2.2部門別の研究者

ポイント

  • 公的機関部門の研究者数を見ると、日本の研究者数(FTE値)は2000年代後半から漸減傾向にあり、2019年では3.1万人である。他国を見ると、中国の研究者数が増加しており、最新年では37.0万人と世界第1位の規模である。日本では公営の研究機関の研究者数が減少しており、2002年と比べると37.0%減となっている。
  • 企業部門の研究者数を見ると、日本の研究者数(FTE値)は2000年代後半からほぼ横ばいに推移しているが、2019年では昨年よりも1.2%増加し、50.5万人となった。他国を見ると、2000年代から急激な増加傾向にあるのは中国であり、2015年以降では米国を上回っている。韓国は長期的に増加しており、2000年代後半にドイツを上回り、欧州諸国より多くなっている。また、ドイツも2014~2015年にかけて大幅に増加した後も継続して増加している。
  • 米国の産業において、研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材活用度)が5%未満の産業はないが、日本は多くの産業で5%未満となっており、米国と比べて高度研究人材の活用度が低い傾向にある。
  • 大学部門の研究者数を見ると、日本の2019年の研究者数(FTE値)は13.5万人である。他国の最新年の数値を見ると、中国は35.3万人と極めて多い。また、英国は17.2万人、ドイツは11.5万人である。
  • 日本の国公私立大学の分野分類の構造は異なるが、「人文・社会科学」の研究者が2000年代後半から減少傾向にあるのは共通している。

2.2.1公的機関部門の研究者

(1)各国公的機関部門の研究者

 ここでいう公的機関とは何を指すかを簡単に示すと、日本の場合は「国営」(国立試験研究機関等)、「公営」(公設試験研究機関等)、「特殊法人・独立行政法人」(国立研究開発法人等)である。
 米国の場合は連邦政府の研究機関である。
 ドイツでは連邦政府と地方政府、その他の公的研究施設、非営利団体(16万ユーロ以上の公的資金を得ている)及び高等教育機関ではない研究機関(法的に独立した大学附属の研究所)である。
 フランスは、科学技術的性格公施設法人(EPST)(ただし、CNRSを除く)や商工業的性格公施設法人(EPIC)等といった設立形態の研究機関である。
 英国は中央政府、分権化された政府の研究機関及びリサーチ・カウンシルである。
 中国は中央政府の研究機関、韓国は国・公立研究機関、政府出捐研究機関及び国・公立病院である。
 公的機関部門の研究者数は公的機関の民営化や、研究開発統計の計測対象の変更によって、大きな変動が起こることに注意が必要である。各国の違いを踏まえた上で各国の公的機関の研究者数を見る(図表2-2-1)。
2019年の日本の公的機関の研究者数(FTE値)は3.1万人、経年変化を見ると、大きな変動はあまり見られないが、ピーク時の2005年から約1割の減少を見せた。
 米国については2003年から公的研究機関の研究者数を発表していない。
 ドイツ、フランス、英国は、値が途中大きな変動を示しているが、その主な原因は公的機関であった組織が企業部門に移行したり、研究者数を測定している調査方法が変更になったりしたこと等があげられる。
 ドイツの最新年の研究者数は5.7万人である。2000年代中頃から増加傾向が続いていたが、近年横ばいに推移している。
 フランスについては長期的に見れば、研究者数は増加し続けている。最新年は2.9万人である。
 英国については、長期的に減少傾向にあり、主要国中最も少ない。最新年は0.7万人である。
 中国は2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って測定し始めたため、2009年値は2008年値よりかなり低い数値となった。その後は増加し、最新年では37.0万人と世界第1位の規模である。
 韓国は2000年代以降、増加傾向が続いている。最新年は2.7万人であり、2000年と比較すると2.4倍の増加を示している。


