- PDF:PDF版をダウンロード
- DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00245
- 公開日: 2021.03.22
- 著者: 玉井 利明、黒木 優太郎
- 雑誌情報: STI Horizon, Vol.7, No.1
- 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流
関西学院大学 理工学部化学科 准教授/国立研究開発法人
科学技術振興機構 さきがけ研究者 田中 大輔 氏インタビュー
AI 技術による革新的な材料探索の実現
-無機物・有機物両方の特性を持つエネルギー貯蔵・変換材料
を目指して-
科学技術予測センター 研究官 黒木 優太郎
田中大輔氏は、無機物と有機物の特性を併せ持つ有機金属構造体(Metal Organic Framework、以下MOF)を対象として、AIによる新規有用MOFを探索し、半導体的特性を持つMOFの発見等、多くの成果を上げている。その成果は、塗布型太陽電池への応用の可能性といった社会的インパクトだけではなく、様々な研究分野で応用可能な研究手法の創出といった科学的インパクトを含む。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、これらの成果に着目し、2020年12月に「ナイスステップな研究者」の1人として田中大輔氏を選定した。
今回のインタビューでは、令和3年1月8日にウェブにて、MOFとの出会いや、MOF研究における日本の状況やAIを活用することの強み、研究室の運営や今後等について幅広く伺った。
なお、関西学院大学では、学内研究者へのインタビュー記事を発信しており、2020年12月には田中氏へのインタビュー記事も公開されている注。
(田中氏提供)
(研究について)
- 先生とMOFとの関わりについて、その歴史なども含めて教えてください。
MOFは、有機物と無機物の両方の性質を持っている多孔性材料の一種で、表面積が大きいので、吸着材であったり触媒であったりといろいろな分野で利用することが可能な材料です(図表1参照)。ここ10年くらいは産業界の方も着目されていて、今正にいろいろなところで使われる直前、というところです。
最初に誰がMOFを発見したかと言うと諸説ありますが、1997年に私の元々の指導教官である京都大学の北川進先生が、ガスを取り込む材料として発表したのが最初期の報告になります。私が北川先生の研究室に学部生として入ったのが2002年ですから、その頃はちょうどMOF研究の黎明期だったと言えます。
ただ実は学部で北川先生の研究室に配属された際の私の最初の研究テーマはMOFではなく、有機分子のEL材料を研究していました。ドクターのときにMOFを研究し始めて、「面白いな」と思いました。現在自分が主宰する研究室でも当時の有機ELの経験は活きていて、手広く研究ができています。
AIを使って、失敗データも活かして挑戦的な合成にもチャレンジし、日本発の有用なMOFを見つけたい
- 日本のMOF研究は盛んなのでしょうか。
日本のグループはこの分野を初期から盛り上げてきた実績があり、これまでは世界のMOF研究をけん引してきたと思います。一方で、最近は日本のグループはやや押され気味な印象があります。本来、日本発のMOFはたくさんあるはずなのですが、現在世界中で盛んに研究されている有名なMOFのほとんどが米国と欧州のグループから報告されたもので、日本の研究者は取り残され始めているのではないかという危機感を持っています。
- AIを使って新規MOFの研究をされていますが、日本発の有用材料が余りないというのも理由の一つでしょうか。
日本発の良い材料ができたらいいなとは思います。米国や欧州のグループからは「MOFといったらこれ」といった代表的な有用材料が複数出ていますが、日本だと、例えば水への安定などの有用性をいろいろ考えたときに「全部が良い」という、あらゆる面で有用な材料が残念ながら見つかっていません。
純粋な無機物は基本的に酸素などの単純な陰イオンと金属の組合せに限定されるので、組合せの変化だけで本当に全く新しい材料を作るのはいろいろと難しいのですが、MOFは無機物と有機物の膨大な組合せでいろいろな構造を作り出せるので、新しい材料を作りたいと思えば作ること自体は簡単です。ただ、新しい材料を作るのは簡単なんだけど、新しくて有用なものを見つけるのは難しい、という状況なのです。
