STI Hz Vol.9, No.1, Part.7:(ほらいずん)エネルギー生産・供給に係る温室効果ガス削減技術の特許出願動向STI Horizon

  • PDF:PDF版をダウンロード
  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00325
  • 公開日: 2023.03.20
  • 著者: 小倉 康弘
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.9, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
エネルギー生産・供給に係る温室効果ガス削減技術の特許出願動向
-再生可能エネルギー・蓄電技術を中心として-

科学技術予測・政策基盤調査研究センター 主任研究官 小倉 康弘

概 要

近年の世界的な気候変動対策の取組の進展と、この課題への対応策としてエネルギー関連技術に期待される寄与の大きさ、技術開発の高まりを背景とし、本稿では近年のエネルギー生産・供給に係る温室効果ガス削減技術の特許出願動向の調査結果を示す。これらの技術を示す特許分類として、共同特許分類(CPC:Cooperative Patent Classification)Y02E分類を参照し、年別の総出願件数、2003年~2007年、2013年~2017年の各5年間の主要国別出願シェアの集計・期間別対比を行った。さらに、Y02E分類の下位分類の中で特に出願件数が高く推移した再生可能エネルギー、蓄電・蓄熱・燃料電池技術に関しても同様の集計を行った。

この結果、Y02E分類を通じて、日本は2013年~2017年に概ね2003年~2007年のシェアを維持、若しくは高めたことが明らかになった。他国では、蓄電、太陽光・太陽熱発電を中心とした韓国・中国のシェア拡大から、2か国におけるY02E分類の技術開発の高まりがうかがわれる。また太陽光・太陽熱発電における韓国・中国、風力発電におけるドイツ・デンマークの高い出願シェアの維持・拡大から、これら特定部門における集中的な技術開発が示唆され、全般的に開発水準を維持した日本と対照的な結果を示した。

キーワード:特許,再生可能エネルギー,蓄電池,燃料電池

1. はじめに

ここ数十年の間に、気候変動による影響が広く認識され、世界各国がこの課題に対応する必要性を共有し、主に国連気候変動枠組条約の下で国際交渉が進展してきた1)。この過程で、気候変動に関する政府間パネル等の取組を通して、科学技術は気候変動の影響の把握に貢献するとともに、対応策の検討材料を提供する重要な役割を果たしている2)

気候変動にまつわる技術開発・国際的取組の背景として、この課題のエネルギー・経済的課題との深い関連も想起される。従来型のエネルギーと比較した環境負荷の低減を通して気候変動の緩和に寄与する再生可能エネルギーの広範な普及は、気候変動への対応のみならず、化石燃料消費の減少を通したエネルギー安全保障への対処ともなる3)。この普及の過程で関連する経済活動が付加的に生じる上、気候変動に対する認識、環境・エネルギー関連技術への需要が高まり、関連政策の実施によって市場が拡大する可能性が増すため、企業等における技術開発インセンティブも大きくなる状況にあると考えられる4)

欧州特許庁(EPO:European Patent Office)では、米国特許商標庁(USPTO:United States Patent and Trademark Office)との協力の下、特許データの統合の一環として2010年よりCPCの検討・運用を開始した。この中で、気候変動対策の進展と、それに関連する技術開発の高い分野横断性を反映するため、気候変動の緩和・適応に関連する特許(Y02)分類をCPCにおける新分類として設定している。

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、CPC導入直後の段階でY02分類の下位に当たるY02E分類をクリーンエネルギー関連特許と捉え、科学技術指標2012においてこの分類に属する特許出願状況に関する集計を行っている5)。この集計以降の国際的枠組みの変遷や、各国・企業の技術開発状況の変化を鑑み、本稿では前回の集計対象期間と近年の特許出願状況の対比を通して、日本におけるエネルギー生産・供給に係る温室効果ガス削減技術、とりわけ再生可能エネルギー、蓄電技術の開発状況の推移とその国際比較を示す。

