け入れは、他の研究と比較すると多い傾向にある。「寄附講座・寄附研究部門」については、2017年度から、国立大学だけでなく、公立、私立大学についても調査されることになった。2019年度の受入額は254億円であり、国立大学の受け入れ額が多い(192億円)。実施件数は1,442件であり、うち国立大学は753件である。1件当たりの規模は国立大学で2,551万円である。
 推移を見ると、「共同研究」の受入額・実施件数ともに継続的に増加している。受入額は、2015年度以降は、毎年10%以上の増加を見せている。「受託研究」の実施件数はほぼ横ばいに推移していたが、2011年度以降微増傾向にある。受入額は2011年度まで継続的に減少傾向にあったが、その後は増加に転じた。「治験等」の受入額、実施件数については年ごとの揺らぎが著しい。「寄附講座・寄附研究部門」は、2010年代に入ると受入額は漸増している。


【図表5-4-7】 日本の大学等の民間企業等との共同研究等にかかる受入額(内訳)と実施件数の推移

注:
1) 共同研究:機関と民間企業等とが共同で研究開発することであり、相手側が経費を負担しているもの。受入額及び件数は、2008年度まで中小企業、小規模企業、大企業に分類されていた。
2) 受託研究:大学等が民間企業等からの委託により、主として大学等が研究開発を行い、そのための経費が民間企業等から支弁されているもの。
3) 治験等:大学等が外部からの委託により、主として大学等のみが医薬品及び医療機器等の臨床研究を行い、これに要する経費が委託者から支弁されているもの、病理組織検査、それらに類似する試験・調査。
4) 寄附講座・寄附研究部門:2016年度まで国立大学のみの値。2017年度から公立、私立大学の値が計測されるようになった。寄附講座・寄附研究部門の「実施件数」は「講座・部門数」である。
資料:
文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況について」の個票データ(2021年4月26日入手)を使用し、科学技術・学術政策研究所が再計算した。

参照:表5-4-7


(2)日本の産学連携等特許出願数

 大学等における特許出願を国内、外国に分類し、その傾向を見ると(図表5-4-8)、国内への特許出願数の方が外国への特許出願数より多い。国内に出願した特許数は、2010年度まで減少傾向にあったが、その後はほぼ横ばいに推移しており、2019年度では6,726件である。外国へ出願した特許数は、2011年度を境にほぼ横ばいに推移していたが、2016年度以降は増加しており、2019年度は3,572件となった。
2011年度からは特許出願に関して、発明の元となる研究及び相手先組織等といった内訳がわかるようになった。そこで、「民間企業との共同研究や受託研究が発明の元」となった特許出願、「寄付金による研究が発明の元」となった特許出願、「その他の研究が発明の元」となった特許出願に分類し、その傾向を見た。
 2019年度の民間企業との研究が元となった発明は、国内出願では2,850件であり、国内出願の42.4%を占めている。外国出願での民間企業は、1,766件、外国出願の49.4%を占めている。民間企業との研究が元となった発明は、国内への出願より外国への出願のほうが、その占める割合が高い傾向が見られる。また、2011年度から2019年度の推移を見ると、国内出願、外国出願のいずれでも、民間企業との研究が元となった発明の割合が増加している。


【図表5-4-8】 大学等における特許出願数の推移

注:
発明の元となった研究(共同研究、受託研究、補助金、寄附金、左記以外(運営費交付金等))の相手先等である。
資料:
文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況について」

参照:表5-4-8


(3)知識の価値の広がり:日米英比較

 大学等で生み出された知識の価値の広がりを測る一つの指標として、大学における特許権を含めた知的財産件収入を見る。また、その収入額はどの程度であるかを測るために、米国や英国との比較を試みる。
 図表5-4-9を見ると、日本の大学における知的財産権収入は長期的に見ると増加傾向にあり、2019年度では51億円である。2005年度と比較すると約6倍となっている。英国の知的財産権収入は、一時的な落ち込みはあるが、2013年度以降増加し、2019年度で320億円となった。米国は、日本、英国と比較すると、桁違いに大きく、2019年度では2,633億円である。長期的には、2008年度での一時的な増加を除けば、ほぼ横ばいに推移していたが、2016、2017年度で増加し、その後は減少している。


【図表5-4-9】 日米英の知的財産権収入の推移 

注:
1) 日本の知的財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、その他知的財産(育成者権、回路配置利用権等)、ノウハウ等、有体物(マテリアル等)を含む。
2) 米国の知的財産権とは、ランニングロイヤリティ、ライセンス収入、ライセンス発行手数料、オプションに基づく支払い、ソフトウェア及び生物学的物質のエンドユーザーライセンス(100万ドル以上)等である。
3) 英国の知的財産権とは、特許権、著作権、意匠、商標等を含む。
4) 購買力平価換算は参考統計E使用した。
資料:
日本:文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況等について」
米国:AUTM, “AUTM STATT database”
英国:HESA, “Higher education-business and community interaction survey (HE-BCI)”

参照:表5-4-9