STI Hz Vol.7, No.3, Part.7:(ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流)東京大学大学院生命環境科学系・先進科学研究機構 教授 市橋 伯一 氏インタビューSTI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00267
  • 公開日: 2021.09.27
  • 著者: 黒田 玄、伊藤 裕子
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.7, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流
東京大学大学院 生命環境科学系・先進科学研究機構
教授 市橋 伯一 氏インタビュー
-世界で初めて分子進化を試験管内で再現するシステムを
開発し、生命の謎に迫る多くの成果を創出-

聞き手:企画課 黒田 玄
科学技術予測・政策基盤調査研究センター 主任研究官 伊藤 裕子

市橋伯一氏は、謎の多い生命の起源や進化を解明する糸口を探るために、世界で初めて試験管内で分子進化を再現する実験系システムを開発した。このシステムを用いて、RNA分子の進化実験を長期間実施したところ、元のRNAより短く、ほかのRNAに依存して複製する寄生体が出現することを明らかにした。驚くことに寄生体の存在は悪いことではなく、寄生体の存在下の方がRNA分子の進化は長く続き、宿主型の元のRNAと寄生体のどちらも複数の系統へと多様化した。このことは寄生体が生命の進化に関与することを示唆する。このような生命の謎の解明に迫る多くの成果を上げている。

また、基礎研究にとどまらず、システムの進化技術を用いることで、有用な酵素や医薬品の開発といった社会インパクトの大きい産業応用についても企業と連携して実施している。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、これらの成果に着目し、2020年に「ナイスステップな研究者」の1人として市橋伯一氏を選定した。今回のインタビューでは、生命の進化を研究する理由、研究上の発見や困難及びブレイクスルー、若手に向けたメッセージ等について幅広く伺った。

東京大学大学院 生命環境科学系・先進科学研究機構 教授 市橋 伯一氏(市橋氏提供)

東京大学大学院 生命環境科学系・先進科学研究機構
教授 市橋 伯一氏(市橋氏提供)

RNA分子が自分で自分を複製するシステム

- 研究内容について説明をお願いします。

私は、分子が自分で自分を複製するというシステムをつくりました。何でそんなことをしたかといいますと、大きな目的は生命の起源と進化を知ることです。できれば目の前で見てみたいという動機でやっています。

生命は地球上で40億年ぐらい前に生まれたと想像されていますが、それは想像でしかありません。なぜ想像でしかないかというと、自分たちで起こすことができないからです。過去の地球上で一度だけ起きたと言われていても、それを再現することができない。多分起きたはずですけれど、一体どうやって起きたかさっぱり分かりません。

みんなが何となく思っている生命の起源のシナリオは、原始地球で何か化学合成が起きて、その後、RNAワールドが始まって、分子が重合してどんどん複製するようになったという想像がされていますけど、その後です。私たちが知っている最小で原始的な生物の姿というのはバクテリアみたいな細菌ですが、これでも既に500個ぐらいの遺伝子を持っています。500個遺伝子を持っているのが一番シンプルな生き物ですが、過去からたどれる一番複雑で生物に近い原始生命は、せいぜいRNAという分子です。RNAという分子が一つだけなので、とても生き物には見えません。ここの差がすごく大きくて、ただのRNAや分子の塊だったものがどうやって生き物になっていったか誰も分かっていません。

これを試験管で見たいというのが私たちの研究のきっかけです。RNAだけでは無理なので、タンパク質とかいろいろ混ぜていますが、少なくとも生きていない分子の塊で、かつ進化する能力を持つものをつくって、それを目の前の試験管で進化させたら生き物に近づくのではないかと考えて取り組んでいます(図表1)。

RNAワールドのRNAたちが進化し出して生物になったと言われています。それは完全に推測なので、実験モデルとして進化する分子システムをつくって、それが一体どう進化するかを観察し、どんな条件が整えば生命らしいものが生まれてくるのかを明らかにしたいと考えています。

