STI Hz Vol.7, No.1, Part.3:(特別インタビュー)国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)三島 良直 理事長インタビューSTI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00243
  • 公開日: 2021.03.22
  • 著者: 赤池 伸一、岡村 麻子、林 和弘
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.7, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

特別インタビュー
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
三島 良直 理事長インタビュー
-コロナ危機の中で:人間にとってより良い医療・介護・
ヘルスケアの実現に向けて-

聞き手:上席フェロー 赤池 伸一
科学技術予測センター 主任研究官 岡村 麻子、上席研究官 林 和弘

2020年、世界は新型コロナウイルス感染症による未曽有の危機対応に追われ、2021年1月現在も収束の目途は見えない。2020年4月、第1回の緊急事態宣言が発出される正に直前の混乱の中、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の第2期の理事長として東京工業大学元学長の三島良直氏が就任された。感染症を発端としながら医療分野にとどまらず社会経済全体、さらには個人の価値観・ライフスタイルへも大きく影響を与え続けている災禍の中、日本の医療分野の研究開発の司令塔であるAMEDの動向は、大きな注目を浴びている。

そこで今回、AMED理事長三島良直氏に理事長就任から1年弱を振り返っていただき、COVID-19への対応、第2期AMED体制への抱負等について伺った。

AMED 三島 良直 理事長(AMED提供)

AMED 三島 良直 理事長(AMED提供)
1975年 東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。1979年 カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了。1997年 東京工業大学大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻教授。2012年10月 東京工業大学学長。2019年 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター長。2020年4月より現職。専門は材料工学。

- 工学系のバックグラウンドをお持ちの三島理事長がAMED理事長に御就任されるに当たり、どのような決意でお引き受けられましたか。また、AMEDにどのような変化をもたらそうとされているのでしょうか。

就任に当たり、初めはなぜ私がという気もしましたが、少し時間を頂いて、引き受けることとしました。私のバックグラウンドは医療ではありませんが、組織のマネジメントとしては東工大学長の経験もあり、役に立てるのではないかと考えました。自分に求められるのは、マネジメント面からどのように組織を動かせるかであると認識しています。

4月に着任して以降、AMEDがどのような職員で、どのような体制でやっているのか見えてきました。より良い運営体制の整備については、実際にはこれからだと思っています。自分の主義としては、いろいろな課題があったとしても、職員や、理事・執行役・統括役とコミュニケーションをしっかりとりながら、問題点を的確に抽出して、皆で取り組むスタイルで進めたいと思います。

- 2021年1月7日に2回目の緊急事態宣言が出されるなど、現在もコロナ()は終わりが見えません。COVID-19へのAMEDの対応について教えてください。

就任当時からこれまで、COVID-19対策に追われてきました。AMEDの役割は、まずは研究助成団体としての役割です。政府としては、健康・医療戦略推進本部が方針を出します。AMEDは研究助成団体としてそれを受けて、4つの所管府省(内閣府、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省)のプランニングの支援・予算の運用を行います。政府とのコミュニケーションをできるだけ円滑にし、政府の方針をよく理解した上で、運用していくことが重要と考えています。

具体的には、ワクチン開発支援への期待が一番大きいところだと思いますが、そのほかにも、ウイルス検査方法、感染した方への診断・治療法の開発、医療機器・医薬品の実用化等への研究支援を行っています。それぞれに補正予算をはじめとして調整費なども活用して、正にコロナ対策が始まった4月からこれまで臨機応変に対応を進めてきました。

ワクチンはまだかという声はありますが、ワクチン開発のための体制は信頼あるものを作っていくことが重要です。その上で、なるべく迅速な審査プロセスとするようにしました。通常であれば、予算が決定してから公募が出され、審査期間については数か月はかかります。今まで少なくとも全体として数か月かかっていたところを、公募予告を活用したり、厳正な審査の質は確保した上で審査期間の短縮に努めています。

