1.2政府の予算

ポイント

  • 2023年の日本の科学技術予算(補正予算と地域の当初予算も含めた額)は9.5兆円である。他国の最新年の値を見ると、中国は26.5兆円、米国は19.1兆円である。ドイツは2000年代後半から増加し、5.9兆円となっている。
  • 科学技術予算の対GDP比率をみると、日本(地域を含む最終予算)は、2016年以降増加傾向にある。2022年は1.68%、主要国中第1位の規模である。次いで韓国(1.38%)、ドイツ(1.11%)が続く。
  • 科学技術関係予算(当初予算と補正予算の合計値)を府省別の割合で見ると、2023年度では経済産業省が40.6%、文部科学省が34.9%であり、この両省で全体の約8割を占める。2016年度と比較すると、文部科学省は20ポイント減少し、経済産業省は22ポイント増加した。経済産業省の規模の拡大は主に補正予算の増加による。科学技術関係予算における府省のバランスは変化している。

 

 ここでは、政府の科学技術予算について述べる。
 日本については、「科学技術関係予算」を科学技術予算としている。日本の科学技術関係予算は、①科学技術振興費(一般会計予算のうち主として歳出の目的が科学技術の振興にある経費)、②一般会計中のその他の研究関係費、③特別会計中の科学技術関係費の合計から成る。
 日本の科学技術関係予算の集計業務については、2014年度に文部科学省から内閣府に業務が移管され、2018年度より、科学技術関係予算の集計方法が変更された(6)。また、第5期科学技術基本計画の初年度である2016年度まで遡って、新方法による再集計がされている。本報告書には新方法による集計結果を示している。内閣府による科学技術関係予算の集計は、『「行政事業レビューシートが作成されている事業のうち科学技術予算に該当すると判定した事業」及び「行政事業レビューシートの作成を要しない事業のうち、各省から申告された内容に基づき科学技術予算に該当すると判定した事業」から構成されている』(7)とある。
 中国以外の主要国についてはOECDの政府研究開発予算配分額(GBARD:Government Budget Allocations for R&D)の値を用いている(8)。中国については、国家統計局による公表値等を参照した。
 米国については、米国行政管理予算局(OMB)による連邦政府の予算編成・提出・執行についての政府通達であるOMB Circular A-11(Preparation, Submission and Execution of the Budget)において、2016年度に研究開発の分類(Basic research, Applied research, Development)の「Development」が「Experimental development」に変更された(9)(10)。これは、NSFの研究開発統計や国際的な標準とより整合的になることを意図したものとされている(11)。この変更に伴って、米国の研究開発予算の集計方法も2018年から変更され、OECDに報告される値も2000年までさかのぼって変更されている。具体的には、「防衛(2000年から)」、「宇宙の探査と活用(2017年から)」の予算から「Preproduction development(生産前開発)」に対応する部分が除外されている。

1.2.1各国の科学技術予算

 主要国政府の科学技術予算(OECD購買力平価換算)を見ると(図表1-2-1(A))、2023年(12)の日本の地域も含めた最終予算(13)は9.5兆円である。日本の地域も含めた最終予算の推移を見ると、2010年代半ばまでは大規模な補正予算が組まれた年以外は、横ばいに推移していた。2016年以降は当初予算も増加傾向にあり、2020年以降は大規模な補正予算が4年連続で組まれたことから、地域も含めた最終予算は8~9兆円となっている。
 中国は2000年代に入ると大きく増加し、2022年は26.5兆円であり、世界トップの規模である。なお、中国の科学技術予算は中華人民共和国国家統計局「全国科技経費投入統計広報」等の公表数値による。他の主要国の出典となっているOECDの“Main Science and Technology Indicators”には掲載されていない。
 米国については、2009年にARRA(American Recovery and Reinvestment Act of 2009)による特別な予算が措置された以降は減少が続いていた。その後、2013年を境に増加傾向であり、2023年では19.1兆円となった
 ドイツは2000年代後半から増加し、2023年では5.9兆円となっている。
 韓国は一貫して増加傾向である。2023年は3.6兆円であり、フランス、英国を上回っている。
 フランスは2010年代に入ってから漸減していたが、2016年以降、増加傾向にあり、2022年は2.5兆円となった。
 英国は、2010年代に入ると増加傾向となり2021年は2.1兆円となった。
 また、科学技術予算を国防関係の経費(国防用)(日本の場合は防衛省の科学技術関係予算)とそれ以外の経費(民生用)に分類してみる(図表1-2-1(B))。各国最新年では、日本(当初予算)は95.4%が民生用科学技術予算で占めている。米国については、国防用科学技術予算の割合が他国と比較すると大きく47.5%である。韓国では、国防用科学技術予算の割合は民生用と比較して少ないが、最新年で見ると日本やドイツと比較すると大きい割合である。また、米国と日本以外の国では、2001年に比べて国防用の割合が低下しており、特にフランス、英国の減少が著しい。日本については、2020年代に入ってから国防用科学技術予算の割合が上昇している。
 次に、2000年を1とした場合の各国通貨による科学技術予算の名目額と実質額の指数を示した(図表1-2-1(C))。名目額での最新年を見ると、日本は地域を含む最終予算の場合2.2(当初予算は1.5)である。米国は2.8、ドイツは2.7、英国は2.1である。フランス(1.3)は最も伸びが小さい。中国は19.3であり、韓国の8.2とともに大きな伸びを示している。
 実質額を見ると、日本以外の国は名目額より低い数値となっている。最新年を見ると、日本は地域を含む最終予算の場合2.3(当初予算は1.5)である。ドイツは1.8、米国は1.7、英国は1.4である。中国は9.5、韓国は5.3と順調な伸びを見せている。主要国の中では、フランスが0.9と最も低い。


