STI Hz Vol.9, No.3, Part.6:地域ワークショップin 徳島 - 2050 年のカーボンニュートラル実現に向けて- 開催報告STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00344
  • 公開日: 2023.09.25
  • 著者: 横尾 淑子、浦島 邦子、蒲生 秀典
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.9, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
地域ワークショップin徳島
-2050年のカーボンニュートラル実現に向けて- 開催報告

科学技術予測・政策基盤調査研究センター
専門職 横尾 淑子、フェロー 浦島 邦子、特別研究員 蒲生 秀典

概 要

科学技術予測に関する調査研究活動の一部として、2009年より地域の未来社会像を検討している。2022年11月、カーボンニュートラルをテーマとして2050年の望ましい社会を考えるワークショップを徳島大学との共催により開催した。グループごとに討議し多様な意見が出された中で、カーボンニュートラル及び地域の観点から重要度が高いとされた暮らしの姿として、エネルギー循環、モビリティ、自然資源の経済的評価と利活用等が挙げられた。これら重要度の高い事項を着実に進めるとともに、相対的に低い事項についても、無理のない範囲でカーボンニュートラルを意識して生活に取り込むことを検討するのも有効と考えられる。全体的にワークショップでは、実現させたい未来社会像に向けた取組が経済的に成立するための施策を検討することの必要性が強調された。また、有効な推進手段として、重要度が高いとされた事項や活動の経済的価値付けや金融・投資の仕組みなど、科学技術と同程度あるいはそれ以上に社会システムへの言及が見られた。科学技術と社会システム等を一体化させて取組むことの重要性が改めて認識された。

キーワード:科学技術予測,未来社会,地域,カーボンニュートラル

1. はじめに

科学技術予測・政策基盤調査研究センターでは、科学技術の中長期の将来を展望する大規模な科学技術予測調査1)をはじめ、テーマや分野を絞った検討や手法開発など、幅広く予測活動に取り組んでいる。その一部として、多様なステークホルダーの視点を取り入れて地域の未来を検討する地域ワークショップを2009年から開催し、望ましい未来社会像とその実現方策について検討を行っている。本ワークショップの特徴は、当該地域に在住あるいは当該地域を良く知る企業、大学、研究機関、行政の関係者や市民などの参加を得て、それぞれの立場からの意見やアイディアを共有しつつ対話を進めること、並びに、望ましい未来社会像だけでなく、実現に向けて今から何をすべきかを含めて検討を行うことである。2021年までに、国内17地域(都道府県又は市町村)を対象としてワークショップを開催2-6)し、地域創生、高齢社会、低炭素社会などをテーマに掲げ、幅広い議論を行ってきた。

近年、地球温暖化を始めとする地球環境の持続可能性への関心が高まり、また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、人々の生き方や価値観、人とのつながり、人流・物流等、社会の仕組みや人の行動様式などが変化しつつある。そこで、地球環境の持続可能性の大きな要素であり、政府が2050年の目標として掲げるカーボンニュートラルが変化しつつある社会とどのように関わっていくのかについて、地域を対象とした検討を計画し、徳島大学との共催により地域ワークショップを開催した。その目的は、地域の望ましい暮らしの実現とカーボンニュートラルに向けた取組の両立を検討することにより、生活者として総合的に望ましい未来社会像を描き、地域資源の活用などの新たな可能性を探ることである。

2. ワークショップの実施概要

2-1 テーマ設定

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの人為的排出量から、植林、森林管理などによる人為的吸収量を差し引いて排出量合計を実質的にゼロにすることである7)。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、産業革命以降の温度上昇を1.5℃以内に抑えるには2050年頃のカーボンニュートラルの実現が必要とした。それを受けて我が国では、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言され、2021年10月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」8)が発表された。

徳島大学との協議の結果、テーマ「カーボンニュートラル」並びに地域の特性等を踏まえ、「A.生態系調和・生物多様性・農」、「B.地域のグリーン経済社会」、「C.持続可能なまち・モビリティ」、「D.防災・減災・レジリエンス」をグループ別対話テーマとして設定した。