また、採択後の課題に関しても、研究者の負担をなるべくかけないようにしながら、プロジェクトがどう動いているかを毎月運営委員会で報告してもらっています。うまくいきそうなものがでてきたら、もっと予算をつけたりするなど、機動的な取組を行っています。

また、特に最新のワクチンの問題など社会的な関心が高いものについては、アウトリーチが重要であると考えています。広報担当の部署と連携しながら、これまで記者説明会を2回行いました。2回目のときは、現場で研究をしている研究者に出席していただき、ゲノム分子疫学でウイルスが変異していることや、動物モデルの構築からワクチン開発まで、研究成果の説明をしました。こういった、サイエンスコミュニケーションに力を入れていくことも重要と考えているのですが、担当職員に相当負担がかかっているという状況であることも付け加えたいと思います。

- 2015年4月に発足したAMEDは第1期の5年間を終え、2020年4月から第2期に入りました。第2期AMEDの方針、体制について教えてください。

推進方針を打ち出しており、その1つとして政府との協調・協働を強化したいと考えています。AMEDでは、4つの所管府省があり、予算の構造や運営の仕方は、複雑なものです。それでも、第1期のAMED評価では、AMEDができる以前よりも、随分良くなったという声もあがりました。健康・医療戦略推進本部の方針が中心になりますが、省庁ごとに違うエビデンスを用いる場合があるなど、混乱することもあります。共通のエビデンスを作っていくことが重要であり、そのために政府とのコミュニケーションが重要だと考えています。

また、大学にいたときから重要だと思ってきましたが、これからの医療の在り方を考えると、異分野融合はAMEDにおいても重要であると考えます。我々は、2001年に9.11の米国同時多発テロ事件、2011年に東日本大震災、2020年にコロナ禍と、社会変革を幾つも経験してきました。大きな社会変化は、身体・精神の両面で、人間への影響が大きいものです。特に、ヘルスケアから取り組む専門の方々(社会科学や人間行動学など)の参画も得て、社会変革の影響をしっかりと見定めていくことが必要です。このような動きはこれまでもありましたが、AMEDの中でも、今後大きな流れにしていきたいと考えています。

それから、科学技術イノベーション政策におけるエビデンスに基づく政策形成(EBPM)の重要性の高まりについても、強く認識しています。研究助成団体との連携も重要と考えます。AMEDには現在シンクタンク機能がありませんし、すぐに作ることも難しいため、特にJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)-CRDS(研究開発戦略センター)、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)-TSC(技術戦略研究センター)、NISTEP(科学技術・学術政策研究所)らの科学技術系シンクタンクとの連携を深めていきたいと思います。また、日本全体としての方向性を打ち出す観点と、各研究助成団体がそれぞれどうしていくかという観点があると考えており、日本の強みがどこにあるのかという観点も含めて、引き続き議論していきたいと考えています。

推進方策に関して、第1期では、5つの「横断型」と4つの「疾患領域対応型」の計9つの統合プロジェクトでしたが、第2期AMEDでは、モダリティ(技術・手法)を軸にした6つの統合プロジェクトに再編成し、各プログラムディレクター(PD)の下で、関係府省の事業を連携させ、基礎から実用化まで一元的に推進しています。さらに、プロジェクトを横断する形で各疾患領域のコーディネーター(DC)を配置しています。現時点では、PDやDCの人材は足りていると思いますが、これからの話をすると、今後を担う若手の人材が必要となってくると思います。特に、6つの統合プロジェクト体制になり、モダリティ、疾患等の新たな組合せがでてくるので、柔軟な頭でその組合せを育てられる人材が必要になります。先ほど異分野融合が重要と話しましたが、心理学、人間工学などの知見・見解を持つ人の参画も必要となってくると思います。

