STI Hz Vol.8, No.2, Part.3:(レポート)成長期を迎えた研究費に係る体系的番号-現状と更なる浸透のために求められること-STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00292
  • 公開日: 2022.05.25
  • 著者: 伊神 正貫
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.8, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
成長期を迎えた研究費に係る体系的番号
-現状と更なる浸透のために求められること-

科学技術予測・政策基盤調査研究センター長 伊神 正貫

概 要

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、論文の謝辞情報を用いて事業レベルの分析を可能とし、研究者への負担も軽減するための方策として、我が国の公的資金に統一した形式の課題番号を導入することを提案し、その実現に向けての取組を行ってきた。これらの取組の結果として、2020年1月14日に、総合科学技術・イノベーション会議事務局が運営する競争的研究費に関する関係府省連絡会において、「論文謝辞等における研究費に係る体系的番号の記載について」の申し合わせがなされ、各種の事業に対する体系的番号の付与が進んでいる。本稿では、「体系的番号に係る申し合わせ」以降に、体系的番号の活用が進んでいることを示す。また、体系的番号の一層の浸透に向けて、資金配分機関、研究者、学会・ジャーナルのそれぞれについて、今後、求められる取組について指摘する。

キーワード:論文謝辞,体系的番号,資金配分機関

1. はじめに

科学技術への投資とそこから得られた成果の関係性を計測・理解することは、科学技術・イノベーション政策や研究マネジメントを行う様々な局面において重要となる。これらの分析を可能にする基礎として、どういう予算(事業・資金)からどのような成果(ここでは主にジャーナル論文を想定)が生み出されたかを可視化するための情報が必要である。

事業等によるファンディングとその成果を結びつける方法として、論文の謝辞情報の活用が考えられる。NISTEPでは、論文の謝辞情報の詳細な分析を行うことで、謝辞中でのファンディング情報の記述状況を明らかにするとともに、謝辞情報を用いて事業レベルの分析を可能とし、研究者への負担も軽減するための方策として、我が国の公的資金に統一した形式の課題番号(体系的番号注1)を導入することを提案し、その実現に向けての取組を行ってきた12)

これらの取組の結果として、2020年1月14日に、総合科学技術・イノベーション会議事務局が運営する、競争的研究費に関する関係府省連絡会において、「論文謝辞等における研究費に係る体系的番号の記載について」の申し合わせ(以降では「体系的番号に係る申し合わせ」と記述)がなされ3)、各種の事業に対する体系的番号の付与が進んでいる。

本稿では、「体系的番号に係る申し合わせ」の概要を紹介した後、論文の謝辞の分析を通じて体系的番号の活用が進んでいることを示す。また、体系的番号の一層の浸透のために、資金配分機関、研究者、学会・ジャーナルのそれぞれについて求められる取組について指摘する。

2. 体系的番号に係る申し合わせ

ここでは、「体系的番号に係る申し合わせ」をもとに、体系的番号の趣旨と対象制度、付与方法、導入及び運用について概観する。詳細については、「体系的番号に係る申し合わせ」の本文を参照されたい3)

2.1 趣旨と対象制度

「体系的番号に係る申し合わせ」では、「各事業と論文を適切に紐づけて研究成果・研究動向等との関係を明らかにし、エビデンスベースの各事業/各機関の評価や政策立案等の参考の一つとして活用するため、研究費ごとに体系的番号を付与するとともに、論文の謝辞や論文投稿時において体系的番号を記載するよう周知徹底を図る」とされている。体系的番号の付与対象は、競争的研究費の各制度(事業)であり、2020年度以降実施予定で、番号付与等の準備のできたものから順次開始するとされている。なお、2019年度以前から実施されている事業においても、番号の付与は可能であり、科学研究費助成事業(以降では「科研費」と記述)、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構の各種事業では、先行して体系的番号の導入が行われている456)

