STI Hz Vol.6, No.3, Part.4:(レポート)論文の引用・共著関係からみる我が国の研究活動における国際展開の状況-アジア・大洋州編-STI Horizon

  • PDF:PDF版をダウンロード
  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00222
  • 公開日: 2020.08.25
  • 著者: 松本 久仁子
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.6, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
論文の引用・共著関係からみる
我が国の研究活動における国際展開の状況
-アジア・大洋州編-

科学技術・学術基盤調査研究室 研究員 松本 久仁子

概 要

第5期科学技術基本計画の中では、科学技術外交とも一体となり、戦略的に国際展開を図る視点が不可欠であることが記されている。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、これまで国際展開に関する基礎的データを提供してきた。本稿では、ASEAN諸国が位置するアジア・大洋州のエリアに着目し、当該エリアの研究活動の状況及び引用・共著状況からみる我が国との関係性を紹介していく。さらに、我が国が取り組んでいる国際展開政策のアジア・大洋州での状況についても紹介し、今後に向けた示唆を提示していく。

キーワード:アジア,大洋州,国際共著,国際引用,国際展開政策

1. はじめに

第5期科学技術基本計画の中では、我が国の目指すべき国の姿の実現に向け、「未来の産業創造と社会変革」・「経済・社会的な課題への対応」・「基盤的な力の強化」・「人材、知、資金の好循環システムの構築」の4本の柱が掲げられている。そして、その推進に際して、科学技術外交とも一体となり、戦略的に国際展開を図る視点が不可欠であることも記されている。

これまで科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、国際展開に関する基礎的データの1つとして、科学研究のベンチマーキング注1において主要国の国際共著相手国のデータを提供してきた。さらに、2019年11月に公表した調査資料2)では、我が国の研究成果の国際貢献(国際研究へのインパクト)の状況を把握するため、日本論文の国際的被引用状況についての分析も試みている。当該分析を通じ、日本の研究活動の国際展開を図る上で、ASEAN諸国との協力が今後重要となる可能性について政策的示唆が得られている。

そこで、本稿では、ASEAN諸国の位置するアジア・大洋州のエリアに着目し、当該エリアの研究活動の状況及び当調査資料2)で掲載した我が国の研究活動に関する国際展開の状況を紹介していく。さらに、我が国が取り組んでいる国際展開政策のアジア・大洋州での状況についても紹介し、今後に向けた示唆を提示していく。

なお、本稿に掲載する分析結果は、Elsevier社の論文データベースScopusのデータ注2を用いたものとなる。

2. アジア・大洋州の研究活動の状況

まず、アジア・大洋州の国・地域の論文生産活動の状況をみていく(図表1)。2014年に産出された論文注3(約212万件)のうち、アジアの国・地域の論文は35.6%と3分の1以上を占めている。大洋州の国・地域の論文は2.7%となっている。アジア・大洋州には61の国・地域があり、そのうち、約3分の1に当たる21の国・地域が、2014年時点において500件以上の論文を産出している。論文数の多い国・地域をみると、最多の国・地域は中国(CHN)であり、2014年時点で、アジアの論文の半数以上に当たる約40万件の論文を産出している。続いて、日本(JPN)、インド(IND)、大韓民国(KOR)、オーストラリア(AUS)の順で論文が産出されている。

図表1 アジア・大洋州の論文産出状況(2014年)

図表1 アジア・大洋州の論文産出状況(2014年)

※1 国・地域名は、論文数が500以上の国・地域のみISO-3166の国コード(アルファベット3文字)に基づき記載
※2 論文数シェアの算定においては、 著者の所属国・地域によって按分した論文数(分数カウント)を用いている。
なお、論文数は、当該国・地域に所属する著者が少なくとも1人含まれる論文数(整数カウント)である。

3. 研究活動におけるアジア・大洋州の国・地域と我が国の関係

続いて、アジア・大洋州の国・地域と日本の研究活動における関係を「引用」と「共著」の2つの視点からみていく。

3.1 日本論文の国際引用状況

アジア・大洋州61の国・地域のうち、2014年に出版された日本論文を出版後3年間で1,000件以上引用している国・地域は12であった(図表2(a))。100件以上(1,000件未満)引用している国・地域は8であった。いずれの国・地域も2014年時点の論文数が500件以上の国・地域であり、論文数の多い国・地域はおのずと日本論文の引用数も多く、日本論文の活用量が多くなることが伺える。特に、日本論文の引用数が多い国・地域は、中国(CHN:約8万件)、大韓民国(KOR:約1.5万件)、インド(IND:約1万件)、オーストラリア(AUS:約9.7千件)、台湾(TWN:約6.5千件)となっている。

