第5章 科学技術とイノベーション

 科学技術の成果を、イノベーションに結びつける取組が、近年、強く求められている。そのため、科学技術がイノベーションに及ぼす影響を示す指標が重要になっているが、そのような影響を把握することは困難を伴い、現時点での定量データは少ない。
 この章では、技術の国際的な競争力を示す技術貿易と研究開発集約産業の全体的な状況を見るハイテクノロジー産業貿易及びミディアムハイテクノロジー産業貿易についての指標を示し、次に商標のデータとパテントファミリーのデータにより、各国の国際的な事業展開の方向を考察する。また、主要国のイノベーション調査結果に基づき、企業のイノベーション活動の国際比較を試みる。

5.1技術貿易

ポイント

  • 親子(関連)会社以外の技術貿易収支比をみると、日本は2000年代後半から1を超え、増加し始めた後、2013年以降は増減を繰り返している。2018年度は2.4となった。長期的に見れば、日本の技術競争力は高くなっていると考えられる。米国は4前後で推移していたが、近年は減少傾向にあり、2018年では2.3と日本を下回った。
  • 日本の産業分類別の技術貿易について親子会社間での状況を見ると、技術輸出額が最も多い産業は「輸送用機械器具製造業」であり、2018年度で1兆8,745億円と全産業の65%を占めている。2009年度を境に、増加傾向にあったが、2016年度で減少した後は横ばいに推移している。技術輸入額は、「情報通信業」が2010年度以降大きく増加した。2018年度では1,075億円である。
  • 親子会社以外での技術輸出に関しては「医薬品製造業」、「輸送用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」が多くを占める。ただし、「情報通信機械器具製造業」は年によって額の変化が大きい。2018年度では、「医薬品製造業」が3,690億円、「輸送用機械器具製造業」が2,889億円、「情報通信機械器具製造業」は1,859億円である。
  • 親子会社以外での技術貿易収支(技術輸出-技術輸入)の状況を産業分類別に見ると、「輸送用機械器具製造業」、「医薬品製造業」については、額も大きく、対象期間を通じてプラス計上されている。「情報通信機械器具製造業」については、マイナス計上されていたが、2013年度からは連続してプラスに計上されており、2018年度では「輸送用機械器具製造業」、「医薬品製造業」に次いで3位の規模となっている。