2.2 体系的番号の付与方法

体系的番号は、すべての競争的研究費の各事業について、同じルールで付与することを想定していた。しかし、関係府省等との調整が進む中で、既に独自に付与を進めている事業が存在する、事業によって体系的番号によって把握したい情報の粒度が異なる等の個別の事情があることが判明し、大きく分けて次の3つのパターンで付与することとなった。いずれについても、「JP」から始まる文字列となっている点が特徴である。

(1) e-Rad(府省共通研究開発管理システム)注2に登録されている事業コード(以下、e-Rad事業コードという)を利用して体系的番号を付与

(2) e-Rad事業コードを利用せず、独自の番号等を利用して新しく体系的番号を付与

(3) 既に番号を導入済みの事業は、現行の方法で付与(科研費等)

2.3 体系的番号の導入及び運用

各事業への体系的番号の付与は関係府省等が行い、体系的番号と事業名の対応関係の情報についてはNISTEPに連絡することとなっている。NISTEPは、体系的番号のリストをWebサイト7)にて公開している。

これに加えて、関係府省等は研究者に対し、公募採択時等に体系的番号を周知するとともに、論文の謝辞において体系的番号を記載するよう周知を図るとされている。

3. 体系的番号の導入状況の把握

ここでは、論文の謝辞における体系的番号の記入の状況を把握した結果を、その手法とともに説明する。後ほど説明するように、現時点では、論文謝辞への体系的番号への記述が徹底されている状況にはない。本稿で体系的番号の出現頻度を示すのは、体系的番号の導入状況を調べるためであり、各事業の評価に用いることは不適当である。

3.1 論文謝辞データの抽出

論文謝辞データはクラリベイト社の論文データベースであるWeb of Science Core Collection(以降では「WoSCC」と記述)から取得した。取得の手順は以下のとおりである。

まず、WoSCCにおいて、出版年(PY)を2019~2021年、助成金登録番号(FG)を「JP*(ここで*は任意の文字数のワイルドカード文字である)」として、Web of ScienceのAPI(Application Programming Interface)を用いてJSON形式により論文情報を取得した。APIによるデータ取得は2022年3月7日に行った注3

次に、JSON形式のデータから、各論文について、WoSCCにおける論文のユニークなID(アクセッション番号)、論文の出版年、論文中の謝辞の記述を抽出した。

3.2 体系的番号データの整備

体系的番号データは、NISTEPのWebサイト7)で公開されている「【体系的番号一覧(令和3年7月14日更新)】」から取得した。この一覧から、資金配分機関、事業・制度名、体系的番号を取得し、JSON形式で整備した。整備した体系的番号データには約280の事業・制度名が収録されている。

3.3 分析方法

上記で整備した、論文謝辞データと体系的番号データを用いて、以下の手順で、論文謝辞中に記述されている体系的番号の同定を行った。

まず、謝辞の記述を、空白記号を用いて分かち書きした。その際、分かち書きした文字列中に含まれる、カッコ等の記号は削除した。分かち書きで得られた文字列のうち、「JP」から始まる文字列を抽出した後、文字列の最後に含まれるピリオドやカンマ等の記号を削除した。

これまでに述べた方法で得られた「JP」から始まる文字列と、「JP」から始まる体系的番号の文字列を比較し、完全一致するものを抽出した。その際、体系的番号の桁数が多いものからマッチングを行った。これは、現状では体系的番号の中で、桁数が一番小さいものは9桁、一番大きいものは16桁であるため、桁数が小さい体系的番号が、桁数が大きいものに内包される可能性があるためである注4

3.4 分析結果

論文謝辞データの中で、体系的番号とのマッチングがされた論文は56,801件であり、その中に延べ115,731件の体系的番号が出現していた。この間の日本の文献数は407,903件注5であるから、大まかに見積もると14%程度の論文の謝辞に体系的番号が記述されていることになる。年別にみると、2019年は12%、2020年は14%、2021年は16%と着実に増加している。

図表1に体系的番号の出現頻度を示す。1件の体系的番号を含む論文の割合が最も高く約55%を占め、2件(21.3%)、3件(10.4%)と続く。10件以上の体系的番号が出現している論文も約1%存在した。