- その難しさを、どのようにAIで解決されるのでしょうか。
MOFの研究でAIが使えるポイントはいろいろあり、世界的には盛んに研究されています。一つは、MOFの種類は大量で、既に10万以上の構造が報告されているので、そこから有用なものを探す、という方法です。例えばAIを使ったガスを吸着しやすいMOFの探索等は報告例が増えています。
一方で、「この金属とあの配位子を混ぜたらどんなMOFができるのか」といった予測をする研究は今のところほとんど進んでいなくて、我々が取り組んでいるのはそこです。まだ誰も見つけていない組合せで合成結果を予測したり、どういう合成条件なら高品質のMOFが得られるのか等を研究したりしています。
- 新しい有用なMOFを見つける上で、合成結果の予測にAIを使うことの強みは何でしょうか。
実はMOFの合成研究では、ある意味勘というか職人技というか、研究者の頭の中だけにある知識と感覚だけでひとつひとつ実験しているのが現状です。ここを効率的にしてくれるのがAIです。人間が行う研究では、例えば反応温度が大事かどうかを見積もるには、温度以外のほかの条件は変えないで、温度だけをいろいろ変えた条件で実験をするのですが、AIであれば様々なパラメータを同時に変えつつ、どのパラメータが重要かを統計的に見定めることができます。たくさんのパラメータを一気に振るという、人間では追いきれない部分をAIに見てもらっています。そのおかげで、例えば普通だったら100回くらい実験しなければいけないところを、AIを使うことですごく少ない回数で最適な実験条件を見つけるといったことが可能になります。
先ほど、MOFは既に10万種類くらい見つかっていると言いましたが、実は配位子の種類がかなり偏っています。我々が今研究している、硫黄が入った配位子のMOFとなると、調べたところ10万の内で2~300くらいしか報告がありません。こういった硫黄のような前例の少ない新しい配位子を使った研究というのは、本当に実現できるかどうか全く分からない、とてもリスキーな研究テーマになってしまいがちです。数年間実験しても結果がゼロかもしれないとなると、2年で卒業しなくてはいけない修士の学生さんなんかはしり込みをしてしまいます。これがAIを使ってコンピューターに学習させていけば、例えば失敗した実験でも価値のある学習データとして蓄積されていきます。一年間頑張ってもできなかったから結果がゼロ、とはなりません。失敗実験が研究成果になりえるのです。全く研究されていない材料合成へのAIの活用は、失敗をポジティブにとらえさせてくれるという意味でも、現場レベルでは有用だと感じます。
- MOFの合成以外にもAIをあてはめた研究を進めていく予定はあるでしょうか。
今ターゲットにしている硫黄を含んだMOFが珍しい材料ですので、まずは候補物質を広げる合成研究をターゲットにしていますが、今後、その材料そのものが有用かどうかという、出口に焦点を当てて機械学習を活用するというのは、すごくやりたいところです。ただ現状ですと具体的に結果が出てきているのはまだMOFの合成研究が中心です。例えば我々のグループでは発光のような物性についても実験結果をデータ化して予測する研究を並行して進めていますが、まだまだこれからの研究テーマです。AIでできることは要は学習で、ある条件ではこうなるということをたくさん学習した後に、ではこの条件ではどうなるでしょう?という問題を解くことが得意です。ですから、「ある実験条件ではこの物質が合成できる」、「また別の実験条件ではこの化合物が合成できる」、という学習のアルゴリズムに関する研究は、「この条件でこう光る」、「あの条件ならどう光る」、と置き換えるだけで発光物性の研究に応用することができます。合成化学とは全然違う光物性予測でも、基礎となる考え方は同じなので、今後の研究ではいろいろな分野が機械学習をキーワードにしてつながっていく、という期待をすごく持っています。
失敗を含めたデータベースから新しいスタンダードが作られる
- どのように、実験データの蓄積を新たな結果につなげていくのでしょうか。
