5.2主要国の産業貿易の構造

ポイント

  • 主要国の貿易額(輸出額)における製品とサービスのバランスに注目すると、各国最新年において、韓国(15.6%)、日本(22.4%)、ドイツ(23.5%)はサービスの割合が小さく、英国(58.1%)、米国(33.8%)、フランス(33.4%)ではサービスの割合が大きい。
  • 主要国の産業貿易の構造を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業が最も多くを占める国が多い。各国最新年においてミディアムハイテクノロジー産業の割合が大きな国は日本(54.7%)、次いでドイツ(50.1%)、韓国(44.5%)である。日本、ドイツのミディアムハイテクノロジー産業の割合は比較的変化が小さいが、韓国では拡大している。
  • ハイテクノロジー産業貿易収支比を見ると、日本の貿易収支比は長期的に減少している。2011年以降1を下回り、入超となった。最新年の日本の収支比は0.76である。他国を見ると、中国、韓国は収支比が高く、それぞれ1.29と1.28である。これに、ドイツが1.16で続いている。最も低いのは米国であり、0.62である。
  • 最新年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.45であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。長期的に貿易収支比が増加しているのは中国である。2020年以降、急激な伸びを見せた。最新年では2.32となり、日本に迫る勢いである。
(1)主要国の貿易

 貿易の主たるものは製品であるが、目に見える製品の輸出入以外にも、サービスの貿易が様々な形態によって行われており、各国においても情報通信技術等の発展に伴って、サービス分野の比重は高まっていると考えられる。ここでは主要国の貿易について、製品とサービスに分類した輸出入額の推移を見る(図表5-2-1)。
 輸出入額全体の推移を見ると、ほとんどの国で2009年や2020年に貿易額に大きな減少があったが、長期的には増加している。国によって程度の差はあるが、製品の方がサービスより貿易額が多い。なお、2022年ではいずれの国においても輸出入額ともに大きく増加している。
 各国別に状況を見ると、日本の輸出額については、長期的に増加傾向である。輸出額全体に占めるサービスの割合は、長期的に増加傾向にあった。2019年を境に減少に転じていたが、2022年以降増加し、2023年では22.4%となった。輸入額におけるサービスの割合は輸出額における割合よりも大きい傾向にあったが、2023年では22.5%と同程度となった。サービスについては全期間入超となっている。また、全体として入超である年が2010年代に入ってから増えている。
 米国の輸出入額はともに増加している。輸出額に占めるサービスの割合は、長期的に増加傾向にあったが、2016年をピークに減少傾向にある。2023年では33.8%となった。全期間にわたって、サービスは出超、製品は入超である。
 ドイツ、フランス、英国についても、輸出入額は長期的に増加しており、2020年の減少から回復した後の2022年は3か国ともに大きく伸びた。2024年のサービスの輸出額に注目すると、ドイツでは輸出額全体の23.5%、フランスでは33.4%、英国では58.1%を占めている。ドイツ、フランス、英国ではサービスの輸出の割合は長期的に伸びている。ドイツは製品が出超、サービスが入超、フランスや英国は製品が入超、サービスが出超の傾向である。
 韓国については、他の国と異なり、2012年以降は、輸出入額は増減しつつ、おおむね横ばいに推移していたが、2021、2022年と大きく増加した。2023年のサービスの輸出額は、輸出額全体の15.6%であり、他の国と比較しても小さい割合である。中国については製品とサービスの内訳のデータは無いが、全期間にわたって出超である。


【図表5-2-1】 主要国における貿易額の推移

注:
1) 中国は「製品」と「サービス」に分類されたデータが記載されていなかった。
2) ドイツの2021年以降、フランスの2022年以降、韓国の2023年は暫定値である。韓国の1995~1999年は見積り値である。
資料:
OECD,“National Accounts” Annual GDP and components - expenditure approach