【図表1-2-1】 主要国政府の科学技術予算の推移  
(A)科学技術予算総額(OECD購買力平価換算)の推移


(B)民生用と国防用の科学技術予算の割合(3年平均)

(C)2000年を1とした各国通貨による科学技術予算の指数

注:
1) 購買力平価換算には参考統計Eを用いた。
2) 図表1-2-1(B)は3年平均である。たとえば2023年であれば、2022、2023、2024年の平均値。日本については当初予算である。
3) 実質額の計算はGDPデフレータによる(参考統計Dを使用)。
4) 日本は年度である。日本(当初予算)とは国の科学技術関係予算である。日本(地域を含む最終予算)とは、①国の当初予算、②国の補正予算等、③都道府県と政令指定都市の最終予算の合計値である。なお、2021年以降の日本(地域を含む最終予算)については、③については、当初予算を使用している。
5) 日本について、2016年度以降の当初予算は、行政事業レビューシートの記載内容に基づき予算事業を詳細に分類し、その分類内容に基づく統一的な基準で科学技術関係経費の判定を行う方法に変更されている。図表1-2-1(B)は当初予算額である。2020年度補正予算には第3次補正で措置された「グリーンイノベーション基金事業(2兆円)」及び「10兆円規模の大学ファンド(0.5兆円)」を含む。
6) 米国は連邦政府のみ。2000年以降、Preproduction development(生産前開発)が除かれた。2009年の値にはARRA:American Recovery and Reinvestment Act of 2009によって特別に予算が措置された。2023年は暫定値である。
7) ドイツは1983、1984、1985、1987、1991、1997年において時系列の連続性は失われている。1992年は見積り値、2023年は暫定値である。
8) フランスは1983、1984、1986、1992、1997、2006年において時系列の連続性は失われている。2006、2007、2021年は見積り値である。
9) 英国は1985、2001年において時系列の連続性は失われている。
10) 韓国は2006年まで定義が異なる。2005年において時系列の連続性は失われている。2022、2023年は暫定値。
資料:
日本:国の科学技術関係予算(当初予算及び補正予算)については2013年までは文部科学省調べ及び文部科学省「科学技術要覧(各年版)」。2014年からは内閣府調べ(2016~2024年の値は2024年3月時点の数値である)。地域(都道府県と政令指定都市)の科学技術関係予算については、2000年は(公財)全日本科学技術協会(JAREC)から提供された「地域の科学技術振興状況の総合的調査研究」のデータを元に、科学技術・学術政策研究所が集計した。2001、2002年は(公財)全日本科学技術協会(JAREC)から提供された「地域の科学技術振興状況の総合的調査研究」の集計値、2003~2022年は文部科学省「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書の集計値、2023年以降は内閣府「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書の集計値を使用した。
米国、ドイツ、フランス、英国、韓国:OECD,“Main Science and Technology Indicators March 2024”
中国:科学技術統計センター、中国科学技術統計(webサイト)、2015年以降は中華人民共和国国家統計局、「全国科技経費投入統計広報」の各年版