その過程でいろいろ分かったのですが、まず細胞が大事だということが分かりました。細胞みたいな構造がないとRNAを(けい)(だい)しても絶滅してしまいます。(図表2の)横が植え継いでいる回数で、毎日毎日餌を入れつつ植え継ぎます。そうすると、私たちがつくったのは増えるRNAなのでどんどん増えますけれど、細胞構造がないと悪い突然変異がたまって、そのうち絶滅します(赤いグラフ)。ですが、細胞構造さえあれば、青いグラフで示したように1回は落ちますが、そこで復活して、むしろより増え出します。よい変異が蓄積していって、より増える進化を起こすことができたというのが最初の重要な結果です。

図表1 進化する自己複製システム図表1 進化する自己複製システム

(市橋氏提供資料)

図表2 細胞構造がないと絶滅図表2 細胞構造がないと絶滅

(市橋氏提供資料)
- この場合の細胞構造とは何ですか。

私たちが使っているのは油中水滴です。普通の生き物の細胞は脂質二重膜ですが、私たちが使っているのは脂質の一重膜です。内側だけしか脂質がなく、外側は完全に油です。構造としてはマヨネーズと同じような構造で、見た目もマヨネーズですが、こういった反応液の粒々(脂質一重膜の人工細胞)がチューブの中に入っていて、粒の中でRNAが複製されます(図表3)。

RNAはどうやって増えているかというと、RNAを複製するタンパク質遺伝子がRNAに1個乗っていて、このRNAからタンパク質が翻訳され、その翻訳されたタンパク質によってRNAが増えるというシステムになっています。

RNAの複製の際に突然変異が入りますが、突然変異が入ると大抵複製酵素の性能が悪くなります。よくなることはめったになくて、大抵悪くなります。悪くなると余り増えなくなります。細胞構造がないと、悪くなってもよそのきちんとしたRNAがつくった複製酵素を使って増えてしまいます。つまり、細胞構造がないと、自分で複製酵素をつくる必要すらなくてもらえばいい。翻訳中は複製ができないので、むしろもらった方が得で、だから、自分で翻訳をやめるものが増えます。細胞がないとフリーライダーの方が得です。だけど、細胞があると膜でカットされているので、自分でつくらないといけない。一つずつの入れ物(細胞構造)に入れてやると、自分でつくらないと増えなくて、きちんと(とう)()が起きるというシステムです。

これは生物界も一緒で、生物は例外なく全て細胞を持っていて、細胞当たりのゲノムの数は大体1個か2個ですが、そういう状況を達成してやらないと、そもそも進化が起きないということだと解釈しています。

図表3 細胞構造の中でRNAが複製されるシステム図表3 細胞構造の中でRNAが複製されるシステム

(市橋氏提供資料)

寄生体の出現

もう一つ分かったのは、私たちのシステムには寄生体が出てきました。遺伝子が完全に欠損したもので、もともと2,000塩基ぐらいありますが、それが200塩基ぐらいに短くなります。困ったことに、一旦これが出ると、めちゃくちゃ早く増えます。指数関数的に増えて、より短いと10倍早く増えます。こればかり増えて、細胞構造の中がこれで占められることによる絶滅が次に起きました。

ですが、これはそんなに悪いことばかりしているわけでもなく、実は寄生体がいた方が進化は長く続きます。私たちの系ではこれがいない状況をつくることも可能です。実験の条件を薄くしておけば寄生体は出てきません。出てこないので、最初は薄い条件でずっと進化実験をやっていましたが、そうすると進化がすぐに止まります。寄生体がいないと、だんだんスローダウンしていって変異が蓄積しなくなっていきますが、寄生体がいると変異の蓄積がずっと続いていきます(図表4)。

ここで見ているのは集団に固定された変異なので、有利な変異のみを見ていると思ってください。有利じゃないランダムな変異は、このシステムでは観測できません。そういうやり方をしています。きちんと集団に固定された変異がどんどん増えていくというシステムです。具体的に言うと、集団でマジョリティーになった変異、集団中の半分以上のRNAが持っている変異だけをカウントしています。

