2.3研究支援者

ポイント

  • 研究者一人当たり研究支援者数を部門別に見ると、大学部門の支援者数が、他部門と比較して少ないのは、日、独、仏、英、中であり、一方、大学部門の支援者数が多いのは韓国である。大学部門の支援者数の経年変化を見ると、ほとんどの国で、横ばいもしくは減少傾向にあるが、韓国については2000年代に入ると、増加している。
  • 日本の大学部門の研究支援者の内訳を見ると、2000年代に入り増加しはじめたのは「研究事務・その他の関係者」であり、2000年代後半から増加したのは「研究補助者」である。
  • 日本の大学部門の研究者(HC)一人当たりの研究支援者数は微増である。
  • 日本の国・公・私立大学別に教員一人当たり研究支援者数見ると、どの分野で見ても「国立大学」が多い。推移を見ると「理学」、「農学」分野が2000年以降、特に増加している。

2.3.1各国研究支援者の状況

 研究支援者は、研究開発の担い手として重要な存在であるにもかかわらず、研究開発の周辺的存在と考えられがちである。しかし、複雑化、大規模化した現代の研究開発において、研究者と研究支援者は研究開発の担い手としてともに重要な役割を果たしている。
 研究支援者も含めた研究従事者数の統計は各国にあるが、研究者同様、国によって差異がある。OECD「フラスカティ・マニュアル2015」によれば、“Technicians and equivalent staff”(技能者およびこれと同等のスタッフ)(12)及び“Other supporting staff”(その他の支援スタッフ)(13)がいわゆる、研究支援者に相当している。
 図表2-3-1に各国の「研究支援者」の項目名を簡単に示す。日本、フランス、韓国は、研究開発統計調査における質問票中の項目名、ドイツは研究開発資料中の項目名、英国、中国はOECD資料中の項目名を用いた。なお、米国については、研究支援者のデータはない。
 図表2-3-2には主要国の研究者1人当たりの研究支援者数(以下、支援者数と呼ぶ)を部門別で示した。
 日本の最新年を見ると、公的機関の支援者数は1.07人と多く、大学の支援者数は0.22人と少ない傾向にある。経年変化を見ると、非営利団体の支援者数は増加していたが、近年減少に転じている。その他の部門は横ばいであり、企業については減少傾向である。
 ドイツの最新年では、企業の支援者数は0.81人、公的機関と非営利団体での支援者数は0.79人であり、大学の支援者数0.31人より多い。経年変化では、各部門とも減少傾向が続いている。
 フランスの最新年では、非営利団体の支援者数は0.97人、公的機関の支援者数は0.73人、企業が0.55人、大学は0.52人となっている。長期的な経年変化を見ると、大学はほぼ横ばいに推移している。また、企業は減少し続けている。
 英国については非営利団体、大学は1994年から2004年までのデータがないため、その間の継続性が損なわれている。最新年では公的機関の支援者数が多く、大学の支援者数は少ない。
 中国については、2009年から、OECDの基準に合わせた研究者数を計上したため、研究者が減少した。結果、2009年では支援者数が極端に増加してしまっている。2009年以降の経過を見ると、企業の支援者数が増加しており、最新年では2.06人である。
 韓国の最新年では、大学の支援者数が0.79人と多く、企業が0.14人と少ないという、他国とは反対の傾向にある。また、経年変化で見ても、大学の支援者数は増加傾向にあり、他国とは違う傾向を見せている。


【図表2-3-1】 各国部門別の研究支援者

注:
1)ドイツ、フランスについては各国語表記で掲載している(本編は日本語表記)。英国、中国についてはOECD資料に掲載している名称。
2)各国の値はFTE値である。ただし(HC)とあるのは実数値である。
3)米国については無し。
資料:
科学技術政策研究所、「主要国における研究開発関連統計の実態:測定方法についての基礎調査」、調査資料-143、2007年10月
総務省、「科学技術研究調査報告」
OECD,“R&D Statistics(last updated 2009.2)”


【図表2-3-2】 主要国の部門別研究者一人当たりの研究支援者数の推移 
(A)日本*
(B)日本(HC)
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国 
(F)中国 
(G)韓国

注:
1)研究支援者は国によって定義及び測定方法に違いがあるまた、各部門によっても違いがあるため国際比較するときは注意が必要である。各国研究支援者の違いについては図表2-3-1を参照のこと。
2)研究者の注は図表2-1-1と同じ。
3)各国ともFTE値である。ただし、日本は一部HC値を掲載。
4)「日本*」は図表2-1-2(A)の値(研究者のFTEの統計を取っていない「研究を主とする者」の人数。なお、所属機関外の研究者数はカウントしていない)。
5)「日本(HC)」は図表2-1-2(B)(C)③の値(「研究を主とする者」と「研究を兼務する者」の数。ただし、大学の研究者数は前記に「学外からの研究者」を含む)。
6)フランス、英国、韓国の「非営利団体」は総研究支援者全体から企業、大学、公的機関を除いたものである。
7)英国の大学及び非営利団体の支援者は1994~2004までのデータがない。大学の2005~2008、2014年値は、国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値である。2006年からは、過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいたものであるため、時系列比較をする際は注意が必要である。
8)中国の2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<その他の国>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2015/2”