【図表2-2-1】 主要国における公的機関部門の研究者数の推移  

注:
1)公的機関部門の研究者の定義及び測定方法については国によって違いがあるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の定義については図表2-1-1を参照のこと。
2)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3)人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
<日本>1)国・公営研究機関、特殊法人・独立行政法人。
2)日本の研究者は3種類のデータがある。日本*はFTEかHCについて明確な定義がされていない値、日本(FTE)はFTE研究者数、日本(HC)はHC研究者。
<米国>1)連邦政府のみ。
2)定義が異なる。1985年において時系列の連続性は失われている。
<ドイツ>1)連邦政府、非営利団体(16万ユーロ以上の公的資金を得ている機関)、法的に独立した大学の附属の研究所、地方自治体研究所(地方政府に相当する)。
2)1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
3)1989年以前と2013年以降の値は定義が異なる。1993、2014年において時系列の連続性は失われている。
<フランス>1)科学技術的性格公施設法人(CNRSは除く)、商工業的性格公施設法人、行政的性格公施設法人(高等教育機関を除く)、省の部局等。
2)1992、1997、2000、2010年において時系列の連続性は失われている。1997~2009年値は定義が異なる。2017年値は暫定値、2018年値は見積り値。
<英国>1)中央政府(U.K.)、分権化された政府(Scotland等)、研究会議。
2)1986、1991~1993、2001年において時系列の連続性は失われている。2017、2018年は暫定値。
<中国>1)政府研究機関
2)2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
<韓国>国・公立研究機関、政府出捐研究機関、国・公立病院
<EU>1)見積り値である。
2)EU-15の1991年において時系列の連続性は失われている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2019/2”

参照:表2-2-1


(2)日本の公的機関部門の研究者

 日本の公的機関については2001年に、「国営」の研究機関の一部が独立行政法人となった(2003年には、「特殊法人」の研究機関の一部も独立行政法人となった)。そのため、2002年以降のデータはそれ以前との連続性が失われている。以上のことを踏まえて、日本の公的機関の研究者数(FTE)を見ると(図表2-2-2(B))、2019年で総数3.1万人である。「特殊法人・独立行政法人」の値が半数以上を占めており、2019年で1.9万人である。「公営」は0.9万人、「国営」は0.2万人である。
 機関種類別に時系列推移を見ると、「特殊法人・独立行政法人」は長期的に増加傾向にあったが、2010年を過ぎると微減に推移し、近年は微増している。「公営」は、継続して減少しており、2002年と比べると37.0%減となっている。


【図表2-2-2】 日本の公的機関の研究者数の推移 
(A)研究者数*
(B)研究者数(FTE)
(C)研究者数(HC)

注:
1)2001年12月に、国営の研究機関の一部が独立行政法人となったため時系列変化を見る際には注意が必要である。
2)2001年までは4月1日現在の研究本務者数、2002年以降は3月31日現在の研究者数を示している。
3)(A)研究者数*は統計調査において研究専従換算をしていない「研究を主にする者」である。
資料
:総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-2


 公的機関の研究者数を専門別に見る。ここでいう専門とは、研究者個人の専門的知識を指す。
 図表2-2-3(A)を見ると、一貫して「農学」の専門知識を持つ研究者が最も多く、次いで「工学」、「理学」、「保健」と続いている。「農学」は2002年以降、「工学」は2006年以降、継続して減少していたが、近年は横ばいに推移している。「理学」は2005年以降、ほぼ横ばいに推移している。これに対して「保健」の専門別研究者は漸増している。
 専門別研究者の所属先を見ると(図表2-2-3(B))専門分野のうち研究者数が最も多い「農学」の研究者の所属先は「公営」研究機関が一番多い。次に多いのは「工学」の研究者であるが、その所属先は「特殊法人・独立行政法人」の研究機関が多い。「理学」も同様である。また、「保健」の専門知識を持つ研究者数は「特殊法人・独立行政法人」の研究機関に所属している者が多い。


【図表2-2-3】 日本の公的機関における専門別研究者

(A)研究者数の推移

(B)専門別研究者の所属先(2018年)

注:
図表2-2-2と同じ。2002年からHC(実数)。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-3