概 要

 「科学技術指標」は、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき、体系的に把握するための基礎資料であり、科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育と科学技術人材」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の5つのカテゴリーに分類し、約180の指標で我が国の状況を表している。今版では、コラムに掲載したものも含めて、約20の指標について、新規に掲載又は可視化方法の工夫を行った。本概要では「科学技術指標2019」において、注目すべき指標を紹介する。

1.研究開発費から見る日本と主要国の状況

(1)日本の研究開発費総額は、米国、中国に続く規模であり、2017年では19.1兆円(OECD推計では17.5兆円)である。

 2017年の日本の研究開発費総額(名目額)は、19.1兆円(OECD推計では17.5兆円)であり、対前年比は3.4%増(日本(OECD推計):3.6%増)である。米国は世界第1位の規模を保っている。2017年では55.6兆円であり、対前年比は5.0%増である。中国は2017年では50.8兆円、対前年比は9.7%増であり、米国に迫る勢いである。
 日本の研究開発費の対前年比を部門別で見ると、「公的機関」では7.2%、「企業」では3.6%、「大学」では1.0%(OECD推計による大学も同じ)の増加率である。


【概要図表1】 主要国の研究開発費総額の推移:名目額(OECD購買力平価換算)

参照:科学技術指標2019図表1-1-1


(2)部門別で見ると、いずれの主要国でも「企業」が多くを占めている。

 部門別では、いずれの主要国でも「企業」の研究開発費が最も多い。この傾向は韓国、日本(OECD推計)、中国で顕著である。欧州主要国では比較的、「企業」とそれ以外の部門での差異が少ない。を占めている。


【概要図表2】 主要国における部門別の研究開発費:名目額(OECD購買力平価換算)

参照:科学技術指標2019図表1-1-6


(3)部門別研究開発費の伸びは各国により異なる。アジアでは「企業」部門での伸びが大きいが、欧米では、「大学」、「非営利団体」部門の伸びが大きい。また、主要国間を比較するといずれの部門でも中国の伸びが最も著しく、韓国がそれに続く。

 2000年を1とした部門別研究開発費の2017年の指数を見ると、「企業」部門が最も伸びている国は、日本、日本(OECD推計)、中国、韓国である。「大学」部門が最も伸びている国は、米国、ドイツである。フランス、英国でも「大学」部門は伸びているが、「非営利団体」部門がさらに上回っている。ただし、「非営利団体」部門の規模はいずれの国でも小さい。また、主要国間を比較すると、いずれの部門でも中国の伸びが最も著しく、韓国がそれに続く。


【概要図表3】 主要国における部門別の研究開発費:2000年を1とした2017年の指数

注:ドイツの公的機関は非営利団体を含む。
参照:科学技術指標2019図表1-1-6


(4)米国の企業では、製造業、非製造業共に研究開発費が拡大している。日本、ドイツ、韓国の企業では、製造業が多く、非製造業は少ない傾向にある。フランス、英国の企業では、他国と比べて非製造業の重みが大きい傾向にある。

 最新年の企業部門の研究開発費を産業分類別で見ると、米国は「情報通信業」、日本、ドイツは「輸送用機器製造業」、フランス、英国は「専門・科学・技術サービス業」、韓国は「コンピュータ、電子・光学製品製造業」が大きな規模を持っている。


【概要図表4】 主要国における企業部門の産業分類別研究開発費

参照:科学技術指標2019図表1-3-6


(5)日本や米国では大規模企業に政府からの支援が集中しているが、韓国やドイツでは中小規模企業への支援も一定の重みを持っている。

 企業の研究開発に対する政府からの直接的支援を従業員規模別で見ると、従業員数500人以上の企業の割合が80%以上を占めているのは日本、米国である。これに対して従業員数49人以下の企業の割合が大きいのは韓国(38.9%)、ドイツ(21.8%)である。


【概要図表5】 主要国における政府から企業への直接的支援(企業の従業員規模別)

