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- DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00327
- 公開日: 2023.03.20
- 著者: 松本 泰彦、荒木 寛幸
- 雑誌情報: STI Horizon, Vol.9, No.1
- 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
レポート
大学における地域産学連携現況(2020)
地域における科学技術のポテンシャルの把握と指標化に関して、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では都道府県別の地域の科学技術に関連する統計データを継続的に採集し報告している(1997, 2001, 2005, 2016, 2018, 2020, 2022)。
そこで、今回、地域科学技術指標20208)において報告したデータから地域での科学技術活動の代表例として産学連携(大学が民間企業から受け入れた研究資金)に着目し、3大都市圏(東京圏、中京圏、関西圏)及び地方圏に分類し、地域における産学連携の状況について集計・分析した。その結果、以下の傾向が確認できた。
- 産学連携の状況として、全体の研究資金受入額・件数については、2014年から2018年の5年間で増加傾向であることが分かった。この傾向は3大都市圏や地方圏でも同様であった。
- 大企業、中小企業の区分で確認すると、研究資金の受入額については大企業は51%増(2014年比)、中小企業は74%増(2014年比)と、中小企業の伸びが大きかった。
- 研究資金の受入件数については大企業は14%増(2014年比)、中小企業は38%増(2014年比)であった。
- 3大都市圏及び地方圏における1件当たりの研究費受入額については、2014年から2018年において3大都市圏及び地方圏共に増加傾向であることが分かった。
キーワード:産学連携,地域科学技術指標,民間企業からの研究資金
1. はじめに
地域における科学技術のポテンシャルの把握と指標化に関して、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では都道府県別の地域の科学技術に関連する統計データを継続的に採集し報告している(19971),20012),20053),20164),20185),20206),20228))。
今回は「大学における地域産学連携現況(2019)7)」をもとに、2014年から2018年までの範囲を収録している「地域科学指標2020」8)のデータを用いて近況を調べた。地域での科学技術活動の代表例として産学連携に着目したデータ及び分析の報告である。地域における産学連携注1、特に、大学が民間企業から受け入れた研究資金(共同研究、委託研究合計)に関する状況を分析した。本調査研究の方法論としては、「地域科学技術指標2020」の資料データ注2を3大都市圏である東京圏注3、中京圏注4、関西圏注5及び地方圏注6に分類・集計注7し、分析を行った。
2. 産学連携の状況分析
(1)大学の民間企業からの研究資金受入状況
大学における民間企業からの研究資金受入額全体について、2014年から2018年の5年間の推移を図表1に示した。これを見ると期間中の研究資金受入額は一貫して増加傾向にある。2018年は820億円であり、2014年と比較すると56%増加した。
産学連携における研究資金受入額を大企業、中小企業の2分類で見ると、大企業からの受入額は、2018年は650億円であり、2014年と比較すると51%増加した。また中小企業からの受入額は、2018年は170億円であり、2014年と比較すると74%増加した。大企業、中小企業からの受入額は増加傾向であった。(図表2参照)
産学連携における研究資金受入件数総数の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は3.5万件であり、2014年と比較すると15%増加した。
産学連携における研究資金受入件数を大企業、中小企業の2分類で見ると、大企業からの受入件数は、2018年は2.4万件であり、2014年と比較すると14%増加した。また中小企業からの受入件数は、2018年は1.1万件であり、2014年と比較すると38%増加した。大企業、中小企業からの受入件数は増加傾向であった。(図表3参照)
産学連携における研究資金受入平均額全体の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は2.3百万円であり、2014年と比較すると14%増加した。
産学連携における研究資金受入平均額を大企業、中小企業の2分類で見ると、大企業からの受入平均額は、2018年は2.7百万円であり、2014年と比較すると12%増加した。また中小企業からの受入平均額は、2018年は1.6百万円であり、2014年と比較すると25%増加している。大企業、中小企業からの受入平均額は増加傾向であった。(図表4参照)




(2)同一県企業との連携状況
同一県企業との連携状況について調べたところ、同一県企業からの産学連携における研究資金受入額全体の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は240億円であり、2014年と比較すると54%増加した。
産学連携における同一県企業からの研究資金受入額を大企業、中小企業の2分類で見ると、大企業からの受入額は、2018年は前年から微減の160億円であるが、2014年と比較すると47%増加した。また中小企業からの受入額は、2018年は70億円であり、2014年と比較すると72%増加した。同一県企業からの受入額の総額は増加傾向であった。(図表5参照)
また、同一県企業からの産学連携における研究資金受入件数全体の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は前年から微減の10千件であるが、2014年と比較すると25%増加した。
産学連携における同一県企業からの研究資金受入件数を大企業、中小企業の2分類で見ると、大企業からの受入件数は、2018年は前年から微減の6千件であるが、2014年と比較すると25%増加した。また中小企業からの受入件数は、2018年は5千件であり、2014年と比較すると28%増加した。同一県企業からの受入件数は2017年度から大きな変化はなかった。(図表6参照)