2. 環境関連技術の分類:CPCによる分類の経緯

本節では、気候変動緩和・適応関連技術の分類を明示的に含むCPCの導入の経緯に関し概略を示す。多くの国・地域において適用されている特許分類である国際特許分類(IPC:International Patent Classification)は1971年にストラスブール協定により設けられ、1975年に発効して以降は世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)により管理されてきた。この分類は各国・地域において特許データ集計の際に用いられてきたものの、分類の改正には複雑な過程、長い期間を要する6)ことから、地域特有の技術に関する開発の集中、またその拡大や細分化に対応するため、各特許受理官庁が独自の分類を有してきた7)。これらの分類を統合する一環で、EPOとUSPTOの協調の下、IPCをベースとしたより詳細な技術分類を補完的に設け、主として上記の2機関による更新の承認によることで、分類の細分化と柔軟性の確保という目的の達成を企図する8)CPCの検討を2010年より開始した。

CPCの重要な特徴の一つとして、従来では複数の分類にまたがる横断的な技術に対して個別に分類を行うY分類の導入が挙げられる。気候変動の緩和・適応に関連する技術は、その幅広さ・分野横断性から新たに設けられたY02分類に位置づけられている。さらに、この分類の構成要素として、発送電・配電に係る温室効果ガス削減に関する特許分類であるY02Eが設定されている注1。これが科学技術指標20125)の分析で用いたもので、当時主題としたクリーンエネルギー関連技術、これに付随してその機能が必要とされる蓄電池や燃料電池等の開発状況の概観を示すものとして捉えられる。Y02E分類には、図表1に示すように再生可能エネルギーや原子力、蓄電等の分野特定的な下位分類が設定されている。

図表1 Y02E分類:メイングループ図表1 Y02E分類:メイングループ

EPO Espacenet, “Cooperative Patent Classification”9)を基に筆者作成

3. Y02E分類特許の出願動向の変遷

3.1 特許出願データの集計方法

本節では、CPCにおいて設定されたY02E分類における特許の出願動向を示す。この際、特許データの集計は最新の科学技術指標202210)に準じ注2、前回集計を行った期間と近年の集計結果の対比により、出願全体に占める日本並びに他の主要国・地域の出願シェアの変遷を確認する。

特許出願動向の集計に当たり、国際比較の可能性向上の観点から、パテントファミリー数を集計する。パテントファミリーは優先権を通して結び付けられた特許群を表し、特定の主体による複数の特許受理官庁への出願を一つの束として認識するために適用されている。本稿では、EPOが作成しているDOCDB注3により、2つ以上の特許受理官庁に出願された特許のパテントファミリー数を集計する。この際、OECD Patent Statistics Manual11)に準拠し、同一ファミリーの最も早い優先日注4データにつき、発明者居住国により集計し、国を単位として整数カウントを行っている。以上より、特定の特許受理官庁への出願について、その国・地域の発明者が高い割合を占めることから生ずるバイアスを排除し、国際比較の妥当性を確保する。また科学技術指標2022と同様、オーストラリア特許庁のデータ、短期特許・デザイン特許・植物特許に関しては集計対象から除外した。発明者情報の欠測を含む出願データに関しても、同じパテントファミリー内の発明者居住国の情報が存在する場合にはこれを用いた。なおこうしたデータは、同パテントファミリーにおける発明者情報が登録され、かつ異なる特許受理官庁で受理された出願データとの組で抽出されたものが大半であったため、上記の処理以外に欠測データの代入等は行わず除外した。国別のパテントファミリー数のシェアを算出する際の集計対象期間は、科学技術指標2012の2003年~2007年に加え、2013年~2017年を新たに設定し、各5年間の累積値に基づいて各主要国・それ以外の国・地域の出願シェアを算出し対比する。これら集計の元データとして、EPOが提供するPATSTAT12)に収められた特許データを用いる。

3.2 エネルギー生産・供給技術関連特許出願件数の推移

図表2は、Y02Eのメイングループ6分類注5について、年ごとのパテントファミリー総数の推移を示している。全期間を通して最もパテントファミリー数が大きかったのは、前回の集計と同様Y02E6分類(蓄電・蓄熱、燃料電池技術等)であり、対象期間中概ね増加基調であった。2007年には約4,000件であったパテントファミリー数は、その後増減を経て2017年時点で約8,300件にまで増加した。これに次いでパテントファミリー数が多いのは再生可能エネルギー関連技術のY02E1分類であった。こちらは2000年代において顕著な増加が見られ、2010・2011年時点で約6,150件まで上昇したが、それ以降出願件数が減少傾向に転じ、Y02E6分類とは対照的な推移を示した。この原因として、2010年頃における化石燃料採掘技術の向上、また世界的な不況に伴う価格低下を通して、相対的に再生可能エネルギーの優位性が低下したこと、これに伴う研究開発の停滞が指摘されている13)。なお出願件数自体は2000年代中盤以前よりも高い水準を保っている。

