STI Hz Vol.9, No.3, Part.4:国立研究開発法人 防災科学技術研究所 主任研究員 久保田 達矢 氏インタビュー 地震・津波の未知なるメカニズムを探る -地震の原体験とサイエンスへの好奇心-STI Horizon

  • PDF:PDF版をダウンロード
  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00342
  • 公開日: 2023.09.25
  • 著者: 北島 謙生、深見 陸
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.9, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流
国立研究開発法人 防災科学技術研究所 主任研究員 久保田 達矢 氏インタビュー
地震・津波の未知なるメカニズムを探る
-地震の原体験とサイエンスへの好奇心-

聞き手:第2研究グループ 研究員 北島 謙生
企画課 係員 深見 陸

地震・津波の未知なるメカニズムを探究する久保田達矢氏。2022年1月のトンガ噴火の際に発生した津波は予測より早く日本に到来し、津波の発生メカニズムが大気ラム波と呼ばれる音速の波によるものであることをシミュレーションにより実証した。その研究成果はサイエンス誌でいち早く公表され、気象庁における情報発信の運用の改善にも貢献するなど、大きな社会的インパクトを与えた。この研究以外にも、2011年の東北地方太平洋沖地震などに関する研究も進めている。今回、ナイスステップな研究者2022に選定され、自身の研究内容やその経緯、歩んできたキャリアパス、将来構想について話を伺った。

防災科学技術研究所 主任研究員 久保田 達矢 氏(NISTEP撮影)

防災科学技術研究所 主任研究員 久保田 達矢 氏
(NISTEP撮影)

- 現在の地震・津波の研究をされるに至った経緯をお聞きします。教員も経験された後、ドクターを取られたようですね。なぜ研究者になられたのかをお聞かせください。

大学入学時は研究者になろうと思っていた訳ではなく、安定した職業につければ良いくらいの気持ちでした。東北大学理学部(物理系)に入学し、2年次のコース選択の際に、物理学、天文学、地球物理学の3つの選択肢がありましたが、フィールドに出て体を動かしたいという素朴な考えから地球物理学を選びました。4年次の研究室配属では、私は宮城県出身で、昔からいつか宮城県沖地震が起こると言われて育ってきており、地震や津波はなじみ深い現象だったことから、地震に関する研究室を選びました。研究室配属後も研究者になろうとは考えていなかったのですが、大学卒業の間際の2011年3月11日に「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(以下、3.11)が起こりました。自らも被災者として過ごした中、この地震のことを深く知りたいと思うようになり、大学院での研究を始めました。修士課程修了後は一度、教職に就くのですが、大学院で研究の楽しさに気づいてから、教員になった後も研究を継続したいと考えていました。ところが、日々の忙しさに研究の時間をなかなか確保できず、最終的には教員を辞めて博士後期課程に進学する決断をしました。

博士課程に進んでからは、純粋なサイエンスとして3.11がなぜ起こったのかを理解したいという思いで研究を進めました。地震学分野では、世の中に直接的に役に立つ研究をされる方も多いですが、私はそのメカニズムの方に関心がありました。博士3年の12月頃に運良く国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)のポスドクの公募が出たので応募し、現在まで研究を続け、2023年4月にパーマネント職になりました。

- 防災科研に赴任された当初はどのような研究をされていたのでしょうか?

防災科研に赴任したのは3.11から6年が経過した2017年4月でした。2016年には気象庁が日本海溝海底地震津波観測網(S-net)のデータを津波情報に活用し始めましたが、そのデータはまだ世の中に公開されていない段階でした。S-netにより東北沖で発生した地震・津波の記録が得られ始めており、私はこれらの現象が3.11による何らかの影響を受けて発生したはずだと予想し、これらのデータの解析を進めました。そのメカニズムを調べれば、なぜ3.11のような地震が発生したのかわかるかもしれません。また、世界にも類を見ない新しい観測網を使って3.11の後の地震活動を調べるという研究テーマには大きな新規性があったことも、この研究に取り組み始めた理由です。最近は3.11に限らず、南海トラフのようなプレート沈み込み帯で発生する巨大地震のメカニズムも研究しています。南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)の建設も現在進んでおり、今後、より活発な研究が進むテーマだと思います。

