2.1.2各国の研究者数の動向

 第1章第1節で示したように、主要国データの出典として多く参照しているOECDの“Main Science and Technology Indicators”(MSTI)今般のデータでは、以前の版と比較してデータの見直し等が行われた。研究者数については、英国、中国に加え、米国についても見直しがされたので以下に記す。
 米国については、各雇用部門の公式データがなかったため、総研究者数の値は米国の過去のデータに基づくOECDの推定値であった。今般、米国による研究開発人材統計の報告が再開され、2020年からデータが入手できるようになったことにより、OECDのMSTIに「大学」部門の研究者および研究開発人材の数値が追加された。また、「公的機関」部門の研究者数も追加された。この追加により、OECDの過去のデータに基づく推計では、「大学」部門の研究者数の伸びを過大評価していたことが明らかになり、総研究者数が下方修正された。そのため科学技術指標2022以前の数値とは異なることに留意されたい。
 中国について、OECDは2019年、2020年、2021年に関する研究開発指標のデータを再検討し、研究開発費や研究者数等のデータの一貫性に関する多くの疑問が解決されるまで、これらの年のいくつかの主要な指標の公表を控えるとの決定を行った。このため、今般の科学技術指標2023では、中国の研究者に関して、科学技術指標2022よりも以前の値が最新値となっていることに留意されたい(総研究者数は2018年が最新値である)。
 英国については、英国国家統計院(ONS)が2022年11月に発表した研究開発統計において、「企業」部門と「大学」部門の研究開発費の推計値が大幅に修正された。これらの変更は、研究開発を実施する企業のサンプリングが不十分であること(4)を考慮した数値の再調整と、高等教育機関への支出に関するより包括的な管理データの採用(5)を反映している。このことからOECDは総研究者数及び企業の研究者数については、2015年~2017年まで改訂、最新値は2017年としている。そのため科学技術指標2022以前の数値とは異なることに留意されたい。なお、2014年~2021年の企業の研究開発費は大幅に上方修正されている(それに伴い総研究開発費も増加)のに対して、総研究者数と企業の研究者数については、ほとんど変化が見られない。今後、研究開発費と同じく研究者数についても値が変わる可能性がある。
 図表2-1-3を見ると、日本の研究者数は2022年において70.5万人、HC値は98.4万人であり、中国(2018年:186.6万人)、米国(2020年:149.3万人)に次ぐ第3位の研究者数の規模である。その他の国の最新年の値を多い順に見ると、韓国(2021年:47.1万人)、ドイツ(2021年:46.0万人)、フランス(2021年:34.0万人)、英国(2017年:29.6万人)となっている。
 日本のFTE研究者数は2002年から計測されており、2008年、2013年及び2018年において、FTEの研究者数を計算するための係数を変更している。そのため2009年、2013年及び2018年のFTE研究者数は、前年からの継続性が損なわれている。
 米国の研究者数は、OECDによる見積り値である。OECD統計では大学部門の数値は1999年まで、公的機関・非営利団体部門は2002年まで掲載されていたが、2020年値が新たな数値として追加された。また、企業部門の数値は2008年から示されている。
 ドイツは企業部門、公的機関・非営利団体部門では研究開発統計調査を実施している。大学部門に関しては教育統計を用いて計測しており、研究者の研究専従換算値は、学問分野毎の研究専従換算係数を使用して計測している。1990年の東西統一の影響を受けて1991年に研究者数が増加したため、データの継続性は損なわれている。その後の研究者の増加傾向は続いている。
 フランスはすべての部門で研究開発統計調査を行い、研究者数を計測しており、1980年代から継続して増加している。
 英国については、掲載している期間においては、長期的に漸増している。
 中国は研究開発統計データが公表されているが、統計調査の詳細は不明である。また、2009年からはOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って研究者数を収集し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となった。その後は継続的に増加しており、主要国の中では一番の規模となっている。
 韓国は部門ごとに研究開発統計調査を実施しているが、2006年までは対象分野を「自然科学」に限っており、2007年から全分野を対象とするようになった。研究者数は継続的に増加しており、2000年代後半以降では、まずフランス、次に英国を上回り、2021年ではドイツを上回った。


