2.2.2企業部門の研究者

(1)各国企業部門の研究者

 企業部門の研究者については、各国ともに研究開発統計調査により研究者数を計測している。そのため、他部門と比較して国際比較可能性が高いデータと考えられる。しかし、経済活動の高度化に伴う産業構造変化に合わせ、各国とも調査方法や対象範囲を変化させており、また各国の標準産業分類の改定も影響するため経年変化にゆらぎが見られるデータでもある。
 日本の企業部門の研究者数(FTE値)は2000年代後半からほぼ横ばいに推移しており、2016年では48.6万人であるが、対前年比率は-3.9%である。
 中国は2000年代に入り急速な伸びを示していたが、2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って研究者数を測定し始めたため、2009年値は、前年と比べて大幅に低い数値となっている。その後は再び伸び続け、2015年では101.5万人であり、世界第1位の規模となった。
 米国企業の研究者は2014年で96.0万人、中国とほぼ同規模である。なお、米国は、2008年から企業に対して詳細な調査を実施し始めた。そのため2007年以前のデータは掲載していない。
 韓国は長期的に増加傾向にあり、2010年以降、欧州諸国を上回り、2015年では28.4万人である。
 フランスや英国については、公的機関が民営化され、企業部門へ移行している機関があり、その分増加している。また、ドイツ、フランスについては、長期的に見ると増加傾向にある。英国については2010年頃から微増している。最新年の研究者数は、ドイツ20.2万人、フランス16.2万人、英国11.0万人である(図表2-2-4)。


【図表2-2-4】 主要国における企業部門の研究者数の推移 

注:
FTE値である。
<日本>
 1)2001年以前の値は該当年の4月1日時点の研究者数、2002年以降の値は3月31日時点の研究者数を測定している。
 2)日本*は2001年以前の研究換算をしていない「研究を主にする者」。研究者については図表2-1-3を参照のこと。
 3)産業分類は日本標準産業分類を基に科学技術研究調査の産業分類を使用している。
 4)産業分類の改定に伴い、科学技術研究調査の産業分類は1996、2002、2008、2013年版において変更されている。
<米国>産業分類はNAICSを使用。
<ドイツ>
 1)1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
 2)ドイツ産業分類は1993、2003、2008年に変更されている。
 3)企業の1992、1996、1998、2000、2002、2008、2010、2015年は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。
<フランス>
 1)1991年と1992年の間に、調査対象区分の変更が行われた(France Telecom and GIAT Industriesが政府部門からBusiness Enterprise部門へ移行した)。
 2)1997年に、管理部門の研究人材についての調査方法が変更された。
 3)フランス産業分類は2001、2005、2008年に改定されている。
 4)1992、1997、2001、2006年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
<英国>
 1)1985年と1986年の間に、調査対象区分の変更が行われた(1985年と1986年の間に、“United Kingdom Atomic Energy Authority”が政府部門からBusiness Enterprise部門へ移行した)。
 2)2000年に、“the Defence Evaluation and Research Agency (DERA)”が廃止され、うち4分の3が民間有限会社となりBusiness Enterprise部門へ移行した。
 3)1991年と1992年の間に、研究所区分の再分類が行われた。
 4)英国産業分類は1980、1992、1997、2003、2007年に改定されている。
 5)2015年は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値、または暫定値。
<中国>
 1)2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応していない。
 2)1991~1999年値は過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。
<EU>各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。EU-15の1991年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2016/2”

参照:表2-2-4


(2)主要国における産業分類別の研究者

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者について、各国最新年からの3年平均で見ると(図表2-2-5)、日本は製造業の割合が約9割、ドイツ、中国、韓国は約8割である。他方、米国は約6割、フランス、英国に関しては、製造業の割合が半分以下であり、非製造業の重みが他国と比較すると極めて大きい。
 図表1-3-5で見た研究開発費における製造業と非製造業のバランスと比べると、研究者の場合、非製造業の研究者数の比重が大きく出る傾向にある。ただし、日本とドイツについては、研究開発費での製造業と非製造業のバランスは研究者でのバランスと一致している。


【図表2-2-5】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者数の割合 

注:
1)各国企業部門の定義は図表1-1-4を参照のこと。
2)米国の産業分類は、NAICSを使用。米国の企業部門では、NAICSにおける「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
3)日本の産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“Science and Engineering Indicators 2016”
<ドイツ、フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Structural Analysis (STAN) Databases”

参照:表2-2-5


 図表2-2-6は、日本、米国、ドイツの産業分類別研究者数割合を示したものである。ここでいう産業分類とは、各国が標準産業分類を参照して、企業部門の研究開発統計調査のために設定した産業分類である。各国の標準産業分類はISIC(国際標準産業分類)に概ね対応するように設定されているが、やはり国によって多少の差異が出てくる。
 日本の産業分類別の研究者数を見ると(図表2-2-6(A))、日本の研究者数が最も多いのは「情報通信機械器具製造業」であり、次いで「輸送用機械器具製造業」である。近年、「輸送用機械器具製造業」に比較的大きな増加が見られる一方で「情報通信機械器具製造業」では減少が見られた。
 米国の産業分類別の研究者数を見ると(図表2-2-6(B))、非製造業における研究者数が多いことがわかる。中でも「情報通信業」は多くを占めている。また「専門、科学技術サービス業」も多くを占めている。製造業では、「コンピューター、電子製品工業」の研究者数が多い。
 ドイツの産業分類別の研究者数を見ると(図表2-2-6(C))、製造業の研究者が多く、非製造業の研究者数が数少ないことは、日本と似通っている。製造業では「輸送用機械製造業」の研究者数が多く、次いで「コンピューター・精密電子機器製造業」が多く、継続して増加している。非製造業では「専門的科学技術活動」、「情報通信業」の研究者数が多い。