参照:表1-2-1



 次に、国による経済規模の違いを考慮して比較するために、科学技術予算の対GDP比率をみる(図表1-2-2)。
 日本(地域を含む最終予算)は主要国中第1位の規模である。大規模な補正予算の影響で2009年、2012年、2019年に大きく増加し、2019年以降は1%を超えている。2021年は減少したが、2022年では増加し1.68%となった。当初予算で見ると、日本(当初予算)は1990年代に入って上昇し、2000年代は横ばいに推移していた。2000年代後半に微増した後、2012年を境に減少傾向にあったが、2016年以降増加傾向にある。2021年では減少したが、2022年では再び増加し0.77%となった。
  韓国については2010年代半ばまで増加した後はいったん減少し、再び大きく増加した。2022年の韓国は1.38%であり、主要国中第2位となっている。
 ドイツは2000年代後半まで、減少傾向が続いた後、2009年に急増した。その後しばらくは、ほぼ横ばいに推移していたが、2010年代半ば頃から増加傾向にある。2022年は1.11%となった。
 中国は2010年代に入るとほぼ横ばいに推移した後、2019年を境に減少している。2022年は0.92%となった
 米国は2000年~2004年にかけて急激に増加した後は、2009年を除いて2015年まで減少傾向にあった。その後は再び増加していたが、2020年を境に減少傾向にある。2023年は0.74%となった。
 フランスは2005年まで主要国中、最も大きな値であった。長期的に減少傾向にあったが、2010年代半ばから増加傾向にある。近年は減少し、2022年は0.68%となった。
 英国は長期的に見ると、継続して減少傾向にあった。ただし、近年では増加傾向にあり、2021年では0.61%となったが、主要国の中で最も低い値である。
 なお、韓国、中国を除いた主要国のGDPは、2019年から2020年にかけて減少した後に増加している。それに伴い、同時期の科学技術予算の対GDP比は上昇した後、減少している国が多い。これらの動きは新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴うGDPの変動の影響も反映したものと考えられる


【図表1-2-2】 主要国政府の科学技術予算の対GDP比率の推移 

注及び資料:
科学技術予算は図表1-2-1と同じ。GDPは参考統計Cと同じ。

参照:表1-2-2


1.2.2各国政府の研究開発費負担割合

 研究開発に対する政府の投入資金を調査する方法には、①研究開発費の使用部門において調査を行い、政府負担分を計上する方法、②政府の歳出の中から研究開発に関する支出(科学技術予算を調べる方法(1.2.1項参照))の二つがある。
 これら二つの方法のうち、①使用側において調査する方法は、研究開発費が複雑な流れを経た場合でも、調査対象が国全体を網羅している限り一国の研究開発費の総額を把握することができるが、資金の負担源を必ずしも正確に捉えることができない。これに対して、②支出源(科学技術予算)側の調査では、実際に研究開発費として使用されたかどうか不明の部分があるため、研究開発費を正確に把握することが困難になる。
 この項では①使用側のデータを用いて政府の研究開発費負担の状況を示すこととする。すなわち、各国の研究開発費総額のうち政府が負担した研究開発費が占める割合を見る。ここでいう政府とは、主に中央政府であるが、国によって違いがある。各国の政府が何を指すかを簡単に図表1-2-3に示した。


【図表1-2-3】 主要国の負担源としての政府

注及び資料:
図表1-1-4と同じ。

 

 主要国における政府の研究開発費負担割合を見ると(図表1-2-4)、最新年において最も大きい国はフランスであり32.5%である。これにドイツが30.0%、韓国が22.6%と続く。フランス、米国は2000年頃まで長期的に減少傾向にあり、2010年頃まで横ばいに推移していた。その後、フランスの減少は緩やかであるのに対し、米国は大きく減少した。最新年では18.1%である。また、韓国は2018年を境に増加傾向にある。
 英国については、「日本(OECD推計)はほぼ全期間で7か国中、最も低い割合となっており、2022年の政府負担割合は15.1%(日本の場合17.2%)である。これは、日本(OEC企業」と「大学」の研究開発費使用額が上方に改訂され(1.1.1項参照)、それに伴い政府負担額についても変更されている。このため科学技術指標2022以前の数値とは異なることに留意されたい。英国の2021年では、政府負担割合は19.4%であり、これは科学技術指標2022における最新値27.1%(2019年)と比べて、約8ポイント小さい。
 日本(OECD推計)はほぼ全期間で7か国中、最も低い割合となっており、2022年の政府負担割合は15.1%(日本の場合17.2%)である。これは、日本(OECD推計)の研究開発費の負担割合を見ると(図表1-1-5(B))、企業(78.5%)に加えて、大学(5.0%)の負担割合が他国と比較して高いためである。中国、韓国についても企業が多くを占めており、日本と同様の傾向にある。