これまでの研究者は、論文という形にこだわっていたので、成功した結果しか報告してきませんでした。つまり人類の過去の膨大な研究成果の蓄積の中には、私が知る限り失敗のデータベースがありません。私はMOFの合成が専門なので詳細は把握できていませんが、今、かなりすごいスピードで、失敗データを集めたデータベースを作ろうという動きが無機材料を中心に進んでいるようです。過去も含めて失敗データを入れたデータベースを作ろうと思うと、どこの研究室にも学生さんが実験したノートが保管されているので、それを活用することが考えられます。こういった眠っているデータを数値化して機械学習に使用可能な形に変えてくいくことができればすごいデータベースが出来上がります。
その一方で、そんな地味な作業を一体誰がやるのかという問題にも突き当たります。さらに、データの整理の仕方は統一しきれておらず、標準的な規格もありません。例えば合成溶媒が水なのかアルコールなのか等の条件を機械学習で利用しようと思うと、「水」などの物質名よりは、「分子のサイズ」や「沸点」等の数字の方が、精度の高い機械学習に活用しやすいです。こういったデータの整理の仕方や、実験条件の表現方法は何が最良かについては、現時点ではまだ正解は誰も分かっていないし、材料によっても全然違うのだと思います。そういった混とんとした状況で、何が将来的にスタンダードになるかの見通しが立っていないのが現状です。ですから、新たなスタンダードを作った者が強い。そこが恐らく、今中国や米国がデータ科学として、合成に限らずデータベースをたくさん作って進めているところです。このような領域に入ってくると、私のような一合成研究者にできることは限定的で、情報科学分野の先生とチームを組んで戦略的に進めていかなければと思っています。
既存のMOFではできないことをしたい
- 今後の研究の展開を教えてください。
MOFの応用について言えば、これはもういろいろなところで盛んに研究されていて、人間が思いつくようなことは大体誰かが始めているという印象です。ここ10年ぐらいの研究で多いのが、既にある有名なMOFを使って何かしようという研究です。例えば触媒なら触媒を専門とした研究者が、既存のMOFの触媒としての特性をしっかり調べる、という研究が増えています。つまりMOFの専門家というよりは、各種応用分野の専門の研究者がMOFを使うことで優れた成果を上げる例が増えています。
一方で我々は新しいMOFの合成を専門にしているので、「今ある代表的なMOFではできないことは何か」ということを考えて研究をしています。例えば、我々が研究で硫黄を使っている理由はMOFが電気を流すようになるからで、電気を流すMOFというのはかつてはほとんどなかったのですが、この研究テーマで「さきがけ」(注:国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業)に採択され、論文も出すことができました。MOFが電気を流すとなると、電極材料や太陽電池、触媒等の様々な重要な分野に展開できます。今、既存のMOFで不得意な、半導体的な特性を持つMOFが実現しつつあります。今後さらに、それがMOFの持つ特徴、例えば多孔性による触媒特性等と組み合わさって新たな有用性とつながるような研究を進めていきたいと思っています。
- 先生の研究を、広く皆さんに知ってもらいたいと思います。
我々も、発見した材料が持つポテンシャルを発信しながら、異分野の研究者が興味を持ってくださって共同研究につながらないかなと、広くアンテナを張って研究をしています。我々としては「こんな面白い材料がありますよ」というのを広く知っていただきたいです。
では実際何に使えるかとなると、例えばセンサーや二次電池の材料など、様々な可能性があると思います。特に最近は、ある種のMOFの結晶構造の次元性が低く、シートだったりワイヤーだったりする点から、トポロジカル絶縁体などの量子材料に使えないかと考えています。ほかにも可能性だけはいろいろと思いつくのですが、やはりそれを実際に形にするには、別分野の専門家の御協力が絶対に必要です。良い材料を開発すれば、異分野の、例えば計測実験の先生も興味を持って向こうから声をかけてくださると信じて、焦らず、良い材料を見つけていきたいと思います。
(御自身について)
かつての恩師に倣い、学生に口出しをしない指導も必要なのかなと思っています
- 関西学院大学では初めてPrincipal Investigator(PI)となりましたが、研究室運営はいかがですか。研究室のホームページも拝見させていただきましたところ、博士課程3名のほか、修士課程の学生、学部4年生も多い印象を受け、注目されている分野だからかと思いましたが、いかがですか。