(1)日本と米国の親子会社以外あるいは関連会社以外での技術貿易

 一般に、技術等を利用する権利(1)を、対価を受け取って外国にある企業や個人に対して与えることを技術輸出といい、逆に、対価を支払って外国に居住する企業や個人から権利を受け取ることを技術輸入(技術導入)という。これらをあわせて技術貿易と呼ぶ。技術知識の国際的な取引状況を示す技術貿易額は、一国の技術水準を国際的に測る指標としても用いられ、特に技術輸出額(受取額)の技術輸入額(支払額)に対する比(技術貿易収支比)は技術力を反映する指標として用いられる。
 ただし、技術貿易に関するデータを見る際、国外の系列会社間との技術貿易など企業グループ内での技術移転が、国家間の技術貿易のかなりの部分を占めていることが往々にしてある。系列会社間での技術貿易は、技術知識の国際移転の指標ではあるものの、技術の国際的な競争力を示す指標という性格は薄い。各国の技術力の指標として技術貿易を用いる際には、企業グループ内での技術移転は除外して考えるほうが自然である。そこでデータが利用可能な日本と米国の技術輸出額・輸入額について、系列会社間とそれ以外の技術貿易を比較する。
 日本の調査(2)では「親子会社」を、技術輸出先または技術輸入元との資本関係について、出資比率が50%を超える場合と定めて、親子会社間及びそれ以外の技術貿易を調査している。
 図表5-1-1(A)を見ると、2018年度の日本の親子会社以外の技術輸出額は9,950億円である。推移を見ると、長期的には増加傾向にある。2016年度では一旦落ち込んだが、その後は増加した。2017年度と比較すると3.5%の増加率である。輸出額の規模は親子会社間の方が大きく、伸びも著しかったが、2015年度をピークに頭打ち傾向にある。
 技術輸入額については、2018年度の親子会社以外の技術輸入額は4,109億円である。2005~2011年度にかけて減少した後、増減を繰り返しながら、横ばいに推移している。
 米国のデータでは「関連会社」を、直接または間接に10%以上の株式あるいは議決権を保有している会社等と定義して、関連会社間とそれ以外の技術貿易を示している。
 米国の2018年の関連会社以外の技術輸出額は、4兆6,915億円である。長期的に増加傾向にあったが、2013年をピークに微減している。米国も関連会社間の技術輸出額の方が大きいが、日本ほど、関連会社間とそれ以外の技術輸出額の差はない。技術輸入額については、2018年の関連会社以外の技術輸入額は2兆698億円である。日本の技術輸入額のほとんどが、親子会社以外の取引であるのと比較して、米国の技術輸入額は関連会社間の取引の方が多い。
 次に、親子会社以外あるいは関連会社以外の技術貿易収支比を見ると(図5-1-1(B))、日本は2000年代後半から1を超え増加し始めた後、2013年以降は増減を繰り返している。2018年度は2.4となった。長期的に見れば、日本の技術競争力は高くなっていると考えられる。米国は4前後で推移していたが、近年は減少傾向にあり、2018年では2.3と日本を下回った。
 日本、米国で親子会社あるいは関連会社の定義が異なるため、単純な比較はできないが、技術貿易という観点から見ると、米国の技術力が低下しつつあるとも考えられる(日本と米国の親子会社の定義については図表5-1-1(C)を参照のこと)。

【図表5-1-1】 日本と米国の技術貿易額の推移(親子会社、関連会社間の技術貿易とそれ以外の技術貿易)) 

(A)技術貿易額

(B)技術貿易収支比
(親子会社以外、関連会社以外の技術貿易)

(C)資本関係による親子会社(関連会社)の定義と技術貿易額

注:
日本と米国の親子会社(系列会社)については定義が違うので国際比較する際には注意が必要である。両国の違いについては以下のとおり。
①日本の親子会社とは出資比率が50%超の場合を指す。
②米国の関連会社とは直接または間接に10%以上の株式あるいは議決権を保有している関連会社等を指す。
<日本>1)技術貿易の種類: ①特許権、実用新案権、著作権, ②意匠権, ③各技術上のノウハウの提供や技術指導(無償提供を除く), ④開発途上国に対する技術援助(政府からの委託によるものも含む)
2)年度の値である。
<米国>1)技術貿易の種類: ①Industrial processes, ②Computer software, ③Trademarks, ④Franchise fees,
⑤Audio-visual and related products,
⑥Other intellectual property
2)年の値である。
購買力平価換算は参考統計Eを使用した。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>U.S. Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, U.S. International Services

参照:表5-1-1



(2)日本の産業分類別の技術貿易

 日本の産業分類別技術貿易について親子会社間と親子会社以外での状況を見る。
 親子会社間に注目すると(図表5-1-2(A))、技術輸出額が最も多い産業は「輸送用機械器具製造業」である。2018年度で1兆8,745億円と全産業の65%を占めている。2009年度を境に、増加傾向にあったが、2016年度で減少した後は横ばいに推移している。次に多いのは「医薬品製造業」であり、2,711億円であるが、昨年度と比較すると、-18%減少した。
 技術輸入額は、「情報通信業」が2010年度以降大きく増加した。2018年度では1,075億円である。また、「医薬品製造業」は2017年度と比較して大きく減少した。
 親子会社以外の技術貿易を見ると(図表5-1-2(B))、技術輸出に関しては、「医薬品製造業」、「輸送用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」が多くを占める。ただし、「情報通信機械器具製造業」は年によって額の変化が大きい。2018年度では、「医薬品製造業」が3,690億円、「輸送用機械器具製造業」が2,889億円、「情報通信機械器具製造業」は1,859億円である。
 技術輸入に関しては、「情報通信機械器具製造業」が大きかったが、2006年度以降は、減少傾向にある。これに対して2011年度以降増加傾向にあるのは「医薬品製造業」である。2018年度では、1,694億円と最も大きな産業となった。
 親子会社以外での貿易収支の状況を見ることは、国際的な技術競争力を現す指標と考えられる。そこで、親子会社以外について、技術貿易収支(技術輸出-技術輸入)の状況を産業分類別に見ると(図表5-1-2(C))、「輸送用機械器具製造業」、「医薬品製造業」については、額も大きく、対象期間を通じてプラス計上されている。「情報通信機械器具製造業」については、2002~2010年度の間マイナス計上されていたが、2013年度からは連続してプラスに計上されており、2018年度では「輸送用機械器具製造業」、「医薬品製造業」に次いで3位の規模となっている。