上記2分類のパテントファミリー数が対象期間中に顕著に増加し、期間終盤にかけても概ね4,000件以上の高水準を維持している一方で、その他4分類はそれぞれ最大でも年間800件ほどのパテントファミリー数の規模で、期間を通して相対的に少数であった。これら4分類の推移は、概ね2000年代後半から2010年代前半に増加が見られ、期間終盤にやや減少する状況が共通していた。

図表2 Y02E分類パテントファミリー数の推移図表2 Y02E分類パテントファミリー数の推移

出典:EPO PATSTATデータより筆者作成
3.3 主要国のエネルギー生産・供給技術関連特許出願シェアの推移

次に、パテントファミリー全体と、Y02Eメイングループ6分類それぞれの発明者の居住国別シェアを示す。上記の通り、2003年~2007年、2013年~2017年の2期間内に優先日があるパテントファミリーの累積出願件数のシェアを算出する。

まず、2003年~2007年のパテントファミリー数の集計結果を図表3に示す。この期間におけるカテゴリーを限定しないパテントファミリー総数は約93万件、この中で日本のシェアは約28%となった。Y02E分類の各メイングループの結果に目を向けると、1990年以降にパテントファミリー数が顕著に増加したY02E6分類における日本のシェアは35.4%を占めており、他国と比較し高いシェアを有していた。その他の分類ではいずれも米国の後じんを拝したものの、Y02E3(原子力関連)、Y02E4(効率的な発送電・配電技術)分類ではそれに次ぐシェアを示した。これ以外の3分類に関しては、いずれも米国に加えてドイツのシェアが日本を上回った。なおY02E3分類に関しては、フランスが約14%を占め、日本とほぼ同水準であった。

続いて、2013年~2017年の集計結果を図表4に示す。パテントファミリー総数は2003年~2007年と比較し約40万件増加した。Y02E内メイングループにおいても全ての分類でパテントファミリー数が増大しており、近年のエネルギー関連温室効果ガス排出削減技術開発の高まりがうかがえる。国別のシェアに関しては、パテントファミリー全体に占める日本のシェアは約28%となり、2003年~2007年と同様主要国の中で最も高いシェアを示したものの、その割合は約5ポイント減少した。Y02E内メイングループにおける日本のシェアは、Y02E6分類において数値自体は低下したものの、引き続き32%ほどの高水準を維持し、これ以外の分類でも概ねシェアを維持・増大させた。他国に関しては、中国がパテントファミリー全体におけるシェアを大幅に拡大させた。各メイングループに関しても、米国・ドイツが占めるシェアが減少し、これと対照的に韓国・中国のシェアの拡大が目立つ。Y02E1分類に関しては、日本のシェアは2013年~2017年において約16%と増加しており、数値としては目立たないものの他の主要国より高いシェアを示している。こちらも韓国・中国のシェアの増加が目立ち、2003年~2007年と比較しそれぞれ約5ポイント増大している。Y02E6分類での日本のシェア縮小と対照的に、この分類でも韓国・中国のシェアが拡大した。

エネルギー生産・供給技術に関連する特許に関しては、2003年~2007年の集計結果に引き続き、2013年~2017年においても日本は継続的に高いシェアを保っていることが明らかになった。また、Y02E分類内で出願件数が多い再生可能エネルギー、蓄電・燃料電池関連の特許を中心とし、全てのメイングループにおいて韓国・中国のシェアの増加が際立ち、近年これら2か国における関連技術の開発が活発であることがうかがわれる。他方、2003年~2007年においてはY02E分類内の多くで最大のシェアを占めた米国については、2013年~2017年において全てのメイングループでシェアが縮小した。概ねシェアを維持したパテントファミリー全体と比較すると、米国のエネルギー生産・供給に係る温室効果ガス削減に関連する技術開発は、その活発さが相対的に薄れたように捉えられる。

図表3 パテントファミリー全体・Y02E分類メイングループの主要国シェア:2003年から2007年の累積値図表3 パテントファミリー全体・Y02E分類メイングループの主要国シェア:2003年から2007年の累積値