参照:科学技術指標2019図表1-3-10

2.研究開発人材から見る日本と主要国の状況

(1)日本の研究者数は2018年において67.6万人であり、中国、米国に次ぐ第3位の規模である。部門別で見ると、ほとんどの国で企業の研究者数が最も多い。

 日本の研究者数は2018年において67.6万人(実数(HC: Head Count)値は93.1万人)であり、中国、米国に次ぐ第3位の研究者数の規模である。韓国の研究者数は継続的に増加しており、最新年ではドイツと同程度となっている。部門別では、ほとんどの国で研究開発費と同様に企業の研究者数が最も多いが、英国については大学の研究者数が最も多い。


【概要図表6】 主要国の研究者数の推移

注:
中国の2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更したため、2008年以前と2009年以降では差異がある。その他の国の国際比較や時系列比較についての注意事項については、本編参照のこと。
参照:科学技術指標2019図表2-1-3


【概要図表7】 主要国の部門別研究者数

注:
1)全ての国はフルタイム換算(FTE:Full-Time Equivalents)値である。
2)米国はOECDによる見積もり数値であり、近年、企業部門以外の数値がないため、企業とそれ以外について数値を示した。
参照:科学技術指標2019図表2-1-7


(2)日本の製造業では工学系の専門的知識を持つ研究者が多くを占める。

 産業分類別に、その業種に所属する研究者の専門分野を見ると、製造業で多くを占める「輸送用機械器具製造業」では「機械・船舶・航空」分野を専門とする研究者が多く、「情報通信機械器具製造業」では「電気・通信」分野を専門とする研究者が多い。非製造業の「情報通信業」では「情報科学」を専門とする研究者が多くを占めている。他の産業分類では「情報科学」を専門とする研究者は少ない。ただし、「情報科学」分野を専門とする研究者の割合は昨年と比較すると1.0ポイント増加し8.6%となっている。
 「人文・社会科学」を専門分野とする研究者の割合は1.3%と小さい値である。


【概要図表8】 日本の企業における研究者の専門分野(2018年)

注:
研究者の専門分野は、研究者の現在の研究(業務)内容により分類されている。
参照:科学技術指標2019図表2-2-8、「情報科学」分野を専門とする研究者の割合の2017年の数値は「科学技術指標2018」を参照。


(3)日本の研究者における博士号保持者は、「大学等」で多くかつ増加している。

 日本の研究者における博士号保持者の状況を見ると、2018年で17.8万人である。博士号保持者数が最も多い部門は「大学等」(13.3万人)であり、継続して増加している。「公的機関」(1.7万人)は、博士号保持者数は少ないが、長期的に見ると増加傾向にある。「企業」については継続して増加していたが、近年その伸びは停滞し、2018年で2.5万人(研究者に占める割合は4.4%)となっている。


【概要図表9】 各部門における博士号を持つ研究者の状況(HC)
(A)博士号保持者数の推移
(B)研究者に占める博士号保持者の割合

注:
研究者はHC(実数)である。
参照:科学技術指標2019図表2-1-8


(4)日本の企業における高度研究人材活用度(研究者に占める博士号保持者の割合)は、米国と比べて低い。

 米国の産業において、研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材活用度)が5%以下の産業はないが、日本は多くの産業で5%以下となっており、米国と比べて高度研究人材の活用度が低い傾向にある。


【概要図表10】 産業別の研究人材集約度と高度研究人材活用度の関係
(A)日本(2018年)
(B)米国(2016年)

注:
研究人材集約度とは、従業員に占めるHC研究者数の割合である。高度研究人材活用度とは、HC研究者に占める博士号保持者の割合である。日米共に研究開発を実施している企業を対象としている。
<日本>日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。
<米国>米国の産業分類は、北米産業分類(NAICS)を使用。
参照:科学技術指標2019図表2-2-10


(5)主要国のいずれの国でも女性研究者の割合が小さいのは「企業」部門であり、「大学」部門では大きい傾向にある。

 女性研究者の割合を部門ごとに見ると、日本、ドイツ、韓国では「大学」部門での割合が最も大きく、それぞれ、27.1%、38.7%、31.7%を占めている。フランス、英国では「非営利団体」部門において最も大きいが、「非営利団体」部門は研究者数が少ない。これらの国でも次いで大きいのは「大学」部門であり、それぞれ、36.4%、45.5%を占めている。各国とも女性研究者の割合が最も小さいのは「企業」部門である。


