コラム:大学等における共同、受託研究受入額における間接経費

 第5章で示したように、日本の大学等と民間企業等との共同研究等にかかる受入額と実施件数は継続して増加しており、特に、2015年以降は大幅な増加を示している。
 共同研究等にかかる受入額は、当該共同研究に直接的に必要となる「直接経費」と、産学連携の推進を図るための経費や直接経費以外に必要となる経費及び管理的経費等といった名目の経費である「間接経費」に分けられる(9)。
 2016年度には、イノベーション促進産学官対話会議事務局による「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」が示され、産学官連携における費用負担の適正化・管理業務の高度化における間接経費の重要性が言及されている(10)。
 そこで、本コラムでは、文部科学省が調査した「大学等における産学連携等実施状況について」の個票データを使用し共同研究、受託研究の受入額のうち間接経費に注目し、その状況を調べた。

(1)共同研究、受託研究の間接経費

 日本の大学等における民間企業等との共同研究の受入額のうち間接経費は、著しく増加している(図表5-4-13(A)(a))。2006年度の22億円から2018年度では88億円と4倍になった。
 内訳を見ると、多くを占めているのは大企業からの間接経費である。2018年度では70億円であり、全体の79%を占めている。次いで中小規模企業が16億円であり、18%を占めている。2006年度と比較すると、大企業は約4倍、中小企業は約5倍の伸びである。
 受託研究の受入額のうち間接経費については(図表5-4-13(A)(b))、2006年度から2011年度までは、ほぼ横ばいに推移していたが、2012年度から2018年度にかけて増加した。2018年度では21億円であり、2006年度と比較すると約2倍となっている。内訳を見ると、大企業が多くを占めており、2018年度では15億円、次いで中小企業が5億円となっている。2006年度と比較すると、いずれも約2倍の伸びである。

(2)共同研究、受託研究における直接経費に対する間接経費の割合

 次に直接経費に対する間接経費の割合を見る。共同研究における直接経費に対する間接経費の割合は(図表5-4-13(B)(a))、2006年度の9%から2018年度では14%に増えている。企業の規模、種類別に見ると、共同研究の間接経費は、国内企業での規模での差異はなく、同程度の伸びを示している。外国企業については、国内企業を上回っていたが、2018年度では同程度となった。
 受託研究における直接経費に対する間接経費の割合は(図表5-4-13(B)(b))、2006年度の10%から2018年度では17%に増えている。大企業の方が中小企業を上回って推移している。外国企業については、年度により割合に大きな変化があり、一定していないことがわかる。
 以上より、日本の大学等の民間企業等との共同研究や受託研究における間接経費が増加しており、直接経費に占める間接経費の割合も増加していることが示された。
 先に述べた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」では、これまで、日本の大学等が民間企業等と共同研究を行う際に、間接経費の必要性や使途及びそれがどのようなコスト計算の基に算定されているかといった明確な根拠や考え方が必ずしも十分に示されていなかったことを指摘していた。そのため、大型の共同研究を進めれば進めるほどに実際に必要な間接経費の不足が高じてしまい、大学経営に悪影響を及ぼす可能性も否めない状況となることが懸念されていた。
 本コラムの分析結果は、各大学が本格的な産学連携を推進する中で、エビデンスに基づく「費用の見える化」を進め、適切な費用負担を産業界に求めるようになってきたことを示唆している。
組織的な産学官連携が拡大する中、今後も、大学等はエビデンスに基づく適切な費用算定を案件ごとに進めたうえで、大学等と民間企業等の両者が納得した形で共同研究の契約を結ぶことにより、適切な費用負担を産業界に求めていくことがより一層重要となるだろう。


【図表5-4-13】 日本の大学等における民間企業等との共同研究・受託研究受入額のうち間接経費
(A)間接経費の推移
(a)共同研究
(b)受託研究
(B)直接経費に対する間接経費の割合の推移
(a)共同研究
(b)受託研究

注:
1)共同研究:機関と民間企業等とが共同で研究開発することであり、相手側が経費を負担しているもの。
2)受託研究:大学等が民間企業等からの委託により、主として大学等が研究開発を行い、そのための経費が民間企業等から支弁されているもの。
3) 2008年度まで中小企業、小規模企業、大企業に分類されていた。
資料:
文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況について」の個票データを使用し、科学技術・学術政策研究所が再計算した。

参照:表5-4-13

 

(村上 昭義、神田 由美子)

 


(9) 「イノベーション実現のための財源多様化検討会」(平成27年12月28日)

(10)「産学官連携による共同研究強化のためのガイドラインについて」(平成28年11月30日イノベーション促進産学官対話会議)