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- DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00217
- 公開日: 2020.06.25
- 著者: 細坪 護挙、星野 利彦
- 雑誌情報: STI Horizon, Vol.6, No.2
- 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
レポート
数学研究に関する国際比較
-「忘れられた科学」から-
既に行政では数学は「忘れられていない」という認識であるが、報告書「忘れられた科学-数学」の刊行(2006年)から年数が経過したこともあり、政策の基本情報を得ることを目的として、日本の数学の現況について世界と比較した客観的な把握・分析を行った。
数学論文数の国別シェアを見ると米国、日本、ドイツ、フランスでは低下傾向が見られる一方で、中国とインドが急拡大している。
各学際分野の論文数の推移を見ると、日本における諸科学と数学との学際分野の論文数は増えているが、世界は日本よりも更に論文数が伸びていることが分かる。ただし、医学や芸術及び人文学との学際分野の論文数は、世界の伸びより日本の伸びが大きい。
学際分野の論文に含まれる頻出上位キーワードに関して、世界的な傾向と日本の傾向を比較した。これから、日本の数学との学際分野に関しては、特に工学系等で半導体やロボット関連のものが相対的に多いことが分かる。
キーワード:数学研究,論文数,国別シェア,学際分野,頻出上位キーワード
1. はじめに
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、2006年5月に「忘れられた科学-数学」報告書1)を公表した。本報告書では、我が国の数学研究は諸外国と比べ厳しい環境下にあり、広範な科学技術分野の期待に応えられていないことを明らかにし、振興策を提案した。その後、学術界やメディアなどでも大きく取り上げられ、また行政側の反響も大きく、本報告書は歴史的な数学施策の振興に大いに寄与したものと考えられる。
その後の行政では、数学分野の戦略的創造研究事業制度の導入など、外部資金における数学対象のプロジェクトの創設があり「忘れられていない」という認識を持たれてはいるが、上記の報告書の刊行から年数が経過したこともあり、政策立案に当たっての基本情報を得ることを目的として、日本の数学の現況の世界と比較した客観的な把握・分析を行った2)。
2. 世界における数学研究論文等の状況
数学研究の状況について主に論文数の観点から分析を行った。各国の状況をなるべく同じ条件で比較分析するため、エルゼビア社のScopus(スコーパス)データベースから各年での各国の数学研究に関する論文数を算出した。論文数の集計方法の概要を図表0に示す。論文分析においては、文献タイプや出版タイプは指定せず、論文数のカウント方法も特に指定をせず整数カウントとしている。また、分野の決め方はデータベースの分野をそのまま使用し、キーワードは使用していない。論文検索では分野と出版年、国で絞っており、他の項目は使用していない。
数学研究の論文数のシェアは、トップから中国、米国、インドの順となっており、近年、中国、インドが急拡大している。日本は世界第9位の地位を占め、世界の数学研究論文数の約4%のシェアとなっている(図表1)。
数学研究論文数の国別シェアの推移では、米国、日本、ドイツ、フランスで低下傾向が見られる(図表1)。
数学と諸科学(芸術及び人文学を含む)との学際分野の論文数の推移を図表2で示す。日本は数学との学際分野の論文数は増えているが、世界は日本よりも更に論文数が伸びている。ただし、医学や芸術及び人文学との学際分野の論文数は、世界の伸びよりも日本の伸びが大きい。
学際領域の名称の順番は、世界(2016-2018年平均)の論文数の順番で、下向きの青矢印は、2005-2007年平均論文数と2016-2018年平均論文数の順位の変遷を表している。
上向きの黄矢印は、日本の2005-2007年平均論文数より2016-2018年平均論文数が上回る場合で、下向きの黄矢印は、日本の2005-2007年平均論文数より2016-2018年平均論文数が下回る場合となる。
大きな上向きの黄矢印は、日本の傾向(2016-2018年平均/2005-2007年平均)が世界の傾向(2016-2018年平均/2005-2007年平均)より大きな場合を表す。
3. 追加の論文分析から見た数学と学際分野の動向
