STI Hz Vol.2, No.2, Part.9: (ほらいずん)画像の不正処理の検出ツール開発とオープンサイエンス時代のベンチャービジネスの可能性STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00029
  • 公開日: 2016.06.25
  • 著者: 林 和弘
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.2, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
画像の不正処理の検出ツール開発と
オープンサイエンス時代のベンチャービジネスの可能性

科学技術予測センター 上席研究官 林 和弘

研究公正に注目が集まる中、これまで難しかった不正な画像を検出するツールが東京大学のベンチャーによって開発されている。このツールではウェブ上でオープンに公開されている画像を集積して、不正の元となった画像を探索しており、研究成果の公開がより進むことによって、研究公正に役立つだけでなく、新しい形のビジネスが発展することも予想される。

昨今の科学と社会の在り方の議論において、公的資金を投じた研究成果の透明性が求められている。研究成果の透明性は政策的には現在オープンサイエンスの便益として、あるいはレスポンシブルリサーチの中で議論されており、研究成果をよりオープンに公開することで、イノベーションを加速するだけでなく、研究公正にも役立つとされている。

これまで、研究公正としては、主に研究論文の不正を防ぐためにICT技術を活用して様々な取組が行われてきた。その中でも、テキストパターンマッチングの技術を活用したCrossCheckと呼ばれる仕組みを利用して文章の盗用を発見する手法は、大手出版者中心に2010年後頃から標準的な運用状態に入っている。一方、画像の不正検出についてはその技術的難易度から、ニーズは高いものの幅広く一般的な手法は確立されていない。

ここで東京大学発ベンチャーのLPixelでは、電気泳動の画像など生命科学系の画像の切り貼りを検出するツールなどを開発してきたが、2016年4月に、画像の一部を抜き出す、回転させる、といった画像の転用を検出し、不正防止に役立てるツールを開発したことを発表した。

オープンサイエンスの観点において重要なポイントは、このツールでは主にオープンアクセス化された論文の画像を集積して、転用検出に役立てていることである。研究成果の公開がより促進されることで、人の目だけではなく、機械の目を使って不正防止に役立つ手法が生まれている。また、この会社では、単に不正を検出する取組だけでなく、不正な画像ととられないような画像処理の仕方を研究者に教育するビジネスも画像処理ソフト最大手のAdobe社と提携して行っている点も注目に価する。

オープンサイエンス政策が浸透することにより研究成果の公開が進めば、科学研究の発展や効率化に加えて、これまでにない新しいビジネスの可能性が生まれることは、例えばHorizon2020でもオープンサイエンスの便益としてうたわれており、日本でも第5期科学技術基本計画においてオープンサイエンスの推進に取り組むとしている。この潮流の中で、日本でもこうした、科学研究に役立つ新しいツールの開発や新しい形式のビジネスが兆しとして表れていることは大いに注目すべきであろう。

参考情報

1)林和弘. 論文誌の電子ジャーナルをめぐる最近の動き. 科学技術動向. 2009, No.100:
http://hdl.handle.net/11035/2056

2)http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000010005.html

3)http://lpixel.net/services/research/lpexampro-2/