2.2.3大学部門の研究者

(1)各国大学部門の研究者

 大学部門は研究者数の国際比較を行う際に、困難を伴う。2.1.1節に述べたが、再度簡単に注意点を示す。まず、①調査方法に違いがある。大学部門の研究者を計測する際に研究開発統計調査を行わず、各国の既存のデータ、たとえば、教育統計(教職員や学生についての計測をしている統計など)や、職業や学位取得を調査する統計などを用いている国がある。2点目として、②測定方法の違いがあげられる。研究開発統計調査を行っているのであれば、調査票でFTE計測をした研究者数を測定できるが、教育統計などを用いている場合はFTE係数をかけて、FTE研究者数を計測しなければならない。特に日本は研究開発統計調査を行っているが、そこではFTE計測をしていない。最後に、③調査対象にも違いが見られる。各国大学の研究者に含まれている博士課程在籍者の扱いが国によって違いがあり、たとえば、経済的支援を受けているかどうか、その人数にFTE係数をかけるか、などといった差異が出てくる。
 科学技術指標では、日本の大学部門のFTE研究者数を計測するために、文部科学省が実施した「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」(FTE調査)に基づくFTE係数を使用し、FTE研究者数を計測したデータを使用している(図表2-1-2参照)。2002年から、FTE研究者数の計測に用いられており、2008年、2013年にFTE係数の更新が行われた。従って、2009年、2013年以降のデータの継続性は損なわれている。
 主要国における大学部門の研究者数を見ると(図表2-2-10)、日本の大学部門の2016年の研究者数(FTE値)は13.7万人である。
 中国の研究者数は2000年以降急激に増加している。なお、2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って測定し始めたため、2008年と2009年の間に差異があるが、その後は継続して増加している。2015年の研究者数は29.9万人であり、世界トップクラスの規模となっている。
 英国の研究者数には、1993年と1994年の間に差異があるが、これは高等教育機関の改革(旧大学と旧ポリテクニクの一元化)などにより、調査対象が変更されたことが影響していると考えられる。2015年の研究者数は16.9万人であり、日本の研究者数(FTE値)よりも大きい。
 ドイツに関しては、2000年代中頃(2005年時点で6.5万人)から、研究者数が大幅に増加し、2015年では10.2万人である。
 フランスの研究者数は、2000年代中頃まで、ドイツと同様の伸びを示していたが、その後は、一貫して増加しているものの、大幅な増加を示しているドイツとの差は開いている。2014年では7.3万人である。
 韓国の研究者数は、増加傾向にあるが、他国と比較すると少ない。2015年の研究者数は4.1万人である。
 米国の大学の研究者数は2000年以降、公表されていない(10)。


【図表2-2-10】 主要国における大学部門の研究者数の推移  

注:
1)大学部門の研究者の定義及び測定方法については国によって違いがあるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の違いについては図表2-1-1を参照のこと。
2)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3)自然科学と人文・社会科学の合計である(ただし、韓国は2006年まで自然科学のみ)。
<日本>
 1)大学の学部(大学院研究科を含む)、短期大学、大学附置研究所、その他。
 2)日本*は2001年以前の研究換算をしていない「研究を主にする者」。研究者については図表2-1-3を参照のこと。
<米国>
 1)University & Colleges
 2)1985、1987、1993年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
<ドイツ>
 1)Universities, Comprehensive universities, Colleges of education, Colleges of theology, Colleges of art, Universities of applied sciences, Colleges of public administration
 2)1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
 3)1987、2006年値は、前年までのデータと継続性が損なわれている。2015年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値及び暫定値。
<フランス>
 1)国立科学研究センター(CNRS)、グランゼコール(国民教育省(MEN)所管以外)、高等教育機関
 2)1997、2000年値は前年までのデータと継続性が損なわれている。
<英国>
 1)1994、2005年値は前年までのデータと継続性が損なわれている。
 2)2005~2008年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。2015年値は暫定値または国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。
<中国>2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
<韓国>大学のすべての学科(分校及び地方キャンパスを含む)、附属研究機関、大学附属病院(医科大学と会計が統合している場合のみ)
<EU>各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。EU-15の1991年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」 文部科学省、「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」
<米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2016/2”