徳島地域の未来を考える上で避けて通れないのが南海トラフ地震である。対話に当たっては、地震発生有無に関わらず2050年に実現させたい未来社会像を描くこととし、地震発生有無や発生時期はその未来社会像実現の難易度や進捗に影響を与えるもの、と整理した。中心とする考え方は、温室効果ガスの排出削減目標の達成、自然災害への備え、ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること)である。

2-2 実施概要

ワークショップの実施概要を図表1に示す。グループ編成に当たっては、参加者の専門性や関心とあわせ、各グループに多様な属性の関係者が含まれるよう配慮した。

当日のスケジュールを図表2に示す。議論は、全体対話、グループ別対話、全体共有から構成された。全体対話では、暮らしの中の様々な活動(住む、働く、遊ぶ、学ぶ等)を念頭に置き、望ましい暮らしの姿を検討した。参加者が各テーマのテーブルを巡回して対話を行うワールドカフェ形式により、全員が全テーマについて意見出しを行った。

次のグループ別対話では、全体対話で出された意見の中から注目される暮らしの姿を選び出し、それらについて①カーボンニュートラルの観点からの重要度、②地域特性の観点からの重要度、③挑戦度(実現が難しく挑戦的取組が必要)の観点から、各グループのメンバーによる投票を行った。これを踏まえ、カーボンニュートラル及び地域の観点から重要である暮らしの姿を「実現させたい未来社会像」として特定した。続いて、その未来社会像の実現に向けて、必要な科学技術や社会システム等、ステークホルダー別役割、留意点・懸念点の検討を行った。

最後に、全体で各グループの検討結果を共有し、意見交換を行った。

図表1 ワークショップ実施概要図表1 ワークショップ実施概要

図表2 ワークショップスケジュール図表2 ワークショップスケジュール

3. 各テーマの検討結果

3-1 暮らしの姿の評価

グループ別対話において、全体対話で提案された中から注目される「暮らしの姿」を選び、それらについて、カーボンニュートラルと地域特性の観点による重要度及び挑戦度について相対評価を行った結果を図表3に示す。

これらの結果から、双方に重要とされた暮らしの姿として、地域でのエネルギー循環、自然資源の経済的評価と活用、歩けるまちづくり、里山など自然資源の経済的評価と利活用、地域の自立(あるべき自治)などが挙げられ、このうち挑戦度が高いとされたのは、エネルギー関連(エネルギー循環、再生可能エネルギー等)及びモビリティ関連(自動運転、公共交通システム、歩けるまちづくり)などであった。

一方、カーボンニュートラル及び地域の観点からの重要度が合致しない項目も見られた。例えば農林業や災害との共生などは、カーボンニュートラルの重要度は高いが地域の重要度は低いとされ、住宅の有効活用、地域コミュニティ内交流、地域資源の活用などは、カーボンニュートラルの重要度は低いが地域の重要度は高いとされた。

図表3 「暮らしの姿」の評価結果図表3 「暮らしの姿」の評価結果

3-2 実現させたい未来社会像の検討

3-1に示した評価を基に「実現させたい未来社会像」を特定し、その実現に向けて必要な取組及び留意点・懸念点を検討した結果を図表4に示す。それぞれ話し合った概要を表すキャッチフレーズを徳島弁で記載したグループもあり、地域の特徴を的確に表現していた。

「生態系調和・生物多様性・農」の未来については、地域の里山・海・川等の自然資源の価値を見直し、地域で暮らす若者も自立した生活を営むことができている姿が示された。

「地域のグリーン経済社会」の未来については、生活者の消費行動のグリーン化をはじめ、循環型自立社会に適した社会システム(投資の仕組み等)が構築された姿が示された。

「持続可能なまち・モビリティ」の未来については、まちの構造や生活様式の変化により、自動運転や公共交通の充実により運転せずに移動できる環境が整っていることや、歩ける範囲内で暮らすことができる生活圏が示された。

「防災・減災・レジリエンス」の未来については、避けられない災害と共生するフェーズフリーな社会において、生活やエネルギー面で自立し、コミュニティを維持している姿が示された。