図表2に資金配分機関別の体系的番号の出現頻度(上位10機関)を示す。一番多いのは日本学術振興会であり、これに科学技術振興機構、日本医療研究開発機構が続く。年ごとの推移をみると、「体系的番号に係る申し合わせ」が出された2020年以降に、体系的番号を活用している資金配分機関が広がりを見せていることが分かる。

図表3は、科学技術振興機構、日本医療研究開発機構、文部科学省について、出現頻度が300回以上の事業を示した結果である。なお、出現頻度が最も多い日本学術振興会については、科研費注6がほぼすべてを占めている。科学技術振興機構については、戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)のCREST、さきがけ、ERATOが出現頻度の上位3を占めており、これに未来社会創造事業が続いている。ここで示した上位4の事業は、いずれも出現頻度が1,000を超えている。日本医療研究開発機構については、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業、難治性疾患実用化研究事業、革新的先端研究開発支援事業が上位4となっており、いずれも出現頻度が1,000を超えている。文部科学省については国家課題対応型研究開発推進事業元素戦略プロジェクト、国家課題対応型研究開発推進事業光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)、ナノテクノロジープラットフォームが上位3の事業となっている。

謝辞の中に書かれている資金配分機関名や事業名については、表記に多様なバリエーションが存在しており、事業レベルの分析を行うには名寄せを行う必要がある。通常、この名寄せ作業には多くの時間を要するが、体系的番号を用いることで事業レベルでの成果の把握が迅速かつ容易に可能であることが分かる。

図表1 体系的番号の出現頻度図表1 体系的番号の出現頻度

図表2 資金配分機関別の体系的番号の出現頻度(上位10機関)図表2 資金配分機関別の体系的番号の出現頻度(上位10機関)

図表3 各資金配分機関における出現頻度上位の事業名(300回以上)

(a) 科学技術振興機構

図表3 各資金配分機関における出現頻度上位の事業名(300回以上)

(b) 日本医療研究開発機構

(b) 日本医療研究開発機構

(c) 文部科学省

(c) 文部科学省

4. 最後に

STI Horizon2018春号での報告2)では、体系的番号が一部の資金配分機関において利用されつつある状況を示した。本稿では、「体系的番号に係る申し合わせ」が行われた2020年以降に、体系的番号を活用している資金配分機関が広がりを見せていることを確認した。また、体系的番号を用いることで事業レベルでの成果の把握が迅速かつ容易に可能であることも分かった。

このように体系的番号の活用は進みつつあるが、現状2019年から2021年の範囲においてWoSCCに登録されている日本の論文のうち、謝辞に体系的番号が記述されているものは14%程度である。年別にみると、2019年は12%、2020年は14%、2021年は16%と着実に増加している。ただし、科研費の課題データを取りまとめたKAKENデータベースに収録されている成果とWoSCCのマッチングを行った分析からは、日本の論文(2011~2013年)の52.0%に科研費が関わっているとの分析結果も得られている8)。これらを踏まえると、今後、体系的番号の論文謝辞への記述を更に進めていく必要があることが分かる。具体的には、資金配分機関、研究者、学会・ジャーナルのそれぞれについて、以下の取組が必要であろう。

資金配分機関は体系的番号の周知と、論文謝辞への記載の徹底を継続して呼びかける必要がある。研究者が、自らが獲得している研究資金の体系的番号を検索し、体系的番号を用いた謝辞の記述例が出力されるような検索システムがあれば、謝辞記入の手間を大幅に低減できるであろう。幅広い議論が必要であるが、公的資金投入の成果についての説明責任という観点からは、謝辞への記述を義務化するといった方向性も考えられる。

研究者は、論文を投稿する際には、資金配分機関から提示されている体系的番号や謝辞の記述方法、ジャーナルにおいて記述が求められている事項を改めて確認し、研究に用いた資金注7の情報を正しく記述する必要がある。論文の謝辞をみると、過去に周知された形式で謝辞が記載されている場合も多いことから、論文を投稿する際には資金配分機関等が求めている最新の謝辞等の記述方法を確認することが必要である。