【図表2-2-6】 日米独の産業分類別研究者数
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ

注:
<日本>産業分類は日本標準産業分類を基に科学技術研究調査の産業分類を使用。
<米国>産業分類は北米産業分類(NAICS)を使用。
<ドイツ>産業分類はドイツ産業分類(Klassifikation der Wirtschaftszweige)を使用。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“Business Research and Development and Innovation”
<ドイツ>BMBF's Data Portall”

参照:表2-2-6


(3)日本の産業分類別研究者

 日本は、どの業種の企業に研究者が多いのかを従業員に占める割合で見た(図表2-2-7)。なお、ここでは研究を実施していない企業の従業員数も含めた割合を示している。
 まず、非製造業(0.4%)よりも製造業(5.2%)において割合が高い。
 2016年で最も割合が高いのは、製造業である「情報通信機械器具製造業(8)」の19.2%である。次いで「業務用機械器具製造業」、「化学工業」、「医薬品製造業」が続く。
 非製造業では「学術研究、専門・技術サービス業(9)」が3.7%と割合が高いが、製造業と比較すると低い傾向にある。


【図表2-2-7】 日本の産業分類別従業員に占める研究者の割合(2016年)

注:
研究を実施していない企業の従業員数を含んでいる。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-7


 日本の企業に所属する研究者はどのような専門的知識を持っているのだろうか。ここでは、産業分類別に、その業種に所属する研究者の専門分野を見る(図表2-2-8)。
 企業に所属する研究者は、「機械・船舶・航空」分野を専門とする者が最も多く、全体の27.4%を占めている。次いで「電気・通信」が25.8%とこの2分野で全体の約半数を占めている。他方、最も少ない分野は「人文・社会科学」であり、1.3%である。
 所属する企業側から見ると、多くを占める「情報通信機械器具製造業」では、「電気・通信」分野を専門とする研究者が最も多く、半数以上を占めている。次いで「機械・船舶・航空」、「その他の工学」分野であり、「数学・物理」や「情報科学」分野を専門とする研究者は少ない。
 「輸送用機械器具製造業」では、「機械・船舶・航空」分野を専門とする研究者が多く、次いで「電気・通信」分野であり、二つの分野の研究者で約8割を占めている。
 比較的、多様な専門分野を持つ研究者が所属しているのは「業務用機械器具製造業」である。
 非製造業に注目すると、「情報通信業」では、「情報科学」を専門分野に持つ研究者が多くを占めている。なお、「情報科学」分野を専門とする研究者の半数以上は「情報通信業」に所属しており、次いで多いのは「業務用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」である。
 「学術研究、専門・技術サービス業」では、「機械・船舶・航空」が半数を占めている。次いで「電気・通信」を専門分野に持つ研究者が多い。
 「人文・社会科学」分野を専門とする研究者の所属先で最も多いのは「輸送用機械器具製造業」であり、次いで「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」である。


【図表2-2-8】 日本の企業における研究者の専門分野(2016年)

注:
HC(実数)である。( )は研究者数である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-2-8


(4)企業規模別研究者の集約度

 この節では企業規模による研究者の集約度の違いを見るために、企業の従業員数を一定数で区切り、企業規模別に従業員数に占める研究者数の割合を見た(図表2-2-9)。
 日本は、従業員数1万人以上の企業での集約度が最も高く、12.7%となっている。従業員数が少なくなるにつれ、集約度は低くなる傾向にある。ただし、最も低いのは従業員数300~999人の企業である。
 米国は、従業員数が5~249人と少ない企業での研究者の集約度が最も高く、8.0%である。最も低いのは従業員数1万人以上の企業であり、3.2%である。なお、1,000~9,999人の企業も比較的研究者の集約度が高い傾向にある。
 ドイツも従業員数が0~249人と少ない企業において研究者の集約度が最も高く、5.7%である。また、従業員数1万人以上の企業において集約度が最も低く、3.4%となっている。なお、ドイツは他国と比較して企業規模による研究者の集約度の差が少ない傾向にある。
 韓国においては、従業員数99人以下の企業の集約度が最も高く、13.2%である。従業員数100~299人の企業も8.2%と比較的高い傾向にあり、米国、ドイツと同様の傾向にあるが、従業員数1,000人以上の企業における研究者の集約度も高い傾向にある。
 このように、日本は大規模企業において研究者の集約度が高いのに対して、他国では小規模企業において研究者の集約度が高く、異なる傾向であることが分かる。

【図表2-2-9】 日米独韓における企業の従業員規模別従業員に占める研究者の割合 
(A)日本(2016年)
(B)米国(2014年)
(C)ドイツ(2013年)
(D)韓国(2015年)

注:
研究開発を実施している企業を対象としている。各国の研究開発統計により、従業員数の分類が異なるため、国際比較する際には注意が必要である。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF, “Business R&D and Innovation Survey 2014”
<ドイツ>BMBF, “Bundesbericht Forschung und Innovation 2016”
<韓国>韓国科学技術企画評価院、「研究開発活動調査報告書」

参照:表2-2-9



(8)通信機械器具、映像音響機械器具、電子計算機の製造業等が含まれる。
(9)学術・開発機関等が含まれる。