STI Hz Vol.8, No.1, Part.8:(ほらいずん)やわらかものづくりが拓く2050年の未来社会-山形ワークショップ開催報告-STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00285
  • 公開日: 2022.03.22
  • 著者: 蒲生 秀典、横尾 淑子、浦島 邦子
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.8, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
やわらかものづくりが拓く2050年の未来社会
-山形ワークショップ開催報告-

科学技術予測・政策基盤調査研究センター 特別研究員 蒲生 秀典、専門職 横尾 淑子、フェロー 浦島 邦子

概 要

山形大学が中心となるやわらか3D共創コンソーシアムの協力を得て、地域ワークショップを開催した。主に全国規模で事業を展開する会員企業に加え、地元企業や山形県関係者にも参加いただいた。山形県は素材産業を中心に発展した地域でもあり、第11回科学技術予測調査の結果も踏まえ、今後の材料・製造の方向性である「やわらかものづくり×地域産業」をテーマに、ものづくりに関連する将来展望と、重要となる科学技術や社会システムについて議論した。ワークショップ結果より、マス(大量生産大量消費)社会から個人ベース(個別化)社会へと転換し、それを実現するデジタル設計・製造・流通(3D、4Dプリンティング)が、コスト面のメリットにより企業(事業)の地方分散を促進して、自然と共存する地方居住を容易にするとの展望が示された。

キーワード:科学技術予測,地域ワークショップ,やわらかものづくり,3Dプリンティング,4Dプリンティング

1. はじめに

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、科学技術の中長期の将来を展望する科学技術予測を長年実施している。第11回科学技術予測調査(2019年11月公表)(以降、予測調査)1)では、2050年までに実現が期待される702の科学技術トピックを設定し、それを基に分野横断・融合領域として注目すべきクローズアップ科学技術8領域を抽出した2)。そのうちの1領域「新規構造・機能の材料と製造システムの創成」では、先端材料やデジタル製造関連の科学技術トピック群が抽出された。今後の材料・製造の方向性として、「やわらかさ」や「自発的な変化」がキーワードとして示された3)

予測調査において、近年では、将来ビジョンとその実現のための科学技術や社会システム検討の一環として、国内の複数の地方自治体、大学、学協会等と協力してワークショップを開催し4)、このうち地域ワークショップはこれまでに国内延べ15か所で実施した。

今回、山形大学が中心となるやわらか3D共創コンソーシアムの協力を得て、ワークショップを開催した。主に全国規模で事業を展開する会員企業に加え、地元企業や山形県関係者にも参加いただいた。山形県は素材産業を中心に発展した地域でもあり、予測調査の結果も踏まえ、今後の材料・製造の方向性である「やわらかものづくり×地域産業」をテーマに、ものづくりに関する今後の展望と、重要となる科学技術や社会システムについて議論した。

2. ワークショップの実施概要

ワークショップの実施概要を図表1に示す。ワークショップは、やわらか3D共創コンソーシアム(以下、コンソーシアム)とNISTEPとの共催で2021年11月5日に実施した。コロナ禍であることを考慮し、物理的な会場は設けず、完全オンライン形式にて行った。コンソーシアムの協力を得て、会員企業及び山形県関係者、山形大学から計22名(企業12名、県2名、大学8名)に参加いただいた。

ワークショップの流れは、図表2に示すように、始めに話題提供として、事務局から①予測調査の概要及び②地域の未来に関するデータの紹介、続いて③山形大学の古川英光教授、地元企業から④ヤマガタデザイン株式会社の長岡太郎室長、⑤佐藤繊維株式会社の佐藤正樹社長に御講演を頂いた。これらの話題も参考に、全体対話として既にこれまでにそれぞれ作成済みのNISTEPとコンソーシアムのビジョンを基に、コロナ禍の影響も考慮し、2050年の社会像について議論した。次に、生活シーン(衣食住)別に「衣(ファッション)」、「食」、「住(建造物)」、「介護」(介護は住の一面と捉える)の4グループに分かれ、各テーマについてグループ対話を行った(図表3)。グループ対話では、図表2(プログラム)に示すように、①社会像の具体化、②その実現のための取組(科学技術、科学技術以外)、③ステークホルダー別の戦略・施策、④留意点やリスクの抽出、⑤優先する社会像の選定について順に対話を進めた。なお、グループ対話②では、予測調査で抽出された、クローズアップ科学技術領域におけるものづくり関連の「領域4:新規構造・機能の材料と製造システムの創成」2)を構成する科学技術トピック群(図表4)を検討の際の参考資料として提示した。最後に、全参加者でグループ発表及びディスカッションを行い、合同会社SARRの松田一敬氏から振り返りを頂いた。いずれの対話においても、参加者からの意見は付箋の代わりにチャットに記載し、併せて口頭で意見について補足説明いただき集約した。