図表4 寄生体がいると変異(進化)が持続図表4 寄生体がいると変異(進化)が持続

注)図表中のntはnucleotide(塩基)を意味する。                  (市橋氏提供資料)
- 試験管内での多様性は想定したことですか。

想定できないです。例えば普通に複製反応をずっと続けていくだけですと、ランダム変異がどんどん入っていくだけです。そもそも変異が固定されるという事態は、普通にやったら絶対起きません。複製能力が下がって、そのとき変異の数がどうなっているかというと固定変異はゼロです。ずっとゼロのままです。だから、そもそも進化も起きないということになります。

過去にも似たようなシステムで進化実験が行われていますが、実験系が私たちのシステムよりももう少しシンプルです。シンプル過ぎて寄生体が出てこない。寄生体がいないと進化は止まったままですけれど、寄生体がいると更に変異が蓄積し進化していくという結果です。余りシンプル過ぎると寄生する対象がないので、寄生体が生まれません。そういう意味で、ある程度複雑で生き物に少しだけ近づいたおかげで寄生という戦略が可能になり、それで初めて寄生体が試験管内で生まれてきたということであると思います。

進化が止まらない

- 際限なく進化は続くのですか。

今のところずっと続いています。今も進化実験をやっていますけれど、まだ止まっていません。今、120回植え継いでいて、これが時間でいうと600時間です。世代でいうと、数百世代のはずです。現状でこの3倍ぐらい実験していてまだ止まっていません。実験できるレンジでは止まらない気がします。

ただ、無限にはなっていません。最初は二つです。それが無限になるかは面白い問題ですけど、今のところ宿主(元のRNA由来)が3系統で、寄生体が2系統になります。でも、まだこれは止まっている感じもないので、もう少し増えそうな気がしています。一体どこまで増えるかというのは難しい問題で、多分、増えれば増えるほど不安定になります。というのは、一つの種類の絶対数が少なくなって、時々、偶然絶滅するものが出てきます。だから少ない方が安定するはずですけれど、増えようとする傾向があって、その辺のあんばいでバランスの取れたところで止まるのかなと思っています。が、まだ止まらない。

集団サイズで決まるような気はしています。試験管に存在するRNAのマックスの数は決まっています。それは餌の量で決まります。だから、余り細分化され過ぎると絶滅しやすくなって減ってくる。どこかで止まりそうですが、それは結構単純な予測で、RNAはほかにもたくさんのストラテジーを取り得ます。例えば、寄生体と宿主がくっつくとか、宿主間でくっつくとかもあり得るので、多分、私たちがシンプルに考えている以外のたくさんの方法があるはずです。その全貌が分からないので、何か謎のことをしてきそうな気がします。

もう一つあって、寄生体も結構長くなっています。もともとは短くて遺伝子を持っていないですが、新型の寄生体は500塩基ぐらいあって、遺伝子も少し持っています(図表4)。宿主由来の遺伝子が残っています。大抵の寄生体の遺伝子は翻訳されていません。塩基配列から見ると翻訳していないことが分かりますが、時々翻訳していてもいいような遺伝子を持っているものもあります。だから、やろうと思えば、この寄生体はタンパク質をつくって何かすることも可能です。

- システム確立までの困難やブレイクスルーを教えてください。

この系で一番難しいのは、無細胞翻訳系とRNAを複製する反応液を小さな入れ物に入れるところです。これは多分、ほかのラボでもいまだにやっていません。何が難しいかというと、油の中に入れることです。反応液にはタンパク質が山ほど入っていて、複数の酵素反応が同時に起きるようにしています。RNA複製も起きるし、翻訳反応も起きます。アミノアシル化とか、たくさんの反応が翻訳反応で起きますが、普通、酵素反応は油の中に入れたら動きません。油が駄目というか、脂質みたいな両親(ばい)性の物質に入れると失活するタンパク質が多いです。あんまり動かないですけれど、頑張って何とか動く条件を見つけるのが一番大変でした。これを(研究室に入った)学生に最初にやってもらいますが、大抵失敗して、1週間ぐらい練習するとできるようになるというシビアな実験になっています。