【図表2-1-3】 主要国の研究者数の推移  

注:
1) 国の研究者数は各部門の研究者の合計値であり、各部門の研究者の定義及び測定方法は国によって違いがあるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の定義の違いについては図表2-1-1を参照のこと。
2) 各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3) 人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
4) 日本は2001年以前の値は該当年の4月1日時点の研究者数、2002年以降の値は3月31日時点の研究者数を測定している。「日本*」は図表2-1-2(A)①の値。「日本(HC)」は図表2-1-2(B)、(C)の③の値。「日本(FTE)」の2002年から2008年までは図表2-1-2(B)②の値。「日本(FTE)」の2009年以降は、図表2-1-2(C)②の値。
5) 米国は見積り値である。1985、1987、1993年において時系列の連続性は失われている。
6) ドイツは1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。1987年において時系列の連続性は失われている。1996、1998、2000、2002、2008、2010年は見積り値。2021年は暫定値。
7) フランスは1997、2000、2010、2014年において時系列の連続性は失われている。2008、2009年値の定義は異なる。2012、2013、2020年は見積り値。2020年は暫定値。
8) 英国は1991、1992、1994、2005年において時系列の連続性は失われている。1999~2010、2012、2014、2016年は見積り値。
9) 中国は1991~2008年まで定義が異なる。1991~1999年までは過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。2000年、2009年において時系列の連続性は失われている。
10) EU-27は見積り値である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」 文部科学省、「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」
その他の国:OECD,“Main Science and Technology Indicators March 2023”

参照:表2-1-3


 次に各国の規模を考慮した人口当たりと、労働人口当たりの研究者数により国際比較を行う。なお、2.1.2で示したように、米国については、研究者数が下方推計されていることから、科学技術指標2022以前の数値とは異なる傾向を見せている。また、中国についてはOECDが公表を控えたことから最新値が2018年となっており、英国については改訂された数値が2017年までの掲載となっている。両国ともに科学技術指標2022とは最新値が異なることに留意されたい。
 人口1万人当たりの研究者数(図表2-1-4)を見ると、2021年の日本(FTE)は55.0人である。日本(FTE)は2009年までは、主要国の中で、最も高い数値であったが、2010年には韓国、2019年にはドイツが上回った。2021年の韓国は91.0人である。次いで、ドイツが55.2人、日本が55.0人、フランスが49.8人、米国が45.0人(2020年)、英国が44.8人(2017年)、中国が13.3人(2018年)である。
 労働力人口1万人当たりの研究者数(図表2-1-5)について見ても、人口当たりの研究者数と同様の傾向にある。ほとんどの国で人口当たりの研究者数の推移との差はあまりないように見えるが、フランスについては、労働力人口当たりの研究者数は、他の欧州諸国よりも大きな値となっている。2021年において、多い順に見ると、韓国が167.4人、フランスが112.9人、ドイツが106.8人、日本(FTE)が99.9人、米国が92.9人(2020年)、英国が88.6人(2017年)、中国が23.7人(2018年)となっている。
 2000年代初めには、日本(FTE)は、人口、労働力人口当たりの研究者数のいずれにおいても主要国のなかで最も大きな値であった。ただし、過去20年の間で他の主要国と比べて日本の伸びは相対的に小さく、最新データでは日本は他の主要国と同水準又は少ない状態となっている。


【図表2-1-4】 主要国の人口1万人当たりの研究者数の推移  

注:
国際比較注意、時系列注意及び研究者数についての注記は図表2-1-3、人口は参考統計Aと同じ。
資料:
図表2-1-3、人口は参考統計Aと同じ。

参照:表2-1-4


【図表2-1-5】 主要国の労働力人口1万人当たりの研究者数の推移  

注:
国際比較注意、時系列注意及び研究者数についての注記は図表2-1-3、労働力人口は参考統計Bと同じ。
資料:
図表2-1-3、労働力人口は参考統計Bと同じ。

参照:表2-1-5



(4)英国の企業の研究開発統計であるONS, “Business enterprise research and development survey” では、これまで小規模の企業の捕捉率が小さかったとされている。
(5)英国ONSの資料によると、これまでの英国の大学部門の研究開発費のデータには、大学の内部で実施かつ資金提供されている研究開発や、研究開発にかかる一部の間接経費が含まれておらず、それらをデータに含めるようにしたとされている。これらの分析には、Office for Studentsが提供するTransparent Approach to Costing(TRAC)システムが使用されている。