3.5高等教育機関における外国人学生

ポイント

  • 日本における外国人大学院生(「自然科学」分野)については、中国が最も多く、2022年度では約1.4万人である。次いでインドネシアが約1,300人であり、1位と2位以降に大きな差がある。
  • 主要国・地域の外国人学生を見ると、海外に数多くの学生を送り出している中国、韓国は、逆に受け入れている学生は少ない。これに対して、海外に学生をあまり送り出していない米国、英国は、受け入れている学生が多い。日本は、海外に学生をあまり送り出していない国・地域ではあるが、受け入れている学生も多いとは言いがたい。

3.5.1日本と米国における外国人大学院生

 この節では、高等教育のグローバル化を示す指標の一つとして、研究者や高度専門家の養成を行っている大学院における外国人大学院生の状況を見る。
 図表3-5-1は、日本と米国の大学院に在籍する外国人大学院生の数を、最新年のランキングで10位程度の国と主要国・地域について掲載したものである。分野については、日本は「自然科学」分野、米国は「科学工学」分野を対象としている。
 日本における外国人大学院生数を見ると(図表3-5-1(A))、中国が最も多く、2022年度では約1.4万人である。次いでインドネシアが約1,300人であり、1位と2位以降に大きな差がある。10位以内に欧米諸国はなく、全てアジアの国・地域が占めている。米国は14位、フランスは17位、ドイツは28位、英国は35位である。
 米国における外国人大学院生数を見ると(図表3-5-1(B))、2007~2010年にはインドが最も多かったが、2011年、2012年と大きく減少した(同時期において非EC国の学生に対して学生ビザの取得が厳密になったためと考えられる)。その後は増加に転じたが、2017年で再び大きく減少した。他方、継続して増加している中国は2017年にインドに追いつき、増加し続けたが2020年では減少した。同年で中国は6.8万人、インドは5.3万人となった。日本ほど1位と2位に大きな差はないが、3位の韓国以降には大きな差がある。
 また、日本と同様に10位以内に入っているのはアジアの国・地域であり、ドイツ、英国、フランスといった欧州諸国はトップ10には入っていない。
 米国における日本人大学院生に注目すると、2007年の2,508人から2020年では900人と大きく減少した。外国人大学院生に占めるシェアは1.8%(2007年)から0.5%(2020年)に低下している。中国のシェアは22.7%(2007年)から36.3%(2020年)に増加している。

【図表3-5-1】 日本と米国における外国人大学院生の状況
(A)日本:自然科学分野


(B)米国:科学工学分野

注:
1) 日本の場合の外国人とは、日本国籍を持たない者。2012年7月に新しい在留管理制度が導入されたことにより、中国と台湾の学生を分けて集計している。
2) 米国の場合の外国人とは、米国国籍を持たない者。フランス、ドイツ、英国は2020年値が掲載されていないため、フランス、ドイツは2019年、英国は2018年の順位を示した。2015年の値は入手できなかった。
資料:
日本:文部科学省、「学校基本調査報告書」
米国:NSF,“Science and Engineering Indicators 2006,2008,2010,2012,2014,2016”, “Science and Engineering Indicators: Higher Education in Science and Engineering” (https://ncses.nsf.gov/pubs/nsb20223/data#table-block, 2023年3月13日アクセス)