参照:表2-2-10


(2)日本の大学部門の研究者

 日本の大学部門の研究者について、国公私立大学別に、その規模、学問分野、業務区分について状況を見る。なお、この節での大学部門の研究者とは「科学技術研究調査報告」における「研究本務者」の数値であり、学外からの研究者は含まれていない。
 国公私立大学別に大学部門の研究者数を見ると(図表2-2-11)、国立大学と私立大学が同程度の規模を持っていることがわかる。2016年の国立、私立大学の研究者数は13.5万人であり、公立大学は2.0万人である。各大学ともに漸増傾向は続いている。


【図表2-2-11】 国公私立大学別の研究者

注:
大学・大学院の数値である。研究本務者であり、学外からの兼務者を除く。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-11


 学問分野(所属組織の分野)について、「人文・社会科学」、「自然科学」、「その他(11)」に分類し、国公私立大学の構造見ると(図表2-2-12)、国立大学では、「自然科学」が大多数を占めている。2016年の「自然科学」の研究者数は10.6万人であり、「人文・社会科学」は1.5万人、「その他」は1.3万人である。時系列を見ると、「自然科学」の研究者数は継続して伸びているが、「人文・社会科学」は2000年代後半から伸びは失速している。
 公立大学では国立大学と同様の傾向にあり「自然科学」が大多数を占めている。また、「人文・社会科学」は2000年代後半から減少傾向にある。
 私立大学では、「自然科学」(2016年:7.2万人)が最も多いが、「人文・社会科学」(2016年:4.4万人)も国公立大学と比較すると多い傾向にある。また、「自然科学」の研究者数は継続して増加しているが、「人文・社会科学」の研究者数は2000年代後半から漸減傾向が続いている。
 国公私立大学の分野分類の構造は異なるが、「人文・社会科学」の研究者が2000年代後半から減少傾向にあるのは共通している。


【図表2-2-12】 国公私立大学別学問分野別の研究者
(A)国立大学
(B)公立大学
(C)私立大学

注:
研究本務者であり、学外からの兼務者を除く。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-12


 大学部門の研究者を4つの業務(教員、大学院博士課程の在籍者、医局員、その他の研究員)に分類し、国公私立大学における業務区分別の状況を見る(図表2-2-13)。
 国立大学の構造を見ると、2016年の「教員」は7.0万人、次いで「大学院博士課程の在籍者」が4.8万人であり、この二つの研究者が大多数を占めている。特に「大学院博士課程の在籍者」は、公立大学や私立大学と比較しても極めて多い。「医局員」は0.8万人、「その他の研究員」は0.9万人であり、「その他の研究員」も他の大学と比較すると多い。時系列を見ると、「教員」は漸増傾向を続けている。「大学院博士課の在籍者」は1990年代に大きく伸びた後、漸増傾向が続き、2010年頃からほぼ横ばいに推移している。
 公立大学では、2016年において「教員」が1.3万人、「大学院博士課程の在籍者」が0.4万人と「教員」が多くを占めている。時系列を見ると、1990年代では「教員」、「医局員・その他の研究員」が増加している。「大学院博士課程の在籍者」は、1990年代は「医局員・その他の研究員」より数が少なかったが、2000年代に入ってから増加傾向に入り、「医局員・その他の研究員」より多くなっている。
 私立大学では、2016年において、「教員」が10.8万人と極めて多く、私立大学の研究者のほとんどを占めている。「大学院博士課程の在籍者」は1.7万人、「医局員」は0.7万人、「その他の研究員」は0.3万人である。時系列を見ると、「教員」の数が継続して大きく増加している。「大学院博士課程の在籍者」も増加しているが、2010年頃からほぼ横ばいに推移している。