【概要図表11】 主要国の女性研究者数の部門ごとの割合

参照:科学技術指標2019図表2-1-11

(6)日本の新規採用研究者に占める女性の割合は、いずれの部門においても、研究者に占める女性の割合よりも大きい。

 新規採用研究者においては、いずれの部門でも女性と比べて男性が多い。いずれの部門でも新規採用研究者に占める女性の割合は、研究者に占める女性の割合よりも大きい。
 大学等での女性の新規採用研究者の割合は「自然科学系」で32.0%(2018年)である。「保健」における女性の割合は大きく(37.2%)、「工学」において小さい(14.3%)。


【概要図表12】 日本における新規採用研究者
(A)男女別新規採用研究者

(B)分野別新規採用研究者における女性の割合
(大学等)

参照:科学技術指標2019図表2-1-21


3.大学生・大学院生から見る日本の状況

(1)主要国の中では日本のみ人口100万人当たりの博士号取得者数の減少傾向が続いている。

 人口100万人当たりの博士号取得者の推移を見ると、ドイツは2000年度から継続して主要国の中で一番の規模である。2010年度ごろから英国がドイツに追いつき、その後は両国とも同程度に推移している。米国、韓国は2000年度には日本と同程度であったが、その後順調な伸びを見せ、最新値では日本の倍近い値となっている。日本の人口100万人当たりの博士号取得者数は、多くの主要国と比べて少なく、日本のみ減少傾向が続いている。


【概要図表13】 主要国の博士号取得者数の推移
(A)博士号取得者
(B)人口100万人当たり博士号取得者

注:
米国の博士号取得者は、“Digest of Education Statistics”に掲載されている“Doctor's degrees”の数値から、“Professional fields”(以前の第一職業専門学位:First-professional degree)の数値を全て除いた値である。
参照:科学技術指標2019図表3-4-4


(2)米国における日本人大学院生は、2007年の2,508人から2017年では990人に減少した。外国人大学院生に占めるシェアは1.8%(2007年)から0.4%(2017年)に低下している。日本における外国人大学院生については、インドネシア人大学院生が増加している。

 日本における自然科学分野の外国人大学院生は、中国人大学院生が最も多く、2018年度では約1万人である。次いでインドネシア人大学院生が約1,500人となっている。1位と2位以降に大きな差があるが、インドネシア人の大学院生の数は着実に増加している。
 米国の外国人大学院生は、インド人大学院生と中国人大学院生が多い。1位と2位に大きな差はないが、3位のイラン以降には大きな差がある。米国における日本人大学院生は、2007年の2,508人から2017年では990人に減少した。外国人大学院生に占めるシェアは1.8%(2007年)から0.4%(2017年)に低下している。


【概要図表14】 日本と米国における外国人大学院生の状況
(A)日本:自然科学分野
(B)米国:科学工学分野

参照:科学技術指標2019図表3-5-1

4.研究開発のアウトプットから見る日本と主要国の状況

(1)10年前と比較して日本の論文数(分数カウント法)は微減であり、他国の論文数の増加により順位を下げている。順位の低下は、注目度の高い論文(Top10%補正論文数、Top1%補正論文数)において顕著である。

 研究開発のアウトプットの一つである論文(自然科学系)に着目すると、論文の生産への貢献度を見る分数カウント法では、日本の論文数(2015-2017年(PY)の平均)は、米、中、独に次ぐ第4位である。また、Top10%補正論文数では、米、中、英、独、伊、仏、豪、加に次ぐ第9位であり、Top1%補正論文数では米、中、英、独、豪、加、仏、伊に次ぐ第9位である。
 10年前と比較して、日本の論文数は微減であり、他国の論文数の増加により順位を下げていることが分かる。順位の低下は、特にTop10%補正論文やTop1%補正論文といった注目度の高い論文において顕著である。


【概要図表15】 国・地域別論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数:上位10か国・地域
(自然科学系、分数カウント法)

注:
分析対象は、Article, Reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。被引用数は、2018年末の値を用いている。
参照:科学技術指標2019図表4-1-6


(2)日本は10年前から引き続きパテントファミリー(2か国以上への特許出願)数において、世界第1位を保っている。韓国や中国のパテントファミリー数シェアの増加に伴い、「情報通信技術」、「電気工学」における日本のシェアは低下している。