参照:表3-5-1


3.5.2主要国の高等教育機関における外国人学生

 図表3-5-2は高等教育レベル(ISCED(4)レベル5~8)における外国人学生の出身国・地域と受入国・地域の関係を見た図表である。ここでいう外国人学生とは「受入国の国籍を持たない学生」、「留学生」を指す。なお、本図表はOECD, “Education at Glance 2021”を使用しているが、「科学技術指標2021」作成時に用いた“Education at Glance 2020”と比べて、対象国・地域が増加している(主にその他のアジアが増えており、総数で約450万人から約600万人となった)。
 主要国の中で、最も多くの学生を世界に送り出している国・地域は中国であり、全世界の17.3%を占めている。中国の学生は米国に最も多くいるが、日本や英国にもいる。次に多く送り出しているのはドイツ(全世界の2.0%)であるが、中国と比較すると少ない。
 ドイツの学生は主にヨーロッパにいる。また、韓国の学生(同1.7%)は主に米国に、フランスの学生(同1.7%)は主にヨーロッパにいる。米国の学生(同1.7%)は主にその他の北米・中南米にいる。英国は0.6%、日本は0.5%と、海外に送り出している学生数が主要国では極めて少ない国・地域である。
 受入国・地域の側から見ると、最も多くの外国人学生を受け入れているのは米国であり、全世界の16.0%である。次いで英国であり、全世界の8.0%である。これにドイツ(全世界の5.5%)、フランス(同4.0%)、日本、中国(同3.3%)が続き、韓国(同1.6%)となっている。なお、中国が受入国・地域となっている外国人学生については、出身国・地域の情報がないため、「分類無・その他」となっている。このため、例えば、日本から中国に留学している者も「分類無・その他」が出身国・地域となっているのに留意されたい。
 海外に数多くの学生を送り出している中国、韓国は、受け入れている学生は少ない。これに対して、海外に学生をあまり送り出していない米国、英国は、受け入れている学生が多い。日本は、海外に学生をあまり送り出していない国・地域ではあるが、受け入れている学生も多いとは言いがたい。

【図表3-5-2】 高等教育レベル(ISCED 2011レベル5~8)における外国人学生の出身国・地域と受入国・地域
(2019年)


注:
1) ISCED2011におけるレベル5~8(日本でいうところの「大学等」に加えて専修学校が含まれる)に該当する学生を対象としている。
2) 外国人学生とは、受入国・地域の国籍を持たない学生を指す。
3) 中国には香港も含む。
4) 中国が受入国・地域となっている外国人学生については、出身国・地域の情報がないため、「分類無・その他」となっている。このため、例えば、日本から中国に留学している者も「分類無・その他」になっている。なお、中国教育部の2019年4月12日付けの発表によると(http://www.moe.gov.cn/jyb_xwfb/gzdt_gzdt/s5987/201904/t20190412_377692.html, 2019年6月12日アクセス)、中国(香港、マカオ、台湾は含まない)の高等教育機関(1,004機関)における留学生のうち日本の数は14,230人(2018年)である。
資料:
OECD, “Education at Glance 2021”を基に科学技術・学術政策研究所が作成。

参照:表3-5-2  

コラム:米国博士号保持者の業務活動状況

 日本では、2000年代に入ると、博士課程入学者数の減少、博士号取得者数の停滞が起こっている。これらの背景として、博士号取得後のキャリアパスの見通しが立たないことが要因の一つとして考えられている。他方、他国を見ると、博士号取得者数は増加しており、日本とは異なる傾向を見せている。そこで本コラムでは米国の博士号保持者のキャリアに注目し、その活動状況を見る。なお、以降の議論では米国で博士号を取得し、米国に在住している者を対象に分析を行っている。

(1) 雇用部門別の状況

 米国在住の博士号保持者(5)は、2021年で87.2万人である。雇用部門別に内訳を見ると、大学等が36.9万人、企業が36.4万人と同程度であり、両部門で全体の約8割を占めている。2010年と比較すると、全体では26%増加している。いずれの部門でも増加しているが、最も伸びたのは企業であり37%の増加である。

【図表3-6-1】 米国における雇用部門別博士号保持者数

注:
1) 米国の学術機関でScience, Engineering, and Health (SEH) research doctorateを取得している者である。米国在住の博士号保持者のうち就職している者を対象としている。
2) 大学等は、4年制の単科大学または総合大学、医科大学(大学付属の病院または医療センターを含む)、大学付属の研究機関、2年制大学、コミュニティ カレッジ、または専門学校、およびその他の大学前教育機関。
3) 企業は、法人事業の自営業者、非法人事業の自営業者または事業主を含む。
4) 政府は、地方公共団体も含む。
5) その他は、個別に分類されていない雇用主を含む。
資料:
NSF, “Survey of Doctorate Recipients”

参照:表3-6-1


(2) 分野別の状況

 博士号取得分野別の雇用状況を見る(図表3-6-2)。大学等、政府、非営利団体部門で、「生物・農業・環境生命科学」の博士号保持者が多い。他方、企業では「工学」が最も多く、次いで「生物・農業・環境生命科学」となっている。大学等では2番目に多いのは「社会科学」である。2010年と比較すると、いずれの雇用部門でも、多くの博士号取得分野で増加していることがわかる。なお、数は少ないが、最も伸びたのは大学等、企業ともに「コンピュータ・情報科学」である。特に企業は約2倍となった。