【図表2-2-13】 国公私立大学別業務区分別の研究者
(A)国立大学
(B)公立大学
(C)私立大学

注:
研究本務者であり、学外からの兼務者を除く。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-13


(3)大学教員の出身校の多様化

 我が国の大学では、伝統的に自校出身の教員が多いという特徴があり、出身校の多様化を進めることが政策課題となっている。
 我が国の2013年度の大学教員自校出身者の割合は大学全体平均で32.6%であり、長期的に見ると減少している。部門別に見ると「保健」分野が多く、約5割で推移している。最も少ないのは「社会科学」分野であり、2割程度である。
 長期的に見ると、どの分野でも減少傾向が見え、自校出身の教員が減少しつつあると言える(図表2-2-14(A))。
 次に、大学種類別に見ると、各専門分野共通に国立大学教員の自校出身率が高く、公立が低い。分野別に見ると「保健」分野は国立、公立、私立大学ともに自校出身者の割合が特に高い(図表2-2-14(B))。


【図表2-2-14】 大学教員の自校出身者の占める割合
(A)所属組織の専門分野別推移

(B)大学種類別(2013年度)

注:
保健には医学が含まれている。
資料:
文部科学省、「学校教員統計調査報告」

参照:表2-2-14


(4)大学教員の年齢階層の変化

 若手研究者の自立支援、研究環境の整備は科学技術基本計画にも常に盛り込まれており、近年の科学技術基本計画では、大学における若手研究者のポストの拡充が期待されている。他方、優れた研究者が年齢を問わず活躍し成果をあげていくことは、我が国の科学技術水準の向上にとって重要であり、優れた年長の研究者の能力の活用も必要である。
 全大学教員の年齢階層の比率を見ると(図表2-2-15(A))、25-39歳の教員の比率は、1986年には39.0%であったが2013年では24.6%に減少した。一方で、60歳以上の比率は同時期に11.9%から19.2%に増加した。40-49歳の比率は、2004年から25-39歳比率を上回り、また、50-59歳比率は2013年には25-39歳比率を上回った。
 国公私立大学別に見ると(図表2-2-15(B)、(C)、(D))、国公私立大学ともに、1980年代では、25-39歳比率が一番大きく、次いで年齢の低い順から高い順に並んでいた。その後、国公立大学では40-49歳比率の割合が増加し、2004年から25-39歳比率を上回っている。25-39歳比率の低下に伴い、2013年では50-59歳比率が25-39歳比率を上回っている。
 60歳以上の比率は、元々低かったがそれでも増加している。一方、私立大学では、そもそも60歳以上の比率が国公立大学より高かったが、2010年では、いずれの年代の比率も同程度になり、2013年では25-39歳の比率が一番低い。
 各大学ともに若手教員の比率が減少する一方で、年長の教員の比率が増加しつつある。大学教員の年齢階層に変化が生じており、高齢化しつつあると考えられる。また、その状況は、国公立大学より私立大学の方が顕著に表れている。