また、鈍感さが大事ですね。余り考えないというのは大事です。考えると進化実験はできません。実験をやっている人は毎日見ているだけで、何も変わらなくて、配列解析をして初めて何かが起こっていることが分かります。だから、進化実験自体はすごく退屈な作業です。条件が変わってしまうから、進化実験中は工夫してはいけません。何も考えずに今日も昨日と同じ作業を同じようにやるという精神力を試される作業なので、鈍感力が大事です。

分子進化実験は、諸外国でされることはされていましたが結構昔です。一番初めが1960年代で、もう一つの分子進化実験も1990年代初頭ぐらいです。実はあんまり行われていません。過去に少し行われていたというレベルです。私たちとの大きな違いは、彼らの系は複製酵素を外から入れています。RNAから出てきた複製酵素じゃなくて、実験者が大腸菌から精製した複製酵素を入れて、それによってRNAが複製しています。私たちは、翻訳系を入れることで、RNAの持っている情報から複製酵素ができて、それによって自分が増えるという方法で、いわゆる自己複製になっているのが大きな違いです。

この無細胞翻訳系を入れるのにはテクノロジーが必要です。そもそも無細胞翻訳系ができたのが2000年代以降で、東京大学の上田研(上田卓也教授、現早稲田大学)がつくりました。細胞系自体は昔からありますけれど、精製された成分のみからなるきれいな無細胞翻訳系ができたのは最近で、それでないとRNAが分解してしまいます。この細胞系ができたことで初めて私たちの実験が可能になりました。

分子から生命誕生までのシナリオの解明

- 分子進化システムはどのような謎を解明しますか。

生物の誕生前に前生物的な進化が行われていたとされています。つまり、分子がどこかで自己複製して進化し始め、生物に近づいて初めて生命が生まれたと想像されています。生き物みたいなものが生まれる理由がほかに考えられないからですけど、そのプロセスがどうやって可能なのかは誰も分からない。私たちの分子進化システムを使って目の前で進化させることで、その過程を目で見ることができると思っています。

分子がどんどん進化して生き物に近づいていったと想像していますけど、私たちが実際にやってみることによって、まずパラサイトが生まれることが分かり、パラサイトと一緒に共進化させるとネットワークになり、大きくなっていくことが分かりました。この行き着く先に、もう少し新しい遺伝子が出てくるとか、新しい機能が出てくるとか、RNAが大きくなるとか、そういう形で現在の最小生物につながるようなシナリオを描けるのではないかと考えています。分子から生命誕生までのシナリオが、分子進化システムによって初めて描けるのではないかと考えています。

生命進化は産業界にも貢献

- 将来的に産業界との連携は考えていますか。

実は、企業と連携しています。何をしているかというと、進化工学で酵素をよくすることに取り組んでいます。

私たちのシステムは進化し、かつRNAなので、配列を完全に読めます。RNAのいいところは、配列から簡単に構造が予測できることです。そうすると進化中に起きていることが全部分かる。進化のパターンが結構分かってきました。進化は完全にランダムに起きているのではなく、一定のパターンで進んでいます。例えば、医薬品でアプタマー(特定の物質と特異的に結合する核酸分子のこと)とかRNAを使っていますけど、そういうのをどうやって取っているかというとSELEX法(試験管内選択法)という人為進化で取っています。それに私たちの進化の知識を使うと、もっといいものが取れる可能性があります。

これはタンパク質にも応用ができ、酵素反応も進化の知識を利用することによって、もっといいタンパク質(酵素)を取ることが可能になります。少し前にやったのは複製酵素です。今まで売られているものよりも活性の高い複製酵素を得ることができています。

バイオ医薬品は余りデザインできないですから、デザインするより人為進化でいいものを取った方が早く、そこに進化技術が使えるのではないか。結構、応用範囲が広いのではないかと思っております。