図表1 ワークショップ実施概要図表1 ワークショップ実施概要

図表2 ワークショッププログラム図表2 ワークショッププログラム

図表3 NISTEPとコンソーシアムのビジョンと今回のグループテーマ図表3 NISTEPとコンソーシアムのビジョンと今回のグループテーマ

図表4 やわらかものづくり関連科学技術トピック群図表4 やわらかものづくり関連科学技術トピック群

出典:第11回科学技術予測調査結果2)より

3. 結果概要

ワークショップにおけるグループ対話の結果概要を図表5-1(衣・食)、図表5-2(住・介護)に示す。

社会像として、衣(ファッション)では、「究極のハッピーオーダーメイド近未来ファッション社会」、食では、「フードテックによる持続可能な安全食品での食文化の構築」、住(建造物)では、「自分の理想を追い求めて、どこでも、何度も簡単に変えられる、やわらかトランスフォーム(家×庭)」、介護では、「介護を受ける側・介護する側の「楽」を目指した近未来介護実現に向けた持続可能な社会づくり」とする社会がそれぞれ提案された。

社会像実現のための科学技術としては、センシングや体温保持、匂い吸収などが可能な機能素材(衣)、環境に配慮した食品パッケージング技術(食)、自在に硬度、表面テクスチャーが変更可能な建材(住)、健康情報のモニタリング技術(介護)などの「材料やデバイスの高度化・高機能化技術」が挙げられた。また、健康状態・精神状態の把握により形や素材が変わる4Dプリンティング(衣)、個人・消費者が備えパーソナル・オーダーメイドを実現する3Dフードプリンタ(食)、素人でも構築可能なブロック玩具型家(住)、パーソナルモビリティ(介護)など、「個別化技術」が多く提案された。さらに、それらを支える技術群として、AI(人工知能)、VR(仮想現実)、 AR(拡張現実)、高速ネットワーク、半導体、電池、ロボット技術が重要とされた。科学技術以外では、オーダーメイドデータの権利化(衣)、時代にあった食品製造の法整備(食)、土地の所有(権)制度の見直し(住)、医療関係、パーソナルモビリティなどの法改正(介護)などが必要とされた。

各グループでは、留意点及び懸念されるリスクについても議論された。様々な意見が出されたが、例えば、先端技術に取り残されてしまう人への配慮(衣)、研究開発や技術者などの人材不足(衣)、既存メーカーによる弊害や新たな食体験による健康被害など(食)、安全性の担保や災害対策など(住)、安易な収益性を目的とする企業などが現れることの懸念(介護)などが指摘された。

さらに、グループ対話では、各テーマの戦略・施策を、個人・NPO・企業・研究機関・教育機関・自治体・国のステークホルダーごとに検討した。ここでは、本ワークショップの参加者の所属が多い、企業、研究機関、自治体・国の主な戦略・施策を図表6に示す。

衣(ファッション)では、自己修復&機能を持たせた柔らかい素材開発、ビジネスモデルの転換(企業)、学術研究と企業開発の間に位置する技術統合、大学発スタートアップ企業の創出(研究機関)、産業戦略立案、産業クラスター形成、プレーヤーのインセンティブ付与(自治体)、マス社会から個人をベースとした社会、オーダーメイド社会に向けた政策立案(国)などが挙げられた。食では、研究開発・事業化のスタートアップ段階でいろいろな企業を巻き込む(企業)、環境に配慮した持続可能な食品の提供、食品パッケージ・保存技術開発(研究機関)、地元食材を用いた新時代の食プロジェクト(完全フードプリンタ製)のための取組(自治体)、新たな技術の進歩に対応した法整備(国)などが挙げられた。

住(建造物)では、低コスト、資源循環がしやすい材料、デザインの開発、3Dに適合した材料開発(企業)、4D住宅プリンティング技術、材料と製造機械、計算科学の研究推進、研究人材育成(研究機関)、土地所有(権)の見直し(国)などが挙げられた。介護では、介護者の要望を反映したサービスの提供、デバイスなどの提供(企業)、アシストスーツの軽量・やわらか・装着のしやすさ・個別ニーズ対応の提案、自治体が国以上のサービスを提供することで地域活性化を進める(自治体・国)などが挙げられた。振り返りではメタバースとの関連が指摘された。

図表5-1 グループ対話の結果概要(1)