参照:表2-3-2


2.3.2日本の大学部門の研究支援者の状況

(1)研究支援者数の内訳

 2.3.1節で示したように、日本の研究支援者とは「技能者」、「研究補助者」、「研究事務その他の関係者」の3つに分けることができる。この節では日本の大学部門における研究支援者を詳細に見る。
 図表2-3-3は大学部門の研究支援者数を所属機関の学問分野別に分類したものである。2015年の研究支援者数は7.2万人である。2000年頃から増加傾向に入り、主に理学や工学、農学、保健といった自然科学分野での支援者数が増加している。


【図表2-3-3】 大学部門の学問分野別研究支援者数

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-3-3


 研究支援者数の内訳を見ると(図表2-3-4(A))、「研究事務その他の関係者」が一番多く、2000年代に入ってから増加しており、2015年では4.3万人である。また、近年、「研究補助者」が「技能者」を上回っている。「研究事務その他の関係者」の増加については、1997年度に労働派遣法の政令改正により、派遣業務に「科学に関する研究の業務」等が追加されたことに伴い、派遣研究者を受け入れることが可能になったこと、また、2001年度から、科学研究費補助金の研究遂行に必要となる研究支援者をその経費により研究機関が雇用できるようになったこと等による影響が考えられる。
 研究支援者数の内訳を所属機関の学問分野別で分けて見ると「自然科学」分野、「人文・社会科学」分野ともに、「研究事務その他関係者」の研究支援者数が多いことには変わりはないが、「自然科学」分野の方が、「技能者」、「研究補助者」の数がかなり多い。また、「自然科学」分野において研究補助者の数が増加している(図表2-3-4(B)、(C))。


【図表2-3-4】 大学部門の学問分野別研究支援者の内訳
(A)全体
(B)自然科学分野
(C)人文・社会科学分野

注:
1)「研究補助者」とは「研究者」を補佐し、その指導に従って研究に従事する者。
2)「技能者」とは「研究者」、「研究補助者」以外の者であって「研究者」、「研究補助者」の指導及び監督の下に研究に付随する技術的サービスを行う者。
3)「研究事務その他の関係者」とは「研究補助者」、「技能者」以外の者で、研究関係業務のうち庶務、会計、雑務等に従事する者。
4)図表2-3-4(C)における2005年の「研究補助者」の値は異常値であるため省略した。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-3-4


(2)研究者一人当たりの研究支援者数

 この節では、研究者(研究本務者:学外からの研究者を含まない)一人当たりの研究支援者数を所属機関の分野別で見て、国・公・私立大学別に違いがあるかどうかを見る(図表2-3-5)。
 各分野とも国立大学の一人当たり研究支援者数が多い。また各分野ともに2000年代に入る頃から増加しつつある。「理学」分野では近年、私立大学が増加している。また、「保健」分野は一人当たり研究支援者数が少なく、図表2-3-6の教員一人当たりと比べて大きな差がある。これは他の分野よりも「医局員・その他の研究者」が多いためである。研究支援者数が少ないというよりは、研究者数、つまり分母の影響が大きいといえる。


【図表2-3-5】 大学の種類別・学問分野別研究者一人当たり研究支援者数の推移
(A)理学
(B)工学
(C)農学
(D)保健
(E)人文・社会科学

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-3-5


(3)教員一人当たりの研究支援者数

 大学部門の研究本務者は①教員、②博士課程在籍者、③医局員、④その他研究員からなり、分野により、②~④の割合に差異がある。この節ではその影響を除いた教員一人当たりの研究支援者数を所属機関の分野別で見て、国・公・私立大学別に違いがあるかどうかを見る。
 いずれの分野も「国立大学」において一人当たり研究支援者が多く、かつ増加もしている。「理学」、「農学」分野の「国立大学」では1990年代まで減少傾向だったのに対し、2000年代に入ってから上昇に転じているという傾向が似通っている。また、他の分野についても、2000年代中ごろから「国立大学」の増加が見えるようになった(図表2-3-6)。


【図表2-3-6】 大学の種類別・学問分野別教員一人当たり研究支援者数の推移
(A)理学
(B)工学
(C)農学
(D)保健
(E)人文・社会科学

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-3-6



(12)技能者およびこれと同等のスタッフとは、その主たる任務が、工学、物理・生命科学、社会科学、人文科学のうち一つあるいは複数の分野における技術的な知識および経験を必要とする人々である。彼らは、通常、研究者の指導の下に、概念の応用や実際的方法及び研究機器の利用に関わる科学技術的な任務を遂行することによって研究開発に参加する。
(13)その他の支援スタッフには、R&Dプロジュクトに参加、あるいはそうしたプロジェクトと直接に関係している熟練および未熱練の職人、管理、秘書・事務スタッフが含まれる。