- データの管理や利活用なども大きな課題となっていますが、どのようなお考えをお持ちでしょうか。また、AMEDとしては、どのような取組をされているでしょうか。

医療分野でのデータの共有、利活用については、社会全体の喫緊かつ鍵となる課題と認識しています。まず、私自身も内閣府のSIPプログラムに関与して日本の材料科学の国際競争力を維持、発展させようとしており、データの共有は最重要点の一つです。その上で、日本の縦割り構造の問題や自前主義が強いという課題があると認識しており、それらを乗り越えて日本の強みを産学官の総力を挙げて示せるように取り組んでいます。医療分野においても、同様の問題意識を持っており、三大バイオバンク(バイオバンク・ジャパン(BBJ)、東北メディカル・メガバンク計画(TMM)、ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN))の試料を分析する際の情報の共有などにおいて、オープン・クローズ戦略を意識しながら、また、日本の研究データが持つ質の高さなどを生かして、様々に有効利用できるシステムを構築していければと思っています。

また、医療関係の研究データには個人情報に代表される取扱いの難しさがあるのですが、そこはやりがいがあるところでもあり、データを共同で利用できる仕組みやプラットフォームづくりを目指しています。特にバイオインフォマティクスの進展を踏まえ、がんや難病のゲノムの利活用において、スーパーコンピューターの連携などを含め、共有と解析が進むプラットフォームづくりに挑戦できればと思っております。それとともに大事なことですが、解析した結果を安心して利用できるルール作りにも注力したいと思います。その際には研究の最初の段階からインフォームド・コンセントを得る仕掛けを、フォーマットの整備等も含めて整えていければと思っています。最近では、AMEDの研究成果にかかるデータの利活用について内部でも検討を始めており、今後、健康・医療戦略推進本部の健康・医療データ利活用基盤協議会の議論にも参画し、AMEDとしてしっかり取り組んでいきたいと考えています。

- 我が国の科学技術・イノベーション政策全般に関してお伺いしたいと思います。

第6期科学技術・イノベーション基本計画の最新の答申素案に目を通したところですが、いまだ途上のSociety5.0の実現に向けてと、やはりCOVID-19対応に注目したものとなっていると認識しています。新しい社会の実現に向けて、今後の施策への反映を期待しておりますが、やはり、その中でも、日本の科学技術基礎分野の振興に関心があります。例えば論文に関して、COVID-19関連ではJSTの調査によれば世界16位と言われますが、基礎研究をどのように強化していくかが重要で、素案では第2章の2にある“知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化”というところが該当すると思います。最近、博士課程に進む学生に経済的支援を行うことなどが決まりましたが、このような若い優秀な学生に具体的な支援を行うことなどはとても良いことと思います。

関連する話題としてですが、大学の入試の在り方という難しい課題も取り組む文部科学省の検討会議に関与しています。難しいながらも非常に大事だと思っているのは、大学の研究をベースとした教育の在り方についてです。少しでも視野の広い研究を若い人に行ってもらえるような姿勢づくりを教員と学生と対話して進めることが重要と考えています。そのためには、大学だけでなく初中等教育を含めてディスカッションができる人材を育てていくなど、総合的に若者を育てることが重要と考えており、その中で大学入試の在り方もセットで議論していくことになると考えています。

あとは、ともかくデータ駆動研究の重要性は論をまたず、企業との連携も踏まえて日本の科学技術を伸ばし、世界のトップを走れるように取り組めればと思います。

- これから研究者を目指す若い人向けに一言お願いします。

若い人向けには、やはり海外に行くことをおすすめします。1年とは言わなくても、学部の間なら夏のサマースクールでもよいと思います。そして、大学院は海外を目指すくらいの気概を持って進んでほしいと思っています。

(2021年1月26日オンラインインタビュー)

オンラインインタビューに答える三島理事長(NISTEP撮影)

オンラインインタビューに答える三島理事長(NISTEP撮影)


https://www.jst.go.jp/pdf/pc202012_2.pdf
なお、NISTEPにおいても同様の調査を行っている(http://doi.org/10.15108/dp181)。