学会・ジャーナルは、執筆の手引き等で、研究資金源の記述方法や記述箇所について明記することで、論文における体系的番号の記述が一層促進されると考えられる注8。研究資金源の記述は、公的資金を用いたことに対する説明責任、利益相反状態の開示、いずれの観点からも重要である。

2014年の体系的番号の提案から始まり、科研費、科学技術振興機構や日本医療研究開発機構の事業での先行導入、2020年の「体系的番号に係る申し合わせ」による適用範囲の拡大を経て、体系的番号の付与や論文謝辞への記述は成長期を迎えた。今後は、上に述べたような取組を実施することで、体系的番号が定着する段階に入っていくことを期待したい。


注1 過去の報告においては、統一課題番号、体系的課題番号という表現を用いているが、体系的番号と同一の概念である。

注2 府省共通研究開発管理システム(e-Rad)は、各府省等が所管する競争的研究費制度を中心とした公募型の研究資金制度について、研究開発管理に係る手続きをオンライン化し、応募受付から実績報告等の一連の業務を支援するとともに、研究者への研究開発経費の不合理な重複や過度の集中を回避することを目的とした、府省横断的なシステム(https://www.e-rad.go.jp/からの転載; 2022年3月17日アクセス)。

注3 データ取得に際して、WoSCCのエディション、ドキュメントタイプ等の指定は行っていない。

注4 本分析では総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(国際標準獲得型以外)については分析からのぞいた。本事業の体系的番号は「JP+課題番号(9桁)」の11桁からなるが、マッチングされた多くの論文謝辞データが他の事業の書き間違いと判断されたためである。

注5 出版年を2019~2021年とし、著者住所にJapanを含む文献を2022年3月16日に検索した結果。WoSCCのエディション、ドキュメントタイプ等の指定は行っていない。

注6 科研費については、文部科学省が分担する種目もあるが、ここではすべてを日本学術振興会に計上している。

注7 これは公的資金に限らない。利益相反状態の開示等の観点から、民間企業等による資金についての記述も求められる。

注8 過去の調査1)からは、日本の学会等が主体となって発行しているジャーナルは、執筆の手引きにおいて、資金配分機関等の寄与の記述について明示的に言及しているものが少ない傾向がみられた。

参考文献・資料

1) 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究室(2014). 論文の謝辞情報を用いたファンディング情報把握に向けて-謝辞情報の実態把握とそれを踏まえた将来的な方向性の提案-, 科学技術・学術政策研究所 NISTEP NOTE(政策のための科学) No. 13. http://hdl.handle.net/11035/2994

2) 伊神 正貫, 村上 昭義(2018). デファクトスタンダードとして浸透しつつある体系的課題番号:公的資金から生み出された成果の計測に向けて, 科学技術・学術政策研究所 STI Horizon, Vol.4, No.1. https://doi.org/10.15108/stih.00114

3) 論文謝辞等における研究費に係る体系的番号の記載について(令和2年1月14日)
https://www8.cao.go.jp/cstp/compefund/(2022年3月17日閲覧)

4) 研究成果における謝辞の表示
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/16_rule/rule.html(2022年3月17日閲覧)

5) 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業のグラント番号
https://www.jst.go.jp/kisoken/evaluation/index.html(2022年3月17日閲覧)

6) 成果論文中の謝辞への「謝辞用課題番号」の記載について(AMEDが支援する研究者の皆様へのお願い)
https://www.amed.go.jp/news/other/20171219.html(2022年3月17日閲覧)

7) 論文謝辞等における研究費に係る体系的番号の記載について(【体系的番号一覧(令和3年7月14日更新)】)
https://www.nistep.go.jp/archives/48214(2022年3月17日閲覧)

8) 福澤 尚美, 伊神 正貫, 富澤 宏之(2017). 科学研究費助成事業データベース(KAKEN)からみる研究活動の状況―研究者からみる論文産出と職階構造―, 科学技術・学術政策研究所 調査資料-264. https://doi.org/10.15108/rm264