次に、各国・地域の海外論文の引用数に占める日本論文の引用数割合をみると、4.0%以上の国・地域は18、3.0%以上4.0%未満の国・地域は8であった(図表2(b))。特に、引用数割合の高い国・地域、つまり、日本論文を引用しやすい国・地域は東アジア・東南アジアに多く、日本を取り囲むように位置している。このことから、日本と地理的に近接している国・地域ほど日本論文を引用しやすいことが伺える。特に、2014年の論文数が100件以上の国・地域のうち日本論文の引用数割合が高い国・地域は、モンゴル(MNG:6.3%)、バングラデシュ(BGD:6.0%)、インドネシア(IDN:5.4%)、大韓民国(KOR:5.2%)、フィリピン(PHL:5.1%)となっている。

図表2 アジア・大洋州の各国・地域の日本論文の引用状況※1、2

図表2 アジア・大洋州の各国・地域の日本論文の引用状況※1、2

※1 2014年に出版された論文の出版後3年間の引用状況
※2 国・地域名は、引用数が100以上、引用数割合が3.0%以上の国・地域のみISO-3166の国コード(アルファベット3文字)に基づき記載
3.2 日本との国際共著状況

アジア・大洋州61の国・地域のうち、2014年に日本との国際共著論文が100件以上の国・地域は15であった(図表3(a))。10件以上(100件未満)の論文で国際共著している国・地域は9であった。これら24か国・地域のうち19か国・地域は2014年時点の論文数が500件以上の国・地域であり、引用状況と同様に、論文数の多い国・地域はおのずと日本との共著数も多く、日本との協力量が多くなることが伺える。特に、日本との共著数が多い国・地域は、中国(CHN:約5.1千件)、大韓民国(KOR:約1.9千件)、オーストラリア(AUS:約1.1千件)、インド(IND:約0.85千件)、台湾(TWN:約0.79千件)となっており、日本論文の引用数が多い国・地域と類似している。

次に、各国・地域の国際共著論文に占める日本との共著論文数割合をみると、6.0%以上の国・地域は25、3.0%以上6.0%未満の国・地域は11であった(図表3(b))。特に、共著論文数割合の高い国・地域、つまり、日本と共著しやすい国・地域は東アジア・東南アジアに多く、日本を取り囲むように位置している。このことから、引用状況と同様に、日本と地理的に近接している国・地域ほど日本と共著しやすいことが伺える。特に、2014年時点の論文数が100件以上の国・地域のうち日本との共著論文数割合が高い国・地域は、インドネシア(IDN:24.6%)、モンゴル(MNG:22.6%)、タイ(THA:19.3%)、フィリピン(PHL:17.8%)、バングラデシュ(BGD:17.4%)となっている。

図表3 アジア・大洋州の各国・地域の日本との共著状況※1、2

図表3 アジア・大洋州の各国・地域の日本との共著状況※1、2

※1 2014年に出版された論文の共著状況
※2 国・地域名は、共著論文数が10以上、共著論文数割合が3.0%以上の国・地域のみISO-3166の国コード(アルファベット3文字)に基づき記載
3.3. 日本との引用・共著関係

さらに、アジア・大洋州の2014年時点の論文数上位15の国・地域における日本論文の引用状況と日本との共著状況を組み合わせてみていく。各国・地域の日本論文の引用割合と日本との共著論文数割合をプロットしたものを図表4に記す。

世界平均注4よりも日本と高引用・高共著関係にある国・地域はインドネシア(IDN)、タイ(THA)、バングラデシュ(BGD)、ベトナム(VNM)、大韓民国(KOR)、台湾(TWN)、中国(CHN)の7か国・地域であった。これらの国・地域は、他の国・地域と比較して、研究活動における日本論文の活用度、日本との協力度が共に高く、強い関係性が構築されていることが伺える。逆に、世界平均よりも日本と低引用・低共著で、日本との研究活動における関係性が相対的に弱い国・地域は、パキスタン(PAK)、イラン(IRN)、香港(HKG)、ニュージーランド(NZL)、オーストラリア(AUS)の5か国・地域であった。

