5.2主要国の産業貿易の構造

ポイント

  • 主要国の産業貿易の構造を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業が最も多くを占める国が多い。2016年においてミディアムハイテクノロジー産業の割合が大きな国は日本(56.8%)、次いでドイツ(50.0%)である。中国では、ハイテクノロジー産業が最も多くを占めている(30.4%)。中国は、ミディアムロウテクノロジー産業の割合も27.6%と高く、それぞれの産業が一定の重みを持っている。
  • 日本のハイテクノロジー産業貿易における輸出額は、横ばいに推移していたが、2010年代に入って減少傾向にある。輸入額については増加傾向が続いていたが、近年、減少している。また、輸出、輸入ともに「電子機器」が多くを占めている。
  • 主要国のハイテクノロジー産業貿易額の状況を見ると、中国は輸出、輸入額ともに著しく拡大し、2000年代後半に入ると輸出額は米国を上回り、大きく伸び続けている。産業の構成を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が大部分を占めている。ただし、最新年は輸出、輸入ともに「電子機器」が減少した。
  • ハイテクノロジー産業貿易収支比を見ると、日本は継続して貿易収支を減少させている。2011年以降1を下回り、入超となった。2016年の日本の収支比は0.75であり、元々低かった英国、米国と同程度となっている。一方、中国、韓国は長期的に見れば、収支比を上昇させており、韓国は主要国中、最も収支比が高い(1.56)。
  • 2016年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.73であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。米国、ドイツ、フランス、英国の貿易収支比が大きく変化しないなか、貿易収支比を増加させているのは中国(1.38)である。

(1)主要国の産業貿易の構造

 ハイテクノロジー産業やミディアムハイテクノロジー産業といった「研究開発集約産業(R&D - intensive industries)」の貿易については、技術貿易のように科学技術知識の直接的なやり取りについてのデータではないが、実際に製品開発に活用された科学技術知識の間接的な指標であると考えられている。ここではまず、OECDの定義による研究開発集約のレベル(研究開発費/粗付加価値)にもとづき、産業を分類し、産業貿易のバランスを見る。
 図表5-2-1では、主要国の産業貿易のうち、輸出額について、①ハイテクノロジー産業(以下、HT産業と呼ぶ)、②ミディアムハイテクノロジー産業(以下、MHT産業と呼ぶ)、③ミディアムテクノロジー産業(以下、MT産業と呼ぶ)、④ミディアムロウテクノロジー産業(以下、MLT産業と呼ぶ)、⑤その他の5つに分類し、その構造を見た。
 日本ではMHT産業が最も大きく、2016年では、56.8%を占めている。他国と比較しても最も大きい。次いでHT産業が15.6%、MT産業が14.4%、MLT産業では5.7%となっている。時系列を見ると、MHT産業は継続的に増加している。HT産業については、2000年以前は横ばいに推移していたが、その後減少し、2010年頃から再び横ばいに推移している。MT産業は2000年代後半に割合が増加した後、近年では微減している。
 米国はMHT産業が最も大きく、2016年では、35.9%を占めている。次いでHT産業が26.1%、MLT産業が16.4%、MT産業が9.8%となっている。時系列を見ると、MHT産業はほぼ横ばいに推移している。HT産業は、2000年代に入ると減少した後、2010年以降増加している。MLT産業は2000年代後半から増加し始め、近年減少に転じている。MT産業は漸増している。
 ドイツはMHT産業が半数を占めており、2016年では50.0%である。次いでHT産業が18.3%、MLT産業が15.8%、MT産業が10.9%となっている。時系列を見ると、ドイツは他国と比較すると変化が少なく、MHT産業、MLT産業、MT産業は横ばい若しくは微減、HT産業は漸増している。
 フランスはMHT産業が最も多く、2016年では35.5%を占めている。次いでHT産業26.3%、MLT産業が21.2%、MT産業が11.0%である。時系列を見ると、MHT産業は2000年代後半から微減、HT産業は増加、MLT産業、MT産業は微減が続いている。
 英国はMHT産業が最も大きく、2016年で34.2%である。次いでHT産業が25.3%、MLT産業が15.3%、MT産業が13.0%である。時系列を見ると、MHT産業は長期的に見ると横ばいに推移している。HT産業は、2000年頃まで増加した後は減少に転じ、近年再び増加している。MLT産業、MT産業は横ばいで推移した後、近年MLT産業は減少、MT産業は増加した後減少している。
 中国は1990年代ではMLT産業が多くを占めていたが、2005年頃からHT産業、MHT産業が増加、それに伴いMLT産業が減少し、2016年では、HT産業が30.4%と他国と比較しても最も大きい。MLT産業が27.6%、MHT産業が26.3%と、研究開発集約型の産業からそうでない産業まで3つの産業が同程度となっている。
 韓国では、1990年ではMLT産業が最も多くを占めていたが、その後は2010年頃まで継続的に減少が続き、代わって、MHT産業の増加が見られた。HT産業については、2005年頃まで漸増した後は減少、近年はまた増加に転じている。2016年ではMHT産業が最も大きく40.9%である。次いでHT産業28.2%、MT産業17.0%、MLT産業が13.3%である。


