STI Hz Vol.10, No.2, Part.8:(レポート)日本人ストレート博士学生、日本人社会人学生、留学生で大きく異なる進路意識と経済的支援- 2022 年度実施の博士1 年調査より-STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00373
  • 公開日: 2024.06.25
  • 著者: 齋藤 経史、渡邊 英一郎
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.10, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
日本人ストレート博士学生、日本人社会人学生、
留学生で大きく異なる進路意識と経済的支援
-2022年度実施の博士1年調査より-

第1調査研究グループ 上席研究官 齋藤 経史、総括上席研究官 渡邊 英一郎

概 要

科学技術・学術政策研究所 第1調査研究グループは、2022年12月から2023年1月にかけて「令和4年度 博士(後期)課程1年次における進路意識と経済的支援に関する調査(以下、博士1年調査と記す)」を実施した。本稿においては、調査対象者を「非社留(≒日本人ストレート博士学生):社会人学生でも留学生でもない者」「社学生:社会人留学生を除く社会人学生」「留学生:社会人留学生を含む留学生」の3種の区分を行い、その調査結果を示す。これらの3種の区分によって、博士(後期)課程1年次学生の進路意識や経済的支援の状況は大きく異なっている。各区分に適した政策や支援が求められる。

キーワード:博士課程学生,社会人学生,留学生,進路意識,経済的支援

1. 博士1年調査の概要

(1)調査対象者

調査時点において、日本国内の大学に在学する博士(後期)課程1年次であった者全て(2022年4月以降に博士(後期)課程に入学した者)を調査対象者とした。なお、5年一貫制博士課程については、3年次を博士後期課程1年次相当と見なすものとした。

(2)調査方法

調査時点において日本国内の博士(後期)課程を持つ大学事務局に対して事務局向け調査依頼、調査関連ファイルを電子メールで送付した。各大学事務局から在学する調査対象者に対して回答者向けの調査依頼(日本語版・英語版)と調査用IDの配布を依頼した。それらを受領した調査対象者は、指定された調査用ウェブサイトにアクセスし、日本語版または英語版のウェブ調査票を選択して回答をした。

(3)博士学生向けのウェブ調査の実施期間

全大学向けウェブ調査実施期間:2022年12月19日~2023年1月31日注1

(4)母集団相当数、有効回答数、回答率

大学事務局より回答のあった調査対象者の合計値(母集団相当数)注2:17,218人

必須回答の全ての設問に回答した本稿における有効回答数:6,153人

調査対象者の合計値(母集団相当数)に対する有効回答率:35.7%

(5)ウェブ調査票の主な調査内容
  • 回答者の基本属性(性別、生年、研究分野、留学生、社会人学生などの属性)
  • [在職する社会人学生の場合]雇用先の服務の扱い、基本給の変化、得られる月収
  • 博士(後期)課程への進学を決めた時点と比較しての研究環境に関する所感
  • 博士(後期)課程修了後の進路に関する希望、日本国内在住の見込み
  • 令和4年度におけるTA・RA、アルバイト・副業の従事時間、収入
  • 各種の経済的支援の該当有無および給付・貸与額

2. 調査対象者における3区分:[非社留][社学生][留学生]

博士1年調査においては、公的統計の学校基本調査の定義に準拠して「留学生」および「社会人学生」の該当有無に関してウェブ調査票で回答者本人に尋ねた。なお、本調査における「留学生」とは、概して日本国内の大学・大学院に留学する目的を持って入国した外国人学生を指す。また、本調査における「社会人学生」とは、経常的な収入を得る仕事に在職している者(休職中を含む)または在職していた者あるいは主婦・主夫を指している。

図表1は、本稿における有効回答者数6,153人に関する「社会人学生」「留学生」の内訳を示している。図表1の内側のグラフは「社会人学生でも留学生でもない者」「社会人留学生を除く社会人学生」「社会人留学生を含む留学生」の3種の区分に大別した人数と割合を示している。なお、本稿では、これら3種の区分を[非社留][社学生][留学生]と略記する。[非社留]は日本国内の高等学校を卒業後に大学進学をした者であれば外国籍の者も含まれるが、概ね日本人ストレート博士学生と言い換えることもできる。これら[非社留][社学生][留学生]の3種の区分はそれぞれ30%台となっており、同水準の割合となっている。

また、図表1の外側のグラフでは[社学生]および[留学生]の在職に関する内訳を示している。[社学生]においては、在職中の者が89%、退職後または主婦・主夫が11%であった。一方、[留学生]においては社会人学生に該当しない者が84%、在職中の者が10%となっていた。

図表2では図表1にて示した[非社留][社学生][留学生]の割合を各回答者が在籍した専攻の研究分野別に示している。[非社留]の割合が最も高い研究分野としては理学分野の65%、人文分野の41%となっている。[社学生]の割合が最も高い研究分野としては教育分野の52%、保健分野の51%となっている。[留学生]が最も多い研究分野としては社会分野の49%、工学および農学分野の各45%となっている。[非社留][社学生][留学生]が、分野計においてそれぞれ30%台であるが、図表2は研究分野によってこれら3区分の構成比率は、大きく異なることを示している。