出典:EPO PATSTATデータより筆者作成

図表4 パテントファミリー全体・Y02E分類メイングループの主要国シェア:2013年から2017年の累積値図表4 パテントファミリー全体・Y02E分類メイングループの主要国シェア:2013年から2017年の累積値

出典:EPO PATSTATデータより筆者作成
3.3.1 蓄電池・燃料電池関連特許の出願シェアの推移

科学技術指標2012では、上述のメイングループそれぞれのより詳細な分類をサブグループとして、上記2分野の国別シェアを算出した。以下ではこれに倣い、期間全体にわたってパテントファミリー数が大きかった再生可能エネルギー、蓄電・燃料電池関連の特許分類に絞って、2期間のパテントファミリー数、国別シェアの推移を示す。上記のY02E分類全体と同様、前回の集計期間である2003年~2007年と、今回新たに追加した2013年~2017年との対比を行う。本項においては、まず蓄電・燃料電池関連技術として設定されているY02E6分類のサブグループの特許シェアについて集計結果を示す。

図表5は、Y02E6分類全体と、Y02E60/1(蓄電・蓄熱関連)、Y02E60/5(燃料電池関連)分類のパテントファミリー数、国別シェアを2期間それぞれについて示している。パテントファミリー数に関しては、全体では2013年~2017年は2003年~2007年と比較して約1.9倍の出願件数であった。サブグループの集計に目を転じると、蓄電・蓄熱関連特許に関しては、2013年~2017年の出願件数が2003年~2007年と比較し3倍以上増加していた。他方、燃料電池関連は3,600件ほど少ない出願件数であった。サブグループにおける日本のシェアは、燃料電池関連ではいずれの期間も約36%を占めたが、蓄電・蓄熱関連では6ポイント減少した。2期間での増減があるものの、いずれのサブグループにおいても2期間を通して日本が最大のシェアを占めており、Y02E6分類の特許に関連する技術開発が活発さを維持していることが見て取れる。他国のシェアに関しては、2003年~2007年に既に一定の割合を占めていた蓄電・蓄熱関連における韓国のシェアが、約15%から約19%へと更に拡大し、燃料電池関連でも約10%から約16%に増加した。蓄電・蓄熱関連では中国のシェアも約5ポイント増加し、この分野に関しても韓国・中国の技術開発の活発化がうかがえる。また上記のメイングループ別集計と同様、米国のシェアはいずれの分類においても縮小した。

図表5 Y02E60/1(蓄電池等)・Y02E60/5(燃料電池)各分類の主要国シェア図表5 Y02E60/1(蓄電池等)・Y02E60/5(燃料電池)各分類の主要国シェア

出典:EPO PATSTATデータより筆者作成
3.3.2 再生可能エネルギー関連特許の出願シェアの推移

図表6は、Y02E1分類全体と、Y02E10/4-5(太陽光・太陽熱発電関連)、Y02E10/70-74(風力発電関連)分類のパテントファミリー数、国別特許シェアを期間別に示している。再生可能エネルギー関連のパテントファミリー数は、2003年~2007年の10年後の5年間で約2.3倍に出願件数が増大し、太陽光・風力発電関連のいずれも2003年~2007年よりも2倍以上の出願件数を示した。日本はY02E1分類全体では2013年~2017年累積値では約16%を占め、2003年~2007年と比較し約1.5ポイント増大した。2003年~2007年には米国・ドイツに続いたが、近年ではこれら2か国を上回り主要国中最大のシェアを占めている。サブグループ内の日本のシェアに関しても、太陽光・太陽熱、風力発電関連とも1~1.5ポイントほど拡大した。他国については、これまでの集計結果と同様、韓国・中国のシェアの拡大が目立つ。太陽光・太陽熱発電関連のシェアは韓国が約9ポイント、中国が約8.5ポイント拡大し、風力発電関連においても中国のシェアは2.5ポイントほど増加した。これと対照的に、米国のシェアはいずれの分類でも概ね5ポイント以上、Y02E1分類全体では約6ポイント縮小した。ドイツも同様に全体では約4ポイント縮小したが、風力発電関連ではシェアを概ね維持した。なおこの分野では、関連産業が高度に発展しているデンマークのシェアが2003年~2007年の約12%から2013年~2017年の約18%に拡大し、ドイツに次ぐ割合を占めている。