参照:表5-2-1


(2)主要国の産業貿易の構造

 ハイテクノロジー産業やミディアムハイテクノロジー産業といった「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」(4)の貿易については、技術貿易のように科学技術知識の直接的なやり取りについてのデータではないが、実際に製品開発に活用された科学技術知識の間接的な指標であると考えられている。ここではまず、OECDの定義による研究開発集約のレベル(研究開発費/粗付加価値)に基づき、産業を分類し、主要国の産業貿易のバランスを見る。
 図表5-2-2では、主要国の産業貿易のうち、輸出額について、①ハイテクノロジー産業(HT産業)、②ミディアムハイテクノロジー産業(MHT産業)、③ミディアムテクノロジー産業(MT産業)、④ミディアムロウテクノロジー産業(MLT産業)、⑤その他の5つに分類し、その構造を見る。
 日本ではMHT産業が最も大きく、2024年では、54.7%を占め、他国と比較しても最も大きい。次いでHT産業が15.0%、MT産業が13.3%、MLT産業が8.4%である。時系列を見ると、HT産業は、2000年以前は30%程度で横ばいに推移していたが、その後減少し、2010年頃から再び横ばいに推移している。MHT産業は2000年頃から微増し始めたが、2010年頃から横ばいに推移している。MT産業は2000年代に入って割合が増加した後、2010年代初頭をピークに微減・横ばいで推移している。
 米国はMHT産業が最も大きく、2024年では、32.2%を占めている。次いでMLT産業が27.2%、HT産業が24.0%、MT産業が8.2%である。時系列を見ると、MHT産業は2000年代半ばから減少している。HT産業は、2000年代に入り減少した後、2010年代以降は緩やかに増減を繰り返している。MLT産業は2000年代後半から長期的に増加している。MT産業は2010年代に入るとほぼ横ばいに推移している。
 ドイツはMHT産業が半数を占めており、2023年では50.1%である。次いでHT産業が18.0%、MLT産業が17.5%、MT産業が10.9%となっている。時系列を見ると、ドイツは他国と比較すると変化が少なく、MHT産業、MLT産業、MT産業は横ばい又は微減、HT産業は2000年頃まで漸増した後、長期的には横ばいに推移している。
 フランスはMHT産業が最も多く、2023年では36.2%を占めている。次いでMLT産業が25.7%、HT産業20.5%、MT産業が11.3%である。時系列を見ると、MHT産業は2000年代後半から減少した後、2010年代に入ってからはほぼ横ばいに推移している。HT産業は長期的には増加していたが、2019年を境に減少している。MLT産業、MT産業は2010年頃からほぼ横ばいに推移していたが、MLT産業は近年微増に転じた。
 英国はMHT産業が最も大きく、2023年で31.7%である。次いでMT産業が22.4%、HT産業が21.5%、MLT産業が18.5%である。時系列を見ると、MHT産業は長期的に見れば微減傾向にある。HT産業は2000年頃まで増加した後は減少に転じ、2014年以降増加、2017年から減少傾向にある。MT産業は2013年に大きく増加した後、減少に転じ、2010年代半ばから増加傾向にある。
 中国は1993年時点ではMLT産業が多くを占めていた。その後、HT産業、MHT産業が増加する一方でMLT産業は減少した。2004年からは、HT産業が最も多い割合であったが、2020年頃からMHT産業が増加し、HT産業は減少した。2023年ではMHT産業が33.6%、HT産業が25.2%である。MLT産業の減少は緩やかに続き、23.7%となった。
 韓国は、1990年ではMLT産業が最も多くを占めていたが、2000年代半ば頃まで継続的に減少が続き、これに代わってMHT産業が増加した。HT産業については、2000年半ばまで漸増した後は減少、2012年を境に増加に転じていたが、2021年以降減少している。2023年では、MHT産業が44.5%、HT産業26.8%、MLT産業が14.9%、MT産業13.5%である。

 

【図表5-2-2】 主要国の産業貿易輸出割合
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国
(H)産業貿易の内訳

資料:
OECD,“Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE)”