【図表1-2-4】 主要国における政府の研究開発費負担割合の推移 

注:
1) 使用部門側から見た政府の研究開発費負担分は国により中央政府のみの場合と地方政府を含む場合があるため国際比較の際には注意が必要である。各国の政府については図表1-2-3を参照のこと。
2) 研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
3) 日本は年度の値を示している。
4) 日本(OECD推計)は見積り値である。1996、2008、2013、2018年において時系列の連続性は失われている。
5) 米国は定義が異なる。1998、2003、2015、2016、2021年において時系列の連続性は失われている。2022年は暫定値である。
6) ドイツは1991年を除いて定義が異なる。1991年において時系列の連続性は失われている。1982、1984、1986、1988、1990、1992、1996、1998年は見積り値。
7) フランスは1992、1997、2000、2004、2010、2014年において時系列の連続性は失われている。
8) 英国の2018年は見積り値。2018年以降は暫定値。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
その他の国:OECD,“Main Science and Technology Indicators March 2024”

参照:表1-2-4


 次に、政府が負担する研究開発費の支出先別の内訳、すなわち政府の資金がどの部門で使用されているかについて見る(図表1-2-5)。
 日本は、「大学」部門と「公的機関」部門が大きな割合を占めており、「大学」部門への支出は約半数である。他の国と比較して「企業」部門への支出割合が少ない点が日本の特徴であるが、2022年は前年と比べて割合が1.7ポイント増加した。2000年頃から、「大学」部門への支出割合は微増していたが、2010年代に入ってからほぼ横ばいに推移している。
 日本(OECD推計)では、「大学」部門の人件費分を研究専従換算した研究開発費を使用しているため、新規のFTE調査結果が反映された場合、その都度データが変化している。1996年以降は「公的機関」の割合が一番大きい。
 米国では、過去は「企業」部門への研究開発費の支出割合が高かったが、1980年代後半以降、その割合が大幅に減少する一方で、「大学」部門の割合が増加した。2002年以降、「企業」部門への支出割合は増加傾向に転じたが、2009年を境に減少している。これに代わって増加したのは「公的機関」部門である。2010年代に入ってから「大学」部門はほぼ横ばいに推移している。近年は「企業」部門の割合の増加、「公的機関」部門の割合の低下が見られる。
 ドイツは、1980年代から継続して「企業」部門への支出割合が減少する一方で、「大学」部門と「公的機関及び非営利団体」部門への支出割合が増加している。「大学」部門の割合は継続して増加する一方で、「公的機関」部門の割合は2000年代に入ってからおおむね横ばいである。
 フランスでは、1980年代は「公的機関」部門への支出割合の方が、「大学」部門と比べて大きかった。1990年代に入り「大学」部門への支出割合は増加する一方で、「公的機関」部門と「企業」部門の割合は減少した。2010年頃からは「大学」部門は微減、「公的機関」部門は横ばいで推移している。「企業」部門はここ数年割合が増加している。
 英国では「企業」と「大学」の研究開発費使用額が上方に改訂されたことにより(1.1.1項参照)、科学技術指標2022以前の数値とは異なることに留意されたい。2021年の支出先を見ると、「大学」部門が約5割、「企業」部門は約3割、「公的機関」部門は約2割となっている。
 中国では「公的機関」部門への支出割合が最も大きい。「公的機関」部門は2000年代初めから減少傾向、2010年代に入ってから横ばいに推移している。「企業」部門への支出割合は増加の後、2013年を境に減少傾向にある。「大学」部門への支出割合は約2割で推移しているが、2010年代半ばから増加している。
 韓国でも1990年代半ばには「公的機関」部門への研究開発費の支出割合が大きかったが、2000年代半ばにかけて減少した。それと並行して、「大学」部門への支出割合が増加した。2010年代に入ると、各部門の割合は横ばいに推移していたが、2015年を過ぎると、「企業」、「非営利団体」部門の増加、「公的機関」部門の減少が見られる。


【図表1-2-5】 主要国における政府負担研究開発費の支出先の内訳の推移  
(A)日本
(B)日本(OECD推計) 
(C)米国
(D)ドイツ
(E)フランス
(F)英国
(G)中国
(H)韓国