【図表5-2-1】 主要国の産業貿易輸出割合
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国
(H)産業貿易の内訳

資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-1


(2)ハイテクノロジー産業貿易

 ハイテクノロジー産業とはOECDの定義(「研究開発集約産業(R&D - intensive industries)」と呼ばれる場合もある)に基づいている。具体的には「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」の3つの産業を指す。
 図表5-2-2は主要国のハイテクノロジー産業貿易額の推移である。ほとんどの国で「電子機器」産業が多くを占めている。
 国別に状況を見ると、日本の輸出額は横ばいに推移していたが、2010年代に入って、減少傾向にある。輸入額についても増加傾向が続いていたが、近年、漸減している。また、輸出、輸入ともに「電子機器」が多くを占めている。
 米国は輸出、輸入額ともに拡大している。2000年代に入り、輸入額が輸出額を大きく上回るようになった。米国の輸出は「航空・宇宙」が他国と比較しても大きいことが特徴である。輸入額については、「電子機器」、「医薬品」が大きい。
 ドイツのハイテクノロジー産業貿易の輸出額については増加傾向が続いていたが、近年は減少傾向にある。輸入額については、2000年代後半からほぼ横ばいに推移している。輸出入ともに、「電子機器」の額が大きいが収支は均衡している。また、「医薬品」と「航空・宇宙」は、ともに出超である。特に「医薬品」の輸出額は、ここに示した国の中で最も大きい。
 フランスは「航空・宇宙」の輸出額が「電子機器」よりも大きいのが特徴であり、貿易収支も出超となっている。また、「医薬品」も出超である。
 英国については、2000年代後半から輸出額はほぼ横ばい、輸入額は漸増傾向にある。輸出額については「医薬品」、「航空・宇宙」が増加しており、「電子機器」は減少している。輸入額については、「電子機器」が一定の規模を保って推移しているため、「電子機器」が入超となっている。
 中国は輸出、輸入額ともに著しく拡大し、2000年代後半に入ると輸出額は米国を上回り、大きく伸びている。産業の構成を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が大部分を占めている。ただし、最新年は輸出、輸入ともに「電子機器」が減少した。
 韓国についても、輸出、輸入額ともに「電子機器」がほとんどを占めており、特に輸出額での増加が著しいが、近年微減している。
 昨今、経済発展が著しいBRICsのデータを見ると、ロシア、ブラジル、インドともに輸入額が大きく、増加も著しい。ブラジルについては「航空・宇宙」のみ出超である。インドでは「医薬品」の輸出額が著しく伸びており、「医薬品」の黒字幅を広げている。


【図表5-2-2】 主要国におけるハイテクノロジー産業貿易額の推移

資料:
<日本、米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2017/2”
<ロシア、ブラジル、インド>OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-2