6年前に着任したときは、当時の4年生と私という本当にこぢんまりとしたチームで研究を開始しました。本年度末に卒業する博士課程3年生の学生たちがそのときの1期生なのですが、研究室を非常に盛り上げてくれました。
今私の研究室を志望してれる学生が、研究室配属の段階でMOFの将来性についてどこまで期待してくれているのかはよく分かりませんが、MOFの研究には多様な出口があるということに関心を示してくれているのかもしれません。学科の平均としては、修士課程には約半分が進学しますが、うちはほとんどの学生が進学しています。研究を始めると、MOFの魅力に気付いてくれるのかもしれません。
- 研究室の指導方針といったものはありますか。
学生として直接指導を受けたのが、京都大学時代の北川進先生だけなので、そのやり方が無意識の中に染みついているところがあるように思います。当時は、自由にやらせていただきながら、必要なタイミングではピンポイントで的確に方針を示していただいていたと、今になって思います。研究成果には高いレベルを求められましたが、私が自分で主導的に研究を進めているかのように感じるように、本当にうまく誘導していただいていたんだと思います。当時は強制的に何かをさせられたという感覚が全くなかったように思います。口を出すべきところと出すべきではないところのバランスが達人技だったんだなと、指導する立場になって感じております。
私の場合、怖くて、ついつい細かいところにも口を出してしまうんですよね(笑)。最近はそれを反省しており、バランスのとれた指導が必要なのかな、と思っております。
- 博士課程進学に躊躇する学生が多いですが、修士課程の学生にはどのように言っていらっしゃいますか。また、現在研究室に所属している博士課程の学生の進路はいかがですか。
材料系は企業からのニーズがある分野であり、特にMOFや機械学習というキーワードは就職活動でも興味を持っていただいているという印象があります。本年度博士課程を修了する学生が2名いますが、1名がメーカーへの就職で、もう1名はアカデミアに残ることになっております。少なくとも私の研究分野では博士に進学したから就職に不利になるという感覚は全くなく、むしろ有利に働いているケースが多いと感じますので、是非博士課程に来てほしいですね。
博士で天狗になっていたところで、異国でがつんとやられた経験ができたのはよかった
- 京都大学の後に、ドイツのアーヘン工科大学に進学された経緯について教えてください。その際にもMOFの研究はされたのでしょうか。
博士課程を修了した後に、日本学術振興会特別研究員の資格が1年残っていました。当時は、MOFとちょっと違うことがやってみたい、分野を変えたいと思っていたのですが、たまたま国際会議の場でお話をする機会のあったドイツ人の先生がアーヘン工科大学の先生を紹介してくださいました。そこは全くMOFをやっている研究室ではなく、高分子材料の膜やナノ粒子といった、高分子バイオ系に関する研究をしていて、全く違うことをやるつもりで、アーヘン工科大学の研究室に行くことに決めました。
ですが、ドイツに異動してポスドクとして新しい研究テーマを始めた直後に、実験装置が故障してしまい、当初予定していた研究ができなくなるトラブルが発生してしまいました。その際、そのドイツの先生が非常に柔軟で、アーヘン工科大学の設備を使った全く新しいMOFの研究も並行してやるように提案いただき、MOFとナノ粒子の研究を融合したような研究をすることになりました。私がポスドクだった当時はそういった研究は全然なく、日本の装置も使いつつ、京都大学とアーヘン工科大学の共同研究という形で取り組んだ結果、「Nature Chemistry」に掲載される論文も書くことができ、日本でも少し新聞報道もされました。海外の異分野の研究技術を使って、これまでとは違う方向性の研究をすることができました。
2020年度唯一の全体集合写真(下)
- 京都大学、アーヘン工科大学、大阪大学と経験されてきた中で、今の自分に活きているような印象的なことはありますか。
海外留学したことはよかったです。特に博士を取って少し天狗になったところで、異国でがつんとやられた経験ができたのはよかったと思っております。言葉の通じない異国の地で、さらに、研究の結果が出ないときは心細くなって結構落ち込んだときもありましたが、そういう苦労も含めていい経験になったと思っております。
