1.4性格別研究開発費

ポイント

  • 2018年の日本の性格別研究開発費のうち「基礎研究」の割合は全体の15.2%、「応用研究」は20.8%、「開発」が64.0%である。2010年頃から、「応用研究」が減少傾向にある。
  • 研究開発費を性格別に分類して見ると、他国と比較して、「基礎研究」が最も大きいのはフランスであり、「応用研究」が最も大きいのは英国であり、「開発」が最も大きいのは中国である。
  • 「企業」の性格別研究開発費は、いずれの国でも「開発」が最も大きく、「基礎研究」が小さい傾向にある。「大学」の性格別研究開発費は、ほとんどの国で「基礎研究」が最も大きい傾向にあるが、中国では「応用研究」が大きい。また、日本の「基礎研究」がほぼ横ばいなのに対して、米国、フランスでは減少しており、中国では増加している。「公的機関」の性格別研究開発費については、多くの国で「開発」の割合が最も大きいが、フランス、英国では「応用研究」の割合が最も大きい。
  • 日本の企業における「基礎研究」の研究開発費を産業分類別に見ると、最も多いのは医薬品(2,560億円)である。次いで、輸送用機械器具製造業(2,263億円)、情報通信機械器具製造業(1,424億円)と製造業が続いている。2007年度と比較して最も伸びているのは輸送用機械器具製造業(2.8倍)である。

1.4.1各国の性格別研究開発費

 性格別研究開発費とは、基礎、応用、開発というおおまかな分類に分けた研究開発費を指す。この分類はOECDのフラスカティ・マニュアルによる定義に基づいて各国が分類している。そのため回答者による主観的推計が分類結果に少なからず影響していることを考慮する必要がある。以下に、最新版フラスカティ・マニュアル2015に掲載されている性格別の定義を簡単に示す。
 基礎研究(Basic research)とは、何ら特定の応用や利用を考慮することなく、主として現象や観察可能な事実のもとに潜む根拠についての新しい知識を獲得するために実施される、試験的あるいは理論的な作業である。
 応用研究(Applied research)とは、新しい知識を獲得するために企てられる独自の研究である。しかしながら、それは主として、特定の実用上の目的または目標を目指している。
 (試験的)開発(Experimental development)とは、体系的な取り組みであって、研究または実用上の経験によって獲得された既存の知識を活かすもので、新しい材料、製品、デバイスの生産、新しいプロセス、システム、サービスの導入、あるいは、これらの既に生産または導入されているものの大幅な改善を目指すものである。
 ドイツは、最近は性格別研究開発費のデータを公表しておらず、特に「大学」部門での性格別研究開発費のデータはない。ただし、2001年から「企業」部門で性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 また、英国は2007年から性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 なお、日本の性格別研究開発費(22)は自然科学分野を対象に計測しており国全体の研究開発費総額ではない。また、韓国は2006年まで自然科学分野を対象にしていたが、2007年から全分野を対象にしている。
 図表1-4-1は主要国の研究開発費の性格別割合である。「基礎研究」が最も大きいのはフランス、「応用研究」が最も大きいのは英国、「開発」が最も大きいのは中国である。
 2018年(23)の日本の性格別研究開発費のうち「基礎研究」の割合は全体の15.2%、「応用研究」は20.8%、「開発」が64.0%である。2010年頃から、「応用研究」が減少傾向にある。
 米国は、性格別の割合が日本と似ている。「基礎研究」の割合は、2018年では16.6%、「応用研究」は19.8%、「開発」は、63.5%である。
 フランスは、他国と比較して「基礎研究」の割合が最も大きく、最新年では22.7%である。「応用研究」の割合は41.9%、「開発」は35.4%である。
 英国では「応用研究」の割合が他国と比較しても最も大きく、最新年では44.0%を占める。
 中国は「基礎研究」の割合が小さく最新年では5.5%である。「開発」の割合が大きく83.3%であり、他国と比較しても最も大きい。また、「開発」の割合は2000年代中頃から増加した後、近年は減少傾向にある。
 韓国では、2000~2010年にかけて「基礎研究」の割合は増加、「応用研究」の割合は減少していた。2010年以降は「基礎研究」の割合は減少し、「応用研究」の割合は増加したが、近年は横ばいに推移している。「開発」の割合は増減を繰り返しながらもほぼ横ばいに推移している。最新年の値はそれぞれ14.2%、22.0%、63.8%である。


【図表1-4-1】 主要国の性格別研究開発費の内訳

注:
日本の研究開発費は自然科学のみ、韓国は2006年まで自然科学のみである。他の国の研究開発費は、自然科学と人文・社会科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
<日本>年度の値を示している。
<米国>2017年は予備値、2018年は見積り値である。2016年以降、公的機関の研究開発費から「生産前開発(Preproduction development)」が除かれている。
<フランス>2004、2010年において時系列の連続性は失われている。2016年は見積り値、2017年は暫定値。
<英国>見積り値。
<中国>2009年において時系列の連続性は失われている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2017?18 Data Update
<フランス、英国、中国>OECD,“Research & Development Statis-tics”
<韓国>KOSIS, Korean Statistical Information Service