(3)3大都市圏(東京圏、中京圏、関西圏)と地方圏別状況
3大都市圏と地方圏との連携状況について調べたところ、3大都市圏の産学連携における研究資金受入額の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は550億円であり、2014年と比較すると57%増加した。
地方圏の産学連携における研究資金受入額の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は270億円であり、2014年と比較すると52%増加した。(図表7、図表8参照)
3大都市圏の産学連携における研究資金受入件数の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は2.1万件であり、2014年と比較すると36%増加した。
地方圏の産学連携における研究資金受入件数の2014年から2018年の5年間の推移を見ると増加傾向にある。2018年は1.4万件であり、2014年と比較すると35%増加した。(図表9、図表10参照)
3大都市圏の産学連携における研究資金受入金額の平均額は、東京圏では平均額は増加となっている。2018年は2.6百万円で、2014年と比較すると19%の増加であった。2018年の中京圏では2.4百万円、関西圏は2.8百万円、地方圏では1.9百万円であった。
2018年は大企業からの研究資金受入金額の平均額が東京圏では2.8百万円、中京圏は2.8百万円、関西圏は3.3百万円、地方圏では2.2百万円であった。また、中小企業からの研究資金受入金額の平均額は、東京圏では1.8百万円、中京圏は1.8百万円、関西圏は1.5百万円、地方圏では1.4百万円であった。1件当たりの研究費受入額について、東京圏においては、大企業との連携における研究費受入額は年々増加している。
中京圏では、中小企業との連携が2014年から2016年までは減少傾向であったが、2016年には盛り返し2018年にかけて増加している。
関西圏では大企業との連携が2014年から2015年までは減少傾向であったが、2017年には盛り返し2018年にかけて増加している。
地方圏では、大企業、中小企業ともに1件当たりの研究費受入平均額は増加傾向であった。(図表11参照)





3. まとめ
産学連携の状況として、全体の研究資金受入額・件数については、2014年から2018年までの5年間で増加傾向であった。この傾向は3大都市圏や地方圏でも同様であった。
そこで、大企業、中小企業の区分で確認すると、民間企業からの研究資金の受入額については大企業は51%増(2014年比)、中小企業は74%増(2014年比)と、中小企業の伸びが大きかった。また、研究資金の受入件数は大企業は14%増(2014年比)、中小企業は38%増(2014年比)であった。中小企業との連携においては件数増加も大きかったが、受入金額は大きく増加したと言える。
1件当たりの研究費受入額については、各圏域で2014年比であれば2018年は増加していると言えるものの、数値的に大きな伸びは見えない。しかし、3大都市圏と地方圏では、大企業からの1件当たりの研究費受入額が徐々に開きつつある。
3大都市圏、地方圏における研究資金受入額の構成比を大企業(同一県内・外)、中小企業(同一県内・外)で見ると、変化が余り見られないが、大企業(同一県外)では、地方圏において構成比率が年々減少傾向にある。これは、大企業が同一県外の大学との連携に消極的になっている可能性が指摘できる。更に東京圏では大企業(同一県内)の占める割合が60%超であることからも、大企業が東京圏に集中していると言える。(図表12参照)
今回は地域での科学技術活動の代表例として産学連携、特に、大学が民間企業から受け入れた研究資金(共同研究、委託研究合計)に関する状況について、3大都市圏及び地方圏を対象として分析した。その結果、東京圏における数値が大きくポテンシャルが高いと言える。また、東京圏に集中していることに変わりはないが、各圏域でそれぞれ特徴が出ていると考えられる。より詳しい都道府県の分析は、「地域科学技術指標20208)」で確認いただきたい。
また、今回の分析は飽くまでも量的状況の把握であり、今後、質についての検証を行う必要がある。

注1 本レポートでの産学連携は、各都道府県の企業による産学連携活動を示すのではなく、各都道府県にある大学の産学連携活動、つまり、県内企業のみならず県外企業との連携活動も含んだ状況を示すものである。
注2 「地域科学指標2020」第3章産学連携の資料データ(文部科学省「産学連携等実施調査」の個票データから作成)
注3 東京圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
注4 中京圏:岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
注5 関西圏:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
注6 本レポートでは、3大都市圏に含まれない道県を地方圏と呼ぶ。
地方圏:北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県
注7 図表中の単位はbn:10億、M:100万、K:千
参考文献・資料
1) 文部科学省科学技術政策研究所,1997.3, 地域科学技術指標策定に関する調査 – 地域技術革新のための科学技術資源計測の試み –,調査資料No.80.
https://hdl.handle.net/11035/647
2) 文部科学省科学技術政策研究所,2001.12, 地域科学技術指標に関する調査研究,調査資料No.80.
https://hdl.handle.net/11035/826
3) 文部科学省科学技術政策研究所,2005.3, 地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係る調査研究,調査資料No.114.
https://hdl.handle.net/11035/856
4) 文部科学省科学技術・学術政策研究所,2016.3, 地域科学技術指標2016, 調査資料No.246.
https://doi.org/10.15108/rm246
5) 文部科学省科学技術・学術政策研究所,2018.11, 地域科学技術指標2018, 調査資料No.278.
https://doi.org/10.15108/rm278
6) 文部科学省科学技術・学術政策研究所,2020.7, 地域科学技術指標2019, 調査資料No.294.
https://doi.org/10.15108/rm294
7) 文部科学省科学技術・学術政策研究所,2020.12, 大学における地域産学連携現況(2019), STI Horizon, Vol.6, No.4
https://doi.org/10.15108/stih.00239
8) 文部科学省科学技術・学術政策研究所,2022.12, 地域科学技術指標2020, 調査資料No.321.
https://doi.org/10.15108/rm321