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コラム:スポーツ科学研究の論文動向

 2020年は、我が国でオリンピック・パラリンピックが開催される。各国のメダルに関する期待も高い。こうした中、スポーツに関する科学研究はどうなっているのだろうか?
 本コラムでは、スポーツ科学研究に関する論文分析により、スポーツ科学研究の特徴と、国・地域別の論文数の推移について紹介する。ここでは、Web of ScienceのSCIE(Science Citation Index Expanded)において、サブジェクトカテゴリがSport Sciencesとされている論文を分析対象とした。

1.スポーツ科学研究の論文数及び雑誌数の推移

 図表4-1-14は、1981~2017年にかけてのスポーツ科学研究についての論文数及び雑誌数の推移を示す。1995年の28誌から1996年に45誌と急激に雑誌数が増加し、2017年には84誌になっている。論文数については、雑誌数のような大きな変化はみられないが、論文数も1995年の2,399件から1996年には、3,150件となり、2017年には9,915件となっている。スポーツ科学研究は、年間1万件近い論文が出る研究領域へと成長している。


【図表4-1-14】 スポーツ科学研究の論文・雑誌数

注:
分析対象はサブジェクトカテゴリがSport Sciencesに付与されている論文(Article, Review)である。整数カウント法による。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SCIE, 2018年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-14


2.スポーツ科学研究の関連分野

 Web of Scienceでは一つの雑誌に複数のサブジェクトカテゴリが付与されている。2013~2017年のスポーツ科学研究の論文約4.6万件の中で、約7割については、スポーツ科学研究以外のサブジェクトカテゴリも付与されている。ここでは、スポーツ科学研究とともに付与されているサブジェクトカテゴリの分布を見ることで、スポーツ科学研究がどのような研究と関連しているかを見る。
 図表4-1-15には、2013~2017年にかけてのスポーツ科学研究の論文について、関連するサブジェクトカテゴリ(研究内容)の割合を示す。一番割合の高いのは、整形外科学であり、これに生理学、外科学、リハビリテーションが続いている。他にも、心理学に関わる3つのサブジェクトカテゴリや、ホスピタリティ・レジャー・スポーツ・観光、工学・生医学、公衆衛生学・環境衛生学・労働衛生学、教育学・教育研究、老年医学・老年学といった幅広い研究が関連している。




【図表4-1-15】 スポーツ科学研究と関連する研究(2013~2017年)

注:
1)サブジェクトカテゴリがSport Sciencesに付与されている論文(Article, Review)を分析対象とし、スポーツ科学研究とともに付与されているサブジェクトカテゴリの分布を示した。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
2)出現回数が16位以下のサブジェクトカテゴリをまとめた。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SCIE, 2018年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-15


 スポーツ基本法(1)では、「スポーツは、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵(かん)養等のために個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動」と規定されており、スポーツには、オリンピック・パラリンピック競技種目のようなものだけでなく、野外活動やスポーツ・レクリエーション活動も広く含まれる。スポーツ科学研究の状況を見ると、スポーツをめぐる社会生活の多様な側面を反映し、多様な研究内容が含まれている。

3.国・地域別論文数

 図表4-1-16はスポーツ科学研究に関して、1995~1997年、2005~2007年、2015~2017年の3時点における論文数・シェア、ランキングについて示したものである。論文数のカウントについては、整数カウント法で行い、3年間の平均値を示した。
 各国・地域の論文数・シェアの推移をみると、一貫して首位の米国の論文数は、1995~1997年の1,673件から2015~2017年の3,625件と2.17倍となっているものの、シェアでは53.2%から37.9%と下げている。
 日本は、1995~1997年の141件から2015~2017年の357件と2.53倍となっているが、シェアは4.5%から3.7%となり、ランキングも4位から11位に下げている。2015~2017年に日本より上位の国・地域の論文数をみると、8位のフランス、9位のオランダ、10位のイタリアと30件以内の論文数の差で4か国が並んでいる。
 中国は2015~2017年に12位であり、日本とは90件ほどの差がある。1995~1997年の13件から2005~2007年の79件、2015~2017年の267件と論文数を増やしている。
 2015~2017年の論文数・シェア・ランキングをみると、上位を占めるのが米国、英国、オーストラリア、カナダといずれも英語圏の国々となっている。こうした中で、5位にブラジルが入っている。ブラジルの論文数が多いのは、ブラジル運動医学スポーツ学会(Brazilian Society of Exercise Medicine and Sport)の「Revista Brasileira de Medicina do Esporte誌」など、ポルトガル語の雑誌がデータベースに掲載されるようになった影響である。このように、英文誌・非英文誌を問わず自国雑誌がデータベースに掲載されるようになると、サブジェクトカテゴリによっては、国・地域別の論文件数・シェア・ランキングが影響を受けることがある。
(白川 展之)


【図表4-1-16】 スポーツ科学研究の国・地域別論文数:上位25か国・地域

注:
分析対象はサブジェクトカテゴリがSport Sciencesに付与されている論文(Article, Review)である。整数カウント法による。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SCIE, 2018年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-16


(1)スポーツ基本法(平成23年法律第78号 前文)