データ・情報基盤
研究開発ファンディング機関等による「関係機関ネットワーク会合」について

(1)関係機関ネットワーク会合の経緯
「データ・情報基盤の構築」を進めていく上では、実際にデータを扱っている実務者レベル方々の情報交換が重要であるとの認識に立ち、ファンディング機関等で課題を共有し、「データ・情報基盤の構築」をボトムアップで進めていくために、2013年度に「関係機関連絡会」を創設した。2014年度に「関係機関ネットワーク会合」と名称を変更し、それ以降、2021年2月までに18回会合を開催し終了した。

(2)関係機関ネットワーク会合の体制
2015年度(AMED設立)から2020年度(最終回)までの参加機関は、以下の10機関である。

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST/CRDS)
独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(NARO、農研機構)
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構(NIAD-QE)
国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)
独立行政法人 経済産業研究所(RIETI)

(3)関係機関ネットワーク会合での検討内容
関係機関ネットワーク会合で、これまで検討してきた ① データ共有・連携、② 体系的番号、③ 科学技術基本計画への提言、④ e-Rad担当部局との意見交換、⑤ コロナ禍に関する各機関の状況、⑥ その他関連情報について述べる。

① データ共有・連携
ファンディング関係機関が相互にデータ・情報を共有し、連携していくことは関係機関ネットワーク会合発足当初の目的のひとつであった。ファンディング機関が所有するデータを標準化したプロジェクト情報として相互に利用できるように共有化しておけば、自機関だけでなく他機関のプロジェクトも過去に遡って参照できる。そうすれば、ファンディング機関間での切れ目のないファンディングが実現できることになり、各機関のミッションに貢献できると考えられる。また、この情報は各プロジェクトの研究者、審査する評価者にとっても有益な情報であると考えられる。
このような観点から、各機関内で管理用に付与しているIDについて調査した[3]。その結果、課題については、JST、農研機構などの機関ではe-Radの課題名、課題番号をそのまま利用しており、課題より上の階層である制度名等については、各機関が必要に応じて管理しやすいように独自の体系を構築していることが分かった。
「科学技術関係予算」については内閣府から出されている「独立行政法人等の科学技術関係活動等に関する調査」(2004年度から2010年度までは「独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動の把握・所見とりまとめ」)に注目し、NISTEPが分析した結果を関係機関ネットワークで紹介した[3][4]。また、2018年5月、内閣府から「科学技術関係予算の集計に向けた行政事業レビューシートの分類について」が公開された。これは、行政事業レビューに基づいて、年間1000件以上の事業レベルの情報を含む科学技術関係予算が初めて公開されたものであり、科学技術関係予算の分析を行う者にとって、画期的な出来事であった。これについて内閣府の担当者から直接、本会合の場で説明を受ける機会を得た[4]。

② 体系的番号
政府の研究開発投資の効果、具体的には、ファンディング成果の把握には、データが充実している論文情報がよく利用されている。論文の謝辞には、どのファンディングによる成果であるかを記載していることが多い。この謝辞情報から、この論文(アウトプット)が、どのファンディング(インプット)によるものであるかを繋げることができる。この情報が、政府の研究開発投資の効果を分析する貴重なデータとなる。
NISTEPでは、関係機関ネットワーク会合開催以前から、独自に論文データベースによる分析を行っている[1][2][6]。このようなデータベース分析および事例分析の結果を踏まえ、謝辞情報を用いた事業やプログラムレベルの分析を可能とし、研究者への負担も軽減するための方策として、我が国で統一した課題番号(体系的番号)を導入することを提案した[3]。体系的番号の具体的な例を挙げれば、国、機関、施策、年度、研究課題ごとの固有の番号、から構成される10桁(例:JPMEG21512)の英数字の列といったものである。
一方、関係機関ネットワーク会合の参加機関では、①で述べたように、事業や制度等について各機関で管理しやすいように独自の体系を構築している。科研費のように課題番号が公開されているものもあるが、多くは機関内での使用に限られており、公開はされていない[3]。
NISTEPから提案している体系的番号を各機関が採用し、論文の謝辞情報等に利用されれば、各機関の課題レベルで共通化が図られることになり、機関間のデータの共通化を進めるうえで大きな進展となる。さらに、体系的番号がジャーナルの謝辞情報に記載されるようになれば、それがWeb of Science等の論文データベースに収録された時点から分析できるので、タイムラグのない分析が可能となる。
このような観点から、関係機関ネットワーク会合では、体系的番号について、内容の紹介からその後の進捗状況について、2014年度から2017年度にかけて継続的に取り上げてきた[3]。2017年9月時点で、JSPSでは、研究成果における謝辞の表示に関して、科研費により助成を受けたことを必ず表示することとし、Grant Number として、JPと記載した後に8桁の課題番号を記載することとしていた。また、JSTの戦略的創造研究推進事業では、成果論文の謝辞にグラント番号(体系的番号)の記載を研究者に依頼していた。実際に科研費、JSTのプロジェクトの成果である論文の謝辞には、体系的番号が使われはじめていることが、データベースからも確認されている[3]。
海外でも、「CrossrefによるGlobal IDの検討」など、NISTEPが提案した「体系的番号」と同様な観点からの取り組みが進められている。これについて会合の場でNISTEPから紹介した[4]。
また、体系的番号の動向についてもNISTEPから報告した[4]。すなわち、JSPS、JST、AMEDは体系的番号を既に実施していることが論文データからも確認されており、体系的番号はデファクトスタンダードとして浸透しつつあることがわかった。日本全体の論文における体系的番号の浸透実績は、1%(2016年)、7%(2017年)であった[4]。
なお、その後の詳細な検討[7]では、論文謝辞データの中で、体系的番号とのマッチングがされた論文は56,801件であり、その中に延べ115,731件の体系的番号が出現していた。この間の日本の文献数は407,903件であるから、大まかに見積もると14%程度の論文の謝辞に体系的番号が記述されていることになる。年別にみると、2019年は12%、2020年は14%、2021年は16%と着実に増加している。
「体系的番号」については、ネットワーク会合での議論の後、文部科学省、内閣府での検討を経て、2020年1月に内閣府から方針が示された。その後、「体系的番号」の一覧をNISTEPのホームページから2020年9月に公開し、2021年8月、2022年10月、2023年7月に更新している[5]。