- ナイスステップな研究者への選定の対象となった、2022年1月のフンガ・トンガ噴火による津波の発生メカニズムですが、なぜこのテーマを始められたのでしょうか。

まず経緯としては、2022年の1月にトンガの噴火が起き、噴火による津波の発生メカニズムを解析して、同年5月のサイエンス誌で発表しました。地震学では、世界的に注目度の高い自然現象をタイムリーに解析し論文にまとめることが重要です。実際、ほぼ同じような構成、結論の論文が我々の論文が出てからしばらく後にネイチャー誌に出版されました。

世界に先駆けてこの研究をいち早く論文にできた理由には、その前に我々が発表していた論文の内容が関係します。2020年の7月、関東地方などの上空で火球が目撃され、話題になりました。その火球は後に習志野隕石(いんせき)と言われるものです。ニュースを見て、火球の一部が太平洋に落ちた可能性があると考えてS-netの記録を調べてみると、津波のような波形が記録されていました。ところが、しばらくして千葉県の習志野市や船橋市で隕石が発見されたという情報が出てきて、S-netの波形は隕石によって生じた津波ではなさそうだと分かってきました。不思議に思いつつ他の観測データを調べてみると、その当時、東北の沖合で低気圧が発達していることに気がつき、気象津波という現象に思い至りました。気象津波は1980年代から研究されている現象で、日本では長崎県で観測される「あびき」が有名です。その物理的なメカニズムは大分理解が進んでいて、低気圧の移動により津波が生じます。天気図や気圧計で観測された低気圧を元に気象津波をシミュレーションすると観測結果をうまく説明できそうな感触があり、本格的に気象津波の解析を始めました。火球が目撃されてから半年後の年明けには内容を短いレターにまとめて投稿したのですが、修正に非常に時間がかかり、論文が公開されたのは2021年10月でした。

その後、論文公開から3か月後の2022年1月15日にトンガの噴火が起こりました。初めは津波も来ないだろうとさほど注目していなかったのですが、実際には日本でも津波が観測され、気象庁による緊急の記者会見も開かれました。会見では日本全国で気圧変化が観測されたという話があり、気象津波と似ている印象を持ちました。そこで、すぐに共同研究者の方と相談し、解析を始めました。前の論文の記憶が残っていたこともあり、すぐに解析に着手することができました。論文受理までに時間がかかったことが、良い方向に働きました。

図表1 気象津波のメカニズム図表1 気象津波のメカニズム

久保田 達矢 氏 提供資料

- 今回の成果をサイエンス誌に投稿されたのはなぜでしょうか。噴火発生から論文公表まで約4か月とスピード感がありましたね。

噴火から1週間ほどで予備解析の結果が出ました。当初は査読に余り時間のかからないレター誌に投稿するつもりでしたが、コーヒーを飲みつつ周囲の研究者の方と結果を見ながら雑談していたところ、サイエンス誌にチャレンジしてみてはどうか、との話が出ました。そこで一大決心し、本解析の後に論文を投稿しました。噴火から投稿まで約3週間です。マイナー改訂を挟みつつ5月3日に論文受理の連絡がありました。このとき、サイエンス誌の編集部から、論文を5月12日に公開できるかという打診があり、受理から公開までのスピード感に驚きました。タイムリーなイベントだからという理由に加えて、他グループによる噴火における大気圧変化の計測に関する論文が受理されており、その論文と公開するタイミングを合わせたいという意図もあったようです。我々は元々、気象津波の研究において、様々な条件でシミュレーションを行っており津波がどのような振る舞いを示すかはある程度分かっていたため、トンガの噴火における津波のシミュレーションでもやみくもに解析をスタートするのではなく、ある程度当たりをつけてシミュレーションを始めることができました。さらに、ちょうどコロナ禍でテレワーク環境も整いつつあり、集中して解析を進められたことも今回の成果を後押ししたと思います。