衣(ファッション)
タイトル 究極のハッピーオーダーメイド近未来ファッション社会~心も体も健康に フードテックによる持続可能な安全食品での食文化の構築
社会像 ・作るから着るまで全てがオーダーメイドな社会
・4D衣服(最先端ファッション)、長期間着用可能衣服(楽なファッション)、体調管理かつデザイン性に富んだ年齢問わない衣服(健康的なファッション)の交わらないファッションスタイル(技・楽・医)が各々主張しあえる社会
・究極の分権社会:個々人が、希望すれば、生産・流通に直接つながる、あるいは自ら生産・流通を行うインフラを容易に持つことができる社会
・環境に配慮した多様で安全な食品、豊かな食体験によって、精神的な満足感も充足される
・フードテクノロジーによって個人、社会のQOLが向上
・タンパク質不足のない、環境にやさしい栄養価の高い食べ物を実現
科学技術 ・素材研究、検査技術(センシング含め)/機能を持った繊維/繊維以外の衣服の素材材料の開発(衣服のあり方自体変わる)/4Dプリンティング(フィッティング、制作、健康状態・精神状態の把握により形や素材が変わる)/匂いを吸着する中空繊維や表面修飾技術/体温を保持できる保護材料開発等
・もっとリアルに近づいたVR ・AIでの採寸
・個人でも始められる仮想ファッションデザインサービスの開発
・個人、消費者が備えパーソナル・オーダーメイドを実現する3Dフードプリンタ
・個人、社会のQOLの向上のための新しい食テクノロジーとその開発体制の構築
・地元食材を用いた新時代の食プロジェクト(完全フードプリンタ製)のためのあらゆる取り組み
・環境に配慮した食品のパッケージング
科学技術
以外
・コンビニエント衣服工場
・オーダーメイドデータの権利化、生産者支援
・衣料メーカー・デザイナーの役割:デザイン・製作等は人に任せたい人は残るので、そういう人に特化+カスタマイズされたニーズへの対応
・食品製造業は利益率が低い⇒生産する側も幸せになれる仕組み・儲かる仕組みをどうつくるか
・法の整備(法律が古いものも多く、食品製造に制約も多い)⇒時代に合わせて食品を提供できる法整備
・食文明の進化 (Body & Soulful、文化文明の視点)
留意点/
懸念される
リスク
・技術に取り残されてしまう人が出る/操作性の個人差解消
・反対意見の尊重と折り合いが必要
・マス市場志向の製造業における失業問題
・研究開発人材の不足/メンテナンス人材
・気候変動、健康、環境へのリスク
・人体情報のリアルタイムモニタリングー個人情報の保護
・ルールの構築、改変(スポーツウェアなど競技のルールなど)
・持続可能な研究開発体制
・スタートアップ段階でいろいろな企業を巻き込むこと=プレーヤーが揃っていてもできない事例多い(大企業が邪魔することも)
・食品メーカー、食産業、家電メーカーの意識の低さ(新製品開発のモチベーションの低さ)
・新たな食(体験)を作ることで引き起こされる健康被害、実現した時のインパクト

図表5-2 グループ対話の結果概要(2)

住(建造物) 介護
タイトル 自分の理想を追い求めて、どこでも、何度も簡単に変えられる、やわらかトランスフォーム「家×庭」 介護を受ける側・介護する側の「楽」を目指した近未来介護実現に向けた持続可能な社会づくり―持続的収益性をもった、介護従事者・要介護者支援システムと、その支援を目指した社会の構築―
社会像 ・住宅が外部とのコミュニケーションのインターフェースを担う社会になっている ・どこに居ても、だれでも繋がりが持てる
・地域等の概念が良い意味で無くなっている
・住まい・室空間の機能化・高度化(医療・介護との連動)
・生活が気候等に左右されない
・状況に応じて変化できる住宅(日々の生活に合わせて変更)
・容易に移動可能な住(空間)でリサイクル可能になる(空き家もない)
・住に使用する土地の制限がなくなっている
・精神的/身体的負担のない介護システムがある
・介護者が笑顔で受け入れられる衣食住医システム
・パーソナルモビリティにより、要介護者の移動が容易になる社会
・環境にもなるべく負荷がかからない(洗濯、おむつなど)
科学技術 ・自在に硬度、表面テクスチャーが変更可能な建材
・組立ブロック型家(素人でも構築可能)
・高断熱、オフグリッド住宅
・3Dで安価で簡単で丈夫な組み立て住宅(500年耐久)
・リサイクルを重視したモバイルハウスと移動を容易にする技術
・分解、組み立て、再利用が容易な資材
・リユースできる「やわらか家」
・安全担保のためのセンシング可能な建材
・5Gから更に高速なネットワークが必要
・半導体、電池技術、ロボット技術、AI技術
・要介護者のリハビリや病状改善のための研究開発
・健康情報のモニタリング技術
科学技術
以外
・繋がる住宅のルール
・一般の住宅建築の機械化は避けられない(職人は不要となる)
・高齢化しても介護、共生がしやすい街づくり、働ける産業
・外部から住宅に介入を許すシステム、法整備
・土地の所有(権)制度を見直す。住民票制度を見直す
・住宅取引を気軽にできる市場環境整備
・要介護に至る前に症状を改善できるようなサービス
・健康保険料、介護保険料からだけでなく、資金を集めるような仕組み
・医療関係、パーソナルモビリティなどの各種の法改正など
留意点/
懸念される
リスク
・移動や引越し、外観や庭の変化等を許容する合意形成
・家具の再利用、シェア等の高度な進展による産業構造の変化
・企業間の未来像共有と再構築 ・特定団体への特許の集中
・国内住宅ニーズの減少(海外への展開可能性)
・外部から住まいに介入することによる個人情報保護、個人の尊厳
・住宅は長期に活用するもの(安全性の担保)
・災害対策 ・働き手の確保 ・国の財政
・介護する/される側の双方の視点や考えに配慮
・介護が必要な症状の発症メカニズムの理解
・社会的な意義の高い事業、サービスであるので、安易な収益性を目的とする企業などが現れることが懸念される