参照:表5-2-2


(3)ハイテクノロジー産業貿易

 ハイテクノロジー産業とはOECDの定義(High R&D intensive industries)に基づいている。具体的には「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」の3つの産業を指す。
 図表5-2-3は主要国のハイテクノロジー産業貿易額の推移である。ほとんどの国で2009年及び2020年における減少、その後の増加が見られた。また、輸出入額ともに「電子機器」の割合が大きい傾向にあったが、アジア諸国以外ではそのバランスに変化が生じている。
 日本の輸出額は長期的に見ると、増減しながら減少傾向、輸入額は増加していた。2023年では輸出入ともに前年と比較して減少した。内訳を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が多くを占めている。「電子機器」の全体に占める割合は長期的に見ると輸出入ともに減少している。また、「医薬品」の輸入額が漸増している。
 米国は輸出、輸入額ともに長期的に拡大傾向にあるが、伸びは輸入額の方が大きく2000年代に入ってからは継続して入超である。米国の輸出は「航空・宇宙」が他国と比較しても大きいことが特徴である。その額は2019年から2020年にかけて40%減少したが、その後は増加している。ただし、過去の水準までには回復していない。1995年では約8割であった「電子機器」の割合は、2023年では5割に減少し、「医薬品」は同時期に1割未満から約2割に増加した。
 ドイツの輸出入額は、長期的に見ると増加傾向にある。ドイツの輸出は「電子機器」の額が大きいが、その割合は1995年から2023年にかけて7割から約5割に減少した。それに対し「医薬品」は約2割から4割に増加した。「医薬品」の輸出額は、ここに示した国の中で最も大きい。
 フランスの輸出入の額は長期的に増加した後、2010年代になって伸びが鈍化した。2020年には輸出入ともに大きく減少し、その後は増加に転じた。フランスの輸出は1995年時点では「航空・宇宙」、「電子機器」、「医薬品」の割合がそれぞれ、約3割、約5割、約1割であった。2023年では、「航空・宇宙」が約4割、「電子機器」、「医薬品」が約3割へと変化している。
 英国の輸出額については、2010年代に入り、ほぼ横ばいに推移していた。2020年に一旦減少した後は増加している。1995年時点の輸出額のバランスは「航空・宇宙」が約2割、「電子機器」が約7割、「医薬品」が約1割であった。2023年では「航空・宇宙」は約4割、「電子機器」、「医薬品」は約3割へと変化している。
 中国については、輸出額は2000年代中頃、輸入額は2010年代初めになると米国を上回り、大きく伸びた。ただし、輸出入額ともに2021年をピークに減少に転じている。産業の構成を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が大部分を占めている。
韓国についても、輸出、輸入額ともに「電子機器」がほとんどを占めている。輸入額と比較して輸出額の増加の方が大きかったが、最新年の対前年比は20%減少した。
 BRICsのデータを見ると、ロシア、ブラジル、インドともに輸入額が大きい。ブラジルは「航空・宇宙」で出超であったが、2010年代後半からは輸出額が大きく減少する一方で、輸入額が大きく伸び入超となった。インドは「医薬品」の輸出額が多く、半数を占めており、対象期間を通じて出超である。

 

【図表5-2-3】 主要国におけるハイテクノロジー産業貿易額の推移

資料:
OECD,“Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE)”

参照:表5-2-3


 図表5-2-4に、ハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。日本の貿易収支比は長期的に減少している。2011年以降、1を下回り、入超となっている。2023年の日本の収支比は0.76である。
 米国、ドイツ、フランス、英国の収支比は、1990年代は、1前後で推移していた。米国、英国については、2000年前後から1を下回り、入超で推移し続けている。2023年では米国は0.62、英国は0.80となっている。
 ドイツは2000年頃から1を上回り出超となり、2012年以降はほぼ横ばいに推移している。2023年では1.16である。
 フランスは1990年代前半には1を上回り、出超で、ほぼ横ばいに推移している。2023年では1.06である。
 中国は収支比を上昇させ、2003年から出超である。2000年代後半からはほぼ横ばいに推移していたが、近年増加し2023年では1.29であり、韓国を僅かに上回った。
 韓国は2003年以降、主要国の中では、最も収支比が高かった。しかし、近年減少し、2023年で1.28となっている。

 