完全人工物を食べる未来社会

(分子進化の)DNAバージョンもやっています。今回はRNAの話ですけれども、DNAで自己複製するものもつくっていて、これはどちらかというと応用寄りです。遺伝子をもっと多く乗せて、自分で自分を増やすような人工細胞をつくろうとしています。最終的には食料にしようと思っています。結局今、私たちが口にしているものって全部生き物ですよね。人工肉とかありますけど、それもやっぱり生き物です。なぜ食べ物は生き物でなければいけないかというと、要するに、簡単に増えるものではないとコストなど食料として必要な要件を満たさないからです。人工細胞だったら幾らでもできるので、自分で自分を増やす人工細胞をつくろうとしています。50年後とか100年後とか将来の話ですが、完全に生き物ではないもの(完全人工物)を食料にすることが狙いです。

大きな謎の方がいい

- 研究の道に進もうと思ったのはいつ頃からですか。

父親が大学の先生で農学の研究をしていました。なので、私も何となく研究をやりたいと小さい頃から思っていました。でも、余り分野は考えてなくて、ぼんやりとしていました。

最初はロケットをつくりたいと思っていました。東京大学には進学振り分けというのがあり、教養学部時代の点数によって学部が決まります。とても宇宙工学に行けなくて諦めて、じゃあ次どうしようかなと思ったときに、当時は、バイオテクノロジーが()()っていたので、あんまり考えずに、じゃあバイオにしようと思ってバイオで一番行けそうなところと思い、薬学部に行きました。薬がつくりたいとか、医療に貢献したいとか思わずに薬学部に行ってしまい、一番基礎っぽい研究室に行って微生物の研究をしましたけれど余り面白くなくて。もう少し大きな謎がいいなと思い、ポスドクで生命の起源とか進化とかをやっている大阪大学の研究室に行って、それからずっとこの(分野の)研究をやっています。

生物とは何かの究明

- 今後の研究活動の抱負についてお聞かせください。

今のRNAのシステムをもっと続けて、「これは生き物だぞ」ってみんなが思うようなところまでいきたいと思っています。

現状の問題は、「生き物とは何ぞや」というのが全然分かっていないことであると思います。今、最小の生物は大体500個遺伝子を持っていると言われていますが、人間がつくれる一番複雑な分子からできている人工的な細胞は数個が限界です。しかも、まともに動かすことができない。非生物と生物の世界には大きな隔たりがあります。過去にその間が埋まって非生物が生物になったはずですけれど、そこがどうなったのか全然分かっていない。私たちは自分が一体どうやって生まれてきたのか誰も分かっていません。その状況が気に食わないというか、不安にさせますよね。自分がこの世界にどうやって生まれてきたのか分からないという状況を何とかしたいので、非生物と生物の世界をつなげて、私たちの誕生のプロセスを科学的に理解するというのが目標です。

私は、複雑性が生まれて新機能が生まれたらそれは生物だと思っています。だから、実はもう少しだと思っています。今、複雑性がある程度生まれているので、ここからもう少し分かりやすい新しい機能をRNAが生み出したら、これは生き物だと思っていいのではないかと個人的には思っています。多分、多くの人はそう思わないので、先は長いだろうと思います。

- 研究の道に進むことを考えている学生や若手研究者に向けてメッセージをお願いします。

個人的には、みんなにもう少し大きなチャレンジをしてほしいと思っています。インターネットを見ていると、若手のポストがなくて博士課程へ進んだらお先真っ暗だとか、ポスドクしんどいとか、そんなのがあふれています。でも、こんな楽しい職業って結構ないと思います。若い人はもう少し楽しさを主体に研究してもいいのにという気はします。特に、大きな謎を追っているときが人間一番楽しいと思います。この世にはこんな謎があって、それがこういうふうに考えて実験すると少し明らかになるかもしれないという瞬間が研究をやっていて一番楽しい瞬間です。

将来とかをあんまり考えずにそういうのを目指して研究者になってもいいのではないか。研究者できちんとやれている人は、多分、どこへ行っても通用します。だから、余り将来のことを考えずに、わくわくどきどきする研究だけを目指してこの世界に飛び込むのもいいのではないかと思います。自分のケースで言うと、見ている人はいて、ポストを用意してくれたり引き上げてくれたりするので、意外に何とかなるということを若い人にはお伝えしたいと思います。

(2021年6月17日オンラインインタビュー)