学際分野論文に含まれる頻出上位キーワードに関して、世界の傾向と日本の傾向を比較した(図表3から図表6)。
この傾向を比較により、同じ学際分野の論文であっても、日本は具体的にどの分野に多い(少ない)のかが判明すると考えられる。
例えば、数学-計算機科学の学際分野に関しては、日本は設計(Design)やセマンティクス(Semantics)、ニューラルネットワーク(Neural Network)といった分野では世界より少ない一方、人と計算機の相互作用(Human Computer Interaction)、暗号論(Cryptography)やロボット(Robots, Robotics)という分野では世界より多いと考えられる。
数学-工学分野に関しては、反復法(Iterative Methods)や複雑系(Stochastic Systems)、信号処理(Signal Processing)に関しては世界より少ない一方、ロボット(Robots, Robotics)やリソグラフィー(Lithography)に関しては世界より多い。
数学-物理学及び天文学の学際分野に関しては、リモートセンシング(Remote Sensing)、アルゴリズム(Algorithms)、ファイバー(Fibers)といった分野では日本は相対的に少ないが、リソグラフィー(Lithography)、極紫外リソグラフィー(Extreme Ultraviolet Lithography)や光源(Light Sources)といった分野では相対的に多い。
数学-材料科学の学際分野においては、リモートセンシング(Remote Sensing)、有限要素法(Finite Element Method)やアルゴリズム(Algorithms)といった分野では日本は相対的に少ない一方、リソグラフィー(Lithography)、極紫外リソグラフィー(Extreme Ultraviolet Lithography)やフォトマスク(Photomasks)といった分野では日本は相対的に多い。
以上から、以上4つの数学との学際分野に関しては、日本は、特に数学-工学系等で半導体集積回路関連(リソグラフィーなど)やロボット関連の論文が相対的に多いことが分かる。
(上図:世界と下図:日本、青枠の部分が共通していない単語)
(上図:世界と下図:日本、青枠の部分が共通していない単語)
(上図:世界と下図:日本、青枠の部分が共通していない単語)
(上図:世界と下図:日本、青枠の部分が共通していない単語)
4. 数学研究に関する日本と各国の状況
学生数や卒業者数といった人的資本の面では、近年は大きな変化は見られないものの、日本の場合、女性の人的資本が他分野と比較して伸び悩んでいる(図表7、図表8、図表9)。
米国では、数学研究に関して、その広い雇用の幅と膨大な量が示唆されている(図表10)。米国における研究開発に携わらない職を含む数理科学関係の職への従事者数は、2018年時点で17万人と推計されている。
人材供給源となる学生数について、米国では数学に加えて統計学も含まれるが、全分野に占める割合は近年増加傾向にある(図表11)。
5. おわりに
数学研究に関する調査について、論文数を手掛かりに全体的傾向を把握し、近年増加している学際分野の論文についてキーワードを分析することで、世界と日本の比較検討を行った。
数学研究の論文数における国別シェアは、米国、日本、ドイツ、フランスで低下傾向が見られた一方、中国、インドは急拡大していることが分かった。
また、数学と諸科学との学際分野の論文数の推移では、日本の論文数は増えているが、世界は日本よりも更に論文数が伸びていた。ただし、医学や芸術及び人文学との学際分野の論文数は、世界の伸びより日本の伸びが大きいことが分かった。
さらに、学際分野論文に含まれる頻出上位キーワードに関して、世界の傾向と日本の傾向を比較した。これから、日本の数学との学際分野に関しては、特に工学系等で半導体やロボット関連のものが相対的に多いことが分かった。
数学研究の人材供給源である日本の数学関係学科・専攻の学部、修士、博士については、近年大きな変化は見られないものの、女性の人数に伸び悩みが見られた。
参考文献・資料
1) 細坪護挙、伊藤裕子、桑原輝隆.「忘れられた科学-数学」、文部科学省科学技術・学術政策研究所 Policy Study No.12 (2006年) http://hdl.handle.net/11035/721
2) 細坪護挙、岡本拓也.「数学研究に関する国際比較-『忘れられた科学』から-」、文部科学省科学技術・学術政策研究所調査資料-287 (2020年) https://doi.org/10.15108/rm287