2.2.2企業部門の研究者

(1)各国企業部門の研究者

 企業部門の研究者については、各国ともに研究開発統計調査により研究者数を計測している。そのため、他部門と比較して国際比較可能性が高いデータと考えられる。しかし、経済活動の高度化に伴う産業構造変化に合わせ、各国とも調査方法や対象範囲を変化させており、また各国の標準産業分類の改定も影響するため経年変化にゆらぎが見られるデータでもある。
 日本の企業部門の研究者数(FTE値)は2000年代後半からほぼ横ばいに推移している。2020年では昨年よりも0.5%増加し、50.7万人である。
 中国は2000年代に入り急速な伸びを示していたが、2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って研究者数を測定し始めたため、2009年値は、前年と比べて大幅に低い数値となっている。
その後は再び増加し、2019年では121.7万人、対前年比は6.4%増、世界第1位の規模である。
 米国は、2008年から企業に対して詳細な調査を実施し始めた。そのため2007年以前のデータは掲載していない。2018年の研究者は112.7万人、対前年比は10.2%増であり、増加傾向にある。
 韓国は長期的に増加傾向にあり、2000年代後半に、ドイツを上回り、2019年では35.4万人である。
 フランスや英国については、公的機関が民営化され、企業部門へ移行している機関があり、その分増加している。ドイツ、フランスについては、長期的に見ると増加傾向にある。特にドイツについては、2014~2015年にかけて大幅に増加した後も継続して増加している。英国については2010年頃から増加傾向が続いている。2019年の研究者数は、ドイツ27.3万人、フランス19.7万人、英国13.3万人である(図表2-2-4)。


【図表2-2-4】 主要国における企業部門の研究者数の推移 

注:
1) FTE値である。
2) 日本の研究者は3種類のデータがある。日本*はFTEかHCについて明確な定義がされていない値、日本(FTE)はFTE研究者数、日本(HC)はHC研究者。
3) ドイツは1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。 1992、1996、1998、2000、2002、2008、2010、2012、2014、2016、2018、2019年は見積り値。
4) フランスは1992、1997、2001、2006年において時系列の連続性は失われている。2017、2018年は暫定値、2019年は見積り値。
5) 英国は1986、1992、1993、2001年において時系列の連続性は失われている。2019年は暫定値。
6) 中国は1991~1999年値は過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。2000年において時系列の連続性は失われている。2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応していない。
7) 韓国は2006年までは自然科学のみの数値。
8) EU-27は見積り値である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU:OECD,“Main Science and Technology Indicators 2020/2”

参照:表2-2-4


(2)主要国における産業分類別の研究者

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者について、各国最新年からの3年平均で見ると(図表2-2-5)、日本は製造業の割合が約9割、ドイツ、中国、韓国は約8割である。他方、米国は約6割、フランス、英国に関しては、製造業の割合が半分以下であり、非製造業の重みが他国と比較すると大きい。


【図表2-2-5】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者数の割合 

注:
1) 各国企業部門の定義は表1-1-4を参照のこと。
2) 米国の産業分類は、北米産業分類(NAICS)を使用。米国の企業部門では、NAICSにおける「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
3) 日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。
4) ドイツ、フランス、英国、中国は研究開発を行う企業の主な経済活動(Main economic activity)に応じて分類している。
5) フランスについては2年平均の値である。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国:NSF,“Business Research and Development and Innovation 各年”
ドイツ、フランス、英国、中国、韓国:OECD, “R&D Statistics”

参照:表2-2-5


 図表2-2-6では、更に詳細な産業分類で研究者の状況を見る。なお、米国と他国では産業分類と扱う項目が異なるので留意されたい。また、中国については非製造業の内訳がないため、全体の数を示した。
 米国では製造業、非製造業ともに2010年から拡大している。製造業では「コンピュータ、電子製品工業」が、非製造業では「情報通信業」が多くを占めている。2017年から2018年にかけて多くの産業で増加している。
 日本では、製造業、非製造業ともに、全体では大きな変化は見えない。製造業の内訳を見ると、「コンピュータ、電子・光学製品製造業」が減少傾向にあったが、近年は増加している。「輸送用機器製造業」は長期的に見ると増加傾向にあるが、最新年では減少した。非製造業では、「情報通信業」が最も多く、これに「専門・科学・技術サービス業」が続く。いずれも長期的に見ると横ばいに推移している。
 ドイツは、継続して「輸送用機器製造業」が最も大きく、増加し続けている。次いで多いのは「コンピュータ、電子・光学製品製造業」である。非製造業では「専門・科学・技術サービス業」が最も多い。
 フランスは、製造業よりも非製造業の研究者数が多い。「専門・科学・技術サービス業」が最も多く、これに「情報通信業」が続き、いずれも増加している。製造業では「輸送用機器製造業」が最も多く、増加もしている。
 英国では、非製造業である「専門・科学・技術サービス業」が最も多く、次いで「情報通信業」が多い。「専門・科学・技術サービス業」、「情報通信業」ともに長期的には増加傾向にある。製造業では「輸送用機器製造業」が多くを占め、かつ増加もしている。
 韓国では、製造業、非製造業ともに増加している。製造業では「コンピュータ、電子・光学製品製造業」が最も多く、これに「輸送用機器製造業」が続く。両産業ともに増加傾向にある。非製造業では、「情報通信業」が最も多く、増加もしている。
 中国の製造業全体での研究者数は、主要国中最も多い。内訳を見ると「コンピュータ、電子・光学製品製造業」が最も多く、次いで「輸送用機器製造業」が続く。また、「その他の製造業」の割合も他国と比べて大きい。非製造業については内訳のデータがないが、全体で見ると増加している。