【図表3-6-2】 米国における雇用部門別博士号保持者数(博士号取得分野別)

注:
1) 物理科学は地球科学、大気科学、海洋科学を含む。
2) その他の注は図表3-6-1と同じ。
資料:
NSF, “Survey of Doctorate Recipients”

参照:表3-6-2


(3) 主要業務活動別の状況

 雇用部門別に博士号保持者が最も多くの時間を費やした業務活動を主要業務とし、その人数を見た(図表3-6-3)。企業、政府、非営利団体では、「研究活動」を主要業務としている博士号保持者が最も多い。大学等では、「教育」が最も多く、これに「研究活動」が続く。企業や非営利団体では約2割、政府では約3割が「経営、営業もしくは管理職」を主要業務としている。2010年と比較すると、いずれの部門のいずれの業務もほぼ同じように増加しているが、企業の「コンピュータアプリケーション」は約2倍となった。

【図表3-6-3】 米国における雇用部門別博士号保持者数(主要業務活動別)

注:
1) 典型的な週の労働時間の少なくとも10%を占めている仕事のうち、通常週に最も多くの時間を費やしたものを主要業務活動(primary work activity)としている。
2) 研究活動は、基礎研究(主にそれ自体のために科学的知識を得ることを目的とした研究)、応用研究(認識されたニーズを満たすために科学的知識を得ることを目的とした研究)、開発(材料、デバイスの製造のための研究から得られた知識の使用)を対象としている。
3) コンピュータアプリケーションとはコンピュータプログラミング、システムまたはアプリケーション開発である。
4) 専門サービスとは、例えば、医療、カウンセリング、金融サービス、法律サービスなどである。
資料:
NSF, “Survey of Doctorate Recipients”

参照:表3-6-3


(4) 分野別・主要業務活動別の状況

 博士号取得分野別に博士号保持者の主要業務活動を見た(図表3-6-4)。2021年の状況を見ると、多くの博士号取得分野で「研究活動」を主要業務とする博士号保持者が多い。特に「生物・農業・環境生命科学」、「工学」、「物理科学」では、40%を超えている。ただし、「心理学」、「社会科学」、「数学・統計学」は「研究活動」以外を主要業務としている者が多く、「心理学」では「専門サービス」が40%を超えている。「社会科学」は「教育」が40%近い割合を示している。

【図表3-6-4】 米国における博士号取得分野別博士号保持者数(主要業務活動別)

注:
図表3-6-2及び3-6-3と同じ。
資料:
NSF, “Survey of Doctorate Recipients”

参照:表3-6-4


(5) まとめ

 米国では、企業に所属する博士号保持者が増加しており、過去10年で、大学等と同程度の規模になった。大学等と企業のいずれでも「生物・農業・環境生命科学」の博士号保持者が多く雇用されている傾向にある。ただし、企業では「工学」の博士号保持者が最も多い。2018年度の日本の博士課程修了者を対象とした追跡調査においても、同様の傾向が見られている(6)。業務活動については「研究活動」を主要業務としている博士号保持者がいずれの部門でも多い傾向にある。企業や非営利団体では約2割、政府では約3割が「経営、営業もしくは管理職」を主な業務としている。また、博士号取得分野によっては、主要な業務活動は異なる。「生物・農業・環境生命科学」や「工学」では「研究活動」を主要としている者が最も多いが、「社会科学」では「教育」、「心理学」では「専門サービス」を主要な業務活動としている者が最も多い。以上のように、米国では大学等に加えて企業も博士号保持者の主要な雇用先となっており、業務についても経営等の役割を持つ者が一定数存在することが明らかになった。このような多様なキャリアパスが存在することも、米国において博士号取得者が増加している背景だと考えられる。

(神田 由美子)


(4)UNESCOが開発した教育の国際教育標準分類(ISCED:International Standard Classification of Education)であり、最新版はISCED2011である。
(5)2021年における米国在住の博士号保持者は1,023,650人。うち就職している者が872,100人、失業者が16,650人、引退者が114,750人、雇用されていない、または仕事を求めていない者が20,150人である。
(6)「博士人材追跡調査」第4次報告書NISTEP Research Material  No.317 文部科学省 科学技術・学術政策研究所.