 特許出願に着目し、各国・地域から生み出される発明の数を国際比較可能な形で計測したパテントファミリー数を見ると、1992-1994年は米国が第1位、日本が第2位であったが、2002-2004年、2012-2014年では日本が第1位、米国が第2位となっている。日本のパテントファミリー数の増加は、単一国ではなく複数国への特許出願が増加したことを反映した結果である。中国はパテントファミリー数で見れば、2012-2014年で第5位であるが、着実にその数を増やしている。

【概要図表16】 主要国・地域別パテントファミリー数:上位10か国・地域

注:
パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2か国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。
参照:科学技術指標2019図表4-2-5

 2012-2014年のパテントファミリー数におけるシェアに注目すると、日本は「電気工学」、「一般機器」が30%を超えており、「バイオ・医療機器」、「バイオテクノロジー・医薬品」のシェアが相対的に低いというポートフォリオを有している。「電気工学」と「情報通信技術」の世界におけるシェアは、共に約8ポイント減少している。これは、中国と韓国が急激に世界シェアを増加させているためである。


【概要図表17】主要国の技術分野毎のパテントファミリー数シェアの比較
(%、2002-2004年と2012-2014年、整数カウント法)

注:
概要図表16と同じ。概要図表17の項目「バイオ・医薬品」は「バイオテクノロジー・医薬品」の略であり、「情報通信」は「情報通信技術」の略である。
参照:科学技術指標2019図表4-2-10

(3)日本の技術(特許)は他国と比べて科学的成果(論文)を引用している割合が低いが、日本の論文は世界の技術に多く引用されている。

 科学と技術のつながりを見るために、パテントファミリー(2007~2014年の合計)が引用している論文の情報を用いて分析を行った。論文を引用しているパテントファミリー数を国・地域別に見ると、日本は世界第2位である。しかし、日本のパテントファミリーの中で論文を引用しているものの割合は9.1%であり、日本の技術は他国と比べて科学的成果を引用している割合が小さい。
 他方、2007~2014年のパテントファミリーに引用されている論文数(1981~2014年の合計)では米国に次いで多く、日本の論文は世界の技術に多く引用されている。

【概要図表18】 論文を引用しているパテントファミリー数:上位10か国・地域

参照:科学技術指標2019図表4-3-2

【概要図表19】 パテントファミリーに引用されている論文数:上位10か国・地域

参照: 科学技術指標2019図表4-3-3


(4)日本の科学知識が日本の技術に十分に活用されていない可能性がある。

 日本の論文で自国のパテントファミリーに多く引用されている分野は「物理学(53.3%)」と「材料科学(46.0%)」である。他方、「環境・地球科学(14.0%)」、「臨床医学(16.4%)」、「基礎生命科学(16.2%)」は自国のパテントファミリーから引用されている割合は相対的に低い。

【概要図表20】 日本の論文と主要国のパテントファミリーのつながり

参照:科学技術指標2019図表4-3-7



5.科学技術とイノベーションから見る日本と主要国の状況

(1)日本の親子会社以外での技術貿易収支は2006年度から継続的にプラスである。

 国際的な技術競争力を現す指標と考えられる親子会社以外での技術貿易収支(技術輸出-技術輸入)の状況を産業分類別に見ると、「輸送用機械器具製造業」、「医薬品製造業」については、額も多く、対象期間を通じてプラス計上されている。


【概要図表21】 日本の産業分類別の技術貿易うち親子会社以外での技術貿易収支

注:
1)技術貿易の種類は以下のとおり(商標権は除く)。①特許権、実用新案権、著作権、②意匠権、③各技術上のノウハウの提供や技術指導(無償提供を除く、)、④開発途上国に対する技術援助(政府からの委託によるものも含む)
2)親子会社とは、出資比率が50%を超える場合を指す。
参照:科学技術指標2019図表5-1-4


(2)貿易額(輸出額)における製品とサービスのバランスに注目すると、韓国(11.0%)、ドイツ(17.8%)、日本(20.2%)はサービスの割合が小さく、英国(44.7%)、米国(34.6%)、フランス(29.8%)では、サービスの割合が大きい。