 図表5-2-3に、ハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。日本は継続して貿易収支を減少させている。2011年以降、1を下回り、入超となっており、2016年の日本の収支比は0.75である。
 米国、ドイツ、フランス、英国の収支比は、1前後に推移していたが、米国、英国は2000年前後から1を下回り、入超で横ばいに推移している。2016年では米国は0.73、英国は0.80となっている。
 ドイツは2000年頃から1を上回り、出超で横ばいに推移している。2016年では1.21である。
 フランスは1990年代前半には1を上回り、出超で横ばいに推移している。2016年では1.08である。
 中国は長期的に見れば、収支比を上昇させていたが、2008年以降、横ばいに推移している。2016年では1.24である。韓国は主要国中、最も収支比が高い。2016年で1.56となっている。


【図表5-2-3】 主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-2と同じ。

参照:表5-2-3


(3)ミディアムハイテクノロジー産業貿易

 図5-2-1で見たように、ミディアムハイテクノロジー産業は主要国の多くで、輸出額において1番の重みを持っており、その状況を把握する事は、ハイテクノロジー産業貿易の状況を把握する事と同様に重要である。
 ここでいうミディアムハイテクノロジー産業とはOECDの定義に基づいており、ISIC(国際標準産業分類)Rev.4を用いたデータを使用した。具体的には、「化学品と化学製品」、「電気機器」、「機械器具」、「自動車」、「その他輸送」、「その他」といった産業から構成される。
 図5-2-4を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業貿易の輸出額ではドイツが最も大きく、これに中国、米国が続く。日本も存在感を示していたが、2011年以降、中国の輸出額が日本を上回っている。一方、輸入額を見ると、米国が最も大きい。次いでドイツが大きかったが、2010年以降、中国が上回っている。ただし、近年、中国の輸入額は減少している。
 各国の輸出、輸入の内訳を見ると、日本の輸出額の内訳は「自動車」が最も大きく、次いで大きいのは「機械器具」である。輸出額全体の推移を見ると、2000年代に入ってから急激な伸びを示していたが、近年、減少している。輸入額では「化学品と化学製品」が最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。
 米国の輸出額では「化学品と化学製品」が最も大きく、これに「自動車」、「機械器具」が続いている。輸入額では「自動車」が最も大きいが、「機械器具」も大きい。
 ドイツの輸出額は「自動車」が最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。輸入額は「自動車」が最も大きく、これに「化学品と化学製品」が続く。
 フランスでは輸出、輸入ともに、産業の種類別の規模のバランスが似通っている。輸出は「化学品と化学製品」、「自動車」の順で大きく、輸入は「自動車」、「化学品と化学製品」の順で大きい。
 英国も輸出、輸入ともに産業の種類別の規模のバランスが似ている。輸出、輸入共に「自動車」が最も大きい。
 中国においては輸出額では「電気機器」、「機械器具」が大きく、輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。なお「自動車」は急激な増加を見せているが、ピークであった2014年と比べると輸入額が小さくなっている。
 韓国においては、輸出額では「自動車」と「化学品と化学製品」が大きくかつ伸びていたが、直近2年は減少している。輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。
 ロシア、ブラジル、インドについては、その他の国と比較すると規模が小さい。また全ての国で輸入額の方が大きい。輸入額の内訳を見ると、ロシアでは「機械器具」、ブラジル、インドでは「化学品と化学製品」が最も大きい。


【図表5-2-4】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業貿易額の推移

注:
その他は「磁気、光学メディア」、「医療及び歯科用機器・備品」等である。
資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-4


 図表5-2-5に、ミディアムハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。
 2016年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.73であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。
 韓国の収支比は長期的に増加傾向にあったが、近年横ばいに推移しており、2016年では1.81を示している。
 ドイツの2016年の収支比は1.76である。継続的に出超であり、ほぼ横ばいに推移している。
 中国の収支比は、長期的に見ると増加しており、2016年では、1.38である。
 フランスの収支比は、長期的に減少しており2016年では、0.91である。
 英国の収支比は、1991年以外は入超で推移している。2016年では、0.75である。
 米国の収支比は未だ1を超えたことはなく、2016年では、0.68である。


【図表5-2-5】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-4と同じ。

参照:表5-2-5