上記二つのサブグループの特許出願動向では、太陽光・太陽熱を中心とした韓国・中国のシェアの増大と、米国のシェアの減少が好対照であった。その他の国々に関しても、風力発電のドイツ・デンマークのように特定分野のシェア上昇・維持傾向が見られ、韓国・中国の太陽光・太陽熱の出願動向とあいまって特定分野への重点的な技術開発が志向される状況が示唆される。転じて日本のシェアは、Y02E1分類全般的に前回の集計期間と同様の高いシェアを維持していた点で、特定部門に重点を置いた技術開発とは対照的な面を示している。

図表6 Y02E1(再生可能エネルギー)、Y02E10/4-5(太陽光)・Y02E10/70-74(風力発電)各分類の主要国シェア図表6 Y02E1(再生可能エネルギー)、Y02E10/4-5(太陽光)・Y02E10/70-74(風力発電)各分類の主要国シェア

出典:EPO PATSTATデータより筆者作成

4. おわりに

世界的な気候変動・エネルギー対策の重要性の認識と対応、それに寄与する技術の開発の進展という背景の下、本稿ではエネルギー生産・供給に係る気候変動対策技術に関連した特許の出願動向を示した。出願件数の集計は、科学技術指標2022の方法に準拠し、前回の集計期間に加え、2013年~2017年の5年間について新たに集計を行い、この2期間の出願動向の対比を行った。まずY02E分類のメイングループのパテントファミリー数、国別シェアを算出し、パテントファミリー数が継続的に大きかった蓄電・蓄熱・燃料電池関連技術、再生可能エネルギー(太陽光・太陽熱・風力発電)関連技術のより詳細な分類であるサブグループについて同様の集計を行った。

2007年以後のY02E分類メイングループのパテントファミリー数は、概ねそれまでの期間よりも高い数値を示し、前回の集計期間である2007年以降にエネルギー部門における気候変動対策関連の技術開発が活発化したことがうかがえる。中でも再生可能エネルギー、蓄電・蓄熱・燃料電池関連技術に関する特許出願件数は高水準を維持しており、これらの分野における技術開発の活発さを示している。

メイングループの国別出願シェアの2期間対比に目を転じると、日本については全般的に2003年~2007年の水準を維持、又は上回るシェアを示した。他国に関しては、Y02E分類全般的に韓国・中国のシェアの高まりが目立った一方、2003年~2007年には全ての分類で高水準を示した米国のシェアが2013年~2017年の期間では縮小した。

また、Y02E分類メイングループのうち、特に出願件数の多い再生可能エネルギー、蓄電・蓄熱・燃料電池関連サブグループの特許出願シェアの2期間対比からは、日本は蓄電池・燃料電池関連で最大のシェアを維持した上、太陽光発電、風力発電ではシェアを拡大させたことが確認された。他国では、蓄電、太陽光発電関連特許における韓国・中国(韓国は燃料電池関連についても同様)、また風力発電関連特許におけるドイツのシェアの維持、デンマークのシェアの拡大が目立った。これらの結果より、日本は全般的に概ね高い出願シェアを維持した一方、これと対照的に特定分野のシェアを高水準で維持、若しくは高めた国の存在から、特定分野への技術開発の集中という方向性が見られた。また、これらの国々とは対照的に、米国の出願シェアは全般的に減少し、米国がパテントファミリー全体では高いシェアを維持したことを踏まえると、エネルギー生産・供給における気候変動対策関連技術の開発は、相対的に力点が弱まったことをうかがわせる。集計結果全体より、各国・地域を取り巻く環境の相違のみならず、非対称な関連技術の開発の方向性・戦略が、その成果としての特許出願動向に反映されていることが示唆される。

2016年パリ協定注6の発効等、前回の分析時から気候変動の国際的枠組みが変容しており、今後の各国・地域の気候変動緩和・適応に関わる政策・取組や、関連する科学技術の在り様にも変化が生じ、結果として特許出願動向にも影響を及ぼすことが示唆される14)。したがって、エネルギー生産・供給のみならず、炭素固定・吸収等その他の気候変動緩和技術や適応に関連する技術、また従来型エネルギーに関連する技術についても、継続的にその動向を捕捉することが重要である。また、これらを踏まえた今後の分析の方向性として、気候変動に関する国際交渉、各国・地域における政策等の影響要因がもたらす技術開発への寄与、また、技術開発動向とその社会への普及や競争力との関連にも焦点を当てることが有益と考えられる。