注:
1) 使用部門側から見た政府の研究開発費負担分は国により中央政府のみの場合と地方政府を含む場合があるため国際比較の際には注意が必要である。各国の政府については図表1-2-3を参照のこと。
2) 研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
3) 日本(OECD推計)は1996年からOECDが補正し、推計した値(大学部門の研究開発費のうち人件費をFTEにした研究開発費)を使用しているため、時系列変化を見る際には注意が必要である。 大学は見積り値であり、1981~1995年値は過大評価されたか、過大評価されたデータに基づく。また、1990、1996、2008、2013、2018年において、時系列の連続性は失われている。企業の1996年値、非営利団体の2001年において、時系列の連続性は失われている。
4) 米国は、企業の2015年以降を除いて定義が異なる。企業の2008、2016、2021年、公的機関の2006年、大学の1998、2003年とすべての部門の1981年において時系列の連続性は失われている。企業、公的機関、大学の2022年、非営利団体の2019年は暫定値。非営利団体の1995年以前、2022年は見積り値。
5) ドイツは、1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。 1982~1990年までの偶数年値(大学を除く全部門)、企業の1991~2010、2012、2014、2016、2018年は見積り値。公的機関及び非営利団体の2018~2021年、大学は定義が異なる。企業の1991、1992、1994、1998年、公的機関及び非営利団体の1991、1992年、大学の2016年において時系列の連続性は失われている。
6) フランスは、企業の1992、1997、2001、2004、2006年、公的機関の1992、1997、2000、2001、2010年、大学の1981、2000、2004年、非営利団体の1992年において時系列の連続性は失われている。
7) 英国の企業は暫定値、非営利団体の2018年は見積り値。企業と大学の2018年において時系列の連続性は失われている。
8) 中国は企業と公的機関の2009年において時系列の連続性は失われている。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
日本(OECD推計)、米国 、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国:OECD,“Research & Development Statistics”

参照:表1-2-5


1.2.3日本の科学技術予算(科学技術関係予算)

(1)基本計画のもとでの科学技術関係予算

 日本の科学技術・イノベーション行政は「科学技術・イノベーション基本法」に基づき、政府が5年ごとに策定する科学技術・イノベーション基本計画(以下、基本計画という)にのっとり推進されている(14)。ここでは、各期の基本計画における科学技術関係予算の推移をみる(図表1-2-6)。
 第1期基本計画(1996~2000年度)の5年間の予算額を合計すると、当初予算で15.3兆円、補正予算等を含めると17.6兆円である。5年間の推移を見ると、当初予算は増加傾向にあり、補正予算等も多く組まれた。
 第2期基本計画(2001~2005年度)の5年間の予算額を合計すると、当初予算で17.8兆円、補正予算等を含めると18.8兆円、地域の最終予算も含めると21.1兆円である。
 第3期基本計画(2006~2010年度)の5年間の予算額を合計すると、当初予算では17.8兆円、補正予算等を含めると19.6兆円、地域の最終予算も含めると21.7兆円である。5年間の推移をみると、当初予算については横ばいであるが、2009年度は約1兆円の補正予算等が組まれ、補正予算等が5年間の合計予算額に寄与している。
 第4期基本計画(2011~2015年度)の5年間の当初予算額の合計は18.1兆円である。補正予算等を合わせると20.6兆円、地域の最終予算も含めると、22.9兆円となる。5年間の推移を見ると、当初予算額はほぼ横ばいに推移し、2015年度では減少している。補正予算は2012年度に多く組まれ、同年には経済危機対応・地域活性化予備費もついている。
 第5期基本計画(2016~2020年度)の5年間の推移をみると、当初予算は継続して増加しており、補正予算等も多く組まれた。2020年度補正予算には、第3次補正で措置された「グリーンイノベーション基金事業(2兆円)」及び「10兆円規模の大学ファンド(0.5兆円)」を含んでいる。5年間の当初予算額の合計は19.6兆円、補正予算等を含めると23.7兆円(先で述べた2.5兆円を含めて26.2兆円)、地域の最終予算も含めると26.1兆円(先で述べた2.5兆円を含めて28.6兆円)である。
 2021年度から第6期基本計画が始まった。2023年度の当初予算は4.8兆円、補正予算と地域の当初予算も含めた額は9.5兆円である。