 


【図表2-2-6】 主要国における企業部門の産業分類別研究者数の推移 

注:
1) 米国の産業分類は北米産業分類(NAICS)を使用。その他の国は、国際標準産業分類第4次改定版(ISIC Rev.4)に準拠しているため、各国の産業分類とは異なる。
2) 米国を除いた各国とも研究開発を行う企業の主な経済活動(Main economic activity)に応じて分類している。
3) 米国では、「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
4) 日本は定義が異なる。フランスの2017年は暫定値。
資料:
米国:NSF, “Business Research and Development and Innovation”
その他の国:OECD, “R&D Statistics”

参照:表2-2-6


(3)日本の産業分類別研究者

 日本は、どの業種の企業に研究者が多いのかを従業員に占める割合で見た(図表2-2-7)。なお、ここでは研究開発を実施していない企業の従業員数も含めた割合を示している。
 まず、非製造業(0.5%)よりも製造業(5.3%)において割合が高い。
 2020年で最も割合が高いのは、製造業の「情報通信機械器具製造業(9)」であり、17.8%となっている。これに「業務用機械器具製造業」、「化学工業」、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」が続く。
 非製造業では「学術研究、専門・技術サービス業(10)」で3.7%と割合が高いが、製造業と比較すると低い傾向にある。


【図表2-2-7】 日本の産業分類別従業員に占める研究者の割合(2020年)

注:
研究開発を実施していない企業も含んでいる。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-7


 日本の企業に所属する研究者はどのような専門的知識を持っているのだろうか。ここでは、産業分類別に、その業種に所属する研究者の専門分野を見る(図表2-2-8)。
 企業に所属する研究者は、「機械・船舶・航空」分野を専門とする者が最も多く、全体の26.4%を占めている。次いで「電気・通信」が24.3%であり、この2分野で全体の約半数を占めている。他方、最も少ない分野は「人文・社会科学」(1.3%)である。また、「情報科学」分野を専門とする研究者の割合は8.6%と2016年(7.7%(科学技術指標2017参照))と比較すると微増している。
 所属する企業の産業分類から見ると、最も多くを占める「輸送用機械器具製造業」では、「機械・船舶・航空」分野を専門とする研究者が多く、次いで「電気・通信」分野であり、二つの分野の研究者で約8割を占めている。
 「情報通信機械器具製造業」では、「電気・通信」分野を専門とする研究者が最も多く、半数以上を占めている。多様な専門分野を持つ研究者が所属しているのは「業務用機械器具製造業」である。
 非製造業に注目すると、「情報通信業」では、「情報科学」分野を専門とする研究者が多くを占めている。なお、「情報科学」分野を専門とする研究者の半数以上は「情報通信業」に所属しており、次いで多いのは「業務用機械器具製造業」、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」である。
 「学術研究、専門・技術サービス業」では、「機械・船舶・航空」が半数を占めている。次いで「電気・通信」分野を専門とする研究者が多い。
なお、「人文・社会科学」分野を専門とする研究者の所属先で最も多いのは「輸送用機械器具製造業」であり、次いで「情報通信業」である。


【図表2-2-8】 日本の企業における研究者の専門分野(2020年)

注:
1) HC(実数)である。
2) 研究者の専門分野は、研究者の現在の研究(業務)内容により分類されている。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-8


(4)産業別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係

 産業別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係を示す。横軸が研究人材集約度(HC研究者/従業員)、縦軸が高度研究人材活用度(博士号保持者/HC研究者)であり、円の面積が博士号保持者の数に対応している。
 日本の状況を見ると(図表2-2-9(A))、ここに示した産業分類のうち、高度研究人材活用度が高いのは「医薬品製造業」であり、17.9%となっている。
 研究人材集約度が最も高いのは「情報通信機械器具製造業」であり、23.9%となっている。次いで、「学術研究、専門・技術サービス業」が21.8%であり、高度研究人材活用度も7.5%と相対的に高い。「情報通信業」については、研究人材集約度が8.0%、高度研究人材活用度が2.4%と、どちらも低い。
 米国の状況を見ると(図表2-2-9(B))、高度研究人材活用度が高い産業は、「化学工業(医薬品工業を除く)」、「医薬品工業」であり、それぞれ27.3%、24.5%を示している。なお、「医薬品工業」は研究人材集約度も高く、15.7%である。
 研究人材集約度が高い産業は、「コンピュータ、電子製品工業(17.4%)」、「情報通信業(12.6%)」である。また、「専門、科学技術サービス業」は研究人材集約度が11.6%、高度研究人材活用度が11.9%と、共に高い傾向にある。
 このように、日米ともに産業分類によって研究人材集約度と高度研究人材活用度の状況が異なる。米国の産業において、研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材活用度)が5%未満の産業は少ないが、日本は多くの産業で5%未満となっており、米国と比べて高度研究人材の活用度が低い傾向にある。

【図表2-2-9】 産業別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係
(A)日本(2020年)                        (B)米国(2018年)

注:
1) 研究開発を実施している企業を対象としている。研究人材集約度とは、従業員に占めるHC研究者数の割合である。高度研究人材活用度とは、HC研究者に占める博士号保持者の割合である。オレンジは製造業、黄色は非製造業を示す。
2) 日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。
3) 米国の産業分類は、北米産業分類(NAICS)を使用。
資料:
日本:総務省、「科学技術研究調査報告」
米国:NSF, “Business Research and Development: 2018”

参照:表2-2-9



(9)通信機械器具、映像音響機械器具、電子計算機の製造業等が含まれる。
(10)学術・開発機関等が含まれる。