v

コラム:存在感を示すスウェーデンの社会科学研究

 科学技術指標では、これまで自然科学を対象に論文分析の結果を紹介してきた。科学技術指標2018では初めて社会科学の論文分析の結果をコラムで示した。本コラムでは社会科学研究の最新(2015~2017年)の動向を示すと共に、主要国以外で、人口が小さいながら存在感を示すスウェーデンに注目する。

1.社会科学論文におけるスウェーデンの存在感

 図表4-1-11には、「社会科学全体」、「経済学・経営学」及び「社会科学・一般」について、整数カウント法による2015~2017年の論文数(平均値)をもとに、上位13か国とスウェーデン、日本の論文数、順位、シェアを算出した結果を示す。
 スウェーデンの世界ランク及びシェアをみると、「社会科学全体」で11位(2.5%)、「経済学・経営学」で14位(2.4%)、「社会科学・一般」で9位(2.5%)となっている。人口が、約1,000万人の国で「社会科学・一般」において、このように存在感がある国は他にみられない。


【図表4-1-11】 社会科学の国・地域別論文数:上位国・地域

注:
1)社会科学・一般:教育学、社会学、法学、政治学等。
2)分析対象は、Article, Reviewである。整数カウント法による。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SSCI, 2018年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-11


2.スウェーデンの社会科学研究の論文数・シェア・世界ランクの推移

 スウェーデンの1982年~2016年における論文数及びシェア(図表4-1-12(A))を見ると、1980年代から一貫して伸び続けている。分野別にみると、2008年までは「経済学・経営学」のシェアが「社会科学・一般」に比べて高かったが、2009年以降逆転しており、2010年代の「社会科学・一般」における論文数の増加が目立つ。
 次にランクに注目すると、「社会科学全体」での世界ランクは(図表4-1-12(B))、1980年代から一貫して10位前後で推移している。また、「経済学・経営学」に関しては、15位以内で推移している。「社会科学・一般」(公衆衛生学、教育学、政治学、環境学など)については、2000年初頭には8位、2012年以降は9位を維持している。


【図表4-1-12】 スウェーデンの社会科学研究の論文数・シェア・世界ランクの推移
(A)論文数・シェア
(B)世界ランク

注:
図表4-1-11と同じ。3年移動平均(2016年であればPY2015、PY2016、PY2017年の平均値)値である。
資料:
図表4-1-11と同じ。

参照:表4-1-12


3.スウェーデンの社会科学研究の特徴:有力な自国ジャーナルの存在

 図表4-1-13には、「経済学・経営学」及び「社会科学・一般」について、2015~2017年におけるスウェーデンの論文掲載数が上位15位のジャーナルを示す。スウェーデンの社会科学研究の論文がどのようなジャーナルに掲載されているかをみると、「経済学・経営学」、「社会科学・一般」とも、国際的なジャーナルに加えて、黄色で色付した自国ジャーナル(ここでは、自国語又は自国の学会や研究者が中心的に発行に関与しているジャーナルのことをいう)への掲載も多い。例えば、「経済学・経営学」では、Scandinavian Journal of Management誌(経営学)、「社会科学・一般」では、Scandinavian Journal of Public Health誌(公衆衛生学)、Sociologisk Forskning誌(社会学)、Scandinavian Journal of Educational Research誌(教育学)などスウェーデンの研究者と関わりが深いジャーナルがある。特にScandinavian Journal of Public Health誌については、「社会科学・一般」で一番の論文数である。このように、スウェーデンの社会科学研究の論文は、国際ジャーナルに加えて、自国ジャーナルへの論文掲載も多いことが、スウェーデンの社会科学全体の存在感の高さにつながっていることがわかる。



【図表4-1-13】 スウェーデンの分野別ジャーナル別論文数(2015~2017年(合計))

注:
1)分析対象は、Article, Reviewである。整数カウント法による。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
2)PLOS ONE誌については、ESI22分野分類については、引用情報を用いて、経済学・経営学又は社会科学・一般のいずれかの分野に分類しているが、サブジェクトカテゴリの研究内容分類では、一律で複合科学に分類している。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SSCI, 2018年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-13

4.我が国への示唆:自国ジャーナルと国際ジャーナルのバランス

 スウェーデンの事例からは、国の研究力は、外国の英文ジャーナルに論文を掲載することのみではなく、諸外国から投稿を集めるような自国の英文ジャーナルを持つという双方向の関係から形成されているようにみえる。また、研究力の基盤として、研究者個人の努力以外の要素もあり、自国で発行されたジャーナルを国際的なデータベースに掲載させるといった、日常の学術出版活動の側面も重要になる。
 これらは、我が国の研究力や研究振興の今後の方向性を考えるうえで、社会科学のみならず自然科学にとっても示唆を与える事例といえよう。今後、こうしたジャーナルの観点からの更なる調査が望まれる。

(白川 展之)