注1 Y02E分類の説明として、“REDUCTION OF GREENHOUSE GAS [GHG] EMISSIONS, RELATED TO ENERGY GENERATION, TRANSMISSION OR DISTRIBUTION”9)との記述があり、この分類の技術は必ずクリーンエネルギー関連技術を含むとは限らないことから、本稿では上の記述に即し、分析対象であるY02E分類をエネルギー生産・供給に係る温室効果ガス削減技術に関連する特許群として捉える。

注2 本項における集計方法は科学技術2012におけるCPC Y02E分類の特許データの集計方法とは異なり、集計結果の単純比較は困難であることに留意されたい。

注3 EPOの主要な文献データベースであり、世界100か国以上の特許の書誌データ・抄録・引用情報を収めている。

注4 同一の発明を複数の国において特許として出願した場合の、最も早く出願された特許の出願日を示す。

注5 Y02E7分類に関しては、集計対象期間中に出願されたパテントファミリー数が年当たり最大でも16件と小さく、出願のない主要国が目立ったため、科学技術指標2012と同様に今回の集計からも除外する。

注6 フランス・パリにおける国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において採択された協定。全ての締約国が温室効果ガス削減目標の設定・報告を行うことで、長期的に気温上昇を産業革命以前のレベルから2℃、可能な限り1.5℃以内にとどめることを目標とする。

参考文献・資料

1) United Nations Framework Convention on Climate Change (2022). What is the United Nations Framework Convention on Climate Change? 2022年12月16日アクセス,
https://unfccc.int/process-and-meetings/what-is-the-united-nations-framework-convention-on-climate-change

2) United Nations Framework Convention on Climate Change (2022). Science in the UNFCCC negotiations. 2022年12月16日アクセス, https://unfccc.int/topics/science/the-big-picture/science-in-the-unfccc-negotiations

3) Fuentes, S., Villafafila-Robles, R., Olivella-Rosell, P., Rull-Duran, J., & Galceran-Arellano, S. (2020). Transition to a greener Power Sector: Four different scopes on energy security. Renewable Energy Focus, 33, 23–36.
https://doi.org/10.1016/j.ref.2020.03.001

4) Zheng, C., & Kammen, D. M. (2014). An innovation-focused roadmap for a sustainable global photovoltaic industry. Energy Policy, 67, 159–169. https://doi.org/10.1016/j.enpol.2013.12.006

5) 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (2012). 科学技術指標2012. 学術基盤調査研究室.
https://hdl.handle.net/11035/1154

6) Cavalheiro, G. M. do C., Joia, L. A., & Van Veenstra, A. F. (2016). Examining the trajectory of a standard for patent classification: An institutional account of a technical cooperation between EPO and USPTO. Technology in Society, 46, 10–17. https://doi.org/10.1016/j.techsoc.2016.04.004

7) 井海田隆 (2014). 特許分類に関する国際的な動向の続きと特許庁の取り組み.pdf. Japio YEAR BOOK 2014, 74–81.

8) 太田良隆 (2013). 特許分類に関する国際的な動向. Japio YEAR BOOK 2013 寄稿集, 98–103.

9) EPO (2022). Espacenet—Classification search: CPC Y. 2022年11月28日アクセス,
https://worldwide.espacenet.com/classification?locale=en_EP#!/CPC=Y

10) 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (2022). 科学技術指標2022. 科学技術予測・政策基盤調査研究センター 基盤調査研究グループ. https://doi.org/10.15108/rm318

11) OECD (2009). OECD Patent Statistics Manual. OECD. https://doi.org/10.1787/9789264056442-en

12) EPO (2021). PATSTAT Global.

13) Noailly, J. (2022). Directing innovation towards a low-carbon future. Economic Research Working Paper, 72.
https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo-pub-econstat-wp-72-en-directing-innovation-towards-a-low-carbon-future.pdf

14) Angelucci, S., Hurtado-Albir, F. J., & Volpe, A. (2018). Supporting global initiatives on climate change: The EPO’s “Y02-Y04S” tagging scheme. World Patent Information, 54, 85–92. https://doi.org/10.1016/j.wpi.2017.04.006