- 久保田先生が担当されたシミュレーションについて教えてください。オリジナリティのある点や苦労した点などがあれば教えてください。

まず、世界中に展開された気圧計と海底津波計の観測データを見てみました。津波の速度は水深でほぼ決まることが知られていて、太平洋上では、場所によりますがおおよそ200から250m毎秒の速さで伝わります。しかし、実際に津波の第一波が到達したタイミングはこの速度から予想されるよりも早く、火山を中心に300m毎秒くらいの速さで同心円状に伝わっていました。気圧計でも、大気ラム波と呼ばれる300m毎秒の速さで伝わる気圧の波が観測されていました。これらの情報をもとにシミュレーションの計算条件を設定しました。

シミュレーションでは、通常の地震による津波の伝播でも使われる方程式(波動方程式)に、大気圧の変化に由来する外力項を加えた形の支配方程式に基づいて津波を計算しました。その結果、津波計の観測データの第一波部分をよく再現していたため、原因がラム波であることがわかりました。

気象津波は少し不思議な現象です。沖合に低気圧があるとき、通常は海面を吸い上げます。海面が盛り上がるので、押し波がやってくるように思えますが、実際の気象津波の観測データをみると、引き波が来てから押し波が来ており、直感に反しています。この矛盾について、私は以下のように解釈しています。低気圧が移動しているとき、その前方ではあたかも低気圧がその場に発生する、と考えることができます。低気圧が生じると、その場所では海面が吸い上げられ隆起しますが、海水の総体積は保存するので、周囲の海水は下にさがります。これが引き波となって周囲に伝わります。一方で、低気圧が移動していった後方では、低気圧が消失する、言い換えると高気圧が発生すると考えることができ、前方とは反対に押し波が生じて周囲に伝わります。これにより、移動する低気圧の前後では、引き波と押し波が追随して走ることになります。低気圧がゆっくり動くときには、この引き波と押し波が互いに打ち消し合うため、津波は生じません。しかし、ある条件下では打ち消し合わず、どんどん成長していきます。これが気象津波です。トンガの噴火の津波において、実際に観測された津波では、大気中を高気圧が通過するのだから引き波がやってくるのだろうと予想したのですが、第一波では押し波が到達しており、その理由を理解するのに最初は苦労しました。最終的には、先に述べた引き波・押し波による定性的な解釈と同じ原理で解釈できました。噴火の津波と気象津波で同じところもあれば違うところもあり、その理由を解釈する上で苦労しましたね。

- 大気ラム波による津波発生の観測例は今回が初めてということでしょうか。

火山の噴火により生じた大気ラム波が津波を励起した例は、今回のほかには1883年に発生したインドネシアのクラカタウ火山の噴火によるものがあります。例えば、1967年にHarkrider氏によって発表された論文(doi: 10.1111/j.1365-246X.1967.tb02150.x)が有名です。核実験が世界中で行われていた1960年代には、その核実験での爆発による大気ラム波の発生が観測されていたようで、研究も大きく進んだようですが、その後は余り研究がされなくなり、今回トンガの噴火で改めて注目されることになったという形です。

- 大気ラム波の影響を含めて、津波の到達時刻など、今後の予測技術にも活用されていくのでしょうか?