 主要国における輸出入額全体の推移を見ると、ほとんどの国で、2008年まで増加傾向にあり、2009年に一旦落ち込んだ後、増加に転じている。いずれの国でも製品の方がサービスより貿易額(輸出額)が多いが、英国(44.7%)、米国(34.6%)、フランス(29.8%)では、サービスの割合が大きい。


【概要図表22】 主要国における貿易額の推移

注:
中国は「製品」と「サービス」に分類されたデータが記載されていなかった。
参照:科学技術指標2019図表5-2-1


(3)日本のハイテクノロジー産業貿易収支比は、主要国の中でも低い数値である。他方、ミディアムハイテクノロジー産業においては、日本は主要国の中で第1位を維持している。

 ハイテクノロジー産業貿易収支比を見ると、日本は継続して貿易収支比を減少させており、2017年の日本の収支比は0.78である。日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.71であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。

【概要図表23】 主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

注:
1)ハイテクノロジー産業とは「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」を指す。
2)貿易収支比=輸出額/輸入額
参照:科学技術指標2019図表5-2-4

【概要図表24】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

注:
1)ミディアムハイテクノロジー産業とは、「化学品と化学製品」、「電気機器」、「機械器具」、「自動車」、「その他輸送」、「その他」を指す。
2)貿易収支比=輸出額/輸入額
参照:科学技術指標2019図表5-2-6

 


(4)情報通信サービス業のイノベーション実現割合は製造業より大きく、情報通信サービス業において、活発にイノベーション実現がなされている。

 日独英のプロダクト・イノベーション実現企業割合について各国全体を1として「企業規模別(大規模、中小規模)」、「製造業」、「サービス業」、「情報通信サービス業」の状況を見ると、いずれの国でも「大規模企業」における数値が大きい傾向にある。
 サービス業全般ではいずれの国でも1を下回っており、「製造業」と比べて、イノベーション実現割合は小さい。但し、「情報通信サービス業」のイノベーション実現割合は製造業より大きく、「情報通信サービス業」において、活発にイノベーション実現がなされていることが分かる。


【概要図表25】 主要国のプロダクト・イノベーション実現企業割合
(全体を1として企業規模別、製造業、サービス業、情報通信サービス業)

参照:科学技術指標2019図表5-4-3

(5)日本の大学と民間企業との共同研究実施件数及び研究費受入額は急速に増加している。

 民間企業等との共同研究等にかかる受入額と実施件数を見ると受入額が最も多いのは「共同研究」であり全体で623億円、実施件数は2.6万件である。大企業からの受入が多く、同年度で497億円である。「共同研究」受入額の全体は2015年度から毎年10%以上の増加を見せている。


【概要図表26】 日本の大学等の民間企業等との共同研究等にかかる受入額(内訳)と実施件数の推移

注:
共同研究:機関と民間企業等とが共同で研究開発することであり、相手側が経費を負担しているもの。受入額及び件数は、2008年度まで中小企業、小規模企業、大企業に分類されていた。
受託研究:大学等が民間企業等からの委託により、主として大学等が研究開発を行い、そのための経費が民間企業等から支弁されているもの。
治験等:治験等:大学等が外部からの委託により、主として大学等のみが医薬品及び医療機器等の臨床研究を行い、これに要する経費が委託者から支弁されているもの、病理組織検査、それらに類似する試験・調査。
寄附講座・寄附研究部門:2016年度まで国立大学のみの値。2017年度から公立、私立大学の値が計測されるようになった。
資料:文部科学省、「大学等における産学連携等実施状況について」の個票データを使用し、科学技術・学術政策研究所が再計算した。
参照:科学技術指標2019表5-4-8

(6)日本の開業率は漸増しているが、他国より低い水準で推移している。また、起業無関心者の割合が高い。

 各国最新年の開業率を見ると、日本の開業率は5.6%であり他国と比較して最も低い数値である。最も高いのはフランス、英国であり、それぞれ13.2%、13.1%となっている。2001年と比較すると、日本は漸増しているが、他国より低い水準で推移している。


【概要図表27】 主要国における開業率の推移

参照:科学技術指標2019図表5-4-11

 起業無関心者の割合の推移を見ると、2017年の日本は主要国中最も割合が高く75.8%である。次に大きいフランスと比較すると32ポイントの差がある。最も低いのは米国であり、21.6%である。