図表1 社会人学生と留学生に関する回答内訳(社会人学生の在職内訳含む)図表1 社会人学生と留学生に関する回答内訳(社会人学生の在職内訳含む)

図表2 社会人学生および留学生に関する回答割合図表2 社会人学生および留学生に関する回答割合

3. 調査対象者を3区分した進路意識

次ページの図表群の左側の図表3から図表5では、[非社留][社学生][留学生]の各区分における「博士課程修了後に希望する就職先・専門職」の割合を示している。また、次ページの図表群の右側の図表6から図表8では各区分における「博士課程修了後に希望する教育研究職の度合い」を示している。なお、本調査において『「教育研究職」とは、教育・研究機関の教職員、研究職公務員、民間企業の研究従事者を指す』と調査票に示した。

「博士課程修了後に希望する就職先・専門職」を示す図表3から図表5を見ると、3種のいずれの区分でも人文、社会、教育分野では「大学・教育機関」を希望する割合が最も高い。一方で工学分野に関しては、[非社留][社学生]において「民間企業」が「大学・教育機関」を上回り、それぞれ41%、49%を占めている。また、保健分野に関しては3種の各区分において「専門職」の希望者が27%~35%を占めている。また、前述したように[非社留][社学生][留学生]で研究分野の構成割合が異なることには留意が必要だが、研究分野計において「大学・教育機関」を希望する割合は[留学生]において58%となっており、[非社留]の35%、[社学生]の36%に比べて高くなっている。

「博士課程修了後に希望する教育研究職の度合い」を示す図表6から図表8において、各図の最下段に示した分野計では「強く教育研究職を希望する+やや教育研究職を希望する」を合算した割合の高い順に[留学生]の70%、[非社留]の56%、[社学生]の51%となっている。この合算した割合を[非社留]と[留学生]の間で分野別に比較すると、保健、工学、農学分野において[非社留]が10%以上低くなっている。また、研究分野計において、この合算した割合は[留学生]において70%となっており、[非社留]の56%、[社学生]の51%に比べて高くなっている。

図表3 希望する就職先・専門職[非社留]図表3 希望する就職先・専門職[非社留]

図表4 希望する就職先・専門職[社学生]図表4 希望する就職先・専門職[社学生]

図表5 希望する就職先・専門職[留学生]図表5 希望する就職先・専門職[留学生]

図表6 希望する教育研究職の度合い[非社留]図表6 希望する教育研究職の度合い[非社留]

図表7 希望する教育研究職の度合い[社学生]図表7 希望する教育研究職の度合い[社学生]

図表8 希望する教育研究職の度合い[留学生]図表8 希望する教育研究職の度合い[留学生]

4. 調査対象者を3区分した収入、経済的支援の状況

博士1年調査においては経済的な状況に関する調査項目として、「TA(ティーチングアシスタント)の収入」、「RA(リサーチアシスタント)の収入」「アルバイト・副業による収入」「日本学生支援機構による貸与奨学金」「授業料減免額」および「その他の経済的支援の受給額」を調査した。加えて、在職している社会人学生に関しては、雇用先から得られる月額平均の収入額を区間形式で尋ねた。

本稿では、各専攻における授業料から「授業料減免額」を差し引くことで各回答者の実質授業料を算出した。また[非社留][社学生][留学生]の各区分と各研究分野において、収入を伴う業務実施や経済的支援に該当した割合および該当した場合における収入・支援額の中央値を導出した。

図表9では、各種の収入を伴う業務および授業料減免を除く経済的支援に該当した割合に加えて、それぞれに該当した場合の年額換算の受給額の中央値を一覧で示している。なお、本調査において、日本学生支援機構の貸与奨学金と授業料減免以外の経済的支援は、「その他の経済的支援」と総称した。「その他の経済的支援」に関しては、年額で調査した日本学生支援機構の貸与奨学金および授業料減免とは異なり、従事や該当した月における平均的な月額を調査した。このため、TA、RA、アルバイト・副業および「その他の経済的支援」に関しては月額を12倍することで年額に換算している。

図表9では、回答全体に加えて、[非社留][社学生][留学生]の各属性における該当割合と中央値を示している。図表9において該当割合は当該業務に従事したり、当該支援を受けたりしている割合を指している。また、図表9のそれぞれの年額換算の中央値は当該業務、支援に従事した場合における1年間の収入・支援額を指している。例えば、図表9における[非社留]の「人文」を見ると、TAに該当する割合は52%で過半が該当するが、TA収入の年額中央値は24万円と相対的に低額となっている。一方で、[非社留]の「人文」において、RAに該当する割合は18%であるが RA収入の年額中央値は56.4万円と相対的に高額となっている。図表9では、当該業務、経済的支援に該当する割合は高いが、該当しても金額が小さい項目がある一方で、該当する割合は低いが、該当した場合の金額が高い項目もある。加えて、図表9の最も右側の列にある貸与型比率は、「その他の経済的支援」に占める貸与型支援の該当割合を示している。