【図表2-2-15】 大学の本務教員の年齢階層構成
(A)全大学
(B)国立大学
(C)公立大学
(D)私立大学

注:
本務教員とは当該学校に籍のある常勤教員。
資料:
文部科学省、「学校教員統計」

参照:表2-2-15


(5)新規採用教員の年齢階層の変化

 大学教員の年齢構成の変化は、毎年、新たに大学教員となる者の年齢構成に左右されるものと考えられる。そこで、新規に雇用された大学教員の年齢階層構成の推移を見る。
 全大学における新規採用教員の年齢階層別の構成を見ると(図表2-2-16)、25-39歳の採用教員数比率は、1986年度では89.3%であったが、2013年度には67.2%にまで減少している。代わって他の年代の比率が増加しており、特に40代の比率が4.2%から18.3%にまで増加している。
 国公立大学別に見ると、いずれの大学でも、25-39歳の採用教員数が減少し、40代の教員数比率が増加したことは共通であるが、40代の採用教員数比率が他の年代より顕著に増加しているのは国公立大学である。私立大学については、若手の採用教員数の比率が国公立大学より、そもそも少なく、他の年代については、50代、60歳以上の比率が、国公立大学より高く、かつ増加しているのが特徴である。新たに大学教員となる者の年齢は上がってきていることがわかる。
 このような変化の背景としては、大学教員の採用に際して、高い研究業績を要求する(ポスドク等の任期付きポジションを経た後に採用される)傾向、あるいは実務経験者や各種専門家を求める傾向が強まっていることをあげることができる。


【図表2-2-16】 大学の採用教員の年齢階層構成
(A)全大学
(B)国立大学
(C)公立大学
(D)私立大学

注:
採用とは当該学校の本務教員として、大学、短期大学及び高等専門学校の本務教員以外の職業等から異動した者。
資料:
文部科学省、「学校教員統計」

参照:表2-2-16


コラム:主要国の高等教育レベル(ISCEDレベル5~8)における教員の年齢階層構成の状況

 日本の大学では、若手教員の比率が減少する一方で、年長の教員の比率が増加しつつある状況にある(本文2.2.3(4)参照のこと)。日本の大学教員の年齢階層に変化が生じていることがわかっているが、他国の大学教員においてはどのような状況なのであろうか。
 本コラムでは、UNESCOが開発した教育の国際教育標準分類ISCED(International Standard Classification of Education)2011のレベル5~8における教員を対象とし、主要国の大学教員の年齢階層の構成を見た(図表2-2-17)。
 なお、ISCED2011におけるレベル5~8とは、日本で言うところの大学等に加えて専修学校が含まれている。
 日本は40-49歳の教員数比率が最も大きい。2005年と比較すると、50歳以上の教員比率はほぼ横ばい、25-39歳の教員比率が減少し、40-49歳が増加した。
 ドイツは39歳以下の教員数比率が最も大きい国である。2005年時点ではほぼ半数であったが、 最新年では半数を超えている。39歳以下の教員数割合が増加したのはドイツのみである。次いで大きいのは40-49歳であり、49歳以下の教員が7割を超えている。他国と比較して49歳以下の教員の比率が最も大きい。
 フランスは、2005年時点では39歳以下の教員数比率が最も大きく、次いで50-59歳での比率が大きかったが、2014年では40-49歳での教員数比率が最も大きくなり、これに39歳以下の教員が続いている。
 英国は、2005年時点では39歳以下の教員数比率が最も大きく、次いで40-49歳での比率が大きかったが、2014年では40-49歳での教員数比率が最も大きくなった。25-39歳と50-59歳の教員数比率は同程度となった。なお、60歳以上の教員比率は他国と比較しても、最も増加している。
 中国では39歳以下の教員数比率が最も大きく、全体の約4割を占める。
 韓国は40-49歳での教員数比率が他国と比較しても最も大きい。次いで大きいのは50-59歳である。なお、39歳以下の教員数比率が他国と比較すると最も小さい。

(神田 由美子)


【図表2-2-17】 主要国の高等教育レベル(ISCEDレベル5~8)における教員の年齢階層構成

注:
日本とフランスの2014年値と中国の値は、他のカテゴリーを含む。
資料:OECD, “Education and Skills”

参照:表2-2-17



(10)米国はNSF, “Higher Education Research and Development Survey”(研究開発費が年間15万ドル以上の大学を対象とした研究開発統計)において大学の研究開発人材について計測している。2015年調査によるとR&D personnelは90.3万人、Principal investigatorsは15.8万人、Postdocsは6.6万人である。
(11)家政学、教育学、その他である。