【図表5-1-2】 日本の産業分類別の技術貿易) 

(A)全体のうち親子会社間での技術貿易

(B)全体のうち親子会社以外での技術貿易

(C)全体のうち親子会社以外での技術貿易収支

注:
1)産業分類は、日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用している。 産業分類の改訂に伴い、2002、2008年において変更されている。
2)技術貿易の対象の種類は、図表5-1-1と同じ。
3)親子会社とは、出資比率が50%を超える場合を指す。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表5-1-2


(3)日本と米国の相手先国・地域別の技術貿易

 技術貿易統計を日本と米国の相手先国・地域別に見ることにより、他国・地域との技術に関する関係を明らかにする。
図表5-1-3を見ると、日本の親子会社以外の取引では、中国(2,503億円)への技術輸出額が最も多く、米国(1,949億円)が続いている。なお、親子会社での取引は米国が最も多く、群を抜いている。
 日本の技術輸入額(対価を支払った額)では、米国が最も多く、また、約7割が親子会社以外での取引(2,679億円)である。2位以降は欧州諸国が多いが、その額は極めて少ない。
 米国の技術輸出額を見ると、関連会社以外での取引では、中国(5,322億円)、香港(4,256億円)、日本(4,148億円)への技術輸出額が多い。なお、関連会社間の取引ではアイルランド(1.6兆円)が最も多い。アイルランドは企業の法人税がEU内でも安い国・地域(2019年時点)であり、関連会社間での技術貿易は技術力以外の要因も含むことがわかる。
 米国の技術輸入額を見ると、関連会社以外では、英国が最も多く、関連会社では日本が最も多い。なお、米国の技術輸入については、日本と異なり、関連会社間で取引が多い。


【図表5-1-3】 日本と米国の相手先国・地域別技術貿易額 

(A)日本(2018年度)

(B)米国(2018年)

注:
日本と米国の親子会社(系列会社)については定義が違うので国際比較する際には注意が必要である。両国の違いについては以下のとおり。
①日本の親子会社とは出資比率が50%超の場合を指す。
②米国の関連会社とは直接または間接に10%以上の株式あるいは議決権を保有している関連会社等を指す。
<日本>技術貿易の種類: ①特許権、実用新案権、著作権, ②意匠権, ③各技術上のノウハウの提供や技術指導(無償提供を除く), ④開発途上国に対する技術援助(政府からの委託によるものも含む)
<米国>技術貿易の種類: ①Industrial processes, ②Computer software, ③Trademarks, ④Franchise fees, ⑤Audio-visual and related products,⑥Other intellectual property
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>U.S. Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, U.S. International Services

参照:表5-1-3



(1)特許権、実用新案権、商標権、意匠権、著作権等の法律に基づいて与えられる知的財産権および設計図、青写真、いわゆるノウハウ等の技術に関する権利を含む。
(2)平成14年調査より、総務省「科学技術研究調査」が、日本の企業等の技術貿易データについて、親子会社間の技術貿易額とそれ以外の技術貿易額を区別して調査するようになった。