全般的に、実現させたい未来社会に向けた様々な取組が経済的に持続可能である必要性が強調され、また、経済的価値付けや金融・投資の仕組みなどのシステムが、科学技術と同程度あるいはそれ以上に有効な推進手段として多く挙げられた。さらに、災害防止重視による自然環境の価値低下や、居住地集約に伴う市街地縮減や交通利便性低下など、ある問題への対応が別の問題を引き起こすことの留意点・懸念点も挙げられた。

図表4 各テーマの検討結果図表4 各テーマの検討結果
図表4 各テーマの検討結果
図表4 各テーマの検討結果

4. 終わりに

徳島大学との共催によりワークショップを開催し、テーマ「カーボンニュートラル」の下、2050年の徳島の未来社会について検討を行った。具体的には、「生態系調和・生物多様性・農」、「地域のグリーン経済社会」、「持続可能なまち・モビリティ」、「防災・減災・レジリエンス」のグループ別対話テーマを設定し、徳島地域の実現させたい未来社会像とその推進手段を議論した。

その結果、カーボンニュートラル及び地域の観点から、重要度が相対的に高い暮らしの姿として、地域でのエネルギー循環、自然資源の経済的評価と活用、歩けるまちづくり、地域の自立(あるべき自治)などが挙げられた。このうち、エネルギーやモビリティに関連する事項は挑戦的取組が必要とされた。一方、カーボンニュートラル及び地域の観点からの重要度が合致しない項目も見られた。

カーボンニュートラルの重要度が相対的に高い暮らしの姿の実現を着実に進めるとともに、重要度が相対的に低い暮らしの姿についても、無理のない範囲でカーボンニュートラルに資する要素を取り込むなど、意識変化や行動変容を促していくことも、カーボンニュートラル実現の一つの方法と結論付けられた。

全体討議では、実現させたい未来社会像に向けた取組が経済的に成立するための施策を検討することの必要性が強調された。また、有効な推進手段として、カーボンニュートラルに関する事項や活動の経済的価値付けや金融・投資の仕組みなど、科学技術と同程度あるいはそれ以上に社会システムへの言及が見られた。さらに、取組の効果が相反する可能性など留意点・懸念点も挙げられた。このように、科学技術と社会システム等を一体化させて取り組むことの重要性が改めて認識された。

謝辞

本ワークショップ開催に当たり、テーマ設定や参加者選定、会場等の手配等において多大な御協力を賜りました、徳島大学の木村賢二副学長(実施当時)、鎌田磨人教授、上月康則教授、奥嶋政嗣教授、朝波史香学術研究員、研究・産学連携部の関係の皆様方に心より感謝申し上げます。また、年末の慌ただしい中、終日のワークショップに参加下さり、活発な御議論を頂きました皆様に御礼申し上げます。

参考文献・資料

1) 直近の調査: 科学技術予測センター、「第11回科学技術予測調査 総合報告書」、NISTEP Report No.183(2019年11月): http://doi.org/10.15108/nr183

2) 科学技術動向研究センター、「将来社会を支える科学技術の予測調査地域が目指す持続可能な近未来」、NISTEP Report No.142 (2010年3月): http://hdl.handle.net/11035/687

3) 科学技術予測センター、「地域の特徴を生かした未来社会の姿~2035年の『高齢社会×低炭素社会』~」、調査資料-259 (2017年6月): http://doi.org/10.15108/rm259

4) 科学技術予測センター、「2035年の理想とする“海洋産業の未来”ワークショップ in しずおか」活動報告、STI Horizon Vol.4, No.1 (2018年3月): http://doi.org/10.15108/stih.00118

5) 河岡将行・蒲生秀典・浦島邦子、「理想とする2050年の姿 ワークショップ in 恵那」活動報告、STI Horizon Vol.4, No.4 (2018年12月): http://doi.org/10.15108/stih.00154

6) 浦島邦子・蒲生秀典・横尾淑子、「地域の未来を再考する~新型コロナウイルス感染症流行後に目指す社会及びその実現に向けた方策の検討~」、調査資料-319 (2022年10月): https://doi.org/10.15108/rm319

7) 脱炭素ポータル カーボンニュートラルとは:
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

8) パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(令和3年10月22日閣議決定):
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/chokisenryaku.html