【図表1-2-6】 基本計画のもとでの科学技術関係予算の推移 

注:
国の予算とは政府の科学技術関係予算である。地域の予算とは都道府県と政令指定都市の科学技術関係予算である。
第1期については、地域の値は掲載していない。
科学技術基本計画(第1期~第4期)の策定に伴い、1996年度、2001年度、2006年度及び2011年度に対象経費の範囲が見直されている。
科学技術関係予算の2016年度以降の当初予算は、行政事業レビューシートの記載内容に基づき予算事業を詳細に分類し、その分類内容に基づく統一的な基準で科
資料:
国の科学技術関係予算(当初予算及び補正予算)については2013年度までは文部科学省調べ及び文部科学省「科学技術要覧(各年版)」。2014年度からは内閣府調べ(2016~2024年度の値は2024年3月時点の数値である)。地域(都道府県と政令指定都市)の科学技術関係予算については、2000年度は(公財)全日本科学技術協会(JAREC)から提供された「地域の科学技術振興状況の総合的調査研究」のデータを元に、科学技術・学術政策研究所が集計した。2001、2002年度は(公財)全日本科学技術協会(JAREC)から提供された「地域の科学技術振興状況の総合的調査研究」の集計値、2003~2022年度は文部科学省「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書の集計値、2023年度以降は内閣府「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書の集計値を使用した。

参照:表1-2-6

 

(2)科学技術関係予算の内訳

 政府の科学技術関係予算についての基本的な指標をいくつか示す。
 2023年度の科学技術関係予算(当初予算と補正予算の合計値)は、一般会計分が78.3%、特別会計分が21.7%となっている(図表1-2-7)。一般会計分は、「科学技術振興費」(46.7%)とそれ以外(31.6%)からなる。それ以外の中には、国立大学法人運営費交付金等が含まれる(9.6%)。特別会計分は、エネルギー対策(電源開発促進勘定)等が含まれる。特に2023年度では経済産業省における大規模な予算が計上されているため、前年度と比べて割合が増加している。


【図表1-2-7】 科学技術関係予算の内訳(2023年度)(当初予算と補正予算)

注:
1) 当初予算と補正予算の合計値である。
2) 国立大学法人等については、自己収入(病院収入、授業料、受託事業等)を含まない算定方法である。
3) 国立大学法人運営費交付金等とは、国立大学法人運営費交付金及び国立高等専門学校機構運営費交付金の合計。
4) 行政事業レビューシートの記載内容に基づき予算事業を詳細に分類し、その分類内容に基づく統一的な基準で科学技術関係予算の判定を行う方法により算出したものである。
資料:
内閣府調べ(2024年3月時点の数値である)。

参照:表1-2-7


(3)府省庁別の科学技術関係予算

 科学技術関係予算を府省別の割合で見た。なお、2016年度からは当初予算と補正予算等の合計値も示している(図表1-2-8)。2023年度の当初予算と補正予算等の合計値を見ると、経済産業省が40.6%、文部科学省が34.9%でありこの両省で全体の約8割を占める。2016年度と比較すると、文部科学省は20ポイント減少し、経済産業省は22ポイント増加した。経済産業省の規模の拡大は主に補正予算の増加による。科学技術関係予算における府省のバランスは変化している。


【図表1-2-8】 府省別の科学技術関係予算の割合の推移 

注:
1) 2016年度以降は、行政事業レビューシートの記載内容に基づき予算事業を詳細に分類し、その分類内容に基づく統一的な基準で科学技術関係予算の判定を行う方法に変更されている。
2) 2020年度補正予算には第3次補正で措置された「グリーンイノベーション基金事業(2兆円)」および「10兆円規模の大学ファンド(0.5兆円)」を含む。
資料:
2013年までは文部科学省調べ及び文部科学省「科学技術要覧(各年版)」。2014年度からは内閣府調べ(2016~2024年度の値は2024年3月時点の数値である)。

参照:表1-2-8


(4)地域の科学技術関係予算

 図表1-2-9は、地域の科学技術関係予算(15)(2020年度まで最終予算、2021年度から当初予算)を示したものである。推移を見ると、2009年度まで減少傾向が続いた後は増加し、2017年度以降は横ばいに推移していた。2023年度では対前年度比9.0%、5,424億円と大きく伸びた。

 


【図表1-2-9】 地域の科学技術関係予算の推移

注:
1) 2020年度まで最終予算、2021年度から当初予算である。
2) 47都道府県及び政令指定都市(数は、2002年度が12、 2003、2004年度が13、2005年度が14、2006年度が15、2007、 2008年度が17、2009年度が18、2010、2011年度が19、2012年度以降が20)を対象としている。
資料:
2000年度は(公財)全日本科学技術協会(JAREC)から提供された「地域の科学技術振興状況の総合的調査研究」のデータを元に、科学技術・学術政策研究所が集計した。2001、2002年度は(公財)全日本科学技術協会(JAREC)から提供された「地域の科学技術振興状況の総合的調査研究」の集計値、2003~2022年度は文部科学省「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書の集計値、2023年度以降は内閣府「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書の集計値を使用した。

