コラム:社会科学の論文動向についての試行的分析

 これまで科学技術指標では、Web of ScienceのSCIE (Science Citation Index Expanded)を用いて、自然科学系を中心に論文分析の結果を紹介してきた。本コラムでは、Web of Scienceで社会科学系を対象としているSSCI (Social Sciences Citation Index)を用いて、社会科学分野における世界全体の論文数・雑誌数の推移並びに国別の論文数、シェア及び順位の推移について紹介する。
 以下では、SSCIの中で最も論文数が多い「経済学・経営学」と「社会科学・一般」(教育学、社会学、法学、政治学など)の分野で分けて論じる。

1.世界の社会科学の論文数及び雑誌数の推移

 図表4-1-11は、「経済学・経営学」及び「社会科学・一般」についての世界全体の雑誌数及び論文数を示したものである。1980年代から現在までの論文数及び雑誌数の伸びに注目すると、両分野ともに2005年以降、雑誌数が急増し、論文数もこれに伴い急激に伸びている。


【図表4-1-11】 社会科学の論文・雑誌数

注:
1)社会科学・一般:教育学、社会学、法学、政治学等。
2)分析対象は、Article, Reviewである。整数カウント法による。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SSCI, 2017年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-11


2.国・地域別論文数・シェア・順位の推移

 図4-1-12には、「経済学・経営学」と「社会科学・一般」に関して、整数カウント法により国・地域別の論文数とシェア・順位を、1994-1996年、2004-2006年、2014-2016年の3時点について算出した結果を示す。

(1)経済学・経営学

 日本の「経済学・経営学」の論文数は、1994-1996年と2014-2016年を比較すると、136件から565件と4.2倍近くに伸び、世界の全体の論文数の伸び(2.6倍)よりも大きい。また、シェアについては、1.3%から2.1%と増加している。一方、順位に関しては、10位から15位と一貫して低下している。
 論文数が急増した2005年以降の国別論文数をみると、中国、台湾、韓国といった東アジア国・地域に加えて、イタリア、トルコ、フィンランドの論文数の伸びが目立つ。


(2)社会科学・一般

 日本の「社会科学・一般」の論文数は、1994-1996年と2014-2016年を比較すると、188件から868件と4.6倍伸びている。シェアでも、0.6%から1.0%と増加している。一方、順位に関しては、14位から24位と経済学・経営学以上に順位を落としている。
 各国の推移をみると、中国、台湾、韓国など東アジアの論文数は伸びているものの、経済学・経営学ほど順位は上昇していない。1994-1996年と2014-2016年とを比較すると、論文数とともにシェア及び順位を上げている国で目立つのは、スペイン、イタリア、ベルギーなどの英語を公用語としない欧州・EU加盟国である。一方、論文数で一貫して首位を保つ米国は、シェアでは52.1%から38.2%へと大きく減少している。また、ニュージーランド、インドのように、英語を公用語や準公用語とする国であっても、論文数は増加しシェアもそれほど減っていない中で、日本と同様に、順位を下げている国もみられる。


3.社会科学の特性

 社会科学では、研究成果として著書など論文以外の研究成果の発表手段が重視されることもあるといわれている。しかし、長期的に論文数は増加しており、研究成果発表の手段としての論文も一定の役割を果たすようになっていると言うことができるだろう。ただし、国・地域別の論文数をみると、社会科学の中でも、経済学・経営学と、法律・社会制度や言語に左右される研究対象を扱う教育学、社会学、法学、政治学などを含む社会科学・一般では順位の傾向に違いが現れている。このため、社会科学の中でも研究成果を論文で計測することが可能な研究領域もあるが、社会科学の全般を論文で計測することは難しいといえる。

(白川 展之)


【図表4-1-12】 社会科学の国・地域別論文数:上位25か国・地域(整数カウント法)

(A)経済学・経営学

(B)社会科学・一般

注:
1)社会科学・一般:教育学、社会学、法学、政治学等。
2)分析対象は、Article, Reviewである。整数カウント法による。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
クラリベイト・アナリティクス社 Web of Science XML (SSCI, 2017年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-12