参照:表1-4-1


1.4.2主要国の部門別の性格別研究開発費

 主要国における部門の研究開発費を性格別の割合で見る。
 「企業」の研究開発費を性格別で見ると(図表1-4-2(A))、いずれの国でも「開発」が最も大きく、「基礎研究」が少ない傾向にあるが、そのバランスは異なる。各国最新年において、「開発」の割合が最も大きいのは中国であり約9割を占める。日本、米国では約8割、韓国では約7割である。フランス、英国では「開発」、「応用研究」共に大きく、それぞれ約5割と約4割である。日本、米国、韓国は「応用研究」は2割である。また、「基礎研究」の割合はほとんどの国で1割程度であるが、日本、フランス、英国では近年漸増している。
 「大学」の研究開発費を性格別で見ると(図表1-4-2(B))、最新年において「基礎研究」が最も大きい国はフランス(約7割)である。次いで米国(約6割)、日本(約5割)、中国、韓国(それぞれ約4割)と続いている。日本の「基礎研究」がほぼ横ばいなのに対して、米国、フランスでは減少しており、中国では増加している。「応用研究」が大きい国は中国(約5割)であり、韓国の「開発」は他国と比較すると大きい(約3割)。米国の「大学」の「基礎研究」の割合は、2008年頃まで増加していたが、その後は「応用研究」、「開発」に増加が見られる。
 「公的機関」の研究開発費を性格別で見ると(図表1-4-2(C))、最新年では、多くの国で「開発」の割合が最も大きく、中国、韓国、米国は約5割、日本は約4割を占める。日本の「公的機関」については、2001年に国営研究機関の一部と特殊法人が独立行政法人化により、特殊法人・独立行政法人となったことに留意されたい。フランス、英国については、「応用研究」の割合が最も大きい傾向にあり、フランスでは約6割、英国では約5割となっている。なお、英国の性格別研究開発費は見積り数値、もしくは推定値である。なお、英国の「公的機関」については2010年から性格別研究開発費の定義が変更されたため時系列比較をする際には注意が必要である。最新年の「基礎研究」の割合は、日本、米国、中国は約2割、フランス、韓国は約3割、英国は約4割であるが、米国は減少傾向が見え、フランス、中国は増加、韓国は増加した後、2012年頃から減少に転じている。

 


【図表1-4-2】 主要国の部門別の性格別研究開発費の内訳 
(A)企業 (B)大学 (C)公的機関

注:
日本の研究開発費は自然科学のみ、韓国は2006年まで自然科学のみである。他の国の研究開発費は、自然科学と人文・社会科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。時系列比較注意については、各国の注記を参照のこと。
<日本>年度の値を示している。日本の「公的機関」については、2001年に国営研究機関の一部と特殊法人が独立行政法人化により、特殊法人・独立行政法人となった。
<米国>2017年は予備値、2018年は見積り値。2016年以降、公的機関の研究開発費から「生産前開発(Preproduction development)」が除かれている。
<フランス>企業の2001、2004、2006年、大学の2004、2014年及び公的機関の2010年において時系列の継続性は失われている。公的機関の2016年は見積り値である。すべての部門の2017年は暫定値である。
<英国>見積り値である。公的機関の2010年において時系列の連続性は失われている。大学については除いている。
<中国>企業、公的機関の2009年において時系列の連続性は失われている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2017?18 Data Update”
<フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Research & Development Statistics”

参照:表1-4-2


1.4.3日本の企業部門の基礎研究

 1.4.2で見たように、日本の企業部門の基礎研究費は近年、増加傾向にある。そこで「基礎研究」の研究開発費を産業分類別に見た(図表1-4-3)。
 2018年度において、「基礎研究」研究開発費が最も多いのは医薬品(2,560億円)である。次いで、輸送用機械器具製造業(2,263億円)、情報通信機械器具製造業(1,424億円)と製造業が続いている。非製造業では、学術研究,専門・技術サービス業(718億円)が多い。2007年度と比較すると、医薬品製造業は1.1倍、輸送用機械器具製造業は2.8倍、情報通信機械器具製造業及び学術研究,専門・技術サービス業は1.5倍となっており、輸送用機械器具製造業の伸びが著しい。
 「基礎研究」に注力している度合いを産業別に見ると、研究開発費全体に占める「基礎研究」の割合は医薬品製造業が18%、輸送用機械器具製造業は7%、情報通信機械器具製造業は12%、学術研究,専門・技術サービス業は8%となっている。


【図表1-4-3】 日本の企業における基礎研究の産業分類別研究開発費の推移

資料:
総務省、「科学技術研究調査」

参照:表1-4-3



(22)日本の研究開発統計調査「科学技術研究調査」での性格別研究開発費の定義は以下のとおりであり、対象は自然科学分野のみである。
基礎研究:特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。
応用研究:基礎研究によって発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究をいう。
開発研究:基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究をいう。
(23)この節の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している節では「年度」を用いている。