図表6 グループ対話の結果概要<戦略・施策>

衣(ファッション) 住(建造物) 介護

・自己修復+機能を持たせた柔らかい素材
・産学官の連携による新技術の創出
・工場設備の提供
・繊維素材自体の開発(大手企業)
・ビジネスモデルの転換
・研究開発・事業化のスタートアップ段階でいろいろな企業を巻き込む
・低利益の食品産業が事業を持続できるよう、もうける仕組みをつくる
・低コスト、資源循環がしやすい材料、デザインの開発、3Dに適合した材料開発
・消費を前提にした無駄な競争は止めて未来構想を共有し、実現させる企業体の再構築
・地価が比較的安価な地方の方が進めやすいビジネスだと予想
・紙おむつのリサイクル、消臭、除菌等の課題への取組
・試作、現場での実装、アジャイル改良
・介護者の要望を反映したサービスの提供、デバイスなどの提供



・技術開発・提供の投資を受ける箱(投資先・目的)の設置
・アカデミア研究が世に普及しないことへの危機意識の啓蒙
・学術研究と企業開発の間に位置する技術統合
・大学発スタートアップ企業の創出
・実際に製造する企業の作業効率化、製品品質評価など
・持続可能な研究開発体制の構築
・環境に配慮した持続可能な食品の提供(廃棄物ゼロ、養殖・畜産の餌の制御等)
・食品パッケージングの開発(素材含)、保存の開発技術(乾燥、パッケージ、滅菌)
・やわらかい住まい、4Dやわらか住宅の概念提唱、国際協調
・基礎となる4D住宅プリンティング技術、材料と製造機械、計算科学の研究推進、研究人材育成
・やわらかい住宅と人とのインターフェース研究の価値を高めるための周辺研究分野との融合研究、プラットフォーム化
・研究機関における概念の実証
・アシストスーツの軽量・やわらか・装着のしやすさを材料やクッション構造、製造方法(3Dプリンティング)などから提案
・介護問題の顕在化、ニーズに対する研究推進体制の整備




【自治体】
・本気でアカデミアを資金的に盛り上げるバックアップ体制(国も)
・社会の変化についていけない層、情報弱者などへのフォロー
・産業戦略立案、産業クラスター形成、プレーヤーのインセンティブ付与(R&D助成、税制優遇、サイエンスパークの施設・設備代、空き家利用、奨学金など)
【国】
・マス社会から個人をベースとした社会、オーダーメイド社会に向けた方針決定、政策提言
【自治体】
・地元食材を用いた新時代の食プロジェクト(完全フードプリンタ製)のためのあらゆる取り組み
【国】
・食に対する公的資金の大胆な投入
・新たな技術の進歩に対応した法の整備(食品衛生法など古く、食品製造に制約も多い)
【自治体】
・住みたいと思える街づくり
【国】
・土地所有(権)の見直し
・土地や金(税金)の現状の縛り方の見直し(世界的に)、日本で言えば移動を前提に耐震規制の緩和(住環境の変化を促す)技術開発ロードマップの作成
・企業及び研究機関の技術開発の支援
・素人参加型住宅デザインコンテスト
【自治体】
・自治体が国以上のサービスを提供することで地域活性化を進める
・研究資金の充実化
【国】
・シンプルな仕組み作り
・教育機関(小学校中学校)での研究の紹介(アウトリーチ活動)で問題意識などの関心をあつめ、人を巻き込む取り組みをする