京都、ドイツ、大阪と3名の上司に仕えてきましたが、それぞれ非常に個性的でやり方も全然違ったように思います。ドイツで指導をしていただいた先生は当時34歳くらいの若い方でしたが、京都大学の北川先生のような一人一人が主役になるような指導方法とは異なり、グループ全体でチームプレーをしようというスタンスで、どちらもいいところがあって、それらのバランスをとって研究室を運営していければと思っております。
海外に太刀打ちするにはアイディアで勝負するしかない
- 「さきがけ」に採択された前後で大きく変わった点はありますか。
「さきがけ」に採択されたことによって、全く研究環境が変わりました。新規材料を合成するために必要な最低限の装置が全くそろっていませんでしたが、「さきがけ」でほぼ全てそろえることができました。最上位スペックのものではないですが、合成実験には十分使える複数種類の装置をワンセットそろえることができました。「さきがけ」の支援がなければ、今の研究テーマを実施することは絶対に不可能でした。ゼロから出発して、世界に発信できるような成果を上げられる研究グループを立ち上げることができたのは、「さきがけ」のおかげです。また、AI関連の研究者同士のつながりを作ることができたのも、そのおかげです。「さきがけ」の後も科学研究費助成事業(科研費)の基盤Bを取っているので、あと3年は今のテーマで研究が続けられると思っております。
ただし、AIを使う研究というのは世界的に非常に競争が激しく、特に私の分野では日本は完敗状態だと感じます。やるべきことは非常にたくさんあって、日本のMOF分野のグループは、AIを活用するという観点では、海外の進んでいるグループと比べると5~10年レベルで遅れていると感じます。やるべきこと、やりたいことはたくさんあって、本音ではお金や人を大量に投入した研究環境を実現したいですが、足りない部分はアイディアで補って世界と勝負したいと思っています。
我々は、AIの専門的な部分は分からない。一方でAIを専門とする情報科学分野の先生は合成実験の勘所が分からない。この全く異なる分野の専門家が協力することで、誰にもまねできないようなアイディアが出てくると思います。機械学習を用いた研究では、どこでどの解析を使うのかというのはアイディア勝負のところがあると思うのですが、合成化学のセンスでAI分野に切り込んでいければと思っております。今回の「ナイスステップな研究者」への選定を契機にして、次のステップに行けるような結果を出していければと思っております。
無茶な研究、挑戦ができるのは安定的な研究資金を提供してくれる大学のおかげであり、非常に感謝しています
- 関西学院大学の研究環境はいかがですか。
うちの大学は、非常にいい環境を用意してくださっています。同じ世代の地方国立大学の研究者の話を聞いていると非常に厳しい状況であると感じます。うちでは定常的に研究資金がいただけるので、科研費に不採択になることを恐れないで、かなり無茶な研究テーマを設定することができています。かつては、AIでMOFの研究をするといったとき、なかなか意味を理解していただけないこともありましたが、そこに挑戦ができたというのは、定常的な資金のおかげです。もし自分の任期が3年と区切られていたら、絶対にこんな挑戦的な研究をする勇気は出ず、堅実にジャーナルに採択されるような論文を書いていると思います。政府には、是非若い人に定常的なお金を支援していただけるのが、基礎研究を盛り上げる上では必要だと思っております。
うちは、教授も准教授も、PIは年齢の差別もなく平等に研究資金を提供してくれます。うちの学科は若い先生を定年まで採用するという方針で、その方針で採用された30代の若手教員が優れた研究結果を出すといういい循環ができています。昔はそういった定常的な研究資金がどこの大学でもあったと思うのですが、今はそれが難しくなってきており、新しいことをやりづらくなっているように思います。そういう制限が私にはなかったので、大学には非常に感謝しております。
- 若手研究者へのメッセージをお願いします。
環境が許しているという面もありますが、今私は、自分の面白い、やりたいと思う研究ができていて、それが研究を進めていく原動力になっています。論文として結果が出やすい研究をするというのも、研究者として生きていく上では大切だと思うのですが、やはりそれだけでは元気が出ないと思いますし、元気が出ないといい研究はできないなと感じます。面白いな、やりたいな、と思うところは何かというのを常に自分に問いかけて、その答えを大事にするのが大切なのだと思います。