③ 科学技術基本計画への提言
関係機関ネットワーク会合では各省庁の研究開発データ相互連携や政策的活用の方向性について議論し、継続的・体系的なデータ整備、データ共有・連携、自動的(自律的)なデータ蓄積、といったことは、共通認識としての合意を得たものであった。これを提言の形にまとめ[3]、検討過程にあった第5期科学技術基本計画へのインプットを図った。

④ e-Rad担当部局との意見交換
e-Rad(府省共通研究開発管理システム)は、平成20(2008)年1月に運用が開始され、10年が経過する平成30(2018)年に向けて改修作業が進められた。平成28(2016)年度は仕様の検討・策定の時期に当たり、関係機関ネットワーク会合において、内閣府の担当者の方々と改修に向けた議論を行った[3]。

⑤ コロナ禍に関する各機関の状況
コロナ禍によって各機関のファンディングの状況や研究環境などがどのように変わったかについて事前にアンケートをとり、関係機関ネットワーク会合の場で議論した[5]。各機関とも、ファンディング自体はコロナ禍でもそれほど変わらないが、オンライン化、電子化などでポジティブな変化があったようである。具体的なメリットとしては、海外在住者を含めたミーティングの障壁が下がり、国際的、地理的距離に関係なく、連携による課題発見や発想の展開が加速される可能性があるとのことであった。一方、研究活動に支障が生じる、博士号の取得が遅れる、予定していた海外渡航を実施できないといったことが問題点として把握されているとのことであった。

⑥ その他関連事項
・研究者識別子ORCID(Open Researcher and Contributor ID)に関して、2016年6月2日にセミナーを開催し、その後、関係機関ネットワーク会合で議論した。
・研究者の未活用アイデアを見える化し企業が活用できるシステムの実例(L-RAD)を紹介した[3]。
・データや指標が科学技術政策へ活用されている世界的な動向を「OECDブルースカイⅢ科学・イノベーション指標フォーラム」として紹介した。
・研究評価における計量データを適切に利用するガイドラインとなる「研究計量に関するライデン声明」について紹介した[3]。

[1] 調査資料, 237, 論文データベース(Web of Science)と科学研究費助成事業データベース(KAKEN)の連結による我が国の論文産出構造の分析, 文部科学省 科学技術・学術政策研究所(2015 年 4 月)
[2] 調査資料, 264, 科学研究費助成事業データベース(KAKEN)からみる研究活動の状況-研究者からみる論文産出と職階構造-, 福澤尚美, 伊神正貫, 富澤宏之, 科学技術・学術政策研究所(2017 年 9 月)
[3] NISTEP NOTE(政策のための科学), 23,科学技術イノベーション政策の基礎となるデータ・情報基盤構築の進捗及び今後の方向性~ファンディング関連データを中心として~, 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 第2研究グループ(2017年11月)
[4] NISTEP NOTE(政策のための科学), 24,科学技術イノベーション政策の基礎となるデータ・情報基盤構築の進捗~政府の研究開発投資の分析に向けて~, 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 第2研究グループ(2019年4月)
[5] NISTEP NOTE(政策のための科学), 26,科学技術イノベーション政策の基礎となるデータ・情報基盤構築の進捗~構築した検索システムの紹介と試行的分析~, 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 第2研究グループ(2023年12月)
[6] NISTEP NOTE(政策のための科学), 13,科論文の謝辞情報を用いたファンディング情報把握に向けて-謝辞情報の実態把握とそれを踏まえた将来的な方向性の提案-, 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究室(2014年12月)
[7] 伊神 正貫, STI Horizon Vol.8, No.2, Part.3: 成長期を迎えた研究費に係る体系的番号-現状と更なる浸透のために求められること- 科学技術・学術政策研究所(2022年5月)