4. まとめ

やわらか3D共創コンソーシアムとの共催で、会員企業、山形大学及び山形県関係者に参加いただき地域ワークショップを開催した。コンソーシアム及びNISTEPの持つビジョンを基に、衣、食、住、介護をテーマに2050年の社会像を作成し、その実現のための科学技術や社会システム、及び懸念事項に関する意見を集約した。ワークショップ結果から、以下のようなものづくりに関連する今後の展望を得た。

  • ●2050年の衣食住(介護を含む)の生活シーンでは、材料・素材の高機能化、デザイン・機能の個別化が進展し、製造・流通コスト低減、環境負荷低減、人の精神的・身体的負担低減にも対応し、マス(大量生産大量消費)社会から個人ベース(個別化)社会へと転換、個人と社会のQOL(生活の質)が向上している。
  • ●上記社会の実現のための科学技術として、高機能材料・素材の研究開発、製造流通コスト及び環境負荷を低減する3Dプリンティング、人の生活環境にフィットするやわらか素材・ロボット技術、使用環境に適宜対応し自発的変化が可能な4Dプリンティング5)、デジタル設計・製造・流通を支える情報通信技術(AI、VR、AR、高速通信)が重要となる。
  • ●マス社会から個人ベース社会への転換、そしてそれを実現するデジタル設計・製造・流通(3D、4Dプリンティング)は、コスト面のメリットにより企業(事業)の地方分散を促進し、自然と共存する地方居住を容易にする。特に素材産業を中心に発展した山形では、その先進モデル地域となることが期待できる。

今回のワークショップは、参加者全員が個別にオンラインで参加する完全オンライン形式で実施した。当センターでは初めての試みであったが、全国から容易に参加できるメリットに加え、付箋の代わりにチャットで意見を記載する方法では、各参加者から具体的な意見を伺うことができ集約することができた。一方で、事務局側による意見集約作業の時間的な制約により、チャットで受け付けられる意見数が制限された。今回のような意見集約を目的としたワークショップでは、物理的に集まるワークショップと比べより具体的な意見が多くの参加者から得られたと感じている。今回のオンラインワークショップの経験は、今後の科学技術予測での将来ビジョンやシナリオ作成において、特に多様な意見を集約する場合など、目的に応じ適宜活用できると考えられる。

謝辞

今回のワークショップは、NISTEPの客員研究官であり、やわらか3D共創コンソーシアム会長の山形大学古川英光教授の御支援により実現した。古川教授はじめ御参加いただいたやわらか3D共創コンソーシアムの関係者、会員企業、山形大学及び山形県関係者の皆様に心から感謝申し上げる。また、招待講演を快諾いただいた、ヤマガタデザイン株式会社長岡太郎室長、佐藤繊維株式会社佐藤正樹社長に深く感謝申し上げる。


注 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的設計生産技術」の成果として、山形大学が立ち上げたコンソーシアム(会員企業17社、2021.4.1現在):https://soft3d-c.jp/

参考文献・資料

1) 科学技術予測センター、「第11回科学技術予測調査 総合報告書」、科学技術・学術政策研究所、NISTEP REPORT No.183、2019年11月:https://doi.org/10.15108/nr183

2) 重茂浩美、蒲生秀典、小柴等、「第11回科学技術予測調査 2050年の未来につなぐクローズアップ科学技術領域―AI関連技術とエキスパートジャッジの組み合わせによる抽出・分析」、科学技術・学術政策研究所、調査資料-290、2020年6月:https://doi.org/10.15108/rm290

3) 蒲生秀典、ほらいずん「デルファイ調査座長に聞く「科学技術の未来」:マテリアル・デバイス・プロセス分野-材料科学分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に向けて-東京大学大学院工学系研究科 榎 学 教授インタビュー」、STI-Horizon Vol.6, No.4: https://doi.org/10.15108/stih.00235

4) 科学技術予測センター、「地域の特徴を生かした未来社会の姿~2035年の「高齢社会×低炭素社会」~」、科学技術・学術政策研究所、調査資料-259、2017年6月:https://doi.org/10.15108/rm259

5) 古川英光、蒲生秀典、ほらいずん「3Dプリンティングから4Dプリンティングへ-デジタルファブリケーションの新たな展開-」、STI-Horizon Vol.7, No.2: https://doi.org/10.15108/stih.00258