参照:表1-2-9

 

 地域の科学技術関係予算を性格別に分類してみると(図表1-2-10)、「公設試験研究機関」に係る予算の割合が最も大きい。2023年度で見ると、全体の29.1%に当たる。次に「高等教育機関(21.6%)」、「企業支援(20.5%)」、と続く。推移を見ると「公設試験研究機関」の割合は長期的には減少傾向にある。「企業支援」は2016年度を境に減少傾向にあったが、近年横ばいとなった。「高等教育機関」については年による変動があり、2005年度を境に微減傾向にあったが、2018年度以降は増加傾向にある。
 次に、性格別の科学技術関係予算を地域区分で分類して見た(図表1-2-11)。「公設試験研究機関」の割合が最も大きいのは北海道、次いで四国、九州、沖縄であり、約半数を占めている。「企業支援」の割合が最も大きいのは北関東・甲信であり、全体の半数を占める。次いで、中国が全体の約4割を占める。「高等教育機関」の割合が最も大きいのは近畿であり、約5割を占めている。このように地域区分により、地域の科学技術関係予算の内容に差異が見られる。

【図表1-2-10】 地域の科学技術関係予算の内訳の推移

注:
1) 「その他」とは、「総合推進」、「医療機関」、「研究交流」、「情報整備」、「人材育成」、「国際交流」、「その他」である。
2) 1)以外の注は図表1-2-9と同じ。
資料:
図表1-2-9と同じ。

参照:表1-2-10

 

【図表1-2-11】 地域別予算項目別科学技術関係予算
(A)2021~2023年度平均

 

(B)地域区分

注:
図表1-2-10と同じ。
資料:
文部科学省、「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」調査報告書

参照:表1-2-11

コラム1:海外に支出される米国連邦政府の研究開発予算から見る国際戦略

 科学技術活動の国際化が進展する中、安全保障・国際経済という観点からの競争・協同と、世界規模課題解決のための多国間協調という、2つの視点のバランスが重要になってくるとの指摘がある1。本コラムでは、米国の連邦政府の研究開発予算に注目し、どの政府機関による海外への支出が多いか、それらの機関において、どの国・地域への支出が多いかを分析する。これにより、米国が国際協力・支援の観点から、どのような方針を取っているかを見る。

(1)海外に支出される連邦政府の研究開発予算

 コラム図表1-1は、米国の連邦政府の研究開発予算のうち、米国外に支出された額の時系列変化を示す。1990年代の後半から2000年代半ばにかけて増加した後は、4~5年おきに生じる大きな変動を除くとおおむね6~8億ドルの間で推移している。
 機関別で見ると、2000年代に入ると国防総省(DOD)と保健福祉省(HHS)が1位又は2位であり、この2つの省で全体の80%~90%を占める。これに航空宇宙局(NASA)、国立科学財団(NSF)で続いているが、近年は航空宇宙局が3位であることが多い。

【コラム図表1-1】 海外に支出される連邦政府の研究開発予算(機関別)

資料:
NSF, “Survey of Federal Funds for Research and Development”を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:コラム表1-1

(2)国別の状況

 つぎに、全体と海外に支出される研究開発予算で上位を占める国防総省、保健福祉省の2政府機関について、国別の支出額を見る。
 コラム図表1-2(A)は全体である。上位5か国はイスラエル、カナダ、英国、オーストラリア、南アフリカである。
 コラム図表1-2(B)は国防総省である。上位5か国はイスラエル、ノルウェー、英国、カナダ、オーストラリアであり、イスラエルへの支出が突出している。
 コラム図表1-2(C)は保健福祉省である。上位5か国は南アフリカ、カナダ、フランス、英国、オーストラリアである。上位10か国の中で、3か国がアフリカであり、アフリカへの支出が多い点が特徴である。

 

【コラム図表1-2】 海外に支出される連邦政府の研究開発予算(2018~22年度・上位10か国等)

(A)全体

 

(B)国防総省

 

(C)保健福祉省

 

注:
2018~2022年度の合計。
資料:
NSF, “Survey of Federal Funds for Research and Development”を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:コラム表1-2