【概要図表28】 主要国における起業無関心者の割合の推移

注:
1)グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(Global Entrepreneurship Monitor:GEM)調査の結果を表示している。
2)ここでいう「起業無関心者」とは、「過去2年間に、新しく事業を始めた人を知っている」、「今後6か月以内に、自分が住む地域に起業に有利なチャンスが訪れる」、「新しいビジネスを始めるために必要な知識、能力、経験を持っている」の3つの質問すべてに「いいえ」と回答した人をいう。
3)3つの質問について、「わからない」と回答した人、無回答の人を除いて集計している。
4)フランスは2015年の値がない。
参照:科学技術指標2019図表5-4-12

 

(7)ユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)は、多様な分類で生まれているが、大多数は情報通信サービスに関連したものとなっている。

 米国CB Insightsの調査においてユニコーン企業とされた、企業価値が10億ドル以上の未上場企業のデータ(2019年1月18日現在)を使用し、世界におけるユニコーン企業の状況を見ると、最もユニコーン企業数が多いのは米国であり、151社となっている。次いで中国が79社であり、3位の英国(16社)と大きく離れている。日本は1社であり、他国と比較すると少ない数値である。CB Insightsによる分類で見ると、米国では「インターネットソフトウェアとサービス」が最も多い。中国では「インターネットソフトウェアとサービス」と「電子商取引」が同程度に多い。英国では「フィンテック」、インドでは「電子商取引」が最も多い。


【概要図表29】 分類別・国別ユニコーン企業数(2010~2018年)

注:
1)CB Insightsの調査においてユニコーン企業とされた企業価値が10億ドル以上の未上場企業(2019年1月18日現在)のデータを基に科学技術・学術政策研究所が作成。
2)分類についてはCB Insightsが提示した項目を科学技術・学術政策研究所が仮訳した。
3)CB Insightsに企業価値が10億ドル以上と判断された年である。
4)CB Insights, “Global Unicorn Club: Private Companies Valued at $1B+(as of January 18, 2019)”(webサイトより2019/04/23入手)
5)2019年7月1日時点のCB Insightsのweb上に掲載されている表では日本の企業数は2社であり、世界全体は362社である。
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights-Global-Unicorn-Club_2019.xlsx
参照:科学技術指標2019図表5-4-14



科学技術指標の特徴

 科学技術指標は、毎年刊行しており、その時点での最新値を紹介している。原則として毎年データ更新され、時系列の比較あるいは主要国間の比較が可能な項目を収集している。


  • 各国が発表している統計データを使用
     科学技術指標で使われている指標のデータソースは、できる限り各国が発表している統計データを使用している。また、各国の統計の取る方がどのようになっていて、どのような相違があるかについて、極力明らかにしている。
  • 論文・特許データベースについて当研究所独自の分析の実施
     論文データについては、クラリベイト・アナリティクス社Web of Science XMLの書誌データを用いて、当研究所で独自の集計をし、分析している。また、集計方法も詳細に記載し、説明している。
     特許関連の指標のうち、パテントファミリーのデータについては、PATSTAT(欧州特許庁の特許データベース)の書誌データを用いて、当研究所で独自の集計をし、分析している。また、集計方法も詳細に記載し、説明している。
  • 国際比較や時系列比較の注意喚起マークの添付
     必要に応じ、グラフに「国際比較注意」 「時系列注意」 という注意喚起マークを添付してある。各国のデータは基本的にはOECDのマニュアル等に準拠したものであるが、実際にはデータの収集方法、対象範囲等の違いがあり、比較に注意しなければならない場合がある。このような場合、「国際比較注意」マークがついている。また、時系列についても、統計の基準が変わるなどにより、同じ条件で継続してデータが取られておらず、増減傾向などの判断に注意する必要があると考えられる場合には「時系列注意」というマークがついている。なお、具体的な注意点は図表の注記に記述してあるので参照されたい。
  • 統計集(本報告書に掲載したグラフの数値データ)のダウンロード
     本報告書に掲載したグラフの数値データは、以下のURLからダウンロードできる。
     https://www.nistep.go.jp/research/indicators
     本編中の図表の下に示している参照とは、統計集における表番号を示している。