図表9の[非社留]の「分野計」では、回答者の51%が「その他の経済的支援」の支援該当者であったことを示している。さらには、その支援該当者の97%が中央値で年額216万円の給付型支援を受け、支援該当者の3%が中央値で年額72万円の貸与型支援を受けたことを示している。給付型支援額の中央値は貸与型支援額の中央値の3倍となっているが、給付型支援の該当割合は貸与型支援の該当割合に比べ30倍以上高くなっている。日本学生支援機構の貸与奨学金を除けば、金額面と該当割合面の双方において博士(後期)課程1年次学生への経済的支援は給付型が主流になっていることが示されている。

図表9には該当割合の多寡と該当した場合の金額の高低の両方を確認できるという長所がある一方で、表形式で情報を読み取りづらいという短所がある。このため、収入・支援に該当する割合(確率)と該当した場合における中央値を掛け合わせることで、中央値に基づく期待収入・受給額を算出し、図で示したのが図表10である。

なお、期待値相当額として平均値の代わりに中央値を利用する主な理由としては、中央値が平均値に比べて極端な値の影響を受けにくいことが挙げられる。本調査においては、経済的支援等の金額を回答者の金額記入によって調査した。月額100万円以上の経済的支援等の非現実的な金額に関しては、回答者が意図した回答が推測できる場合は修正して集計対象に含めるか集計対象から除外することとした。一方で、突出した金額であっても現実的にあり得る金額に関しては記入された回答の金額を集計対象とした。期待値の算出において平均値を用いると回答者の記入ミスの可能性がある極端な値から大きな影響を受ける。このため、平均値の代わりに中央値を用いることで極端な値の影響を受けにくい期待値相当額を算出した。

図表10では、各区分と各研究分野において「減免額を差し引いた実質授業料の年額中央値」と「各種収入・受給額の該当割合と中央値の金額に基づく期待値相当額(年額換算値)」を示している。なお、在職している社会人学生に関しては、グラフ内にある点線囲みの中に「雇用先から得られる収入の年額換算値」および各区分、各研究分野における「在職している社会人学生の割合」を示している。

図表10の右上図の[非社留]は、図表10の他の図に比べて「TA収入」「RA収入」「給付型の経済的支援」「貸与型の経済的支援」の各項目の数値が大きく、収入・支援額が右側に伸びる傾向にある。分野計の収入・支援額を見ると、「TA」「RA」「アルバイト・副業」によって年間62万円の収入を得る一方で、106万円の給付型支援および42万円の貸与型支援の受給が期待値相当額となっている。

図表10の左下図の[社学生]は図表10の他の図と異なり、グラフの横軸の上限を150万円へと短くしても、保健分野を除いて収入・支援額が図表10の他の図に比べて短くなっている。一方で、点線囲みの文字で示された「在職する社会人学生の雇用先からの年額換算収入」は分野計で354万円、点線の括弧内に示された在職する社会人学生に該当する割合が89%となっている。[社学生]に該当する者の約9割が在職している状態で博士(後期)課程に在籍し、在職している場合は雇用先から約350万円の収入を得ることが期待値相当額となっている。

図表10の右下図の[留学生]の分野計において、「減免を除く実質授業料」は35万円となっており、3種の区分の中で最も小さくなっている。また、「給付型の経済的支援」は年額97万円となっており、右上図の[非社留]の年額106万円に近い水準となっている。一方で、「TA収入」「アルバイト・副業」の金額は[非社留]の半額以下、「RA収入」の金額は[非社留]の3分の2となっており、労働を伴う収入は[非社留]に比べて少なくなっている。また、日本学生支援機構による貸与型奨学金を含めて留学生向けの貸与型経済的支援制度は希少であり、[留学生]に対する貸与型の経済的支援は、ほとんどゼロとなっている。

博士(後期)課程1年次の学生の中でも[非社留][社学生][留学生]の3種の区分によって、進路意識や経済的支援の状況は大きく異なっている。各区分に応じた支援政策や取組が求められる。

図表9 収入を伴う業務と経済的支援の該当割合と受給額の中央値(年額換算値)図表9 収入を伴う業務と経済的支援の該当割合と受給額の中央値(年額換算値)

図表10 収入・支援の該当割合と中央値に基づく期待値相当額(年額換算値)図表10 収入・支援の該当割合と中央値に基づく期待値相当額(年額換算値)


注1 大学全体向けの回答期限は2023年1月31日としたが、締切時点における回答率が大幅に低い大学に関しては、個別の大学事務局に最長で2月21日までの回答期間の延長を伝達し、調査対象者への回答督促を依頼した。

注2 大学事務局による調査対象者数の回答がなく、調査対象者への調査用IDの配布を行わなかったと考えられる大学が、小規模大学を中心に33校ある。(調査無回答校には、調査対象者が在籍していなかった可能性もある。)

出典(報告書本体)

1) 齋藤経史,渡邊英一郎「博士(後期)課程1年次における進路意識と経済的支援状況に関する調査-令和4年度(2022年12月~2023年1月)実施調査-」,NISTEP DISCUSSION PAPER,No.226,文部科学省 科学技術・学術政策研究所.DOI: https://doi.org/10.15108/dp226