(3)地域別の時系列変化

 コラム図表1-3に、全体、国防総省、保健福祉省について、海外に支出される研究開発予算を、地域別に時系列で示す。
 全体(コラム図表1-3(A))については、過去はヨーロッパ、アジア、北米が上位であったが、近年はアフリカの割合が増加している。
 国防総省(コラム図表1-3(B))は、アジア及びヨーロッパの割合が大きいが、時期によっては北米やオセアニアの割合も大きい。
 保健福祉省(コラム図表1-3(C))は、1990年代後半は北米の割合が一番大きく、これにヨーロッパが続いていた。2000年代に入るとアフリカの割合が大きく増加し、それにヨーロッパ、北米が続いている。2022年度はヨーロッパが大きく増加した。

【コラム図表1-3】 海外に支出される連邦政府の研究開発予算(時系列・地域別)
(A)全体

 

(B)国防総省

 

(C)保健福祉省

 

資料:
NSF, “Survey of Federal Funds for Research and Development”を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:コラム表1-3

(4)まとめ

 本コラムでは、海外に支出される研究開発予算の観点から米国の国際戦略を見た。カナダ、英国、オーストラリア、フランス、ドイツについては、国防総省、保健福祉省のいずれでも上位10か国に入っているのに対して、イスラエル、南アフリカについては、特定の政府機関において上位に位置している。ウェブ上の公開情報等を踏まえると、イスラエルについてはミサイルの開発等、南アフリカについてはHIV感染症の治験等が、米国からの支出が多い一因と考えられる。また、長期的に見ると、アフリカの割合が大きく増加していることが確認された。
 これらの結果は、米国が科学技術分野によって、協力・支援する国・地域を選択していることを示唆している。

(伊神 正貫、神田 由美子)

 


(6)行政事業レビューシート(政府が実施している約5,000の各事業について、各府省において、事業の執行状況や資金の流れ等を統一した様式に記載するもの。内閣官房行政改革推進本部事務局ホームページより)の記載内容に基づき、予算事業を詳細に分類し、その分類内容に基づく統一的な基準で科学技術関係予算の判定を行う方法により算出したものである。
(7) https://www8.cao.go.jp/cstp/budget/kekkaichiran.pdf (内閣府のWebより2019/5/24アクセス)
(8) 他国では、日本と同様の科学技術関係予算のデータが無いため、OECDの政府研究開発予算配分額(GBARD:Government Budget Allocations for R&D)を使用している。なお、OECD,“Main Science and Technology Indicators March 2024”でのGBARDのデータには、日本の値も計上されており、日本政府が発表してきた科学技術関係予算(地域を含む最終予算)と同じ数値ではあるが、「Definition differs」(定義が異なる)という注記が付与されている。国ごとの詳細(OECD GBARD Sources and Methods Database)の日本の欄には「GBARD data reflects the S&T budget.」(GBARDは科学技術予算を反映している)との注記がある。
(9) Circular No. A-11, Executive Office of the President, Office of Management and Budget, 2015年6月,
https://obamawhitehouse.archives.gov/sites/default/files/omb/assets/a11_current_year/a11_2015.pdf (2019/6/10アクセス)
(10) Circular No. A-11, Executive Office of the President, Office of Management and Budget, 2016年7月,
https://www.whitehouse.gov/sites/whitehouse.gov/files/omb/assets/a11_current_year/a11_2016.pdf (2019/6/10アクセス)
(11)https://www.whitehouse.gov/sites/whitehouse.gov/files/omb/budget/fy2018/ap_18_research.pdf (2019/6/10アクセス)
(12)この項の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している項では「年度」を用いている。
(13)日本の地域も含めた最終予算とは、①国の当初予算、②国の補正予算等、③都道府県と政令指定都市の最終予算の合計値である。なお、2021年以降については、③については、当初予算を使用している。
(14)第1期~第5期までは科学技術基本計画。
(15)都道府県及び政令指定都市の施策(国からの補助金関連及び自治体の単独事業の両方を含む。)のうち、①公設試験研究機関等に係る予算、②高等教育機関や医療機関における研究の推進に係る予算、③研究・技術開発に関する補助金、交付金及び委託費その他研究・技術開発に関する行政に係る予算、④科学技術行政を専門的に行う課(室)あるいは係(担当グループ)の人件費等である。ここでいう予算には、人件費(共済等福利厚生のための費用も含む)、謝金、旅費、試験研究費、庁費、設備費、施設費、委託費、補助金、出資金等の全てが含まれる。