今回のトンガの噴火では、当初、気象庁は津波による被害の可能性は低いとして、注意報などは発表しませんでした。しかし、時間が経過するにつれ日本の沿岸で潮位変化が観測されるようになり注意報や警報が急きょ発表されました。これを受けて、気象庁は津波の情報発信の仕組みを改善し、大気ラム波による津波が生じた可能性を考慮するようになりました。実際、2023年4月にロシアのカムチャツカ半島で噴火があった際は、津波の可能性に注意するよう気象庁が呼び掛けました。一方で、やみくもに津波注意報と警報を発出するようになると人々に混乱を招く恐れがあります。今後の津波予測の仕組みにおいて、より精度の高い津波情報の提供が求められます。

現状では、火山噴火による津波の発生の可能性を予見することは困難です。1991年、フィリピンのピナツボ火山で起きた噴火は規模としては非常に大きく、噴火の規模を表す火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI)ではトンガの噴火の規模と同じくらいですが、このときに津波が発生したという観測事実は報告されていません。どういう噴火で津波が発生するかだけでなく、未知の海底火山もあるでしょうし、それらがどの程度マグマをためているか、大気ラム波が共鳴を引き起こす条件など、未解明の点が数多くあります。

事前に津波の可能性を予見することができない以上、今後の運用としては、気象庁の職員の方々が気象衛星や世界中の気圧観測のデータをリアルタイムで監視することで津波の有無を判断し、情報を随時更新していくことになります。一般市民である我々としても、このような難しさがあることを認識し、常に最新の情報を入手し警報等の発表に併せて即座に避難などの対応をすることが重要だと思います。

- 新しいテーマに取り掛かるときは、雑談の中で着想を得て始めるのか、それとも次はこれをやろうというアイデアの中から選択するのでしょうか。

地震や津波、火球の件もそうですが、何かしら特殊な自然現象が起こったときはまずデータを眺めるようにしています。防災科研の中でも、大きな地震が起こると皆モニタールームに集まって雑談や議論をします。その中で今後研究したら面白そうだなというデータや現象があっても、現在自分が持っているツールでは解析できなかったりします。その場合、脳内のいつかやるフォルダのような場所に入れておき、やがて新しい手法を覚えたときに取り出して解析することが多いです。今回のサイエンスの論文もまずデータを眺めるという意識がうまくはまった形でした。

- 今後の研究活動におけるビジョンや抱負についてお話しください。また、若い研究者に向けてメッセージがあればお聞かせください。

これまで純粋な興味から3.11のような地震や津波がなぜ起きたかを調べてきましたが、そこで得られた知見を世の中に役立てたいと考えています。例えば南海トラフでは近い将来に大きな地震が起こると考えられていますが、起こりうるシナリオを考える上で、3.11の知見は重要になると思います。日本に限らず世界中から地震や津波のデータを幅広く見ながら、研究成果の創出につながるいろいろなことができるよう心がけています。

私はいったん就職してから博士課程に進学しましたが、今となってはそれが良い方向に働いたと思っています。一つは、進学後、金銭面で困窮する学生も多いと思いますが、私自身は働いてためたお金もあったので、経済的な苦労は小さく済みました。もう一つは、いろいろな選択肢があるということが分かり、博士を取った後もどこかに就職できるだろう、と楽観的な気持ちで研究を続けられたことです。一方で、最近の研究環境を見ると、面白い研究をしておられる修士の方が博士課程に進学せず就職されたり、進学後に博士取得を諦めたりするケースもあると聞きます。博士の学位を十分に活かせる職業は日本ではまだ限られるのでその選択に共感はできるものの、もったいないという感想を持っています。今では社会人博士をされる方も増えていると聞きますし、個人的にはいったん就職してから博士課程に進むルートもありだと思います。また、博士を修了したあとのキャリアパスとしては、大学などでポスドクをするのが一般的ですが、防災科研のような公的研究機関の研究職もありますし、最近では博士を採用する企業も増えつつあると聞きます。私の場合、自分の興味を突き詰めていった結果、良いサイエンスの研究につながったと思います。大変苦労されている若手や学生の方も多いと思いますが、現状にめげず、興味関心をベースに研究を続けていってほしいと思います。

(2023年6月9日インタビュー)

(中央)久保田主任研究員、(左から)深見、北島(NISTEP撮影)

(中央)久保田主任研究員、(左から)深見、北島
(NISTEP撮影)