共著関係のみ世界平均より強い国・地域は、マレーシア(MYS)、インド(IND)、シンガポール(SGP)の3か国・地域である。これらの国・地域は、他の国・地域と比較して、研究活動における日本論文の活用度は低いが、日本との協力度は高く、今後、日本の研究成果の活用促進が期待される国・地域と考えられる。

図表4 アジア・大洋州の論文数の多い国・地域(上位15)の日本論文引用割合と日本との共著論文数割合

図表4 アジア・大洋州の論文数の多い国・地域(上位15)の日本論文引用割合と日本との共著論文数割合※

※ 円のサイズは、2014年時点の論文数の規模を表している。円の色は、エリアごとに色分けしている。

4. アジア・大洋州における我が国の国際展開政策の状況

文部科学省では、科学技術イノベーションに関する戦略的国際活動に向けて、国際共同研究を推進するための施策が幾つか展開されている。

ファンディングをベースとした代表的な施策として、科学技術振興機構と日本医療研究開発機構が実施する「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」と「戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)」の2つがある。SATREPSでは、科学技術とODAとの連携により、開発途上国と共同で地球規模の課題解決に向けた国際共同研究を推進している。アジアでは、他のエリアと比較して採択件数が最も多く、これまで84件の共同研究課題が採択されており、社会実装を目指した共同研究注5が実施されている。SICORPでは、省庁間合意に基づくイコールパートナーシップの下、戦略的な国際協力によるイノベーション創出に向けた国際共同研究を推進している。特に、近年、アジアでは、国際共同研究拠点として、ASEAN諸国(環境・エネルギー、生物資源・生物多様性、防災分野)、インド(ICT分野)、中国(環境・エネルギー分野)との共同研究が実施されている。また、二国間の国際共同研究の他、多国間の国際共同研究の支援(例:e-ASIA共同研究プログラム)も行われている。

研究者のネットワーク構築に向けた施策としては、日本学術振興会が実施する、日本の若手研究者が海外の研究機関で研究活動に取り組めるよう支援する「海外特別研究員事業」や「若手研究者海外挑戦プログラム」、海外の研究者を日本の研究機関に招へいする「外国人研究者招へい事業」があり、アジアや大洋州の国・地域との人材交流も進められている。

5. おわりに

本稿では、ASEAN諸国が位置するアジア・大洋州のエリアに着目し、当該エリアの研究活動の状況及び当該エリアでの我が国の研究活動に関する国際展開の状況について、論文データを用いて定量的にみてきた。その結果、日本の研究成果を活用する傾向、共同研究に取り組む傾向の強い国・地域は、東アジア・東南アジアに多く、日本を取り囲むように位置しており、日本と地理的に近接している国・地域との関係性が強いことが示唆された。

我が国が取り組んでいる国際展開施策においても、アジア・大洋州との国際共同研究や人材交流が進められている。今回の分析では、日本論文の活用度よりも日本との協力度の方が高い国・地域としてマレーシア(MYS)、インド(IND)、シンガポール(SGP)が特定されており、東アジア・東南アジアの国・地域の中でも日本論文の活用度、日本との協力度に強弱があることも示されたので、より施策の効果を高めていくためには、各国・地域との関係性を踏まえていくことも必要であると考えられる。

そして、今後、より効果的な国際展開施策を検討していくためには、更に国際的な視点から日本の研究活動に関する定量的データを蓄積し、分析を進展させていくことが求められる。


注1 直近では2019年に公開されている1)

注2 Elsevier Scopus Custom Data(2017年12月31日抽出)

注3 Journalに収録されているArticle、Conference Paper、Conference Proceedingに収録されているConference Paperに該当する文献。

注4 全ての国・地域(日本を除く238か国・地域)の割合の加重平均。

注5 タイとのバイオマス分野での共同研究において、バイオディーゼル燃料の製造技術開発に成功し、タイ政府の石油代替エネルギー開発計画(2015-2036)の中で、新規なバイオディーゼルとして採用されるなど、幾つか実績が出てきている。

参考文献・資料

1) 村上昭義, 伊神正貫. (2019). 「科学研究のベンチマーキング 2019-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況」. 科学技術・学術政策研究所 調査資料 No.284

2) 松本久仁子, 小野寺夏生, 伊神正貫. (2019). 「論文の引用・共著関係からみる我が国の研究活動の国際展開に関する分析」. 科学技術・学術政策研究所 調査資料 No.285