【図表5-2-4】 主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-3と同じ。

参照:表5-2-4



(4)ミディアムハイテクノロジー産業貿易

 図5-2-2で見たように、ミディアムハイテクノロジー産業は主要国の多くで、輸出額において一番の重みを持っており、その状況を把握する事は、ハイテクノロジー産業貿易の状況を把握する事と同様に重要である。
 ここでいうミディアムハイテクノロジー産業とはOECDの定義(Medium-high R&D intensive activities)に基づいており、国際標準産業分類第4次改訂版(ISIC Rev.4)を用いたデータを使用した。具体的には、「化学品と化学製品」、「電気機器」、「機械器具」、「自動車」、「その他輸送」、「その他」といった産業から構成される。
 図5-2-5のミディアムハイテクノロジー産業貿易の輸出額を見ると、常時、トップであったドイツを2020年には中国が追い抜いた。これに米国、日本が続いている。輸入額では全期間にわたって、米国が最も大きい。2010年以降は、中国が次いで大きかったが、近年はドイツが上回っている。
 全ての国で輸出入額ともに2009年に減少した。また、輸出額は中国以外の国で、輸入額は韓国以外の国で2020年に減少した。ただし、その後は再び増加に転じている。
 日本の輸出額の内訳は「自動車」が4割と最も大きく、次いで「機械器具」が約3割を占める。両産業の輸出額は2000年代に入ってから急激に伸びた。その後は、大きく減少した後(2009年、2015年、2020年)、回復という増減を繰り返している。輸入額では「化学品と化学製品」が約3割と最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。両産業の輸入額は、年による変動が大きいが、2000年代に入ってから長期的に増加している。
 米国の輸出額(最新年)では、「化学品と化学製品」が最も大きく、約3割を占めている。これに「機械器具」、「自動車」が続いている。輸入額では「自動車」が最も大きい。多くの産業で輸出入額ともに2020年に大きく減少した後に、2021年には増加した。その後は輸入額については伸び続けた産業が多い。
 ドイツの輸出額は「自動車」が最も大きく、約3割から4割で推移している。次いで「機械器具」が大きい。輸入額でも「自動車」が最も大きく約3割で推移している。これに「化学品と化学製品」が続いている。
 フランスでは輸出、輸入における、産業別の規模が似通っている。輸出は1995年時点では「化学品と化学製品」と比較して「自動車」の方が大きかったが、2000年代後半に逆転した。最新年の輸入は「自動車」、「化学品と化学製品」の順で大きい。
 英国も輸出、輸入ともに産業別の規模のバランスが似ている。最新年では輸出、輸入共に「自動車」が最も大きい。それに「化学品と化学製品」が続く。
 中国において、輸出額では「電気機器」、「機械器具」が大きく、輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。中国では2019年から2020年において、他国のような輸出入額の大きな減少は見られず、さらに2021年以降に急激な増加を見せた。特に輸出額の増加が著しく2020年~2023年にかけて「自動車」、「化学品と化学製品」、「機械器具」などが大きく伸びた。
 韓国において、輸出額では「自動車」と「化学品と化学製品」が大きい。両産業とも2010年頃までは大きく伸びていた。2010年代中頃から伸びは鈍化し、近年は再び増加傾向となった。輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。
 ロシア、ブラジル、インドについては、主要国と比較すると輸出入額の規模が小さい。また、全ての国で輸入額の方が大きい。輸入額の内訳を見ると、ロシアでは「機械器具」、ブラジル、インドでは「化学品と化学製品」が最も大きい。

 

【図表5-2-5】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業貿易額の推移

注:
その他は「磁気、光学メディア」、「医療及び歯科用機器・備品」、「軍用戦闘車両」等である。
資料:
OECD,“Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE)”

参照:表5-2-5


 図表5-2-6に、ミディアムハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。
 2024年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.45であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。
 中国の収支比は、長期的に増加傾向にある。2023年では2.32であり、日本に迫る勢いである。韓国の収支比は長期的に増加傾向にあったが、2014年以降は長期的に微減している。2023年では1.66である。
 ドイツの2023年の収支比は1.49であり、継続的に出超である。2000年代半ば以降は、長期的に微減している。
 フランスの収支比は、長期的に減少しており、2023年では0.86である。
 英国の収支比は、1991年以外は入超で推移し、漸減している。2023年では0.66である。
 米国の収支比は未だ1を超えたことはなく、2024年では0.57であり、主要国中最も低い。

 

【図表5-2-6】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-5と同じ。

参照:表5-2-6

 


(4)2019年5月に入手したOECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”では、それまでの「研究開発集約産業(R&D intensive industries)」から「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」に変更されていた。各レベルについて、対象となる産業は今までと同様である。